Duchess in Borderland   作:M.T.

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びいち(9)

 No.1、ボーシヤとNo.3、クズリューの死は夜のうちに『ビーチ』に知れ渡り、翌日。

 二人が死んで私達全員が昇格し、新No.8の武闘派の男、クマダと、新No.9のチシヤが幹部に入ってきた。

 

 No.1  死亡 ボーシヤ(♠︎)

 No.2 → No.1 アグニ(♠︎)

 No.3  死亡 クズリュー(♢)

 No.4 → No.2 ニラギ(♢)

 No.5 → No.3 マヒル(♣︎)

 No.6 → No.4 アン(♢)

 No.7 → No.5 ツエダ(♢)

 No.8 → No.6 ミラ(♡)

 No.9 → No.7 ラスボス(♠︎)

 No.10 → No.8 クマダ(♠︎)

 No.11 → No.9 チシヤ(♢)

 

「今日からオレが、『ビーチ』の、新しい王だ」

 

 アグニが、私達幹部8人の前でそう宣言した。

 するとニラギが、わざとらしく大袈裟に拍手をする。

 

「実にめでてーじゃねーかよ。今夜はハデに呑み明かしたいところだ!まあ中にはお友達が減って、寂しがってる連中もいるようだが…今は、今後の身の振り方ってもんを、しっかり考えとかねぇとな!」

 

 そう言ってニラギは、舌を出して笑いながらアンの顔を覗き込む。

 カルト派のツートップが死んで、唯一のカルト派の幹部となってしまったアンは、不安そうな表情を浮かべつつも、私達幹部の反応を観察していた。

 おそらく、ボーシヤとクズリュー殺しの犯人でも探っているのでしょうね。

 なんて考えていると、ニラギがアグニに声をかける。

 

「No.1!早い事、やっちゃいましょうや!最初の引き継ぎ業務、『黒の封筒』の開封を…!!」

 

 ニラギが言うと、アグニは黒の封筒を取り出す。

 アグニは、全員が見ている前で封筒を開けた。

 封筒の中から紙を取り出し、コードを確認したアグニは、一瞬戸惑ったような表情を浮かべた。

 そしてコードの書かれた紙を新しい封筒に入れ、再び封蝋と幹部全員のサインで封をした。

 その一連の流れを見て、私の隣に立っているチシヤはニヤリと笑っていた。

 チシヤが目配せをしてくるので、私はコクッと頷いてから大袈裟に拍手をする。

 

「ご即位おめでとうございます、No.1」

 

 私は、芝居がかった仕草で、アグニに向かって頭を下げた。

 アグニのおかげで、私とチシヤは、暗証コードを把握できた。

 あとはトランプをうまく盗み出せるように、取り決め通りにアグニの気を引くだけだ。

 

「僭越ながら私…新No.1の誕生を祝し、余興をご用意しております。今夜の祝宴中に披露しても?」

 

「…勝手にしろ」

 

 私が尋ねると、アグニは背を向けて先に外のプールへと向かった。

 彼に続けて、武闘派のラスボスとクマダも外へと出ていく。

 

「ひゃはは、ウゼェババァにしちゃあいい心がけだなァ!ホラ、お前らも見習え!」

 

 ニラギが、残りの幹部の4人、マヒル、アン、ミラ、チシヤに向かって言い放つ。

 ミラとチシヤは相変わらず飄々としていたけれど、マヒルとアンはニラギの横柄な態度に若干嫌悪感を示していた。

 

 その後私達は、新たなNo.1の誕生を記念して、プールサイドで祝宴を開いた。

 私はというと、四隅に篝火が設置されたステージの上で、学生時代にスペイン人の彼氏から教わったフラメンコを即興で披露した。

 手拍子とギターのリズムに合わせて、サパテアードを刻む。

 肌から弾き飛ばされた汗の粒が、篝火の熱に晒されて、ステージに滴る前に蒸発する。

 脇や腰回りを強調するような振り付けを多用して情熱的に舞い踊ると、野郎どもが下品なヤジを飛ばしてくる。

 …アグニは、ピクリとも反応してなかったけど。

 

 私が踊っている間に、私のファンの男子が武闘派連中のジョッキにビールを注ぐ。

 アグニがジョッキを手に取ったのを確認した私が、木の影に隠れているチシヤに目配せすると、チシヤはトランシーバー越しにアリスに話しかける。

 手筈通りに頼んだわよ、アリス君♪

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アリスside

 

「う…わ、スゲェなこりゃ…」

 

 俺は、ツエダとチシヤがアグニ達の気を引いてくれている間に、『ビーチ』最上階のロイヤルスイートルームに潜入した。

 スゲェな…

 部屋はパーティーでもできんじゃねぇかってくらい広ぇし、置かれてる調度品はどれも俺じゃ一生お目にかかれねぇような高級品ばかりだ。

 

「一泊、いくらすんだよ…きっと…オレには一生縁のない部屋なんだろうな…」

 

 そんな事を呟きながら、思わずハハ…と乾いた笑いをこぼす。

 

「って、感心してる場合かよ。早く例のモンを見つけねーと」

 

 もう後には引けねぇ!!

 俺達は、チシヤのプランに乗っちまったんだ…!!

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 昨晩、No.1とNo.3の死が知らされてから程なくして。

 俺とウサギは、チシヤの部屋に呼ばれて作戦を聞かされた。

 

「え…!?奪還…!?」

 

 チシヤから作戦を聞かされた俺達は、思わず驚きを露わにした。

 

「そう。文字通り奪い返すのさ」

 

「それってつまり…」

 

「ボーシヤが信じた『答え』…この『今際の国』から出国する唯一の方法…トランプ。長きにわたって『ビーチ』の連中からかき集めてきた大量のトランプを、根こそぎ奪う」

 

「奪う…ったって。どうやって…!?」

 

「言うまでもなく、全てのトランプを管理してるのはNo.1だけ。それは、No.1の住むロイヤルスイートのどこかにある金庫に保管されてるって話だ。けれど『ビーチ』の王とて、『今際の国』の中では命を落とす事もある。今回のようにね♪だからNo.1が『げぇむ』で死んだ時の為に、金庫の場所は、No.2だけには知らせてある。そしてもう一つ、No.2に事前に渡されていたもの、それが、金庫の電子ロックの暗証コードが記された、通称『黒の封筒』」

 

 チシヤは、俺達に暗証コードの引き継ぎ方法を教えた。

 引き継ぎ方法は、チシヤが『ビーチ』に来る前から幹部だったツエダから、情報料と引き換えに聞いたらしい。

 

「トランプの保管場所と、引き継ぎ方法はわかった…けど肝心の暗証コードは、No.1にしか知りようがないだろ?」

 

「今夜の『げぇむ』でボーシヤとクズリューが死に、オレは晴れて幹部に昇進だ。明日の引き継ぎで、暗証コードはオレがどうにかするさ♪後は、その間にロイヤルスイートに潜入する、実行者が必要だ」

 

 チシヤは、窓のカーテンに手をかけ、窓に映った自分の姿を眺めながら作戦を話す。

 するとウサギが、チシヤの作戦に反対した。

 

「危険すぎるわ。見つかれば、おそらく殺される…!!」

 

「…だとしても、現状と大差ないだろ?まさか君達は、正攻法でNo.1になれる日がいつか来ると、本気で思っているのかい?オレが『ビーチ』に利用されながらせっせとトランプを集めてきたのは、全て幹部になる今日のため。この機を逃したいなら、どうぞ奴隷のまま死ぬといい♪」

 

 チシヤは、俺達を突き放すように言った。

 失敗すれば殺される…そんな役目、そう簡単に背負えるわけがない。

 ましてや、ウサギには絶対に背負わせられない。

 だけど、このままこの国で一生過ごすくらいなら…

 俺は、『ビーチ』を敵に回してでも、ウサギだけは元の世界に帰すって決めたんだ。

 

「ロイヤルスイートには、オレが潜入する」

 

「アリス!?」

 

 俺が言うと、ウサギが目を見開く。

 

「ボーシヤの派閥が崩壊した今、アグニの派閥に目をつけられているオレ達は、どの道『ビーチ』では生き延びられない…!!生きようウサギ!!『ビーチ』の全員を敵に回してでも!!」

 

 俺がそう言うと、チシヤは不敵な笑みを浮かべて段取りを話し始めた。

 話の途中で、ツエダが部屋に入ってきた。

 

「あら。もう終わった?」

 

「ああ。一通り段取りは説明し終えたところだ」

 

「あらそう。それじゃ…手筈通り、アタシとチシヤがアグニの気を引くわ。明日の引き継ぎが終わった後、適当に理由をつけて祝宴を開こうと思ってるの。私のファンの子達にも、明日の祝宴でホールをするように話をつけておいたから」

 

 そう言ってツエダは、自信満々に笑顔を浮かべてOKサインをする。

 するとウサギは、やけに飄々としたツエダの態度を警戒してか、彼女をじっと見て顔を強張らせながら尋ねる。

 

「うまくいく確証はあるの…!?」

 

「アタシがどれだけ長くここにいたと思ってるの?明日の祝宴で開けるお酒に、アルコールを多めに仕込んどいたのよ。武闘派連中が酔っ払ってる間なら、トランプなんて盗み放題よ」

 

 ウサギの質問に対して、ツエダはウインクしながら答えた。

 祝宴中に、アルコールをたっぷり仕込んだ酒を部下に配らせて、アグニ達を酔わせて判断力を鈍らせようって算段らしい。

 チシヤより長く幹部として『ビーチ』に所属している彼女だからこそ実行できる作戦だ。

 だけど俺は、ひとつだけ気になる事があった。

 

「なぁ…その人達、この作戦を知ってんのか?」

 

「いいえ?敵を騙すには、まずは味方からって言うでしょ?」

 

 ツエダは、不敵な笑みを浮かべながら言った。

 それってつまり、その人達は、何も知らずにトランプ奪還に加担させられるって事かよ。

 悪魔みたいな事考えるな、この人…

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 俺は、部屋の中を隅々まで探しながら、トランシーバーでチシヤに話しかけた。

 

「聴こえるか?無事に潜入した。アンタの言う通り、鍵は刺さったまんまだったよ」

 

『鍵を持ったまま、『げぇむ』で死なれちゃ困るじゃん?ロイヤルスイートも例外じゃないのさ』

 

 俺の今の部屋も、ルームキーが瞬間接着剤で固定されてた。

 そういうのは、ロイヤルスイートも普通の部屋も同じらしい。

 鍵がかかってたら部屋に入れねぇんじゃねぇかって心配は、しなくてよかったわけだ。

 

「そっちの様子は?」

 

『プールサイドだ。引き継ぎを済ませた新たな王は、家臣どもを引き連れて、ご機嫌でお寛ぎ中だよ♪予定通り、ツエダが連中の気を引いてくれてる。それより、金庫探しに集中してくれよ♪』

 

「今、やってるさ」

 

 俺は、チシヤに応答しつつも、金庫探しを続けた。

 そういや、まだクローゼットの中は調べてなかったな。

 

「見つけた…!!金庫だ…!!」

 

 金庫は、クローゼットの中に隠してあった。

 金庫には、電子ロックがかかっている。

 金庫を見つけたのはいいが、チシヤは肝心の暗証コードを手に入れたのか…!?

 

「暗証コードは!?」

 

『『8055』』

 

「封筒の中身はNo.1しか見られないんだろ?…どういう手品だ!?」

 

『あの時皆の前でアグニは、ほんの僅かだが…表情を歪めた。それは、困惑。おそらく、そこに()()()()()()()()()()()()()()。『黒の封筒』の中身は、ただの白紙だったのさ。先代の王、ボーシヤは用心深い男だった。なりふり構わずに封筒を開けようとした者を混乱させるために、()()()()かけておいたんだろう。ズル賢いバカの考えそうな事だよね♪』

 

「じゃあ…暗証コードはどこに…!?」

 

『簡単な心理の死角。誰もが暗証コードは封筒の()に記されてると思い込む…『ビーチ』の王を示す『BOSS』の封蝋こそが、『文字』ではなく『数字』だったのさ♪』

 

 アグニの困惑の表情だけで、そこまで読み解いたってのか…!?

 …本当に、チシヤが敵だったらと思うとゾッとする。

 

「…チシヤ。アンタは、敵に回したくない男だな…」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ツエダside

 

 私は、事前に共有した作戦通り、ステージの上で踊ってアグニ達の気を引いた。

 私が踊っていると、チシヤが木の影から出てきて私達に近づいてくる。

 それをいち早く察知した私は、サパトスの底でステージを叩く。

 

「音楽止めて」

 

 私が音楽隊に向かって言い放つと、彼等はギターの演奏と手拍子をやめた。

 さっきまでの喧騒が静まり返ったプールサイドで、アグニがチシヤを睨みつけて尋ねる。

 

「何の用だ」

 

「カードを盗もうとしている裏切り者を見つけたので、ご報告をと思いまして」

 

 そう言ってチシヤはアグニに近づくと、アグニに耳打ちする。

 するとアグニは、血相を変えて地を這うような声で部下に告げる。

 

「おい、行くぞ!裏切り者が出た」

 

 アグニが言うと、武闘派連中は動揺を露わにし、先に急ぎ足でホテルへと向かうアグニとチシヤを追う形でホテルへ駆け込んだ。

 私も、あたかも様子が気になるようなフリをして、彼等の後を追いかけた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アリスside

 

 俺は、緊張しながらも金庫の電子ロックに暗証コードを打ち込んだ。

 

 本当に…これでいいのか…!?

 『ビーチ』にいる事が危険なら、ただウサギと2人でここから逃げればいい。

 この最後の数字を押せば俺は、『ビーチ』にいる全員の希望を奪う事になる…!!

 

 それでも……それでも俺は…

 

 

 

 ――ビーーーーッ

 

 

 

「…………え!?」

 

 金庫の電子ロックの液晶画面には『Error』の文字が表示され、警告音が鳴った。

 何で…!?

 チシヤに教えられた暗証コードをちゃんと入力したはずなのに…

 『何で』、その言葉を頭の中で繰り返したその時、扉が乱暴に開かれる。

 足音が、俺の方へ近づいてくる。

 振り向くと、そこにはアグニ達武闘派連中がいた。

 

「オレのトランプに手をつけようってぇ命知らずがいるという()()()()を聞いて、まさかとは思ったが…なかなかどうして、使える男じゃねーか」

 

 そう言ってアグニが振り向いた先には、チシヤとツエダがいた。

 

「チ…シ…ヤ!?」

 

 連中の中に二人の姿が見えた次の瞬間、背中に強い衝撃が走る。

 ニラギが、ライフルのストックで俺の背中を殴りつけてきた。

 

「ガ…!!」

 

「またテメェか新入りィ!?毎度楽しませてくれるよ…なァッ!?」

 

 ニラギは、何度もライフルで俺を殴った。

 それに続けて、他の連中も俺を足蹴にした。

 

 な…ん…で…

 なんでだ…よ!?

 なんでアンタらが…アグニとここにいるんだよ…!?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ツエダside

 

 頭に血が上った武闘派連中は、アリスを袋叩きにした。

 その様子を眺めていたアグニが、一瞬、壁にかけられた絵にチラッと視線を向ける。

 

 ボーシヤは、用心深い奴だった。

 彼は、今回のアリスみたいなバカな泥棒にカードを盗まれないように、ダミーの金庫を用意していた。

 本物の金庫の場所は、元No.2のアグニしか知らない。

 だからチシヤは、アリスを囮にして、アグニの反応から本物の金庫の在処を探る事にした。

 

 大事なトランプを狙われたら、無意識にでも見ちゃうよね。

 本物の金庫の隠し場所を。

 

 それにしても、アリスを囮にするなんて…チシヤも酷い事考えるわね。

 …ま、知ってて加担した時点で、私も同罪だけどさ。

 

 お酒にアルコールを仕込んだなんて、真っ赤な嘘。

 ホールの子達は、本当に何も知らずに、ただただ普通にジョッキにお酒を注いだだけ。

 アグニ達の気を引けるという確証があれば、アリスとウサギは作戦に協力してくれると踏んだから、その場で思いついた嘘を適当に言っただけの事。

 

「コイツ無線持ってやがったぜ!!」

 

「共犯者がいるなら徹底的に探し出せ!!」

 

 武闘派連中が、アリスの服からトランシーバーを見つけ出した。

 今からトランシーバーを探したところで、共犯の証拠はどこからも出てこない。

 チシヤは、アリスとやり取りをしていたトランシーバーをとっくに処分している。

 

「この裏切りは前代未聞だ…!!」

 

「『ビーチ』の全員の前でなぶり殺しにしちまおうぜ!!」

 

 公開処刑…か。

 どいつもこいつも、酷い事考えるわ。

 ま、私も人の事言えたクチじゃないけどさ〜。

 なんて考えていると、ニラギがアリスのズボンのポケットから『びざ』のレシートを取り出す。

 

「…いや、それよりも、コイツの目と耳を塞ぎテープで縛って、空いてる部屋にでもブチ込んどけ!!」

 

「何…!?」

 

「コイツの『びざ』ァ、明日で『期限切れ』だとよ。光と音を奪われ、時間の経過もわからず、明日の深夜頭上にレーザーが降りて、絶命する時をただ待つばかりの恐怖は…想像を絶するだろうよ…!!」

 

 ニラギは、アリスを見下ろしてニタニタと笑った。

 さっき武闘派連中に酷いとか思ったけど、コイツがダントツで趣味悪いわ。

 なんて思っていると、ニラギがチラッと私を見て口を開く。

 

「おいババァ!コイツテープで縛っとけ」

 

「はぁ〜?なんでアタシ?」

 

「お前、この新入りに世話ァ焼いてたからな。念の為だ。ちゃんと言う事聞けたら、オレらの仲間だって認めてやるよ」

 

 そう言ってニラギは、私の顎にライフルの銃口を突きつけてくる。

 私、別にアンタらの仲間になりたいなんて一言も言ってないんだけどな。

 まぁでも、これ断ったら殺されるやつだよね。

 私は、ニラギのライフルを右手で軽く払いのけて口を開いた。

 

「…ババァじゃないわ。ツエダよ」

 

 私がそう言うと、ニラギはその言葉を肯定と受け取ったのか、ニヤリと笑ってライフルを引っ込めた。

 すると武闘派No.4の男、クマダが私にテープを投げ渡してくる。

 私が渡されたテープをじっと見ていると、アグニが口を開く。

 

「ラスボス」

 

 アグニは、テープを眺めている私を顎でしゃくりながらラスボスに指示を出す。

 

「この女が少しでも怪しい動きをしたら、首を刎ねろ」

 

「…………」

 

 アグニが命令すると、ラスボスは刀を抜いて私の首に刃を当てた。

 うわ、私信用されてないにも程があるわ。

 つーか、やっぱりアグニ、ボーシヤが殺されてからピリピリしてるわね。

 まあ、親友が殺されたのに、『ビーチ』の連中がなんとも思ってないから、苛つくのも無理はないけど。

 …まさかとは思うけど、私がボーシヤを誑かしたと思ってないよね?

 

 なんて思っていると、いつの間にやら武闘派連中がボロボロになったアリスを床に押さえつけていた。

 私がため息をついてテープをビッと伸ばすと、アリスが助けを求めるような目で私を見てくる。

 だけど私は、それを無視して、アリスの口にテープを貼りつけた。

 

「ごめんね、アリス君。アタシ…やっぱり、自分さえ良ければそれでいいみたい」

 

 私は、アリスをテープで縛りながら謝った。

 そして彼を空き部屋に連行し、テープでガッチリと椅子に拘束する。

 

 …ごめんな、本当にさ。

 私は、『ビーチ』の連中をぶっ殺せれば、アンタがどうなろうと知ったこっちゃないの。

 まだこの国に生きる希望があるアンタには、わかんないよ。

 たった一つの希望を奪われて、何もかもをぶっ壊してやりたいって考えてる奴の気持ちなんて。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「フゥ〜……」

 

 滞在57日目。

 私は、ロイヤルスイートの前でタバコの煙を吐いた。

 アリスを売って共犯の疑惑が晴れた私は、武闘派の一員になった。

 今日はアグニとラスボスが『げぇむ』に参加する日なので、二度とアリスのようなバカが現れないように、私がロイヤルスイートの見張りをする事になった。

 武闘派連中が戻ってこないか私が見張っている間に、チシヤがロイヤルスイートにトランプを盗みに来るという算段だ。

 私は、パーカーの懐に忍ばせたトランシーバーを使って、チシヤに話しかける。

 

「アグニ達は『げぇむ』の準備をしに降りていったわ。盗むなら今よ」

 

『了解』

 

「……で、今度はウサギちゃんを囮にしたんでしょ?」

 

『まーね♪』

 

 私がチシヤに尋ねると、チシヤは飄々とした態度で返事をする。

 トランプを盗むには、お留守番のニラギ達をロイヤルスイートから遠ざける必要がある。

 だからウサギを囮にしようってわけ。

 私は別に、反対するつもりはさらさら無い。

 一人(アリス)を囮にした時点で、二人目(ウサギ)も一緒だし。

 というかそもそも、どのみち全員殺すつもりだしね。

 

「ところで、ウサギちゃんにはなんて言い訳したの?」

 

『アンタが武闘派に寝返ったって言っといたよ♪』

 

「まあ、最低♡」

 

 チシヤが馬鹿にしたような態度で答えるので、私はニィッと口角を上げてクスクス笑った。

 チシヤは、ウサギを焚き付ける為に、裏切りの罪を私になすりつけたらしい。

 私も大概人の事言えないけど、アンタ絶対地獄に堕ちるわよ。

 

『………』

 

「どうしたの?」

 

『確認なんだけど…アンタさ、本当にトランプを奪い返す気あるんだよね?』

 

 チシヤは、核心を突くような質問をしてきた。

 実際のところ、私はトランプにこれっぽっちも興味がない。

 だって、トランプを全種類集めればこの国から出られるなんて、ボーシヤのついた嘘だから。

 チシヤがトランプを盗んだら最後、もう私達が共闘する理由は無い。

 それでも私は、ニヤリと笑って、息をするように嘘をついた。

 

「トーゼンでしょ?その為に、アンタに協力したんだから」

 

『…ふぅん。ならいいんだけど』

 

 私が言うと、チシヤは素っ気なく返事をする。

 今日でアリスは『びざ』が切れる。

 ウサギは、アリスが部屋に閉じ込められてると知ったら、アリスを『げぇむ』に参加させる為にホテル中を探すはず。

 武闘派連中には、ウサギがアリスの共犯者かもしれないと伝えておいた。

 奴等は、アリスを探しに来たウサギを捕まえるつもりでいる。

 今頃、ニラギがチンピラを引き連れて血眼でウサギを探しているところだろう。

 もしかしたらもう既に捕まえて、拷問の真っ最中かもしれない。

 …ま、私の知った事じゃないけどさ。

 

 陽が傾いてきた頃、チシヤがロイヤルスイートの廊下に姿を現した。

 彼以外に誰もいないのを確認してから、チョイチョイとハンドサインをすると、チシヤがロイヤルスイートに侵入する。

 それから1分も経たずに、チシヤがパーカーのポケットに手を突っ込んでロイヤルスイートから出てくる。

 彼の()()()()()()を見るに、トランプの奪還には成功したようね。

 

「…じゃ、行きますか」

 

 私は、チシヤと一緒に1階まで降りて、そのままホテルを後にした。

 ここまで長かった。

 これでやっと、地獄の日々が終わる。

 

「『♡10(はあとのじゅう)』と絵札を除く全種類のトランプ。『今際の国』から出国する為の、唯一の『答え』。()()()()に今日までせっせと集めてくれた、『ビーチ』の皆に感謝しないとね♪」

 

「……そうね」

 

「思いの外永く、『ビーチ(ここ)』には世話になっちゃったけど、ようやくこれも、用済みだ」

 

 そう言ってチシヤは、No.9のロッカーキーを腕から外した。

 そのまま出口へと向かおうとすると、クイナが私達の前に立ちはだかった。

 

「大方、そんな事やと思ったで…アリスは初めから、金庫の場所を知る為の撒き餌か…ウサギは、共犯者のカモフラージュ。あわよくばウチも…か。理解できひんな。今頃2人は、武闘派連中に殺されとるかもしらんのやで?何がアンタらを、そこまでさせるんや…!?」

 

 クイナは、険しい表情を浮かべながら私達を睨んでくる。

 彼女が私達の作戦に納得しないのはわかってた。

 それでも彼女を仲間に引き入れたのは、彼女にはどうしてもこの国から出なきゃいけない理由があったから。

 

「理解できないなら、できる努力をする事だ。『生き残る』為に、しちゃいけない事なんてあるのかい?」

 

 チシヤが言うと、クイナは冷や汗をかいて顔を顰める。

 チシヤは、クイナの肩に手を置いて話しかける。

 

「綺麗事は結構。生きたければ一緒においでよ。今なら競争率は立ったの3倍。オレ達の中の誰かが出国できる♪」

 

 そう言ってチシヤは、出口へと歩いていく。

 私は、ニコッと微笑んで彼に歩み寄りながら話しかける。

 

「チシヤ、クイナ。ありがとう。2人のおかげで、アタシはやっと目的を達成できる」

 

「思えばアンタには、色々世話になったね」

 

「……ええ、本当にありがとう」

 

 都合のいい捨て石でいてくれて。

 

 そう心の中で呟きながら、懐に忍ばせたハンドガンを抜く。

 そして後ろからチシヤの頭に狙いを定めて、引き金に指をかける。

 隣のクイナが気づくよりも先に引き金を引こうとした、その瞬間。

 

 

 

 ――ドグォオオ…ン

 

 

 

 駐車場の方角から、爆発音が聴こえる。

 振り向くと、駐車場からは黒煙と炎が上がっていた。

 

「爆発…!?」

 

「なんだよオイ!?何があった!?」

 

「わかんねーよ!!」

 

「今夜の『げぇむ』に向かう車が、ホテルを出ようとした途端、いきなり爆発したんだ!!」

 

 爆発が起こった駐車場の方から、ガヤガヤと声が聴こえた。

 この時間帯に、ホテルを出た瞬間爆発……

 まさか……

 

「ガソリンでも、漏れとったんか…!?」

 

「……………考えたくもないが、最悪の可能性があるとするならば…」

 

 そう言ってチシヤは、ロッカーキーを門の外に投げ捨てた。

 すると『ビーチ』の敷地を超えた瞬間、ロッカーキーが激しく火花を上げた。

 

「う…嘘やろ!?まさか…まさか!?まさか…()()()()()()()()()…この『ビーチ』が『げぇむ』会場に…!?」

 

「病院、学校、神社…『げぇむ』は毎晩あらゆる施設で開催される。ある日、この『ホテル』が『げぇむ』会場になったとしても、不思議はないさ…あと、一歩だったのになァ…なかなか、思い通りにはいかないもんだね♪」

 

 チシヤは、ため息をついて悔しそうに呟く。

 私も、ため息をつきながら銃を下ろした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 あの後、『げぇむ』が始まったのを確信した私は、1階のメインロビーに駆け込んだ。

 そこには、既に殆どのメンバーが集まっていた。

 様子を見に、前に行こうとすると…

 

「あら。今までどこにいたのかしら?」

 

 後ろから、ミラが話しかけてくる。

 彼女のわざとらしい質問に少し引っかかったけど、それよりも今は『げぇむ』に集中しないと。

 

「そんな事より…これから『げぇむ』が始まるんでしょ?『るうる』は?」

 

「さぁ…まだ聞いてないけど…今夜の『げぇむ』難易度は『♡10(はあとのじゅう)』だそうよ♡」

 

 『♡10(はあとのじゅう)』…!!

 

 ……へぇ、そう。

 『げぇむ』の運営は、お見通しだったってわけ。

 『ビーチ』の存在も、絵札以外の最後のトランプが『♡10(はあとのじゅう)』だって事も。

 しかもこのタイミング…私が『ビーチ』をぶち壊そうとしてた事を知ってたとしか思えない。

 『♡10(はあとのじゅう)』なら、『げぇむ』を間違った方向に導けば、簡単に全員『げぇむおおばぁ』にできる。

 ここまでお膳立てしてくれるなんて、今回ばかりは運営に感謝しないとね♪

 

 

 

「モモカ!!モモカぁ!!いやああああ!!」

 

 ギャラリーの中心から、アサヒの声が聴こえてくる。

 前にいた奴等を押しのけて隙間から覗いてみると、そこには──

 

 

 

 胸にナイフが深く刺さったモモカが、血を流して倒れていた。

 

 

 

 

 

 ───今際の国滞在57日目

 

 残り滞在可能日数 

 

 潰田千寿 34日

 

 

 

 

 




チシヤの計画にノリノリで参加するどころか、むしろ黒幕のオリ主ェ…
No.8の幹部ですが、原作の黒の封筒に書いてあった名前(多分熊田か熊口)を採用してます。
武闘派にいたグラサンロン毛オールバックタンクトップの男です。
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