Duchess in Borderland   作:M.T.

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びいち(8)

 『♡6(はあとのろく)』を『くりあ』した後、私は食糧とお菓子を車に詰めて、『ビーチ』に戻ってきた。

 私が車から降りると、私の奴れ…ファンの子達が駆け寄って話しかけてくる。

 

「姐さん、お疲れ様です!」

 

「えぇ。でもちょっと疲れちゃった。悪いけど、車に積んである食糧、運んどいてもらえない?」

 

「うっす!」

 

 私がヒラヒラと手を振りながら言うと、頬を赤く染めたファンの男子達が食糧をホテルの厨房へと運び込む。

 ボーシヤ程じゃないけど、私も『ビーチ』の一部の連中から熱狂的な支持を得ている。

 足手纏いが増えるのが嫌だから、極力『げぇむ』には一人で参加するようにしているけど、進んで雑用をしてくれる子達がいるのは正直すごい楽なのよねぇ。

 

「はい、今日のトランプ」

 

 ファンの子達に雑用を押しつけた私は、『げぇむ』で手に入れた『♡6(はあとのろく)』のトランプをクズリューに渡した。

 今回は持って帰ってきたのが『♢4(だいやのよん)』や『♡10(はあとのじゅう)』じゃない上に1枚だけだったので、ボーシヤに何か言われる前に先手を打つ事にした。

 

「ダブっちゃったけど、今回は大目に見てほしいな。『げぇむ』会場から新鮮な食糧たくさん持って帰ってきたし」

 

「ウム、感謝する!」

 

 私が肩を竦めながら報告すると、ボーシヤは上機嫌で頷く。

 食糧をたくさん持って帰ってきたおかげで、大した収穫を持ってこなかった事を詰られたりはしなかった。

 このやり取りも、これで何度目かしらね。

 ボーシヤのご機嫌取りをした私は、着替えてプールサイドに帰ってきた。

 

「『げぇむ』から生還者が戻ってきたぞォーっ!!」

 

「どこのグループだ!?」

 

「No.7だってよ!」

 

「すげぇ!!」

 

 私がプールサイドに戻ってくると、『ビーチ』の連中がワイワイと騒ぐ。

 ちょうど同じタイミングで、私とは別の『げぇむ』に参加していたウサギが帰ってきた。

 ウサギと一緒に戻ってきたグループの連中は、『♣︎4(くらぶのよん)』のトランプを握りしめていた。

 ウサギは、『♡7(はあとのなな)』の手柄でNo.52にまで昇格した。

 今日は二人死んだから、明日にはまたナンバーが上がっていると思う。

 絵札を除くトランプが残り2枚になった今、そろそろ計画を実行に移さないと、別の欲張り者が現れて計画をおじゃんにされるかもしれない。

 明日にでも、アリスとウサギを計画に誘おうかしらね。

 なんて考えていると…

 

「ああいた、ツエダさん!!」

 

 息を切らしたタッタが、私を呼びに来た。

 ここまで焦っているという事は、只事じゃなさそうね…

 

「あら、タッタ。どうしたの?」

 

「ぼっ、ボーシヤが…ツエダさんを呼んでて…とにかく来てください」

 

「ボーシヤが…?わかったわ」

 

 私が尋ねると、タッタは息を整えながら説明する。

 私は、その言葉に違和感を覚えつつも、ボーシヤのいるロイヤルスイートへと向かった。

 ロイヤルスイートへと向かう私の後ろ姿を、アグニがじっと見ているのに気づかないフリをして。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 私はロイヤルスイートへと足を運びつつ、ぐるぐると思考を巡らせていた。

 どうして今このタイミングで、ボーシヤが私を…?

 考えてみても、何も思い当たる事が無い。

 未回収のトランプの『げぇむ』に関する情報なんて私は持ってないし、情報収集目的じゃないのは確か。

 かといって、お説教というのも違う気がする。

 大した収穫を持ってこられなかったのは今に始まった事じゃないし、むしろ私は『ビーチ』に貢献してきた方だし…

 カルト派への勧誘?武闘派に加担してないかを尋問するつもり?……どれもしっくりこない。

 だとすると…

 

「……まさか…」

 

 トランプ奪還計画がバレた…?

 

 ……あり得ない話じゃない。

 アリス君が『♡7(はあとのなな)』を持ってきてから、私は電子機器の部品やら、毒薬やら、奪還作戦に使えそうなものを少しずつ集めていた。

 もちろんボロは出さないように気をつけてたけど、ボーシヤは、前から勘の鋭いところがあった。

 もしかしたら、その事について尋問をするつもりなのかもしれない。

 最悪の想定をした私は、ほぼ無意識的に、鋭利な刃物を仕込んだバレッタに手を伸ばした。

 予定は少し狂うけど、拷問されるくらいなら殺す。

 ボーシヤを殺して武闘派が覇権を握ってくれれば、むしろ好都合。

 その後の事なんて、私の知ったこっちゃない。

 刺し違える覚悟を決めた私は、ロイヤルスイートのドアをノックする。

 

「入るわよ、ボーシヤ」

 

「ああ、ツエダか。入れ」

 

 ボーシヤの許可を得た私は、ロイヤルスイートのドアを開ける。

 ボーシヤは、高級感のあるソファに座って夜景を眺めながら、赤ワインを嗜んでいた。

 

 ふとソファを見ると、長い髪をポニーテールにした全裸の女が二人、うっとりとした表情を浮かべて横たわっている。

 金色と銀色のマイクロビキニがソファの上に散らばっていて、事後だというのは想像するまでもない。

 それなりに顔が整っている方だとは思うけど、アンやミラ程じゃない。

 名前すら知らないような、下っ端の女。

 こんな顔だけの下っ端をロイヤルスイートに招き入れるなんて、ボーシヤも趣味が悪いわね。

 なんて思いつつ、女二人に声をかける。

 

「アタシ、これからNo.1と大事な話があるの。今すぐ席を外してもらえる?」

 

「え…?」

 

 私が女二人に向かって言うと、二人はきょとんとした表情を浮かべた。

 自分達の立場を理解できていない彼女達の頭の悪さに、思わずため息が零れる。

 No.7の私がNo.1の部屋に呼ばれた時点で、下っ端が長居しちゃいけないって事くらい、わからないのかしら。

 しかもわざわざ『出て行け』と言っているのに、一回で指示を理解できないのか。

 私は二人をギロッと睨みつけ、語気を強めて命令した。

 

「聴こえなかった?さっさと出ていきなさい」

 

「は、はい…!」

 

 私が威圧するような視線を向けながら命令すると、二人はコクッと頷いてソファの上の水着をかき集め始めた。

 先程まで行われていた営みがよほど激しかったのか、バスローブで軽く身体を隠した二人は、よたよたとおぼつかない足取りでロイヤルスイートを後にする。

 私が二人をロイヤルスイートから追い払うと、ボーシヤが私に背を向けたまま話しかけてくる。

 

「いつにもなく手厳しいな」

 

「アタシをこの部屋に呼んだのはアナタでしょ?時間は有限。特にこの『今際の国』ではね」

 

「カカッ、相変わらず可愛げのない女だ。まぁいい、座りたまえ」

 

 ボーシヤに促され、私は向かいのソファーに座った。

 私が席に着くと、ボーシヤは空のワイングラスに1990年のロマネ・コンティを注いで私に差し出してきた。

 テーブルの上には、私がパチってきたフルーツやスイーツが並んでいる。

 酒カスの私は、普段なら迷わずワインに飛びついていたところでしょうけど、生憎今はワインを喜んで飲めるような状況じゃない。

 私がワインやスイーツに手をつけずにボーシヤの出方を窺っていると、ボーシヤが話しかけてくる。

 

「どうした、飲まないのか?酒は好きだろう?」

 

 トランプ奪還作戦がバレてるかもしれないのに、差し出されたものを大人しく飲む程私もアホじゃない。

 私が言い訳をしようとすると、ボーシヤはずいっと顔を近づけてきた。

 

「それとも、何かやましい事でもあるのかな?」

 

 正面からボーシヤに睨まれた私は、思わず頬から冷や汗をたらりと流した。

 やっぱりこの男、なかなかどうして勘が鋭い。

 今この瞬間も、私の反応を見て情報を引き出そうとしてる。

 私は、ボロを出さないように細心の注意を払いつつ、咄嗟に思いついた言い訳を口にする。

 

「……正直、いきなり呼び出されたから、まだ思考の整理が追いつかないの。まだ要件聞いてないし…」

 

「ほう?」

 

「今、『ビーチ』はカルト派と武闘派がギリギリのところで均衡を保ってるけど、いつ均衡が傾いてもおかしくない。今の『ビーチ』の状況を考えれば、アンタからの呼び出しを警戒するのは当然でしょ?腹を割って話したいなら、先に要件くらい言いなさいよ」

 

 私は困惑しているような演技をしつつ、ボーシヤの疑惑をトランプ奪還計画とは無関係のカルト派と武闘派のいざこざにすり替えた。

 表向きはカルト派と武闘派が対立しているという状況で、フリーの私がカルト派トップのボーシヤに呼び出された。

 トランプ奪還計画なんて立てていなかった頃の私なら、この状況を、「カルト派への勧誘」、もしくは「お気持ち確認」と考えるはず。

 カルト派と武闘派の対立がエスカレートしてきている今、どんな手を使ってでも無理矢理カルト派に引き入れるつもりじゃないのか、と考えるのは何ら不自然な事じゃない。

 私があくまで「なんで呼び出されたか心当たりが無いから信用するのが怖い」という態度を貫き通すと、ボーシヤは私から離れてカカッと笑った。

 

「ウム、お前の言う事ももっともだ。本題に入ろうか」

 

 そう言ってボーシヤは、ロマネ・コンティのボトルに直接口をつけ、中身をガブガブと飲み干す。

 それ以上の追及がなかった事に、心の中で胸を撫で下ろしつつ、警戒を解かずに話を聞く。

 

「明日はオレも『げぇむ』に参加するのは知っているだろう?『ビーチ』のNo.1が1日も早く出国できるよう、お前の幸運にあやかろうと思ってな」

 

 ………ん?

 いや、待って。

 どういう事?

 

 ボーシヤが全く想定していなかった要件を話してきたので、コンマ数秒ほど混乱に陥る。

 てっきり、私が裏切りの計画を立てている事がバレたのかと思ってたから、そんな方向から話を切り出してくるとは思わなかった。

 それでも動揺を悟られないように、淡々とボーシヤに尋ねる。

 

「あやかる…?言ってる意味がよくわからないわね。アタシ、明日は『げぇむ』に参加するつもり無いんだけど?」

 

「そうではない。確かお前の手下の間で、妙なジンクスがあるという話を聞いたのだよ。お前と寝ればこの国から出国できる、とか何とか…」

 

「…そんなの、下っ端が勝手に言ってるだけよ。そんなくだらないジンクスを、本気で信じてるの?」

 

 ボーシヤの発言を、私はくだらないと切り捨てた。

 私のファンの子達の間では、私に抱かれたら生きて出国できる、という謎のジンクスが広まっている。

 私が『ビーチ』に入ってきてから抱いた奴がみんな今日まで『げぇむ』で生き残ってるから、そういう変な噂だけが一人歩きしているのが現状。

 まあ、ただ単に生き残る確率が高そうな奴から順番に抱いてるから、ソイツらが『げぇむ』で生き残るのは当たり前の事なんだけど。

 …そんなジンクスを信じて、私を抱く為にここに呼んだのか。

 いや、私が裏切り者だと分かった上で揺さぶりをかけている、という可能性もまだなくはないけど。

 なんて考えていると、ボーシヤが隣に腰掛け、私の肩に手を置いて抱き寄せてきた。

 するり、と肩に置いた手が腰に、そしてとお尻へと降りてくる。

 

「本当かどうかは、試してみればわかる事だ」

 

 ボーシヤが、私の無駄に大きく育った尻肉を揉みしだきながら、耳元で囁いてくる。

 私は今、胸の谷間を強調するクロスホルターのトップスと、布面積が小さめのハイレグTバックのボトムスのビキニを着ていて、なかなかにエロい格好をしていると思う。

 こんな水着、着てこなきゃよかったな…

 武闘派連中みたいに風邪引いてる時に襲ったり、力強くで組み伏せてきたりしないだけまだマシだけどさ…

 

 別にここで拒否しても、ボーシヤが食い下がってくる事はない。

 嫌がる相手を無理矢理犯すのは、彼の信条に反するから。

 本気で嫌がれば、二度とちょっかいをかけてくる事はないだろう。

 

 でもこの状況は、私にとっては逆に、千載一遇のチャンスなのだ。

 ボーシヤをその気にさせれば、私達に有利な情報を手に入れられる可能性も無くはない。

 あわよくば、幹部の私達すら知らないトランプの在処を聞き出せるかもしれない。

 ……まあ、裏切りがバレていなければの話だけど。

 

 私は雰囲気に流されたフリをして、ボーシヤに身を委ねつつも、優位に立てるチャンスを見計らった。

 するとボーシヤは、私に差し出したはずのワイングラスを手に取ると、中に入っている赤ワインを口に含んだ。

 そして、私の顎をぐいっと引いて口付けてきた。

 唇の隙間から、赤ワインが口の中に流れ込んでくる。

 このガキ…私が警戒してワインを飲まないからって、口移しで無理矢理飲ませてきやがった。

 前に私がチンピラの舌を噛みちぎったのを知っているだろうに、よくそんな大胆な行動に出られるわね。

 

 なんて考えていると、ボーシヤが私の肩と脚を抱いてお姫様抱っこしてくる。

 平均的な女子よりは一回り大きく、筋肉のついた私の身体を、軽々と持ち上げベッドへと放り投げる。

 私の部屋のベッドより上質なフカフカのベッドが、優しく私の身体を受け止めた。

 これがさっきの女二人を抱いた後のベッドじゃなくて良かった。

 興味無い奴の汗が染み込んだシーツとか、普通に気持ち悪いから。

 ベッドの上で寝返りを打って仰向けになると、ボーシヤが馬乗りになる。

 

「王の出国は『ビーチ』の悲願だ。力を貸してくれるかね?」

 

 ボーシヤは、私の紺色の髪の束を手に取りながら、低く掠れた声で話しかけてくる。

 私は、頬を赤らめてとろんとした目をボーシヤに向けた。

 

「……ええ、もちろん」

 

 私はクスッと微笑みながら、ボーシヤの首に両腕を回した。

 あくまで、ボーシヤに忠実な臣下のフリをして。

 

 …でもね、ボーシヤ。

 あなたは知らないでしょうけど、ジンクスならかつての現実世界にもあったのよ。

 “私に近づく奴は必ず破滅する”っていう、真逆のジンクスがね。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ふぅ……」

 

 あれから、どれだけの時間が経ったのだろう。

 ボーシヤと一夜を共にした私は、ブラックパールをロックグラスに注ぎ、彼に貰ったコイーバ・ベイーケ56に火をつけながらそんな事を考えた。

 

 口移しで飲まされたお酒には、何も入っていなかった。

 ボーシヤは、私が脱走計画を立てている事には気づいていなかった。

 本当に、ただただ景気付けに私とヤりたかっただけだったのか。

 

 私は、隣でブランデーを飲んでいるボーシヤを尻目に見つつ、ベッドの上に散らばった水着を身につける。

 ボーシヤは、元歌舞伎町のホストというだけあって、女の扱いに慣れていた。

 私が誰でも抱けるビッチじゃなかったら、彼のテクニックに絆されて、本来の目的も忘れて骨抜きにされていたかもしれない。

 彼にメロメロになる女の子がいるのも頷ける。

 

「それじゃ…アタシはそろそろ戻るわね」

 

 お酒と葉巻を嗜んだ私は、パーカータイプのラッシュガードを身につけながら、ボーシヤに声をかける。

 そろそろ戻らないと、明日の幹部会議に響く。

 そうでなくとも、私がロイヤルスイートから出てくるところでも見られたら、余計な勘繰りをされるからね。

 なんて考えていると、ボーシヤが私の肩を抱き寄せる。

 

「全てのトランプが揃う日も近い。次も頼んだぞ」

 

「……ええ」

 

 ボーシヤは、私のお尻を撫でつつ、唇に触れるだけのキスをした。

 レザーサンダルを履いた私は、そのままロイヤルスイートを後にした。

 何でもないように見せてるけど、ボーシヤが激しくしたせいで足腰がいまだにガクガクしてるし、お股にも違和感が残っている。

 こんな無様なところ、誰にも見られたくない。

 何とかエレベーターまでたどり着いた私は、ボタンを操作して9階に降りた。

 そのまま部屋に戻ろうとすると、アグニが正面から歩いてくる。

 

 ……うげ、最悪。

 よりによって、今一番会いたくない奴に鉢合わせてしまった。

 『ビーチ』の連中は知らないけど、アグニはボーシヤが唯一信頼している親友だ。

 もし親友と私がよろしくやっているのを知ったら、アグニは何をしてくるのか。

 私がそのまま素通りして部屋に戻ろうとするとだ。

 

「おい」

 

 後ろからアグニが、ガシッと私の右手首を掴んでくる。

 少し痛くて思わず振り向くと、アグニがずいっと詰め寄って質問してくる。

 

「アイツと何があった」

 

 アグニが私の腕を引っ張ると、ラッシュガードがズレて胸元が露わになる。

 胸元に赤い痕がついているのを見たアグニは、咄嗟に私の手を離す。

 アグニが何かを察したのを察した私は、唇の前で人差し指を立てる。

 

「内緒ね」

 

 私が釘を刺すと、アグニはそれ以上は追及してこなかった。

 私は、逃げるようにその場から立ち去った。

 

「……男ってみんなバカ」

 

 誰にでもなくそう呟くと、アグニが私の後ろ姿をじっと見つめてきた。

 今思えば、お酒を飲まされたのは、逆に良かったのかもしれない。

 全部、お酒のせいにしてしまえるから。

 ボーシヤと関係を持つなんてバカな判断をした事も、彼にかつての想い人を重ねて込み上げてくる吐き気も。

 アグニの追及を免れた私は、自室のトイレに駆け込み、喉の奥に手を突っ込んだ。

 

「うっ…ゲェッ…エ゛エ゛ッ…ゲホッ…」

 

 便器に顔を突っ込んで、胃液しか出なくなるまで吐いた。

 思い出したくない顔がフラッシュバックするのを、胃酸の刺激で塗り潰した。

 私の人生を滅茶苦茶にしたクソ野郎。

 私が生涯でただ一人、本気で好きになった人。

 

「はぁ…はぁ……っ」

 

 吐けるだけ吐いたら、少し落ち着いてきた。

 昨日、ハッキリとわかった事がある。

 かつて私の仲間だったボーシヤは、もう死んだ。

 この『今際の国』が、彼への恩も忘れて甘い汁を吸ってるだけのクズ共が、彼を殺した。

 これでもう、引き返す理由が無くなった。

 私から希望を奪った奴等から、希望を奪う。

 何もかも全部、ぶっ壊してやるよ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 次の日、私は早朝の幹部会議に参加した。

 幹部会議には、No.1のボーシヤ(♠︎)、No.2のアグニ(♠︎)、No.3のクズリュー(♢)、No.4のニラギ(♢)、No.5のマヒル(♣︎)、No.6のアン(♢)、No.7の私(♢)、No.8のミラ(♡)、No.9のラスボス(♠︎)の9人が参加している。

 私の隣で、クズリューが顔の前で手を組みながら口を開く。

 

「この5日間での『げぇむ』の死者は12人…50%を上回る『げぇむ』の死亡率を考えると、悪くない数字だ。しかし、当然ながらトランプの揃う日が近づくにつれて、残るカードの収集は困難になってきた。5日前の新入りの『♡7(はあとのなな)』も、実に2週間ぶりの手柄だった。問題はそれだけじゃない。残るカードの『♢4(だいやのよん)』『♡10(はあとのじゅう)』を除く、絵札のトランプが、未だ1枚も集まらない。難易度があまりに高すぎて、誰も『くりあ』できずにいるのか。絵札の『げぇむ』会場自体が存在しないのか…」

 

 クズリューは、残りのカードの収集への懸念を話した。

 絵札の『げぇむ』だけじゃない。

 『♡10(はあとのじゅう)』も、『げぇむ』会場があるという情報すら手に入らない。

 『♢4(だいやのよん)』は、難易度的にもそこまでレアなカードじゃないはずだし、見落としてるだけだと思うけど…

 『♡10(はあとのじゅう)』と絵札の『げぇむ』に関しては、誰も『くりあ』できていないか、下手したらまだ一度も出現していない『げぇむ』の可能性すらある。

 なんて考えていると、ニラギがどこか不満げに口を開く。

 

「『げぇむ』は楽しいから、オレは別に構わねーが…あんな曖昧な情報源(ソース)を頼りにこんな事を続けて、オレ達は本当に元の世界に帰れんのかよ!?」

 

 ニラギがごもっともな事を言うと、ボーシヤがニカッと笑って話す。

 

「全てのカードが、揃う日は近い…自ずと、『答え』は見えよう。それよりも、今夜の『げぇむ』は、我々3人を含む上位ナンバーが多く参加する。幹部諸君!!くれぐれも、留守は頼んだぞ」

 

 ボーシヤが言うと、留守番の私達が頷く。

 その時ボーシヤと一瞬目が合ったので、咄嗟に視線を逸らしてしまった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 幹部会議が終わった後、私はプールサイドを見渡して、アリスとウサギに声をかけるタイミングを窺っていた。

 すると、チシヤとクイナが後ろから近づいてくる。

 

「大丈夫?」

 

 チシヤはポケットに手を突っ込み、顎を突き出して私を見下ろしながら尋ねる。

 私が昨日ボーシヤに呼ばれたのを気にしているのか…

 彼の言う『大丈夫?』は無論、私の体調や気分を心配した発言じゃない。

 計画にちゃんと協力できるのか、という意味での『大丈夫?』だ。

 

「…ええ、平気」

 

 私が答えると、チシヤは「なら良かった」と素っ気なく返す。

 するとその時、アリスがメインロビーの屋上で誰かと話しているのを見つけた。

 私達三人は、タイミングを見計らってアリスに近づいた。

 

「な…何だよ、これ…!!?」

 

 アリスは、ゴミ捨て場に捨てられた大量の死体を見て、目を見開き冷や汗をかいていた。

 『ビーチ』の裏の顔を見て驚いているアリスに、チシヤが声をかける。

 

「見せしめだよ。『ビーチ』の『ルール』はたったの3つ。1つは、『裏切り者には死を』」

 

「アンタは……!!」

 

「おめでとう♪あれから互いに生き残ってるみたいだね」

 

 アリスが振り向くと、チシヤは目を細めて微笑む。

 そういや、二人が再会するのは『おにごっこ』以来ね…

 

「裏切り者って…!?この人達は、一体…」

 

「彼等は、『ビーチ』から逃げ出そうとした連中さ。一度『ビーチ』のメンバーになったら、死ぬまで抜けられない。裏切り者はどこまでも追われ、制裁を受ける。まるで昔の暴走族みたいだよね♪」

 

 チシヤは、真下のゴミ捨て場の死体を見ながら笑った。

 なんとも耳が痛い話だわ。

 『ビーチ』から逃げ出そうとした連中や、私達幹部に楯突いた連中は、『ビーチ』のルールに則って処分される。

 汚れ役は武闘派がやってくれてるけど、私も制裁に駆り出されて、この手を汚してここに死体を処分した事がある。

 

「とはいえ、実際の見せしめは数人に過ぎない。皆に恐怖心を植え付けるには、その()()さえあれば十分だからね」

 

「じゃあ…残りの人達は…!?」

 

「怪我や病気で、死んでった仲間や…いくら医者や看護師がいたかて、一度『げぇむ』で致命傷を負ってしまえば、その先を生き延びるのは絶望的っちゅー事や…」

 

「そういった連中を、幹部連中がここに処理してるのさ。なるべく目立たずにね。見たくない現実は見せなきゃいい。そうすれば皆はいつまでもここを楽園(ビーチ)と信じて、幹部の為にせっせとカードを集めてくれる」

 

「馬鹿げたシステムだな…」

 

 クイナとチシヤが説明すると、アリスが死体を見下ろし、虚ろな表情のまま口を開く。

 なんかさっきから耳が痛い話が続いているので、話の腰を折ってやりたくなって、ずいっと前に出た。

 

「それさぁ、幹部(アタシ)の前で言う?」

 

 そう言って私が、三人の間に割って入る。

 するとアリスは、私に顔を向けて口を開く。

 

「アンタら、仲間だったのか…」

 

「まぁね」

 

 アリスの質問に対して、私はサングラスを外しながら答える。

 私を含む4人が揃ったところで、チシヤがニッと笑って口を開く。

 

「単刀直入に、ひとつ聞いてもいいかい?君は絶望しかないこの世界で、どう生きる?」

 

 チシヤは、核心に迫る質問をした。

 アリスは、覚悟を決めた表情を浮かべて答える。

 

「ここまで来たら…オレはただ、知りたいんだ。このイカレた『げぇむ』は何なのか、ダチを殺した仇が誰なのかを、そして、この『今際の国』から、1()()しか抜け出せないのなら…ウサギをNo.1に押し上げる!!オレの生きる意味はそれでいい!!」

 

 アリスは、顔を上げて前を見据えながら言った。

 ……まったく、心が痛むわね。

 夢を見る若者に、ありもしない希望を与えるっていうのは。

 …ああ、そんな風に思った事は、一度もなかったかな。

 そんな事を考えながらタバコの煙を吐いていると、チシヤが不敵に笑って口を開く。

 

「悪くない返答だ♪けれど、あまりにも現実味がない。君達も自覚してるんだろ?」

 

 チシヤが言ったその時、プールサイドからはいつものように喧しい音楽が聴こえてくる。

 するとクイナがボソッと呟く。

 

「もう…『げぇむ』の時間か…」

 

 ああ、そういえばもう日没ね…

 いつものように、ボーシヤの演説が聴こえてくる。

 あんな事があった後だと、この演説もいつも以上に寒く感じる。

 

「たとえ何段飛ばしで階段を駆け上がったとしても、君か彼女がNo.1になるまで『げぇむ』に生き残るなんて、まるで夢物語。奴隷はね、死ぬまで奴隷なのさ。だったら奴隷が、王を討てばいい♪」

 

「…え?」

 

「根こそぎなのさ、何かを変えるという事は。この先を聞けば、君達は引き返せない。それでも、オレ達のプランを聞く気はあるかい?」

 

 チシヤが提案すると、アリスの表情が強張る。

 引き返すなら、今しかない。

 だけどアリスは、覚悟を決めてこの場に留まった。

 チシヤは、アリスにトランプ奪還作戦の説明をした。

 話の途中、ドタドタとこちらへ駆けつけてくる足音が聴こえる。

 

「しっ、誰か来る」

 

 私がそう言うと、チシヤは作戦の説明を途中でやめた。

 その直後、私の奴隷…もといファンの男子達が息を切らして駆けつけてくる。

 

「姐さん!!探しましたよ!!」

 

「…どうしたの?」

 

「た…大変な事になって…とにかく来てください!!」

 

 この焦りよう…ここで呑気にくっちゃべってる場合じゃなさそうね。

 私は、チシヤに「続きよろしく」とハンドサインをして、ファンの子達について行った。

 パーキングまで来て、周りに誰も人がいないのを確認した私は、小声で尋ねる。

 

「で、何があったの?」

 

「そ、それが…」

 

 私が尋ねると、ファンの子達は事情を話し始めた。

 

「ボーシヤとクズリューが、『げぇむ』で死んだ…!?」

 

 ファンの子達からの報告を聞いた私は、思わず素で驚きを露わにする。

 ボーシヤとクズリュー…よりによってカルト派のツートップが一夜にして『げぇむ』で脱落した。

 今はまだ知ってるのは数人だそうだけど、今夜のうちには全員に知れ渡る。

 でも私はこの子達の反応を見て、ただ『げぇむ』で死んだ、というわけでもなさそうだと直感で感じ取った。

 何か隠している事があるはず。

 

「…本当に『げぇむ』で死んだの?」

 

「え?」

 

「アナタ達、まだ何かアタシに隠してる事があるでしょ?」

 

 私は、男子達にずいっと詰め寄って問い詰めた。

 すると彼等は、徐に口を開いて話し始める。

 

「……表向きは、『げぇむ』で死んだって事になってますけど…No.1は、殺されたんです」

 

「どういう事?」

 

「ついてきてください」

 

 そう言って男子達は、車で大師橋まで私を連れてきた。

 何があるのかと思っていると、彼等が橋の下を覗いてみろと言うので、柵に手をついて身を乗り出す。

 その瞬間、信じがたい光景が目に飛び込んできた。

 

「っ……!!」

 

 川の水面に、何かが浮いている。

 どう見ても死体だ。

 それも、身体を銃弾で貫かれた『ビーチ』の王…ボーシヤの亡骸だった。

 

「オレ達、今日ガソリンの調達に行ってて、川にNo.1の遺体が捨てられてるのをたまたま見つけて……すみません。本当は口止めされてたんですけど、姐さんには伝えておかなきゃと思って…」

 

 男子達の説明を聞きつつ、私は俯いてため息をつくしかなかった。

 ボーシヤが死んだのは、私達のせいじゃない。

 だとすると、別の裏切り者が彼を殺したのか…

 

 私の仲間だったボーシヤなら、もうとっくの昔に死んだ。

 まやかしの希望に取り憑かれた彼になんて、興味を失くしたはずなのに。

 どのみち、私が引導を渡してやるつもりだったのに。

 だったら、胸の奥でチクリと刺さるような、この感情は何だろう。

 

 

 

 ───今際の国滞在55日目

 

 残り滞在可能日数 

 

 潰田千寿 36日

 

 

 

 

 




すみません、でも『ビーチ』崩壊前にどうしてもこの展開を書きたかったんです。
ちなみに、純粋な力関係はボーシヤやアグニの方が上ですが、実はオリ主の方がボーシヤやアグニより歳上です。
オリ主が8月生まれの29歳、二人が原作で26歳なので、3〜4つ歳上です。
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