Duchess in Borderland   作:M.T.

21 / 51
たいざいごじゅうはちにちめ

 『♡10(はあとのじゅう)』の『げぇむ』を『くりあ』した翌日。

 私は、すっかり跡形もなく燃えた『ビーチ』の焼け跡にいた。

 私が『びざ』のレジを探していると、チシヤが瓦礫の上に登って周囲を見渡す。

 

「あーあ。こりゃひどいね♪『げぇむくりあ』のレジを探そうにも、この分だと焼け残ってそうもないね」

 

「アンタもしつこいわね……」

 

 焼け跡でレジを探すチシヤに、私は呆れ顔で言い放つ。

 昨日まで現実世界以上の楽園だった『ビーチ』はすっかり燃えて全て真っ黒焦げになっていた。

 チシヤは、燃えてボロボロになった家具を見下ろしながら口を開く。

 

「『♡10(はあとのじゅう)』を『くりあ』した今、これで残る『げぇむ』は絵札のトランプの12枚のみ…どう動くつもりだい?『げぇむ』の運営サイドは…」

 

 チシヤは、誰にでもなくポツリと独り言を言った。

 昨日私達は、最後の数字の『げぇむ』、『♡10(はあとのじゅう)』を『くりあ』した。

 残るは、絵札の12枚。

 全ての『げぇむ』を『くりあ』すれば帰れるなんて保証、どこにもないけど…

 そもそも全てのトランプを集めれば帰れるなんて、ボーシヤが言い出した事だし。

 

「ね〜え〜、もう戻らナイ?アタシノド渇いた〜」

 

「1人で戻れば?」

 

 私が戻りたいと駄々をこねると、チシヤが素っ気なく言い放つ。

 このガキャ…こんなセクシーな美女が一緒にレジ探ししてやってんのに何この態度…!?

 

「はぁ〜!?アンタがレジが燃え残ってるかもしれないから探せっつったんじゃん!マジムカつくんですけど!?」

 

 私を冷たくあしらってくるチシヤに、私は我慢ならなくなってブチギレた。

 ちなみになんで私がチシヤと一緒にいるのかというと。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 昨日の夜8時過ぎ。

 私達は『♡10(はあとのじゅう)』を『くりあ』した。

 だけどニラギのバカがホテルに火を放ったせいで、『ビーチ』は全焼してしまった。

 私とチシヤは、今も燃え続ける『ビーチ』を眺めていた。

 隣にいたクイナは、もう行ってしまった。

 

「これじゃしばらく火は消えないわね…」

 

「ああ。レジを探そうにも、あれじゃ近づけない。レジ探しは明日になりそうだね♪」

 

「はぁ〜?あの中からレジ探すの?無理だって、だって明日になったらもう真っ黒焦げよ?てか、なんでそんなにレジ探したいわけ?」

 

「これで絵札以外の全ての『げぇむ』を『くりあ』したんだ。何かわかる事があるかもしれないじゃん?アンタもついてくるかい?」

 

「はいはい、レジ探すの楽したいだけね」

 

「効率的って言ってくれよ♪」

 

 私が呆れながら言うと、チシヤはいいように訂正した。

 効率的、ねぇ…物は言いようだわ。

 そういや住むとこなくなっちゃったけど、これからどうしよっかな。

 

「ところで、これからどこ住むの?」

 

「さぁ…決めてないな」

 

「あら、じゃあアタシとテント暮らしする?」

 

「狭いテントでアンタと暮らすとか、嫌なんだけど」

 

「え?アタシは別々のテントで寝るつもりで言ったんだけど?」

 

 私がそう言うと、チシヤが真顔になる。

 珍しくチシヤが墓穴を掘ったので、私はニヤリと笑って、ここぞとばかりに揚げ足取りをした。

 

「……もしかして、本当はアタシと一緒に寝たかったの?キャ〜、チシヤ君のエッチ〜」

 

「調子に乗るな」

 

 私がしつこく揶揄うと、チシヤが真顔でピシャリと言い放つ。

 もうちょっと揶揄ってやりたかったけど、それより早く寝床を探したかったから、これ以上揶揄うのはやめておいた。

 

「どのみちテントで暮らすつもりは無いな。暑いし虫出そうだし」

 

「じゃあホテルでも探すしかないわね。どこか住める場所探してよ。食べ物とか服とかはアタシが探すからさ」

 

「やけに切り替え早いんだね」

 

「アタシは元々こんな奴よ。いつまでもウジウジしたってしょうがないじゃん?てか早くヤニと酒探したいんだけど。『ビーチ』にあったやつは全部燃えてパアになっちゃったからさ〜」

 

 私は、そう言ってヒラヒラと手を振る。

 割と高い酒とかタバコたくさんあったんだけどな。

 こんな事なら、燃える前にありったけパクっときゃよかったな。

 

 その後、私とチシヤは近くのホテルに移動した。

 他のホテルはどこも埃や蜘蛛の巣だらけで棲めたもんじゃなかったけど、ひとつだけ比較的清掃されたホテルがあった。

 昨日か今日にでも、『げぇむ』会場として使われたのだろうか。

 運のいい事に、冷蔵庫の中にはビールがたくさん入っていた。

 当たり前っちゃ当たり前だけど、どれもぬるい。

 

「うわ〜ぬるいわ。『ビーチ』のキンキンに冷えたビールが恋しいわぁ」

 

「全然そう見えないけど」

 

「バレた?」

 

 私がぬるいビールを飲み干しながら言うと、チシヤがベッドの上の埃を払いながら口を開く。

 『ビーチ』の涼しい環境を恋しがってみるも、すぐに本心を見抜かれた。

 私は今、『ビーチ』が無くなった事で、むしろ吹っ切れている。

 私は、最初の8人で楽しく過ごせさえすれば、別に『ビーチ』じゃなくても良かった。

 せっかく皆の為に楽園を築いたボーシヤには悪いけど、そのせいでおかしくなるくらいなら、楽園なんて無くても良かったのかもしれない。

 

「じゃ、アタシ食糧探してくるから」

 

「よろしく♪」

 

 チシヤと分かれた私は、食糧と食べ物を探しに行った。

 ちょうど近くにスーパーがあったので、食糧と日用品をありったけ確保する。

 あとは酒とタバコもたくさん確保しておく。次はいつ手に入るかわかんないからね。

 必要なものを一通り揃えた私は、両手に買い物カゴを持って、ガシャガシャ音を立てて揺らしながらホテルに戻る。

 

「お待たせ〜」

 

 ホテルに戻った私は、早速チシヤに収穫を自慢した。

 買い物カゴの中には、レトルト食品やカップ麺、缶詰なんかの食糧が大量に入っている。

 

「ジャ〜ン!ご飯持ってきたわよ〜!つってもレトルトとカップ麺だけど」

 

 そう言って私は、スーパーからパチってきた食糧をテーブルの上に並べた。

 なんか『げぇむ』終わった途端に腹減ってきたな…

 そういや、今日はまだ夕飯食べてなかったわ。

 さーてと、ご飯食べよーっと。

 

 ペットボトルの水をヤカンに注いで、ガスバーナーでお湯を沸かす。

 カップ麺のミートソースパスタをお湯で戻して、ケチャップとコンソメで味を整えたら、今日の夕飯の完成。

 はー、お腹減った。

 いただきまーす。

 出来上がったパスタを食べようとして、ふと見上げると、使えそうなものを探しているチシヤが目に留まる。

 

「ご飯一緒に食べる?」

 

「逆によく食欲湧くね」

 

 私が一緒に食べないか誘うと、チシヤは素っ気なく答える。

 ……もしかして、『ビーチ』での出来事をまだ引きずってんの?

 コイツも意外としつこいとこあんのね。

 

「食べないんならアタシ1人で食べるよ?」

 

「好きにすれば」

 

 私が声をかけても、チシヤは無反応だった。

 コイツマジで私に興味なさすぎじゃね?

 こんな美女が一緒にご飯食べようって誘ってんのにシカトとか、コイツマジでないわー。

 結局この日は、私一人でご飯を食べた。

 あーあ、孤独ったらありゃしないわ。

 

 ご飯を食べた後は、明日の早朝にレジを探しに『ビーチ』に戻る約束だけして、そのままベッドにダイブして眠った。

 2部屋掃除するのが面倒臭かったから、チシヤと同じ部屋で寝た。

 同じ部屋っつってもベッドは別だし、そもそもお互い恥ずかしがるような間柄でもないしね。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そして現在。

 レジが焼けてしまってこれ以上探しても無駄だろうと考えた私達は、諦めて『ビーチ』を後にした。

 

「あークソ暑い。汗でビショビショ。これだけ探し回って収穫ナシとかマジふざけんな。あー暑いーシャワー浴びたいアイス食べたいコーラ飲みたいー」

 

「暑い暑い言うなよ。余計に暑くなるから」

 

 私がぶぅぶぅと文句を言っていると、チシヤに怒られた。

 だってしょうがないじゃん、暑いんだもの。

 汗と煤で肌がベタついて、競泳水着が肌に張り付いて気持ち悪い。

 

 日本の夏って、マジで人を殺しにかかってると思う。

 暑さはまだいいとして、湿気がヤバい。

 あー、クーラー効いた部屋でダラダラしながらコーラ飲みたい。

 なんて考えていると、ふとある事を思いつく。

 

「……ねぇチシヤ」

 

「何だい?」

 

「多分今アタシ達、同じ事考えてるよ」

 

 私がそう言うと、チシヤは振り向いてニヤリと笑う。

 その態度で確信した。

 やっぱり、考える事は一緒ね。

 

「そう?じゃあ言い合いっこしてみる?」

 

「ええ。それじゃ、いくわよ?せーの」

 

「「『げぇむ』」」

 

 私とチシヤは、同時に全く同じ言葉を口にした。

 

「やっぱりね。アンタも今日『げぇむ』に参加するんだ」

 

「まぁね♪絵札以外の全てのトランプを集めた今、運営が何を仕掛けてくるのか確かめたいからね」

 

 ほら、やっぱり同じ事考えてた。

 昨日の『げぇむ』のレジが焼けて探せないとなると、次のターゲットは今日の『げぇむ』。

 今日の『げぇむ』で、運営が何かを仕掛けてくるかもしれない。

 

「でもその前に、まず服を調達しないとね。いい加減着替えたいし。アタシが探しといてあげる」

 

「いや、服は自分で探す」

 

「なんで?」

 

「アンタのセンスは信用できない」

 

「…………」

 

 チシヤがハッキリと言うので、私は思わず顔をひくつかせた。

 こんにゃろ、相手が私だからって好き勝手言いやがって…犯すぞテメェ。

 

 その後、服を手に入れた私は、アウトドアショップでキャンプ用品を手に入れて、ホテルに運び込んだ。

 必要なものを色々手に入れていたら疲れたので、今日のお昼はペヤングで済ませた。

 いい加減身体を拭かないとベタベタして気持ち悪かったから、着替えを持ってシャワールームに入る。

 

「それじゃ、アタシは身体拭いてくるから。見ないでネ」

 

「誰も見ないから安心しなよ」

 

「はぁ〜?見ろよ」

 

 相変わらず私をぞんざいに扱ってくるチシヤに、つい逆ギレした。

 この野郎、ふざけてんのか。

 こんな美女が今から裸になるんだぞ?男なら普通見るだろ。つーか見ろよ。

 

 とまあ冗談はさておき、蒸しタオルで身体を拭いた私は、さっき手に入れた服に着替えた。

 ショート丈のタンクトップにローライズのジーンズ、その上に黒のライダースジャケット。

 着替えを終えた後は、『げぇむ』で使えそうな武器を集めた。

 チシヤは、警察からパクってきた銃をホテルに運び込んだ。

 そして私はというと。

 

「ジャ〜ン!見てよこれ」

 

 私は、拾った猟銃を見せびらかした。

 ミロク1700 12-28 スキート。日本製の上下二連散弾銃だ。

 のたれ死んで白骨化した死体の近くに猟銃が落ちてたから、念の為に頂戴しておいた。

 

「どうしたの、それ」

 

「落ちてたのを拾ったの。明日の夕飯は楽しみにしてな。肉食わしてやるよ」

 

「今日の『げぇむ』で生き残れれば、ね♪」

 

 私が拾った銃を自慢すると、チシヤが縁起でもない事を言う。

 この野郎、百戦錬磨のツエダ様が死ぬと思ってんのか?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒーロside

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 私がジュンさんの足の怪我を治療していると、ミツキさんが朝食の雑炊を手渡してくれた。

 私は、ミツキさん、ジュンさん、そして昨日の『げぇむ』を一緒に『くりあ』したコータくんと一緒にキャンプで暮らしていた。

 こんな世界でも優しい人がいるんだと思うと、今日も頑張って生きようって気力が湧いてくる。

 朝食を食べ終わった後は、着替えて出かける準備をした。

 もう痛み止めと抗生物質が残りわずかになってきたから、そろそろ補充しないと。

 私の発作の薬も手に入れておきたいし…

 近くに病院があるといいんだけど…

 

「それじゃ、私、薬を探してきますね。また痛みが強くなってきたら言ってください」

 

「すまねぇ…」

 

「こういう時は『ありがとう』でいいんですよ。行ってきます」

 

 私達に対して申し訳なさそうなジュンさんに対して微笑むと、私は買い物カゴを片手に出発した。

 運のいい事に、歩いて10分もせずに病院を見つけた。

 必要な薬を買い物カゴに入れて、ミツキさん達のもとへ戻ろうとするとだ。

 奥の方から、ガシャン!と物音が聴こえた。

 恐る恐る覗くと、誰かが棚を漁っていた。

 

「リンデロンに…シルバディン…コイツで…合ってんのかァ…?まぁいい…全部塗っときゃ問題ねぇ…!!痛ぇなぁオイ…気が飛びそうなくらい痛ぇ…痛くて泣いちまうよォォ…!!けどまぁ…生き残ってりゃ…文句は無しだ…!!」

 

 全身を火傷した男の人が、掠れた声で独り言を言いながら身体に軟膏を塗っていた。

 この声、もしかして…

 

「あの…」

 

 私が声をかけると、男の人は軟膏を塗る手を止めて振り向く。

 

「………あ?」

 

「ニラギさん、ですよね?」

 

「誰だテメェ」

 

「覚えてませんか?『♠︎6(すぺえどのろく)』を一緒に『くりあ』した、大木場柊色です」

 

「知らねぇな、人違いじゃねぇの」

 

 そう言ってニラギさんは、フラフラとおぼつかない足取りで立ち去ろうとする。

 早く治療しないと危ない状態だ。

 強がっているけど、立っているのがやっとなはず。

 

「ダメですよ、状態で動いたら。今治療しますから、安静にしていてください」

 

「うるせぇな、人違いだっつってんだろうが。消えろ」

 

 私が治療しようとすると、ニラギさんが私の手を払い除ける。

 それでも私は、ニラギさんの傷の応急処置をした。

 最初は抵抗していたニラギさんだったけど、私の強情さに諦めがついたのか、最後には大人しく治療を受けてくれた。

 抗菌薬やステロイド薬の軟膏、ワセリンを塗って、その上から包帯を巻いて、点滴を入れたら治療は終わり。

 私の治療が功を奏したのか、ニラギさんは驚くほどの早さで回復した。

 だけどこの怪我じゃ、次の『げぇむ』を1人で『くりあ』するのは難しい。

 ニラギさんの『びざ』がどれくらい残ってるかはわからないけど、1週間やそこらで治る怪我じゃない。

 出来る事なら、キャンプに連れて行くべきなんだろうけど…

 

「ニラギさん。点滴が全部入ったら、私と一緒にキャンプに行きませんか?そこに、私の仲間がいるんです。皆で一緒に生き残りましょう?」

 

「冗談だろ?なんでオレがテメェらみてぇな甘ちゃんと仲良しごっこなんかしなきゃならねぇ?オレがテメェの仲間全員ブッ殺したとしても、同じ事が言えんのか?」

 

 ニラギさんは、殺気立った目で私を睨んできた。

 だけど私には、ニラギさんが悪い人には見えなかった。

 

「……私、やっぱりニラギさんはそんなに悪い人じゃないと思います」

 

「は?」

 

「本当に悪い人は、そんな事言いません。悪い人はいつも、善い人のフリをして、ニコニコ笑って近づいてくるんです。だからニラギさんは、悪い人じゃないです」

 

 悪い奴は、善い人のフリをして近づいてくる。

 いつもそうだった。

 私は病院長の娘だから、そういう奴はいやというほど擦り寄ってきた。

 でもニラギさんは、ソイツらとは違う。

 少なくともニラギさんは、私を騙して利用しようとはしていない。

 

「ケッ。何だそりゃ、キモチ悪ィ」

 

 私が自分の意見をハッキリと伝えると、ニラギさんが悪態をつく。

 なんと言われようと、私は自分の意見を曲げるつもりはない。

 私は、レジ袋の中に詰めた缶詰をニラギさんの近くに置いた。

 

「ご飯、ちゃんと食べてくださいね。今、缶詰しかありませんけど…」

 

「こんな事して、点数稼ぎのつもりか?」

 

「意地です」

 

 私を拒絶しようとするニラギさんに、私は意地でも食い下がった。

 私は、最初の『げぇむ』でアグニさんとニラギさんに助けてもらったおかげで、今こうして生きてる。

 だから私を助けてくれたアグニさんとニラギさんには、生きて元の世界に戻ってほしい。

 これが私の意地。

 そこだけは曲がらない。

 

 

 

「ヒーロちゃん、いないの?」

 

「ミツキさん!」

 

 私がニラギさんの手当てをしていると、ミツキさんの声が聴こえてきた。

 このタイミングで来たって事は、もしかしてジュンさんの容態が悪くなったのかな。

 薬を持ってすぐに戻るって約束だったのに、私とした事が…

 

「すみません、ちょっと行ってきますね」

 

 ニラギさんにそう言い残して私は、病院の入り口へ向かう。

 そこには、ミツキさんが立っていた。

 

「ミツキさん、もしかしてジュンさんの容態が…?」

 

「そういうわけじゃないんだけど、なかなか戻ってこないから心配で…様子を見に来たの」

 

 ミツキさんの言葉を聞いた私は、ほっと安堵のため息をつく。

 よかった、ジュンさんの容態が悪くなったわけじゃなかったんだ…

 でも迷惑をかけた事には変わりないから、ちゃんと事情を説明しておかないと。

 

「すみません。実は…」

 

 私は、重傷のニラギさんの治療をしていた事と、今はまだ容態が安定していないからしばらくはここで様子を見たい事、ミツキさんには薬と食糧を持って先に戻っていてほしいという事、そしてもしジュンさんが足の痛みを訴えたらして欲しい事を伝えた。

 私が事情を説明すると、ミツキさんは薬の入った買い物カゴを受け取って頷く。

 

「そう…わかったわ。ジュンさんにもそう伝えておくわ」

 

「よろしくお願いします」

 

 私がお願いすると、ミツキさんは快く私の頼みを引き受けてくれた。

 やっぱりミツキさん、いい人だ……

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ニラギside

 

「よっしゃァ!!メガネだ!!20点ッ!!」

 

「マジかよ!?逆転されちまったァ!!」

 

 殴られ、蹴られ、「バッティングの特訓」と称してボールを当てられる。

 暴言を吐かれ、汚物を食わされ、笑われる。

 ガキの頃の俺は、毎日惨めな日々を送っていた。

 

「オイ、何してんだよー?的は動くなっつってんだろ。さっさと立たねーと、また()()食わしちゃうよ?ションベン茶漬け」

 

 何故俺ばかりがこんな目に。

 そうやって、目に映るもの全部を呪って生きてきた。

 助けなんざ、最初から期待しちゃいなかった。

 親は俺の事が嫌いだったし、教師も、同級生も、道行く奴等も、俺が痛めつけられるのを見ても眉を顰めるだけで、関わろうとしなかった。

 

 …いや、一人だけいたな。

 俺を助けようとしてきた、バカな奴が。

 

「やっ…やめなよ…ッ!!」

 

「……あ?」

 

「そ、そっ…そういうの、よ、よくなっ…よくないと思います…」

 

 高校最後の冬、俺がいつものようにクズ共に殴られていた時、知らねぇ女が割り込んできた。

 茶髪を短く切り揃え、ジャージとマフラーを身につけた、中学生か高校生くらいの女。

 ソイツは、仔犬みてぇにブルブル震えて、何度も吃りながらもクズ共に立ち向かった。

 

「何コイツ、お前の彼女?」

 

「キミ可愛いねー、どっから来たの?」

 

 クズ共は、ヘラヘラ笑うだけで、まるで女を相手にしていなかった。

 面倒な事になる前に早く消えてくれ、そう思っていると、突然女が胸を押さえて苦しみ出した。

 みるみる顔色が悪くなって、何度も浅い呼吸を繰り返し、その場に倒れ込んだ。

 

「おーい、大丈夫〜?」

 

 命に関わるんじゃないかと思ったが、クズ共はただの体調不良だと思ったのか、大して女を心配していなかった。

 それどころか、リーダー格のクズが、俺にある提案をしてきた。

 

「あぁ、いい事思いついた。お前、この女ヤれ」

 

「え……」

 

「今ここで、コイツとヤれよ。そしたらもう、お前で遊ぶのはやめてやるよ。もう痛ぇのは嫌だろ?」

 

 リーダー格のクズは、右手の親指と人差し指で作った輪の中に左手中指を突っ込みながら笑った。

 クズの提案に、思わず顔から血の気が引くのを感じた。

 

「ぎゃはは、いいなそれ!良かったな〜韮木、童貞卒業できて」

 

「この子、マジで運がねーな。よりによってこんなキモい奴にヤられるなんてよ」

 

 そう言って笑う取り巻きの手には、二つ折り携帯が握られていた。

 コイツらは、俺が女を犯すところを携帯のカメラで撮るつもりだった。

 俺が女を犯したらいじめをやめるなんて嘘だ。

 コイツらは高校を卒業した後も、写真をネタに俺を強請るつもりだ。

 

 俺が何もできずにその場でうずくまっていると、クズ共は俺を押さえつけて、無理矢理ズボンを脱がせようとしてきた。

 女はズボンとパンツを脱がされて、俺の前まで引きずってこられた。

 俺がズボンを脱がされそうになった、その時。

 

「あ゛あああッ!!」

 

 気づけば俺は、クズ共振り解いて殴りかかっていた。

 別に、女を守ろうとしたわけじゃない。

 きっかけがなんだったかなんて、覚えてない。

 きっと思い出せないくらい些細な事だったんだ。

 些細なきっかけ一つで、今まで溜め込んでいたものが一気に溢れ出した。

 

「あ?なんだテメェ、生意気に刃向かってんじゃねぇよ!!」

 

 そう言ってクズが俺の顔面を殴ってきた。

 鼻に焼けるような痛みを感じた。

 だが、今まで怖かったはずのクズが、どういうわけかこの時は全く怖くなかった。

 きっと殺意で目の前が真っ赤になって、何もかもがどうでも良くなっちまってたんだろうな。

 俺は今までの恨みを拳に込めて、躊躇なくクズを殴り返した。

 まさか殴り返されるとは思ってなかったのか、俺が顔面を殴ったら転んだので、俺はクズの上に馬乗りになった。

 

「ぎゃはっ、このクズが!!死ねッ、死ねッ、死ねッ!!」

 

 俺は、暴言を浴びせながら、クズの顔面を無心で殴った。

 周りの奴等は、青ざめたまま立ち尽くして、助けに入ろうとしなかった。

 抵抗されて顔や腹を殴られるのも、殴った拳が捲れるのも気に留めず、何度も、何度も、何度も。

 もう何回殴ったか数えるのも面倒になってきた頃、クズの呻き声に蚊の鳴くような泣き声が混じった。

 

「ず…ずびばぜん……あやばるがら…もう、やべで…」

 

 誰だかわからないくらい顔の形が変わったクズは、小便を漏らしてベソをかきながら懇願してきた。

 今まで散々俺をいじめてきた奴のみっともない姿を見て、さっきまでの熱が急に冷めた。

 俺が立ち上がって周りの取り巻き共を見ると、取り巻き共は「ヒッ」と小さく悲鳴を上げて、主犯格のクズを置いて逃げた。

 一番強い奴が降参した途端に逃げるなんざ、()()()()()だな。

 降参したクズも逃げるように帰っていって、俺と女だけがその場に取り残された。

 

 ふと、汚ねえ水溜まりに映った自分の顔が目に留まる。

 口や鼻から血を流して、目の周りに痣ができて、髪はグシャグシャに乱れていた。

 殴り合いでボロボロになった俺の顔は、今までに見たどんな奴よりイカしてた。

 

 何だか気分が良くなってきて、地面に寝転がった(戦利品)に目を向ける。

 女は、ズボンとパンツを脱がされ、ジャージを引き裂かれていた。

 女の上に乗って、丸出しになった股を無理矢理開かせて、俺を見ろと言わんばかりに顔を寄せる。

 だが女は、生きているとは思えない程顔が白くなっていて、意識を失っていた。

 

「チッ……」

 

 女の青白くて生気のない顔を見て、一気に萎えた。

 バカな女だ。余計な事に首突っ込んだりしなきゃ、こんな目に遭わずに済んだのに。

 胸部圧迫をしようと、女の着ていたシャツを引き裂いて胸に掌を当てた、その時だった。

 

「柊色!!!」

 

 どこからか走ってきた男が、俺を突き飛ばしてきた。

 一見喧嘩とは無縁そうな男の一撃は、クズ共に喰らわされたどんな暴力よりも効いた。

 ソイツは、壊れ物を扱うように女を介抱しながら、敵意のこもった目で俺を睨んできた。

 

「妹に触るな、このクズがッ!!」

 

 ソイツは、俺が妹を襲ったと勝手に勘違いして、俺を敵視してきた。

 俺はソイツの勘違いに対して、否定も言い訳もしなかった。

 否定したってどうせ信じちゃもらえないし、一瞬でも襲おうと考えたのは事実だ。

 

 善人ツラしやがって。

 家族に愛されてきたお前には、一生わかんねぇだろうよ。

 会う奴全員に嫌われて生きてきた奴の気持ちなんて。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ツエダside

 

「それじゃ、行こうか♪」

 

「ええ。お互い恨みっこなしね♪」

 

 私とチシヤは、それぞれ別の『げぇむ』会場に向かった。

 単純に二手に分かれた方が情報量が2倍になるっていうのもあるけど、殺し合いの『げぇむ』かもしれないし。

 

 明かりの付いているビルを見つけた私は、何の躊躇いもなく建物の中に入る。

 中には、既に何人か人がいた。

 そのまま時間が来るのを待ち続け、ちょうど6時になるとモニターがつく。

 

「何これ……」

 

 『げぇむ』会場のモニターには、今まで見た事がない文字が表示されていた。

 

 

 

《いんたあばる》

《ほんじつをもつて「げえむ」は》

《つぎのすてえじへいこうします》

《ただいまじゆんびちゆう》

 

 

 

「なんだこれ、どうなってんだ…!?」

 

「次の『すてぇじ』って…どういう事…?『げぇむ』は?」

 

 他の参加者達は、モニターの画面を見て動揺していた。

 そして『げぇむ』が始まる日没を過ぎても、とうとう『げぇむ』は始まらなかった。

 10分待ってみても何も起こらなくて、流石にこれ以上は時間の無駄だと思ったので、『げぇむ』会場を後にした。

 会場の外に出てもレーザーで撃たれていないあたり、そもそも『げぇむ』が行われていない…って事かしらね。

 

 私がホテルに戻ると、チシヤもちょうど同じタイミングで戻ってきた。

 同じタイミングで、しかも無傷で戻ってきたって事は……

 

「チシヤ」

 

「やっぱり、アンタのとこもそうだったんだ」

 

「ええ、時間になっても『げぇむ』が始まらなかった。モニターには『いんたあばる』って表示されてたわ」

 

「オレ達が『♡10(はあとのじゅう)』を『くりあ』したからだろうね♪」

 

「トリガーはトランプの所持数じゃなくて、『げぇむ』の『くりあ』数だったって事ね…」

 

 そう言って私は、ライターでタバコに火をつける。

 トランプが全部燃えたのに『いんたあばる』が始まったって事は、トランプの所持数は関係なくて、滞在者全員で絵札以外の『げぇむ』を全て『くりあ』する事が条件だったって事。

 トランプを全て集めれば自ずと答えは見えてくるってボーシヤの言葉は、あながち間違ってなかったわけね。

 

「次の『すてぇじ』ってのは、おそらく絵札の『げぇむ』が開催されるんだろうね」

 

「かー、やっぱりまた『げぇむ』か」

 

 チシヤの考察を聞いた私は、缶ビールを開けて一気に飲み干す。

 結局、全部の『げぇむ』を『くりあ』するしかないってわけね。

 『げぇむ』は楽しいから別にいいんだけどさ。

 

「さーて、寝るか」

 

 私は、服を脱ぎ捨ててパンツだけの姿でベッドに横になる。

 ベッドでゴロゴロしていると、チシヤが私に話しかけてくる。

 

「え、その格好で寝るの?」

 

「何よ、こっち来てエッチな事したいの〜?」

 

 チシヤが私の格好の事で口を出してきたので、私はニヤニヤしながらチシヤを揶揄ってみた。

 するとチシヤは、黙ってベッドの上に寝転んで、私に背を向けて寝始めた。

 

「しろよ」

 

 私の裸に興味がないチシヤにイラついて、思わずツッコミを入れた。

 あー、バカバカしい。寝よ寝よ。

 

 

 

 ───今際の国滞在58日目

 

 残り滞在可能日数 

 

 潰田千寿 44日

 

 

 

 

 




読み返してみると、ニラギは『げぇむ』が終わってから時間が経っても痛い痛い言ってる時点で、思ってたよりは火傷が浅い事に気付きました。
深達性のII度熱傷はあまり痛みを感じず、Ⅲ度熱傷に至っては感覚が無くなるらしいので。
まあ、燃えてすぐプールに飛び込んでましたしね。
全身火傷してますし、どのみちまともな医療機関がない今際の国では長く生きられない事には変わりはありませんが。

追記
pixiv版の執筆の関係で、キャンプで一緒に行動している子どもの名前を変えました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。