滞在54日目。
私は、この日もトランプを集めに『げぇむ』会場に向かった。
今日の『げぇむ』会場は、スイーツ専門店。
ショーケースの中に入ったフルーツのたくさんのったお菓子は、照明を浴びて宝石みたいにキラキラ輝いている。
2階に上がる階段の前に上向き矢印が書かれた紙が貼られていたので、指示の通りに2階に上がると、部屋の真ん中にひとつだけ置かれた円形のテーブルの周りに他の参加者が座っていた。
テーブルには席が10個用意されていて、テーブルの上には黒い箱とタブレットが1人一つずつ設置されている。
テーブル席には、キャップを被ったお兄さん、サラリーマン風のお兄さん、眼鏡をかけたおじさん、センター分けの男子高校生、赤い髪を逆立てたお兄さん、黒髪ロングヘアーのお姉さん、三つ編みの女子高生、そして髪を短く切り揃え青い作業着を着たお兄さんの8人が座っていた。
作業着のお兄さんの右隣と、さらにその右隣の席が空いていたので、私はお兄さんの隣の椅子を引いた。
「お隣、いいかしらん♪」
私がお兄さんに声をかけると、他の参加者がどよめく。
…何?ここに座ったら何かまずかった?
「……ああ、構わないよ」
そう言ってお兄さんは、私に微笑みかけた。
彼の笑顔は感情が欠落した仮面のような笑顔で、どこか不気味だと感じた。
私が隣の席に座ると、お兄さんが小声で話しかけてくる。
「僕みたいな人間に近づいてくる人間はそう多くないんだけどね」
「あら、そうなのね。っていうかアンタ誰?」
私が尋ねると、お兄さんの目元がピクリと動き、他の参加者もざわつく。
…え、これもしかして、知らない方がおかしいって事?
彼、そんなに有名人なの?
他の奴等の反応を見る限り、少なくともいい意味での有名人ではなさそうだけど。
黄色かオレンジにも見える明るい茶髪を短く切り揃えた中学生か高校生くらいの男の子が来て、唯一空いている私の隣の席に座った。
これで全員揃ったわけだけど…今回の『げぇむ』はどんな『げぇむ』なのかしらん?
そろそろ『
なんて考えていると、店内のスピーカーから、マザーグース童謡が聴こえる。
この歌…確か『Pat A Cake』だっけ。
《エントリーを締め切りました。『げぇむ』のお時間です。これから皆様に参加していただく『げぇむ』は、『へんぜるとぐれぇてる』》
「ヘンゼルとグレーテル…って、あの有名な童話ですよね?」
「どんな『げぇむ』なのかしらね」
《エントリー数、10名。制限時間、2時間。賞品、『おかし』。『げぇむ』難易度…『
『
もうこの国に滞在して2ヶ月が経とうとしているけど、『
つまり、今までの『げぇむ』の中で一番難しい可能性もあるって事だ。
まあでも今回もなんとかなるっしょ、私って天才だし♪
《まずは皆様、足枷を装着し、次の指示をお待ちください》
私達はアナウンスの指示通りに、自分の左足に足枷を装着した。
この足枷、結構頑丈に作られていて、しかも可動域がかなり制限されている。
これで、『げぇむおおばぁ』になっても逃げられないってわけ…
《次に、各自テーブルの上に置かれた箱の覗き穴を見て、箱の中身を確認してください。この時、箱の中身を口に出してはいけません》
アナウンスの指示通りに、自分の席の前に置かれた箱の側面に開いた覗き穴を覗き込む。
私達に配られた黒い箱は、鉛製の箱に特殊な塗料が塗られていて、X線を通さないようになっている。
もしX線探知機を持ち込んでいる参加者がいても、覗き見できないように…か。徹底してるわね。
なんて考えつつ、私も覗き穴を覗き込んだ。
私の箱の中には、美味しそうなアップルパイが入っていた。
もしかして、これが賞品の『おかし』なの…?
《『るうる』の説明。皆様の中に、違う種類の『おかし』を持っている『まじょ』がおられます。『まじょ』は、女性とは限りません。『まじょ』が誰であるかを議論し、制限時間内に、お手持ちのタブレットで『まじょ』だと思う参加者に投票してください。ただし、解答権は1度きりです》
私の持っているタブレットには、ここにいる10人の顔写真が表示される。
この顔写真をタップすれば投票ができるワケね。
《『くりあ』条件。投票で正しい『まじょ』を指摘する事ができれば、『まじょ』以外の皆様は『げぇむくりあ』。『まじょ』は、業火で炙られ『げぇむおおばぁ』。投票で正しい『まじょ』を指摘できなかった場合、『まじょ』のみが『げぇむくりあ』。それ以外の皆様が『げぇむおおばぁ』。投票で1位が同票になった場合も指摘失敗となり、『まじょ』のみが『げぇむくりあ』となります》
なるほど、そういう『るうる』か。
要はこれ、全員自分の役職がわからなくて、しかも投票のチャンスが一回しかないっていう、ハードモードの人狼ゲームでしょ?
なんか似たようなゲームを、学生時代にやった事あるな。
《それでは、『げぇむすたあと』》
『げぇむ』が始まったにもかかわらず、最初の10秒は誰も口を開かなかった。
そんな中、赤い髪のお兄さんが手を挙げて口を開く。
「…なぁこれ、皆でせーので自分の『おかし』を言えばいいだけなんじゃね?」
「バカッ、『まじょ』が本当の事言うワケねーだろ!!『るうる』聞いてなかったのか!?」
「んだと!?」
「そもそも『まじょ』は、自分が『まじょ』かどうかもわからないんだ。自分が『まじょ』かもしれないのに、自分の『おかし』を正直に言う奴がいると思うか?」
「あ、そっか…」
「そりゃあ皆、死にたくないもんねぇ」
「どーすんだよッ、時間ねーぞ!!」
私達が話していると、赤い髪のお兄さんが喚く。
さっきからうるさいなこの人…
そんな中、女子高生がスッと手を上げて口を開く。
「ねぇ…だったらこうしない?皆で、自分の『おかし』の特徴を1個ずつ言っていくの。それなら会話の中で、誰が『まじょ』かわかるんじゃない?」
「あ、そっか!頭いいなお前!」
「じゃあいくわよ、私のは甘い『おかし』だったわ」
「ああ、オレも甘い『おかし』!」
「オレも」
「アタシも」
「僕も…というか、『おかし』って言ったらそりゃあ甘いんじゃ…」
女子高生と男子高校生が『おかし』の特徴を言ったのを皮切りに、他の参加者もそれに賛同する。
悪くないアイディアだと思うけど…もしこの時点で『まじょ』の『おかし』が甘くない『おかし』だったら、ソイツは嘘をつくに決まってるから、その時点でこの作戦は破綻するけどね。
こんなんで本当に『まじょ』が見つかんのかねぇ。
なんて考えていると、私の左隣にいたお兄さんが、私の右隣の男の子に話しかける。
「……君、顔色悪いよ?大丈夫?」
「えっ?」
「正直に言ってごらん。何か言いたい事があるんだろう?」
お兄さんは、男の子を問い詰めた。
口調こそ穏やかだけど、どこか引き摺り込まれるような不気味さを感じた。
お兄さんの放つプレッシャーに負けたのか、男の子は俯いて口を開く。
「すみません…オレの『おかし』、ポップコーンでした…」
男の子は、自分の持っている『おかし』を正直に言った。
すると他の参加者がどよめく。
「ポップコーンだと!?オレのと違うじゃねーか!!」
「コイツが『まじょ』に違いねぇ!!投票だ投票!!」
「そ、そうね!」
「あの子、可哀想だけど…そうとしか考えられないし…」
「そ、そんなぁ…!」
他の参加者が男の子を槍玉に挙げると、男の子は今にも泣きそうな顔をする。
他の参加者は、完全に男の子を『まじょ』だと決めつけて、話を聞こうともしなかった。
確かに、彼の『おかし』は私のと違うし、私か彼のどちらかが『まじょ』だという事は確定している。
というか、高確率で男の子は『まじょ』だ。
これで満場一致でこの子に投票すれば、『まじょ』じゃない人は確実に生き残れる。
でもまだ何かを見落としてる気がする…
「ま、待ってくださ…」
「待ちなさいよ!」
私は、投票しようとしている皆に、咄嗟に待ったをかけた。
すると他の参加者は、私の方を振り向く。
「…あ?」
「皆、まだ投票は早いんじゃない?もう少し話し合いを進めてから結論を出してもいいんじゃないかしら。まだ時間は残ってるんだし」
「確かに思ったより早く結論が出たけど、もう話し合う事なんて無いでしょ?この子が『まじょ』で決まりよ」
「そうだよ、もう投票しちまおうぜ。コイツの『おかし』だけ違うのは確定なんだし」
「『まじょ』が1人とは限らないわ。アンタ達が『まじょ』の可能性も、まだあるのよ。もしこの子を吊ってアンタ達も『まじょ』だったら、アンタ達死ぬのよ?」
「け、けど…!時間切れになったらどのみち『げぇむおおばぁ』なんだぞ!」
「や、やめましょうよ…皆さん一旦落ち着いて話し合いましょう…?」
私の意見に女子高生と男子高校生が反発すると、眼鏡のおじさんが私達を宥めた。
もしこの『げぇむ』が『まじょ』を吊るだけの『げぇむ』なら、制限時間2時間は長すぎる。
明らかに、さっさと『まじょ』を炙り出して投票を急ぐように誘導されているような気がする。
……あっ、もしかしてこの『げぇむ』って、そういう事?
「……わかったかも。この『げぇむ』で、全員が『げぇむくりあ』する方法」
「ホント!?」
「全員が自分に投票して、わざと『まじょ』の指摘に失敗する事。これがこの『げぇむ』の本当の攻略法よ」
「な…ん、だと…!?」
「『まじょ』の指摘にわざと失敗するって、ふざけてんのか!!そんな事したら死ぬんだぞ!!」
「いいえ、逆よ。『まじょ』を見つけてしまったら、アタシ達は死ぬのよ。ここにいる全員が『まじょ』ならね」
赤髪のお兄さんの発言を、私は首を横に振って否定する。
すると他の参加者も、動揺したような表情を浮かべる。
「おかしいと思わなかった?『おかし』の特徴を順番に言っていけば、普通誰かしら数分でボロが出るでしょ?違う『おかし』を持っている人を見つけるだけなのに、2時間という制限時間は長すぎる。慎重に議論をしなきゃ『げぇむくりあ』できないって言ってるようなものじゃない?」
「だからって、全員が『まじょ』って…そんな事、あるわけねーだろ!!」
「そうでもないわよ。皆死にたくないからってボロを出した奴に投票して、『まじょ』の指摘に成功したとするじゃない?でも本当は全員が『まじょ』だったら、『まじょ』が処刑されて全員『げぇむおおばぁ』。そこに生存者はいない。それがこの『げぇむ』を作った奴のやりたい事だったとしたら…?」
「ぅぐ…!」
私が理路整然と言うと、キャップのお兄さんと赤髪のお兄さんが黙り込む。
コイツら、直情的なだけで悪い奴等ではないのかもしれない。
なんて思っていると、今までほとんど口を開かなかった隣のお兄さんが口を開く。
「だったらこうするのはどうだろう?一番『まじょ』の可能性が高い彼と、彼を庇っている彼女に5人ずつ投票するんだ。全員自分に投票する、よりはマシな提案だと思うけど…?」
「何勝手にテメーが仕切ってんだよ!大体、殺人鬼の言う事なんか信用できるわけねーだろ!!」
隣のお兄さんが提案すると、キャップのお兄さんが指を差しながら反発した。
すると隣のお兄さんは、感情の乗っていない不気味な笑顔を浮かべ、ガラス玉のような目をキャップのお兄さんに向ける。
「ヒッ!!」
隣のお兄さんが無言で威圧すると、キャップのお兄さんは青ざめた顔をしてビクッと肩を跳ね上がらせる。
え、っていうか今、殺人鬼って言ったよね?
「…え、何?コイツ殺人鬼だったの?」
「
「はぁー…どーりで皆避けてたわけね。知らなかったわ」
私が椅子の背もたれにもたれかかると、スーツのお兄さんが呆れたような表情を浮かべる。
日本の常識に疎くてすみませんね。
なんか会った時から同族の匂いがするなぁって思ったら、そういう事か。
制限時間ギリギリまで話し合った結果、私、バンダ、槍玉に挙げられた男の子、スーツのお兄さん、キャップのお兄さんの5人は男の子に、赤い髪のお兄さん、眼鏡のおじさん、黒髪のお姉さん、男子高校生、女子高生の5人は私に投票する事になった。
全員の投票が終わると、ブーッとブザーが鳴り、アナウンスが放送される。
《全員の投票が終了しました。これより、結果を発表します。まずは皆様、テーブルをご覧ください》
アナウンスの直後、テーブルの上に置かれた箱がパカっと開く。
最初に男の子を『まじょ』と決めつけた高校生二人の『おかし』は、二人ともイチゴのショートケーキだった。
そしてそれ以外の8人は、アップルパイ、ポップコーン、チーズケーキ、プリン、キャンディ、ビスケット、ドーナツ、シュークリーム…全員違う『おかし』だった。
「な…なんだよこれ、全然違うじゃねーか!!」
「というか…同じ『おかし』を持ってるのが2人だけって事は…」
やっぱり私の思った通り、男子高校生と女子高生以外の全員が『まじょ』だった。
もし投票で私達の中の誰か一人が1位になれば、二人以外の全員が死ぬ。
もし票が割れるか、この二人のどちらかが1位になれば、二人が死んで私達が生き残る。
《続いて、投票結果を発表します。1位は、ドードー様、ツエダ様。1位が同票でしたので、『まじょ』の指摘は失敗となります》
モニターには槍玉に挙げられてた男の子…ドードーと、私の顔写真が表示され、どこからか『ブーッ!』と不正解の音が鳴る。
『まじょ』の指摘が失敗って事は…
「か、勝った…!?オレ達、勝ったのか!?」
「やったわ、これで『げぇむくりあ』よ!」
「っしゃあ!!」
他の参加者は、無事に『げぇむくりあ』できた事を喜んでいた。
一方で、『まじょ』じゃなかった二人は、この状況を理解できていなかった。
「は…なんで!?なんで同票なのよ!?5人ずつこの2人に票を入れるって話だったから、ドードーって子に票を入れれば勝てると思ったのに…!」
「なんでこの女に5票も入ってんだよ!?おかしいだろ!!こんなの、何かの間違いだ!!」
負けた二人は、モニターを指差してギャーギャーと喚いていた。
するとバンダが、静かに口を開く。
「君達が『まじょ』じゃない事はわかってたよ。だからわざと
「は…!?」
「ついでに言わせてもらうと…君達、この『げぇむ』の主催者側の人間だよね?」
バンダは、私が想定していた可能性の一つを指摘した。
すると二人は、僅かに目を見開く。
顔見知りに見えるこの二人が『まじょ』じゃなかったのは、ただの偶然じゃない。
この二人が『まじょ』に選ばれなかったのは、主催者側の人間だからだ。
「僕のような人間が隣にいて平気でいられる人間はそう多くない。なのに僕が隣に座った時、君は移動しようとしなかった。
「それは…っ」
「決定打は、槍玉に挙げられた彼を、彼女が庇った時だ」
そう言ってバンダは、ドードーと私を指差す。
「彼女が彼を庇った時、君達は投票を急かそうとした。『まじょ』が1人とは限らない、なんて言われたら普通は投票を躊躇うはずだ。自分がもう1人の『まじょ』かもしれないわけだからね…それでも投票を急かしたのは、
バンダが言うと、二人が黙り込む。
否定しない…という事は、そういう事なのだろう。
私がドードーを庇った時に投票を急かそうとした時点で、私の中ではこの二人はクロだと確信していた。
二人に便乗していた赤い髪のお兄さんとキャップのお兄さんも怪しかったけど、あの二人には私達を騙し通せるような賢さは無い。
高校生二人組が投票で裏切るのはわかってたから、私とバンダはドードーじゃなくて私に投票したってわけ。
「まぁ…彼女が気づかなければ負けていたから、最後は賭けだったんだけどね」
「もちろん気づいてたわよ。アタシを騙したかったら、もう少し上手くやらないとねぇ♪」
バンダが私の方を見ながら言うので、私は裏切り者の二人に向かってウインクをした。
二人は顔をひくつかせ、タラリと冷や汗が頬に伝う。
そして、その直後。
《『まじょ』の指摘に失敗したので、『まじょ』以外の皆様は『げぇむおおばぁ』》
二人の処刑を知らせるアナウンスが放送される。
『げぇむおおばぁ』を宣言された二人は、青ざめた顔をして喚く。
「いや…いや、いや!!助けて、死にたくない!!」
「やめろ、やめてくれ!!外してくれ!!」
二人は、死にたくないと喚いて私達に助けを求めてきた。
だけど誰にも助けられないし、助けようともしなかった。
「あ、あの…ッ!」
いや…一人だけ…ドードーだけは、『げぇむおおばぁ』になった二人に声をかけようとした。
私は、二人に何かを言おうとするドードーを片手で制止した。
「無駄よ。『げぇむおおばぁ』になってしまった以上、助かる道はない。それにコイツらは、アンタを槍玉に挙げて殺そうとしたのよ?」
「そう、ですけど…」
私が諭すと、ドードーはやるせない表情を浮かべて俯く。
するとその時、椅子に仕掛けられた火炎放射器が作動し、二人の座っていた椅子がボゥッと燃えた。
『げぇむおおばぁ』になった高校生二人組は、文字通り火だるまになる。
「ああああああああああああああああ!!!」
「あ゛つ゛い゛、あ゛つ゛い゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
「ひぃぃっ!!」
業火で燃やされた二人がもがき苦しんでいると、近くの席に座っていたお姉さんが悲鳴を上げる。
肉が焦げる匂いが充満し、炎の熱で融けた脂が飛散して口の周りがべたつく。
ほとんどの参加者が凄惨な光景にドン引きして言葉を失う中、私の隣に座っていたバンダだけは、薄ら笑いを浮かべながら、燃える二人を眺めていた。
しばらくして、燃えるものがなくなったのか炎が消えた。
真っ黒焦げになった焼死体がテーブルの上に倒れ込み、ちょうど顔の真下にあったショートケーキがべしゃっと潰れる。
《こんぐらちゅれいしょん。げぇむ『くりあ』》
『げぇむくりあ』のアナウンスと共に、左足の足枷が外れる。
私が立ち上がろうとしたその時、ドードーが私に話しかける。
「あの…ツエダさん。ありがとうございます。あの時、オレを庇ってくれて…」
「それはお互い様よ。アンタがあの時自分の『おかし』を正直に言ってなければ、アタシ達は『くりあ』できなかったわ」
私にお礼を言うドードーに、私はお礼を言い返した。
もし彼が保身に走って嘘をついていたら、私はこの二人以外全員『まじょ』という可能性すら思いつかなかった。
「なんで、この人達がこんな目に遭わなきゃいけなかったんだろう…しかも、オレと歳の近い人達が…」
ドードーは、真っ黒焦げになった焼死体を見ながらポツリと呟く。
この二人がどうして『げぇむ』の主催者をやっていたのか、それは私達にはわからない。
ただ単に私達とは違う『げぇむ』に参加させられていただけなのかもしれないし、私達とは違う条件で入国した特別な滞在者なのかもしれない。
「さぁねぇ。そんなのいくら考えたって、わからないんじゃない?考えても答えの出ない事を延々と考えるのは、アタシみたいな暇人が勝手にやってればいい事よ」
そう言って私は、テーブルの上に置いてあったアップルパイを齧る。
それを見た他の参加者は、ドン引きしていた。
皆は、賞品の『おかし』を持たずにそのまま1階へと降りていく。
「あれ?皆『おかし』いらないの?いらないなら、アタシ貰ってくわよ?」
あ、私貰っちゃっていいんだ、ラッキー♪
私は、1階のキッチンからタッパーを拝借して、テーブルの上に放置された『おかし』を全部タッパーに詰めた。
え?人の脂と焦げた匂いがついたスイーツなんか食えるかって?
私、あんまりそういうの気にしないのよねぇ。
「きゃはっ、大漁大漁♫」
お菓子のタッパーや冷蔵庫の食糧を詰めれるだけ車に詰めた私は、そのまま『ビーチ』へと車を走らせた。
なんか途中でバンダに見られてたような気がするけど、まぁいっか。
そんな事より、地味に頭使ったからお腹すいたなー。
パチってきたお菓子食べよ。
───今際の国滞在54日目
残り滞在可能日数
潰田千寿 37日
◆◆◆
ヒーロside
「いよいよね…」
滞在5日目。
私は、今夜の『げぇむ』会場の高層ビルの前に来ていた。
私がビルを見上げながら生唾を飲み込んで緊張を解していると、隣にいた女性…ミツキさんが話しかけてくる。
「大丈夫よ。一緒に頑張って『くりあ』しましょう?」
ミツキさんは、緊張している私に微笑みかけてくれた。
彼女は、私が2日目に参加した『げぇむ』でたまたま一緒になって、この国の事を色々教えてくれたお人好しな人だ。
私が初日の『げぇむ』で会ったアグニさん達の事を話したら、私がアグニさん達と合流するまでは一緒にいると約束してくれた。
「高層ビルか…『
ビルを見上げながら、ポツリと呟く。
『げぇむ』の傾向については、ミツキさんに聞いた。
得意分野の『
一応医学部に通ってるけど、勉強ができるってだけで頭使うのが得意なわけじゃないし、『
なんて考えていると、ミツキさんと一緒に行動していた男の人、ジュンさんが不機嫌そうな表情を浮かべる。
「何だよ、使えねーな。やっぱり初心者なんか連れてくるんじゃなかったぜ」
「そんな事言わずに、皆で協力しましょう?良かったら、自己紹介でもしませんか?」
ジュンさんが私を見て舌打ちすると、ミツキさんが彼を宥める。
そんな中、既に会場の前にいたタキシード姿の男の人が、私達を見て鼻で笑う。
「フン、随分と呑気だな。蹴落とし合う『げぇむ』かもしれんのだぞ」
「アタシもパス。こんな時に自己紹介なんてやってられるかっての」
タキシードの人が私達を鼻で笑うと、少し離れたところにいる弓矢を持った義足の女の子も素っ気なく言った。
そりゃあ、『るうる』がわからないうちは、協力し合うなんて無理だよね…
なんて考えつつ、ビルの中へ入っていく。
《『げぇむ』、『おおどろぼう』。エントリー数、無制限。制限時間1時間。賞品、『おたから』。難易度『
『
大丈夫。
私なら、この『げぇむ』は絶対『くりあ』できる。
《それでは、『げぇむすたあと』》
アナウンスが鳴ると同時に、私達は最上階に向かって走り出した。
このビルは5階上がるごとに廊下を移動して階段を変えないといけなくて、廊下には人を死に至らしめる罠が張り巡らされていた。
レーザーが張り巡らされた階では、私達はレーザーに当たらないように慎重に進んだ。
私は『
そんな中、タキシードの男は前にいた参加者を盾にして進んだ。
「ギャア!!」
タキシードの男が参加者を突き飛ばすと、突き飛ばされた参加者はレーザーで身体を真っ二つにされる。
タキシードの男がジュンさんを突き飛ばし、レーザーがジュンさんに迫ったその時、私はジュンさんを横から蹴飛ばして助けた。
「大丈夫ですか!?」
「あぁ、すまねぇ…」
ミツキさんが、地面に倒れているジュンさんに駆け寄って肩を貸し、一旦柱の影へ隠れた。
私は、他の参加者を盾にしたタキシードの男を睨みつけて叫ぶ。
「人を盾にするのはやめて!」
「何を寝ぼけているのだ。弱肉強食という言葉を知らんのか」
私がタキシードの男に向かって怒鳴りつけると、ソイツは鼻で笑いながら当然のように言った。
コイツほんと嫌い。
なんて思いつつも、私達はレーザーが張り巡らされた階を無傷で攻略した。
「大丈夫?無理はしないで」
「はい…!」
私が息を切らしながら薬を口に含んでいると、ミツキさんが私の背中を摩ってくれた。
次に辿り着いたのは、廊下に整列した西洋甲冑の騎士が剣や斧を持って縦横無尽に襲いかかってくるフロアだった。
参加者の一人が棒切れで叩いても騎士の甲冑は傷一つつかず、その参加者は逆に騎士に捻り潰されてしまった。
「ダメ、あの鎧が硬すぎる…!」
逃げても逃げた先に騎士が襲いかかってくるので、倒さないと先に進む事はできない。
かといって、倒そうにも甲冑が硬すぎて並の得物じゃ太刀打ちできない。
爆薬でも持ってくればよかった…
なんて思っていると、タキシードの男が騎士の身体をガッシリと掴み、そのまま取っ組み合いを始めた。
「確かにコイツは頑丈だな。では、同じくらい頑丈な物に衝突させたらどうなるのかな?」
そう言ってソイツは、騎士の身体を持ち上げると、今にも襲い掛かろうとしていた騎士の軍団目掛けて勢いよく投げつけた。
すると甲冑同士がぶつかって粉々に砕け、騎士が倒れる。
タキシードの男は、大きい体格とパワーを活かして次々と騎士を倒した。
義足の女の子も、甲冑の隙間に矢を命中させて騎士を倒した。
「なんとなくコツわかってきたわ」
2番目のフロアは、タキシードの男と義足の女の子が騎士を倒してくれたおかげで先に進めた。
その後も、私達は協力して各フロアの罠を突破して最上階まで辿り着いた。
今、私の目の前には、ショーケースに入った宝石がある。
…いける。
残り時間も、あと半分ある。
帰りは来た道を戻るだけだから、行きよりも速く進めるはず。
私は、自慢の足で無数の罠を掻い潜り、ショーケースを割って『おたから』を掴んだ。
よし、これを盗んで脱出すれば『げぇむくりあ』…!
私が『おたから』を持って急いでその場を離れた瞬間、ジリリリリリ、と警報が鳴る。
そしてドォン、とどこかで音が響き、ビル全体が大きく揺れる。
まさか、『おたから』を盗んだ瞬間から崩れ始めるとか、そういうパターン!?
嘘でしょ、そんなのアリ!?
制限時間内に最上階まで辿り着いて『おたから』を盗めても、最終的に倒壊するまでにこの建物から脱出できなきゃ『くりあ』できないって…
とんだクソゲーだわ…!
ここまで来るのに、何分かかったと思ってんのよ…!?
「また!?倒壊するとか聞いてないんだけど…!」
「ワハハ!ようやく『
アナウンスを聞いた義足の女の子は青ざめ、タキシードの男は笑い飛ばした。
今はそういう冗談、笑えないから。
私達は、来た道を走って戻った。
だけど20階あたりまで降りてきたところで、1階へ降りる階段が閉鎖されて渡れなくなっていた。
「そんな…!」
「嘘だろ、階段が…!」
これじゃあ、1階まで降りられない。
このままだと、倒壊するまでに脱出するなんて絶対無理。
何か、何か方法はないの…!?
私は、ここで死ぬわけにはいかない。
生きて元の世界に帰って、父さんに会うんだ。
「皆さん、こっちです!」
ミツキさんの声がした方を振り向くと、彼女が窓から身を乗り出して下を覗いていた。
ちょうど落ちても死なないくらいの高さに、隣のビルに繋がる渡り廊下がある。
ここから飛び降りて、渡り廊下の屋根を渡って脱出しろって事…!?
「ちょっと、まさかこれ渡るの…?マジ勘弁なんだけど…」
「時間がないわ、行きましょう!」
「ああクソ、なるようになれよ!」
ミツキさんが声をかけると、『おたから』を持った私が先に窓から飛び降りて渡り廊下の屋根の上を走り、タキシードの男、義足の女の子、ミツキさん、ジュンさんも続けて渡り廊下の屋根を渡った。
私達が渡り廊下を渡った瞬間、振動が渡り廊下にも伝わり、渡り廊下が音を立てて崩れ始める。
ジュンさんを除く私達4人は、渡り廊下が崩れ落ちる前に何とか隣のビルへと逃げ込めた。
だけどジュンさんは、あと少しのところで渡り廊下の崩落に巻き込まれ、瓦礫と一緒に下に落ちてしまった。
「ああっ!」
「ジュンさん!!」
私は咄嗟に窓から身を乗り出して、ジュンさんの手を掴んだ。
ダメ、私一人じゃ引っ張り上げられない…!
「離せ…!お前まで落ちるぞ!」
「嫌だ!!」
ジュンさんが離せと言ってきたのを、私は食い気味に拒否した。
私は、父さんの言いなりじゃなくて、救ける為に医者になるって決めたんだ。
“正しい事”して誰かを傷つけたり、見捨てたりするのは、もう嫌だ。
「これが私の生き方だから…!死んでも離すもんか!!」
強がってカッコつけてみたけど…そろそろ腕が限界…!!
ジュンさんの手が私の手からずり落ちそうになったその時、ミツキさんがジュンさんの腕を掴んだ。
ミツキさんは、私と一緒にジュンさんを引っ張り上げてくれた。
「もう少しよ、頑張って!」
私とミツキさんは、ありったけの力を振り絞ってジュンさんを引っ張り上げた。
するとさっきまで助かるのを諦めていたジュンさんは、意を決して反対側の手で私の腕を掴んだ。
「あ、ああ…ああああああ!!」
ジュンさんは、雄叫びを上げながら自分の身体を引き上げ、窓の縁へと這い上がった。
ジュンさんを引き上げた私とミツキさんは、その場で息を整えた。
ふと顔を上げると、部屋に置かれていたモニターがパッとつく。
《こんぐらちゅれいしょん》
《げぇむ『くりあ』》
「……っしゃああああ!!」
『げぇむ』を無事に生き延びた私は、ガッツポーズをして喜んだ。
私が生き残れた事を喜んでいると、ジュンさんが私に話しかけてくる。
「ありがとな…さっき、嫌な事言って悪かった」
「いいんです。困った時はお互い様でしょ?どこか怪我してませんか?」
ジュンさんが気まずそうに謝ってくるので、私は笑顔で首を横に振った。
私とミツキさんがジュンさんを介抱していると、タキシードの男が話しかけてくる。
「フン、そんな温い考えでよくここまで生き延びられたものだ。お前らの馴れ合いがいつまで続くか、見ものだな」
そう言ってタキシードの男は、レシートとトランプを持って先に帰って行った。
助けてくれたから文句言うつもりはないけど、最後まで嫌な奴だったな…
なんて考えていると、私達に話しかけてくる。
「驚いたわ。アンタらみたいなお人好しが、まだこの国で生き残ってたなんて」
「あの…さ。良かったら、あなたも私達と一緒に来ない?皆で協力して生き残ろう?」
私は、この先一緒に生き残らないか女の子に提案した。
余計なお世話かもしれないけど、左脚を失ってまで生にしがみついた彼女には、最後まで生き残ってほしいから。
私が手を差し伸べると、彼女は私の手を取らずに背を向けた。
「遠慮しとくわ。次は仲間同士で殺し合う『げぇむ』かもしれないし」
「そっか…」
女の子は、レシートとトランプを受け取ると、先に1階に降りて行った。
私もミツキさん、ジュンさんと一緒に下の階に降りつつ、女の子に話しかける。
「私は大木場
私は、まず自己紹介をしてから、女の子に名前を尋ねる。
すると彼女は、ウェーブのかかった長い黒髪を揺らしながら振り向いた。
「ヘイヤよ。塀谷朱音」
───今際の国滞在5日目
残り滞在可能日数
大木場柊色 14日
そろそろオリ主をヤバンダコンビと絡ませたくて、この話を書きました。
最初はドードーとヤバが同じ『げぇむ』に参加しているところを書くつもりだったのですが、今後のストーリー展開の都合でバンダに変更しました。
代わりにヤバは、ヒーロと一緒に『げぇむ』に参加しています。
ちなみにお菓子の『げぇむ』は、ミラがノリノリで作ったという設定です。
童話がモチーフだったり、『まじょ』を吊る『げぇむ』と思わせて実は死ぬのが『へんぜる』と『ぐれぇてる』の方というメチャクチャな『るうる』だったり、いかにもミラが好きそうな『げぇむ』にしてみました。
アグニが邪魔しない前提での『まじょがり』(本来の難易度は♡5)よりは難しくて、♡7よりは鬼畜度が少ない『げぇむ』と考えたらこうなりました。
『まじょがり』→『まじょ』を探して火炙りにしましょう。ただし『まじょ』なんていません
『かくれんぼ』→『ひつじ』は『おおかみ』から隠れましょう。ただし生き残るのは『おおかみ』の方です
お菓子当てゲーム→『まじょ』を探して火炙りにしましょう。ただし『でぃいらぁ』以外全員『まじょ』です
ふざけとんのか。