Duchess in Borderland   作:M.T.

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たいざいごじゅきゅうにちめ

 『今際の国』滞在59日目。

 夜明け前に目が覚めた私は、朝ご飯の調達兼気分転換の為に、多摩川に釣りに行く事にした。

 紺色のボブヘアーを低めの位置でポニーテールにして、パーカーとタンクトップ、ショートパンツを身につける。

 昨日の昼間に整備しておいたハーレーに釣り道具を積んで、二子橋へと向かう。

 川に入り、水面に映った朝日を眺めながら、上流から下流に向けてルアーをキャストする。

 

 釣りを始めてから1時間弱、25cm超えの肥えた鮎が釣れた。しかも2匹。

 普通だったらこんな下流で大物の鮎が釣れる事なんて珍しいと思うけど、『今際の国』の川は現実世界と違って水質がいいからね。

 それを差し引いても、こんな大物を一度に2匹も釣るとか、私って天才なのかもしれない。

 

 にしても、2匹か…

 つい調子乗って釣っちゃったけど、これだけ大きい鮎だったら1匹で充分なんだよなぁ。

 せっかくだし、チシヤにも食わしてやるか。

 

 ホテルに帰った私は、釣った鮎の下処理をした。

 釣った魚は氷締めするのが一般的だって本には書いてあったけど、氷締めができないから、今回は脳天締めをする。

 氷が当たり前のように使えた『ビーチ』の環境が恋しいわ。

 

 顳顬にナイフを突き立てて締め、エラの付け根にナイフを入れて血抜きをする。

 血抜きを終えたら、腹を押して糞を押し出し、ナイフの背でぬめりを削ぎ落とし、川から汲んできた水で洗い流してキッチンペーパーで水気を拭き取る。

 下処理を終えた鮎を太めの竹串で刺し、ヒレに塩をつけ、全体にパラパラと塩を振る。

 

 鮎を焚き火で塩焼きにして、ついでにレトルトのお粥も焚き火で温める。

 一人で一人前消費するのがもったいないから水増しして、スーパーで手に入れた出汁で味を整える。

 鮎の塩焼きに充分塩味をつけたから、お粥に味付けしなくてもよかったかもしれないけど。

 ちょうどお粥が温まってきた頃、眠そうな顔をしたチシヤが外に出てきた。

 私は、焚き火をうちわで扇いで火加減を調節しつつ、チシヤに声をかける。

 

「おはよ。朝ごはん今作ってるとこだけど、食べる?」

 

「うん、そうしようかな」

 

 私が声をかけると、チシヤは私が設置したキャンプ用の椅子に座りながら返事をした。

 着替えるのが面倒くさくて、釣りで濡れたショートパンツを脱ぎっぱなしにしているから、下はショーツ一枚しか穿いてないけど、特にツッコまれる事はなかった。

 『ビーチ』では水着を着てたし、何ならもうお互い全部見ちゃってるし、今更恥ずかしがるような間柄でもないからね。

 なんて考えていると、お粥を温めているコッヘルから湯気が立ち、スープ入りのお粥がグツグツと煮える。

 ちょうどいい感じに温まってきたので、ステンレスのシェラカップに取り分ける。

 先にお粥を食べながら鮎が焼けるのを待っていると、チシヤが小さい方の鮎を手に取って尋ねる。

 

「これ、どうしたの?」

 

「ああ、さっき二子橋まで釣りに行ってきたんだけどさ。大物が2匹釣れたから、1匹はアンタにあげる。せっかく焼いたから食べちゃってよ」

 

 私は、ケラケラ笑いながら訳を説明した。

 チシヤは手に持った鮎の塩焼きをまじまじと見つめてから一口齧ると、少し驚いたような表情を見せ、もう一口齧った。

 うん、焼き加減はバッチリね。

 さーてと、私も食べるか。

 

 焼きたての鮎を一口齧ると、香ばしい香りがする。

 パリッとしていて塩味のきいた皮と、ふっくらしていて脂の乗った身が食欲を掻き立てる。

 美味すぎ、焼き加減完璧。

 我ながら天才だわ。

 内臓の詰まった腹に齧り付くと、苦味と旨み、爽やかな香りが口いっぱいに広がる。

 うっっっま、これ酒が進むやつじゃん。

 缶ビールを手に取って、ビールを一気に口に流し込む。

 

「くぁぁぁっ!!たまんないわ!!」

 

 はぁ〜〜〜!

 やっぱり鮎の肝にはビールが合うわぁ!

 これでキンキンに冷えてたら最高だったんだけどな〜

 

「アンタがいれば、食事に困る事はなさそうだね♪」

 

 そう言ってチシヤは、ステンレスのマグカップに注がれたコーヒーを一口飲む。

 さっき私がお粥をよそったシェラカップは、米粒一つ残さず空になっていた。

 やっぱり腹減ってたんじゃない。

 お粥炊いといて正解だったわ。

 つーか、コイツやけに食べ方お上品ね。

 医大生っつってたし、やっぱいいとこのボンボンだったりすんのかな。

 

 なんて思いつつ、ビールをもう一口飲む。

 一昨日まで騙し合って殺そうとしてた間柄なのに、こうして一緒にご飯を食べてるなんて、自分でも不思議。

 

「…今更なんだけどさ、アンタ、アタシが一緒にいるのをよく許してくれたわね。アタシはアンタを騙して無理心中に巻き込もうとしたのよ?」

 

「もう過ぎた事だ♪人手は無いよりあった方がいいじゃん?いざとなったら囮にできるし」

 

「しっかり根に持ってんじゃない」

 

 コイツ…やっぱり私を囮にするつもりだったか。

 逆に安心したわ。

 簡単に情けをかけてくる奴より、そっちの方がよっぽど付き合いやすい。

 

「アンタこそ、なんでオレについてきたわけ?オレを騙して『ビーチ』と心中しようとした事への罪滅ぼしのつもりかい?」

 

「いいや?別にこんな事で帳消しにしようだなんて思ってないわよ。大体罪滅ぼしのつもりなら、アンタじゃなくてアリス君について行くでしょ。アタシが一番傷つけたのは彼なんだから」

 

「じゃあなんで?」

 

「なんとなく。人と話したい気分だったから」

 

 チシヤの質問に、私は鮎を刺していた竹串を焚き火の中に放り投げながら答える。

 なんでチシヤについて行く事にしたのかと言われれば、誰かと一緒に居たい気分だったからとしか言いようがない。

 チシヤを選んだのは、なんとなく、放っておけなかったから。

 まあ、『ビーチ』の生き残り連中の中では私がついていく事に一番とやかく言わなさそうだったからっていうのもあるんだけど。

 

「だからって、俺に近づいてくるとか…アンタみたいな物好きもいたもんだね」

 

「だって〜、一度は一緒に気持ちいいコトした仲じゃナイ?」

 

 そう言ってニンマリ笑いつつ、タンクトップの隙間から胸の谷間を覗かせてチシヤを誘惑する。

 するとチシヤは、スッと目を細めながらマグカップに口をつける。

 

「……そういえばそんな事もあったか」

 

 おい、遠い目すんな。

 調子こいてそのまま二回戦に突入した事、忘れたとは言わせねーぞ。

 

「よし、行きますか」

 

 ご飯を食べ終わった私は、焚き火を消して、椅子からすっくと立ち上がる。

 

「どこ行くの?」

 

「ん?このまま西に行って世田谷区を出てみようと思って。獲物見つけたら、こいつで仕留めてきてやるよ。今日の夕飯は楽しみにしてな♪」

 

 そう言って私は、昨日手に入れた猟銃をチシヤに見せた。

 バイクに燃料を補充して、必要な道具を積む。

 

「そんじゃ出発ちんこ〜ドピュ♪」

 

 くだらない下ネタをかましつつ、バイクをひたすら西へと走らせた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒーロside

 

 滞在10日目。

 早朝に目を覚ました私は、キャンプを抜け出して近くの公園へと向かう。

 そして、そこに仕掛けた罠を確認しに行った。

 ジュンさんの怪我を早く治すには、栄養のあるものをたくさん食べた方がいい。

 だから動物を捕まえて調理できるように、罠を仕掛けておいたのだ。

 ミツキさんやコータ君にも、お肉を食べさせてあげたいし…

 なんて考えていると、ちょうど罠を仕掛けてあったあたりから、キキッと小さな鳴き声が聴こえる。

 駆け寄ってみると、罠の網の中に兎がいた。

 

「あっ、うさぎ…!」

 

 兎は、自分でも何が起こったのかわかっていないのか、網の中でキョロキョロしていた。

 きっと、自分が今から殺されるなんて、夢にも思っていないんだろう。

 きょとんとした顔で私を見上げる兎に、ゆっくりと手を伸ばす。

 ……ごめんね。

 だけど私達も、生きてるから。

 

「いただきます」

 

 そう言って私は、罠にかかった兎の首を両手で掴み、力を込めて首を折って締めた。

 頸動脈に切れ込みを入れて血抜きをした兎を、レジ袋に入れてキャンプに持ち帰る。

 古本屋で手に入れた本の知識を頼りに、兎を捌き始めた。

 兎を捌き始めてから30分強、兎を捌き終えた私は、ペットボトルの水を飲んで一息ついた。

 一匹だと、4人で食べるには少し物足りない気もする。

 確かレトルトのシチューが余ってたはずだから、お肉を入れてかさ増しすればいいかな…?

 

 リュックから取り出したレトルトのクリームシチューを、兎肉や水と一緒にコッヘルに入れて、コンビニから調達したスキムミルクとコンソメで味付けをする。

 しばらくガスコンロでシチューを煮込んでいると、ミツキさんが起きてきた。

 

「ミツキさん、おはようございます」

 

「おはようヒーロちゃん」

 

 私が挨拶をすると、ミツキさんは笑顔で答えてくれた。

 するとコータ君とジュンさんも、食卓に集まってくる。

 ちょうどシチューが温まってきたところなので、人数分のステンレスのシェラカップにシチューを盛りつける。

 

「はいどうぞ」

 

「ありがとう」

 

 私がシチューを手渡すと、ミツキさんは笑顔で受け取る。

 コータ君とジュンさんの分のシチューも盛りつけて、4人でランプを囲んで食事をする。

 

「ジュンさんもどうぞ」

 

「ああ、ありがとな」

 

 私がシチューを渡すと、ジュンさんがそれを受け取る。

 ジュンさんは、『げぇむ』で私に助けられた事に負い目を感じていたのか、最初は私に対して申し訳なさそうな態度を取っていた。

 だけど最近では、私の善意を少しずつ素直に受け取ってくれるようになった。

 私の作ったシチューをおいしいと言って食べている三人を見て、心がほんわかするのを感じつつ、シチューを頬張る。

 ……うん、美味しい。

 兎を捌くのなんて初めてだから、ちゃんとできてるか不安だったけど…

 なんか鶏肉に似た味だな…

 

「……うん、美味い。オレの足の怪我も治してくれたし、ヒーロちゃんいいお嫁さんになれるよ」

 

 ジュンさんは、シチューを一口食べると、笑顔を浮かべながら言った。

 『お嫁さん』という言葉に思わず顔が赤くなるのを感じて、手をパタパタ振って恥ずかしいのを誤魔化した。

 

「ちょっと、ヤダ、やめてください」

 

「ごめんごめん」

 

 私が熱くなった顔を手で扇いでいると、ジュンさんが笑った。

 大好きだった陸上が出来なくなってからは、医者になる為の勉強ばっかりだったから、恋愛とか、結婚とかそんな事を考えた事は一度もなかった。

 こんな私でも、いつか私を大切にしてくれる人と幸せになれるのかな。

 なんて思っていると、ふと、包帯を巻いたジュンさんの足が目に留まる。

 

「それはそうとジュンさん、あれから足の調子はどうですか?」

 

「ああ、もうすっかり良くなったよ。ヒーロちゃんの処置のおかげだな」

 

「それはよかったです」

 

 私が尋ねると、ジュンさんはズボンの裾を捲り上げてニカッと笑った。

 ジュンさんの足は、すっかり良くなったみたいだ。

 ……ニラギさんも、無事だといいんだけどな。

 

 あれからニラギさんは、私が食糧を手に入れる為に病院を離れた隙に、病院からいなくなっていた。

 しばらくは絶対安静って言ったのに、治療が終わったらすぐに行ってしまった。

 一緒に生き延びたかったんだけどな…

 口は悪いし、性格もあんまり良くないけど、それでも、私がこの国で生きていく理由に気づかせてくれた人だから。

 本人はそんなつもりじゃなかっただろうけど…

 なんて考えていると、ジュンさんが私の顔を覗き込む。

 

「ヒーロちゃん、今何考えてたの?」

 

「え?」

 

 急にそんな事を聞かれたので、思わずきょとんとしてしまう。

 するとジュンさんは、ニヤリと笑ってコソッと言ってきた。

 

「もしかして、『♠︎6(すぺえどのろく)』で助けてくれたっていう、王子様の事でも考えてた?」

 

「ちょっ…違います!そんなんじゃないです!」

 

 ジュンさんがニヤニヤ笑いながら私を揶揄ってくるものだから、私は必死に首を横に振る。

 私は生きる理由を見つけてくれたニラギさんに死んでほしくないだけで、別に特別な感情を抱いているわけじゃない。

 なのになんでこの人はすぐにそういう話に結びつけるかな。

 ジュンさん、元気になったのはいいけど、元気になりすぎじゃない…?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ツエダside

 

 バイクに荷物を積んだ私は、食糧探しと情報収集の為に、23区の外を調べにひたすら西へとバイクを走らせた。

 西に行けば行くほど、街が草木に覆われ、動物の数も増えてきた。

 ちょうど世田谷区と狛江市の区境あたりで、道路まで草で覆われてバイクが通れなくなる。

 見渡せば、鹿や兎がウヨウヨいて、空を見上げれば野鳥が羽ばたいている。

 今日の飯には困らなさそうだな。

 

 多摩川に沿って草木の生い茂った街を見渡してみると、食べられそうな野草があちこちに生えている。

 ヨモギ、シソ、ツルナ、ミズ、オオバコ、ツユクサ、イタドリ、スベリヒユ、ヤブガラシ、カラムシ、ハマダイコン…

 森の方に行ってみると、野生のシイタケやシメジも生えていた。

 お、タマゴタケまで生えてんじゃん。

 これ、バターで炒めると美味いんだよな。昔キャンプした時食ったわ。

 今は『げぇむ』が開催されてないから、バターが手に入らないけど。

 んー、オリーブオイルで炒めてみるか?

 

 ……なんか楽しくなってきたな。

 今日の夕飯考えがてら、食材を探しますか。

 図鑑を頼りに食べられる野草を選別していると、赤くてツブツブした木の実が実っているのが見えた。

 

「おっ、これヤマモモじゃん」

 

 図鑑では食べられるって書いてあったので、ヤマモモの実を摘んで口に含む。

 甘酸っぱさと水っぽさ、そして野生特有の青臭さが口の中に広がる。

 

「……うん、不味くはないけど美味しくもないな」

 

 『ビーチ』に来ずにずっと野宿してたら美味しいと感じたんだろうけど、スーパーで売ってる果物ばっかり食べてる現代人の味覚からしたら、そんなに特別美味しいとは感じない。

 ジャムとかにすればいけるかもしれないけど、そこまでして食べたいかって言われると微妙。

 

 他に食べられそうな野草がないか探していると、グラウンドにトマトが生っているのを見つけた。

 ………ん?トマト?

 

 グラウンドに近づいて全体を見渡してみると、グラウンドの一角が畑になっていて、トマトやキュウリ、ピーマン、オクラ、カボチャなんかの夏野菜が実っていた。

 どう見ても自然に生えてきたんじゃなくて、誰かが植えたものだ。

 だけど私達のような長期滞在者が入国したタイミング的に、種を蒔くのがどんなに早くても、まだ3ヶ月くらいしか経っていない。

 トマトとかは種を蒔いてから実を収穫するまでに4ヶ月はかかるから、まだ実はないはず。

 なのに何でもう実が生ってるんだろう。

 

 ……ああ、そっか。この国では23区から遠ざかれば遠ざかるほど時間の進み方が速くなるから、植物も早く育つのか。

 ここら辺は都心より時間の進みが10倍くらい速いから、トマトやカボチャなら種を蒔いてから2週間くらいで実を収穫できる。

 『びざ』の日数に余裕があるなら、都心から離れた場所を根城にするっていうのは案外悪くない考えなのかもしれない。

 『ビーチ』にいた頃は、『げぇむ』会場から新鮮な食糧を大量に持ち帰れたから、畑を作るって発想がなかったけど。

 サバイバル生活してると野菜が不足するから、畑にありつけたのはラッキーだわぁ。

 

 私が野菜を収穫してバイクの荷台に積んでいたその時、後ろでバサバサッと何かが動く音が聴こえた。

 振り向くと、雉が電柱の上に留まっていた。

 咄嗟に猟銃を構え、猟銃で雉の頭を狙い撃つと、雉はバタバタと翼をはためかせてから地面に落ちる。

 

「よし、今日の夕飯ゲット」

 

 雉を一発で仕留めた私は、雉の頸動脈を切って血抜きをして、下処理を終えた雉をホテルに持ち帰った。

 仕留めた雉を捌いて、調理を始めていく。

 まずは雉を捌いて出たガラを煮込んで出汁を作り、その間に集めてきた食材の下拵えをする。

 ムネやモモ、ササミ、せせり、ぼんじりに串を打って焼き鳥にして、残りの肉は鍋に入れる。

 私は別にこのままもつ鍋にしても良かったんだけど、ボンボンのチシヤの為に今回は肉団子にしてやろう。

 私が調理をしていると、情報を集めに『げぇむ』会場に行っていたチシヤが戻ってきた。

 

「おかえり。どうだった?」

 

「今日も『げぇむ』は開催されなかった。これで2日連続だ」

 

「あら」

 

 やっぱり今日も、『げぇむ』会場は機能してなかったか…

 『げぇむ』はいつになったら再開されるのかしらね。

 まあ、『びざ』はまだたくさんあるからいいんだけど。

 っていうか、『げぇむ』が開催されてないって事は、今は『びざ』が減ってない可能性もあるのか。

 運営側の都合で『げぇむ』が開催されてないのに『びざ』切れで強制排除とか、いくらなんでも理不尽だもんね。

 なんて考えつつ、焚き火で雉鍋に火を通す。

 

「肉食べたいなら、手伝ってくれる?ちょうどもうすぐごはんの支度ができそうなの」

 

 そう言って私は、既に下拵えを終えた串焼きを見せた。

 今日の夕飯は、新鮮な食材をふんだんに使った鍋と串焼き。

 焼き鳥と一緒に畑で収穫した野菜を焼いてあるし、鍋には雉肉とスベリヒユやツユクサ、ベニバナボロギク、ツルナ、ミズ、ハマダイコンなんかの季節の野草と野生のシイタケやシメジが入っているので、食べ応えがあって栄養バランスもバッチリ。

 焚き火で作っている料理から、美味しそうな匂いがして、思わず口の中に溜まった唾を飲み込む。

 焼き鳥が焼けて表面に焦げ目がついてきたので、焼き鳥の串を手に取って躊躇なくかぶりついた。

 

「ん〜、美味しい」

 

 表面がパリッと焼けた焼き鳥を齧り、缶ビールを飲み干す。

 美味すぎ、やっぱ私って天才だわ。

 保存食ばっかりだと栄養が偏るから、たまにはちゃんとしたもの食べとかないと。

 23区外に行けば兎や鹿がウヨウヨいたし、次はバーベキューでもやるか。

 

 バーベキューといえば、学生時代に寮の友達とやったバーベキューを思い出す。

 アメリカ人はよくバーベキューをやるけど、特に私の住んでたとこは、とにかく皆バーベキューへの情熱が凄かった。

 普段は何の役にも立たないデブが、バーベキューの時だけはやたらと頼もしくて、キロ単位のブロック肉を丸一日かけて焼いてくれた。

 普段はデブを見下して全く相手にしていなかった同級生も、その時だけはデブを尊敬し持て囃していた。

 私にはあそこまでやる情熱はないけど、せっかく動物がいるんだし、あの時みたいにバーベキューをやってみたい。

 

 ……閑話休題。

 私は、グツグツと煮えた雉鍋を自分のシェラカップに盛り付けて、箸で肉団子を摘んで口に運んだ。

 『今際の国』では希少な新鮮な食材を使った具沢山鍋に、思わず頬が緩む。

 ふとチシヤを見ると、野草を避けて肉と汁ばかり自分のシェラカップに盛り付けていた。

 親切心で野草を掬ってやろうとすると、あからさまに避けたので、流石にイラっときて口を出した。

 

「おい。肉ばっか食ってないで、野菜も食え」

 

「そこら辺で採った草とか、腹壊しそうだから嫌なんだけど」

 

「つべこべ言わずに食え」

 

 私が野草も食べるように言うと、チシヤが減らず口を叩いてくる。

 ただの食わず嫌いかよ、クソが。

 てか食中毒を気にしてるなら、私と同じものを食べてる時点で、野草を避けたところで多分あんまり意味ないわよ?

 

「アンタどうせ、アタシが一緒じゃなかったら、缶詰とかカップ麺で済ませるつもりだったんでしょ?いつ『げぇむ』が始まるかわかんないんだから、体力があるうちにちゃんと栄養があるもの食べときなさい」

 

「酒とタバコばっかやってるアンタに言われたくない」

 

「バカ言え、アタシにとっては酒とタバコが栄養なの」

 

 そう言って私は、グイッとビールを飲み干す。

 結局チシヤが野草を食わず嫌いしてほとんど食べなかったので、もったいないから私が残りを全部食べる羽目になった。

 鍋を平らげた後は、鍋の出汁にアルファ米をはめて雑炊にした。

 これで卵とかあれば良かったんだけど…まあ、無いものねだりしてもしょうがない。

 

 

 

 ご飯を食べ終わってから数時間が経って、そろそろ寝ようとした頃、お腹がぐるぐる鳴って急に腹痛が襲ってきた。

 さっきまで何ともなかったのに、何で急に…?

 今日の雉鍋に使った野菜やキノコはちゃんと食べられるものを摘んできたし、充分に火を通したから、食中毒って事はないと思うけど…

 もしかしたら、食物繊維が豊富な野草やキノコをたくさん食べたから、()()()調()()()()()()()()()()のかもしれない。

 ちょっとお腹が痛くて眠れそうになかったので、私は隣で寝ていたチシヤに助けを求めた。

 

「ねぇチシヤ…」

 

「何?」

 

「お腹痛いんだけど…」

 

「あっそ」

 

 はぁ〜?

 あっそって何よ、あっそって。

 医大生なんだから、診てくれたっていいじゃない。

 私がお腹を抱えて蹲っていると、チシヤが冷ややかな視線を向けながら言い放つ。

 

「そこら辺に生えてた草ばっかり食べたからじゃないの?」

 

 いや、そうなんだけどさ…

 アンタが食わず嫌いするから、私がアンタの分まで食べたのよ。

 そのせいで今私、お腹痛くなってんだけど?

 なのにそんなこと言うんだったら、コイツの分の料理作らなきゃよかった。

 そう言いたいのを堪えて、私はチシヤに助けを求めた。

 

「はぁ〜、もうダメ〜お腹痛すぎて死んじゃう〜。いいのかな〜、早く助けないとエロくて美人なお姉さんが死んじゃうけどいいのかな〜?今なら治療を口実にあんな事やこんな事ができるけど、助けなくていいのかな〜?」

 

「自業自得だろ?自分でなんとかしろよ」

 

「ふざけんなカス」

 

 チシヤが恩知らずにも私を見捨てて寝ようとしたので、私は舌打ちをしながら中指を立てた。

 コイツ……誰が今日の飯を作ってやったと思ってんのよ。

 お前治ったら覚えてろよ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 『今際の国』滞在60日目。

 出すもの出して一晩寝たら、すっかりお腹の調子は良くなった。

 やっぱり昨日の腹痛の原因は、食物繊維の摂り過ぎだったらしい。

 食中毒とかじゃなくて良かったけどさ…

 次からは野草の食べ過ぎには気をつけないと。

 私がガスコンロでレトルトのお粥を温めていると、チシヤが1階に降りてくる。

 

「おはよ」

 

「うん」

 

 私が声をかけると、チシヤは眠そうな声で頷く。

 この日は、使えそうなものを探したり、バイクの整備をしたりして過ごす事にした。

 そろそろ『げぇむ』が始まってもおかしくないから、使えるものは集めておかないとね〜。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 バイクの整備をし始めてから10時間くらい経過して、午後5時。

 ようやく整備が終わったので、作業を切り上げて、今はちょっと休憩中。

 ここ三日間お風呂に入れなくて身体の汚れが気になってきたから、川の水で身体を洗っていると、いつの間にか空が茜色に染まっていた。

 着替えて部屋に戻ると、チシヤがカーテンを開けて外を眺めながら口を開く。

 彼のシャープな横顔が夕陽に照らされて、プラチナブロンドの猫っ毛の髪がキラキラと光っている。

 

「もうすぐ日没だね」

 

「……そうね」

 

 チシヤの言葉に、一度作業の手を止めてから頷く。

 こうして男と二人きりでいると、酒が入っているせいか、無性にムラムラしてくる。

 そろそろ発散しとかないと、次の『げぇむ』まで保ちそうにないな…

 

「ねぇ。今から、アタシと一緒にシない?いつ『げぇむ』始まるかわかんないし、今のうちに発散しときたいんだけど」

 

「アンタいっつもそればっかじゃん」

 

「だって溜まってるんだもの。アンタ、性格悪いけど身体の相性はいいじゃない?今日も楽しませてもらうわよ♪」

 

 私が誘うと、チシヤは呆れたような目で私を見てくる。

 ちょっとでも乗り気にさせようと、パーカーを脱いでウインクをしてみる。

 するとチシヤは、軽蔑の眼差しを向けながら私に話しかける。

 

「アンタって、本当にどうしようもない奴だよね。人を平気で裏切って、そのくせ一丁前に居場所を欲しがっててさ。オレに近づいたのだって、ただの欲求不満だろ?」

 

「そうよ。アンタにお似合いでしょ?」

 

 そう言って私は、低めの位置でポニーテールにした髪を解いて、ズボンのベルトの留め具を外す。

 そしてズボンを脱いで、生脚とパンツをチシヤの前に晒し、紺のレース付きのエロ下着で誘惑してみる。

 

 なんで彼の事が何となく放っておけなかったのか、わかった気がする。

 私達は、似た者同士だから。

 人の命に関心が持てない彼と、この世界のどこにも居場所がない私。

 どこまで行こうと自分本位にしか生きられない社会不適合者。

 

「底辺同士、仲良くしましょう?責任取れなんて言わないから」

 

 私はそう言ってクスリと笑いながら、チシヤをベッドの上に押し倒す。

 そして彼の両脇のあたりに両膝をつくと、パンツに手をかけてゆっくり下ろした。

 するとようやくその気になったのか、チシヤが私の腰のあたりを撫でてくる。 

 私はそのまま、彼の身体に体重を預けて唇を重ね、細くて柔らかい髪を撫でた。

 

 

 

 ───今際の国滞在60日目

 

 残り滞在可能日数 

 

 潰田千寿 44日

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒーロside

 

「行きましょう…」

 

「ああ」

 

 私達4人は、今夜開催される『げぇむ』に参加しに、『げぇむ』会場に向かった。

 他の滞在者の話だと、一昨日と昨日は『げぇむ』が開催されなかったらしい。

 もし今日の『げぇむ』に参加できなければ、コータ君の『びざ』が切れてしまう。

 だから皆で話し合って、今日の『げぇむ』は全員で参加する事にした。

 

 ……大丈夫、私達ならきっと生き残れる。

 皆で生き残って、一緒に元の世界に帰るんだ。

 

 

 

 ───今際の国滞在11日目

 

 残り滞在可能日数 

 

 大木場柊色 14日

 

 

 

 

 

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