ビーチがまだ平和だった頃の話です。
ボーシヤがまだ正気だった頃のストーリーなので、アリス達は登場しません。
あと、『かまゆで』で倒壊したスタジアムの跡地の温泉のシーンがあります。
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『今際の国』滞在3日目。
俺は昨日、ボーシヤさんに誘われて『ビーチ』に来たわけだけど…
「はぁ〜い☆楽しんでる〜?クソオス共〜!」
バスローブを着たツエダさんが、野外ステージの上で瓶ビールを飲みながらはしゃいでいる。
ツエダさんは、ストリップショーのダンサーみたいにバスローブを脱いで、際どい紺のマイクロビキニを見せつけた。
彼女の肉体美に、男達の目は釘付けになる。
「今日は毎日デスゲームばっかで溜まりに溜まってるアンタらを、『ビーチ』のお色気担当ツエダ様が悩殺してあげる♡ナマ足魅惑のマーメイド〜♪ってね」
「海に帰れババァ」
「ほげぇっ!!」
ツエダさんがビキニの紐を解こうとしたその時、ニラギさんが、ツエダさんの背中を蹴飛ばしてプールに突き落とした。
ツエダさんが落ちたプールはドボォン、と音を立てて、大きな水の柱が立った。
「Ahhhhh!!!
ツエダさんは、プールの中でバシャバシャと暴れて悪態をついた。
早口の英語で、何を言ってるのか全然聴き取れないけど、ニラギさんへの文句を言っているという事だけはなんとなく理解できた。
ツエダさんが溺れていると、見かねたマヒルさんが助けに入った。
「大丈夫かい?」
「あー…死ぬかと思った」
マヒルさんがツエダさんを引っ張り上げると、ツエダさんは水を吐いて深呼吸をした。
ツエダさんがプールサイドでぐったりしていると、ニラギさんが鼻で笑う。
「溺れてんじゃねぇか。なーにがナマ足魅惑のマーメイド(笑)だよ」
「趣味が悪いわよ、ニラギ」
ニラギさんが笑っていると、アンさんが呆れ顔で諌めた。
するとその時、ニラギさんの顔に大量の水がバシャッとかかる。
振り向くと、そこにはホースを持ったツエダさんが立っていた。
ツエダさんは、どこからか高圧洗浄機を持ってきて、ホースの先端を高圧洗浄機にセットした。
「ニラギぃ…さっきはよくもアタシをプールに突き落としてくれたわね…?そんなに水遊びが好きなら、高圧洗浄機でアンタの顔面を前衛芸術にしてあげる。歯ぁ食いしばりなさい」
ツエダさんは、殺気に満ちた笑顔を浮かべて、高圧洗浄機のノズルをニラギさんに向けた。
それはいくらなんでもやりすぎじゃ…
「突き落とされたくらいでキレてんじゃねぇよババァ。更年期か?」
「口が汚いわね。歯石でも溜まってんじゃないの?歯磨きしてあげる」
ニラギさんがツエダさんを挑発すると、ツエダさんは額に青筋を浮かせて高圧洗浄機を構える。
ツエダさんとニラギさんが睨み合っていた、その時だった。
「おい。いい加減にしろ、テメェら」
どこからか、地を這うような声が聴こえてきた。
声が聴こえた方を見ると、アグニさんが立っていた。
アグニさんが二人を睨むと、さっきまで喧嘩をしていた二人が大人しくなる。
「まぁまぁ、その辺にしといてやれよ、杜ちゃん」
ボーシヤさんが、アグニさんの肩に手を置いて笑った。
ボーシヤさんの一声で、アグニさんが二人を睨むのをやめる。
どうやらアグニさんも、ボーシヤさんの言葉には弱いらしい。
ちょうどその時、ホテルからクズリューさんとミラさんが出てきた。
クズリューさんは呆れた様子で、ミラさんはクスリと笑いながらツエダさんとニラギさんを見る。
「何をしているんだ…?」
「あらあら。仲が良いのね、あなた達」
「「どこが!?」」
「ほら」
ミラさんが二人を揶揄うと、二人が同時に反応したから、ミラさんがさらに笑う。
ほんと息ピッタリだな…
ツエダさんとニラギさんが睨み合っていると、ボーシヤさんが口を開く。
「そうは言っても、コイツらすぐ喧嘩するからな。そろそろ何か罰ゲームでもやらせるか?」
「罰ゲーム…?」
「そうだな…そういやクズリュー、ホテルを掃除しようって言ってたよな?」
「ああ、言ったが…」
「じゃあコイツらにやらせるのはどうだ?」
「「!?」」
「あと、ガソリンの調達もな」
「「うげっ」」
ボーシヤさんとアグニさんが、ツエダさんとニラギさんが喧嘩した罰でホテルの掃除とガソリンの調達を押し付けると、二人は露骨に嫌そうな顔をする。
ツエダさんとニラギさんは、ホテルのロビーを掃除をしながら互いに悪態をついた。
「ニラギくぅ〜ん、ここホコリ残ってますけど〜?」
「テメェがやれよ」
「うっわ、そういう事言うんだ。ボーシヤとアグニに言いつけちゃお」
ツエダさんとニラギさんは、掃除中も喧嘩ムードだった。
ツエダさんが、ガリガリと頭を掻きながら文句を言う。
「あー…ホンット、最高の気分だよなぁ?カス」
「ああ、まったく最高の気分だぜ。口閉じろクズ」
ツエダさんが洋画でしか聞かない皮肉を言うと、ニラギさんも皮肉を皮肉で返す。
なんだか見ていられなかったので、俺は二人に声をかけた。
「あの、ツエダさん、ニラギさん。オレ手伝いますよ。2人だけだと大変ですよね?」
俺が声をかけると、掃除をしていた二人が顔を上げる。
そして顔を見合わせて、ニヤリと笑った。
あっ…これ、悪巧みしてる顔だ。
「えっ、マジ?助かるぅ〜」
「えっ?」
「んじゃ後よろしく頼むわ」
「えっ?」
二人は、俺に掃除道具を押し付けて、廊下の奥へと歩いていく。
あれっ…?
いつの間にか勝手に押し付けられてる…?
「つーか腹減ったな。ツエダ、コンビニ行こーぜ」
「いーね。ボーシヤに酒でもプレゼントしてやるか。あ、あとさ。ガソスタの近くにラウンドワンあったよね?」
「ああ、あったな。じゃあよ、ボウリングで勝負して負けた方がガソリン運ぶってのはどうよ」
「おーし乗った。動ける理系の恐ろしさを見せつけてやるわ」
二人は、勝手に掃除を俺に押し付けて、外へ遊びに行った。
こういう時だけ息がピッタリ合うの、何なの…?
結局掃除をサボって二人で遊びに行こうとしていたのがアグニさんにバレて、二人ともホテルに連れ戻されたけど。
ボーシヤさんとアグニさんにこってり絞られた二人は、お互いに掃除をサボろうとした罪を押し付け合って、また喧嘩を始めた。
◇◇◇
その日の夜、無事に『げぇむ』から帰ってきた俺達は、『げぇむ』会場から持ち寄った新鮮な食糧を並べてパーティーをした。
『ビーチ』にはまだコックがいないから、料理ができる人が交代制で調理をする事になっている。
俺の隣では、マヒルさんが料理人顔負けの手際の良さで調理を進めていく。
「わ、マヒルさん手際いいですね」
「長い事一人旅をしていたからね」
俺が驚いていると、マヒルさんは手を動かしながら当然のように言った。
この人、欠点という欠点が無いんだよなぁ…
「みんな〜、ごはんよ〜」
厨房で調理をしていたツエダさんが、出来立ての料理を運ぶ。
テーブルの上に料理が並ぶと、プールではしゃいでいた皆がホテルに戻ってくる。
アヒージョにローストビーフ、寿司、サンドイッチなんかの美味そうな料理が並んでいて、人数分の紙皿が用意されている。
今日のパーティー料理は、ビュッフェだ。
「流石にこれだけ人数が多いと、料理を作るのも一苦労だわ」
「そろそろコックを探さねぇとな」
「それより整備士と医者が先だろ」
「カカカ、確かにな」
ツエダさんとボーシヤさんの発言に対してアグニさんが真面目にツッコミを入れると、ボーシヤさんが無邪気に笑った。
『げぇむ』で怪我をした人の応急処置は、今はアンさんがやってくれている。
だけど重傷を負った人の治療まではできないから、現状は腕のいい医者を探すのが最優先だそうだ。
あとは、ガソリンやらガスボンベやらを運ぶのに人力だと限界があるから、車を直せる整備士も探しているらしい。
なんて考えていると、全員ホテルのパーティー会場に集まってきた。
「皆揃ったな!んじゃ、『ビーチ』の新しい仲間を歓迎して…」
「「「「Cheers!!!」」」」
ボーシヤさんが音頭を取って、皆で乾杯をした。
美味い料理と酒で気分が高揚して、皆命懸けの『げぇむ』や『びざ』の事なんて忘れてはしゃいだ。
そんな中、ツエダさんが唐突に席を立つ。
「あ、そうだボーシヤ」
ツエダさんが、何かを思い出したようにボーシヤさんに歩み寄る。
そして手に持っていたウイスキーの瓶を、ボーシヤさんに渡した。
「はい、これアンタにあげる」
ツエダさんがウイスキーの瓶を渡すと、ボーシヤさんは少し驚いたような表情を浮かべてから、笑顔で瓶を受け取る。
「ありがとな!けど、なんでお前がオレの好きな酒知ってんだべ?」
ボーシヤさんがそう尋ねると、ツエダさんは一瞬目を見開いて、何かを考え込むような仕草をする。
そしてニヤリと笑ったかと思うと、唇に人差し指を当てて言った。
「ウフフ♪アタシ、実はエスパーなの。人の心が読めるのよ♪」
そう言ってツエダさんは、色っぽくウインクをする。
そんな馬鹿な…と思いつつも、ツエダさんが言うと何故か少し納得感がある。
普段の言動がアレだから忘れがちだけど、この人初日から『
料理がほとんど片付いて、空いた酒瓶や缶も数えきれなくなってきた頃、酔っ払ったツエダさんがいろんな人に絡み始めた。
酔っ払うと男も女も関係なく絡みに行くのは、彼女の悪い癖だ。
「チキチキ!ツエダ様とあんな事やこんな事ができちゃうゾ☆ク〜イズ!アタシの乳首は何色でしょーか!最初に当てた人には、アタシとエッチできる権利をあげる♡」
「レーズン色だろ」
「死ね」
酔っ払った勢いで下品な催しをするツエダさんを、ニラギさんが心底どうでも良さそうにあしらうと、ツエダさんが中指を立てる。
皆がそれぞれの予想を言い合う中、ツエダさんがパンパンと手を叩く。
「ハイ時間切れ〜!正解発表〜!」
そう言ってツエダさんは、水着を上だけ脱いで裸を見せた。
俺も含めて、男達はほとんど皆ツエダさんの裸に釘付けになる。
皆ツエダさんの裸にしっかり反応していて、中には鼻血を垂らしている人もいた。
「アハハ、皆勃ってんじゃん!男って単純〜!」
ツエダさんは、ズボンにテントを張った男達を指差してゲラゲラ笑った。
そんな中、少し離れたところで俺達を見ていたクズリューさんが、一瞬だけ笑ったように見えた。
それを見て、ツエダさんが小首を傾げながらクズリューさんに尋ねる。
「クズリュー、どうしたの?」
「いや…少し、昔の事を思い出して」
「……?ふぅん。まあいいや、それはさておき、アンタも飲む?」
「私は遠慮しておくよ」
ツエダさんがシャンパンボトルを持ってクズリューさんに酒を勧めると、クズリューさんは少し遠慮気味に断った。
その後は、皆でゲームをしたり、元の世界で誰にも話せなかった話をしたりして、楽しく過ごした。
元の世界では、こんなに自分を曝け出して全力で生きた事なんて一度もなかった。
『げぇむ』で死ぬのは怖いし、実家が恋しくないと言えば嘘になるけど、ほんの少しだけ、この楽しい時間がいつまでも続けばいいのに、と思った。
◇◇◇
『今際の国』滞在5日目。
昨日までの快晴とは打って変わって、今日は大雨だった。
「あー、これじゃ外に行けねぇな」
「雨で川が氾濫しないといいけど…」
ボーシヤさんとアンさんが、窓の外を眺めながらそう言った。
この大雨じゃ外のプールで遊べないし、車がないから外に物資を調達しに行けない。
俺達は、雨で川が氾濫してポンプが壊れない事を祈りながら、大人しくホテルの中で過ごした。
そんな中、ミラさんがあるゲームを持ってきた。
「ねぇ。面白そうなゲームを見つけたんだけど、皆でやってみない?」
ミラさんが持ってきたのは、人生ゲームのようなタイプのすごろくだった。
すごろくの入っていた箱には、子供の頃に読んだ不思議の国のアリスの絵が書かれていて、『よく当たるすごろく』と書かれている。
中には広げるのも一苦労な程大掛かりなすごろくとコマ、お金のカード、車やビルの模型、そして赤、青、黄、緑の10面ダイスが入っていた。
「よく当たるすごろく…?何だこれ?」
「娯楽室に置いてあったの。せっかくだし皆でやってみない?どうせこの大雨じゃ、しばらく外には出られないでしょう?」
「そうだな。んじゃ、やってみっか」
ミラさんがクスッと微笑むと、ボーシヤさんが箱を見て面白そうに笑う。
するとツエダさんが、俺の後ろから走ってきてすごろくの箱を覗き込んだ。
「何これ、『よく当たるすごろく』?面白そう!アタシやりたーい!ねぇ、アンもやらない?」
「ええ、あなた達が参加するならやるわ」
「ねぇ、マヒルは?」
「面白そうだね。僕も参加しようかな」
「クズリューは?参加するよね?」
「……いいだろう。参加しよう」
ボーシヤさん、ツエダさん、アンさん、マヒルさん、クズリューさんは、すごろくの参加に賛成した。
一方で、アグニさんは、すごろくの箱を一瞥するなり背を向けた。
「くだらねぇ」
「まぁそう言うなよ杜ちゃん。皆で一緒にやったらきっと楽しいべ」
「……ハァ」
ボーシヤさんが誘うと、アグニさんはため息をつく。
アグニさんも、ボーシヤさんがやるなら一緒にやるらしい。
ツエダさんは、初期メンバーで唯一賛成していないニラギさんに絡みに行った。
「ニラギ〜、アンタもやるでしょ?」
「オレはパス」
「え?ニラギは拒否権無いわよ?」
「は?勝手に決めんな」
「あ〜わかった、負けるのが怖いんだ?」
「んなワケねぇだろ。やりゃあいいんだろ、やりゃあ」
ツエダさんがニヤニヤ笑いながらニラギさんを煽ると、ニラギさんは舌打ちをしてソファーから立ち上がる。
結局初期メンバー8人ですごろくをやる事になった。
「道で倒れていた女性を助ける、1万円をもらう」
「殺人事件の捜査に貢献する、1000万円の収入」
マヒルさんとアンさんは、順調に資産を増やしていた。
そんな中、一人だけ大勝ちして資産を増やしている人がいた。
「ギャンブルで大勝ち、30億円ゲット…」
ツエダさんだ。
彼女は、億単位の資産を稼いでトップを独走していた。
完全に調子に乗ったツエダさんは、隣に座っているニラギさんに絡み始めた。
「うぇえええええええい!!!これで50億〜!!アタシの資産、50億円〜!!」
「ウゼェ…」
ツエダさんがニラギさんの目の前で変顔をして煽ると、ニラギさんが露骨に嫌そうな顔をする。
ツエダさんがトップのまま、すごろくは次のターンに入る。
ツエダさんは、次のターンで株を買って、資産を倍に増やした。
「オホホホホ!マリー・アントワネット様とお呼び、愚民共!」
「コイツぶん殴りてぇ」
ツエダさんが高笑いすると、ニラギさんが舌打ちをする。
だけど次のターンから、流れが変わった。
「えーと…火事で家を失う…全財産損失…?」
ツエダさんのコマが、大幅なマイナスのマスに止まった。
呆気に取られているツエダさんを他所に、ニラギさんがツエダさんの全財産を没収した。
するとトップからビリに転げ落ちたツエダさんが発狂する。
「イヤアアアアアア!!アタシのカネェエエエエ!!!」
「女王の没落、史実通りだな」
そう言ってニラギさんが、ツエダさんが元々持っていたお金のカードを放り投げる。
さっきまで調子に乗っていたツエダさんが全財産を失ったからか、ニラギさんは心なしか嬉しそうだった。
「いや〜、楽しいぜ。『よく当たるすごろく』」
「何よこのクソすごろく!!こんなのアタシの人生じゃない!!」
「日頃の行いだろ。次はオレの番だな」
ツエダさんは、持っていた資産で買った車やマンションをひっくり返して文句を言った。
ニラギさんは、ブチギレているツエダさんを見ていい気味だと言わんばかりに笑いながらサイコロを振る。
そして出た目の数だけ、コマを動かした。
「は?放火魔に襲われて全身に火傷を負う…?」
「な?クソすごろくだろ?」
ニラギさんが呆気に取られていると、ツエダさんが肩を竦める。
そんな中、ミラさんがニラギさんのコマの止まったマスを指差す。
「ねぇ、このマスよく見て。もう一回サイコロを振るみたいよ」
ミラさんの言う通り、ニラギさんのコマの止まっているマスには続きが書いてあった。
どうやらサイコロの出目によって、火傷の治療費が決まるらしい。
1、2、3は50万円。
4、5、6は100万円。
7、8、9は500万円……
0は…ゲームオーバー…?
「は?マジかよ…」
「このすごろく、ゲームオーバーとかあるんだ…」
マスに書かれた『ゲームオーバー』の字を見て、ニラギさんとツエダさんがドン引きする。
結局ニラギさんの二回目のサイコロの出目は9、火傷の治療費として500万円を失った。
「チッ……」
「ゲームオーバーよりはマシ!ゲームオーバーよりはマシだから!」
借金を負ったニラギさんに対して、財産を失ったプレイヤー同士、謎の情が生まれたのか、ツエダさんがニラギさんを励ました。
ビリ二人が傷の舐め合いをしていると、ボーシヤさんがどん底二人に声をかける。
「そう気を落とすな、ただのゲームだべ?っと、次はオレだな」
そう言ってボーシヤさんがサイコロを振る。
ボーシヤさんのコマが止まったマスに書かれた内容は…
「長年連れ添ってきた親友に殺される。ゲームオーバー」
「「「…………」」」
まさかの「気を落とすな」と言った本人がゲームオーバーになるという展開に、ボーシヤさん本人はおろか、他の皆も何も言えない空気になる。
「次はオレか」
次はアグニさんがサイコロを振る。
アグニさんは、仏頂面で自分のコマを前へと進める。
「親友を失ったショックで錯乱…振り出しに戻る…」
よりによって二人連続で最悪のマスに止まってしまい、気まずい空気になる。
するとさっきまでのビリ二人が、ここぞとばかりにボーシヤさんとアグニさんの傷を舐めた。
「気にしないでくださいよ大将、こんなのただのゲームですから!確率の問題でこういう事もありますって!」
「そうそう!ボーシヤなんて、ほぼ勝ってたようなもんだから!9割はアンタの優勝だったから!」
二人は、必死にボーシヤさんとアグニさんを励まそうとした。
自分より上にいた人が下に落っこちると急に優しくなる
でも、どうやっても追い討ちにしか聴こえない。
多分こういう人を不快にさせる言い回しが、嫌われる原因だと思うんだけど…
普段から人に嫌がらせばっかりやってるから、人を不快にさせる言い回ししか出てこないんだろうな。
「やめなさい2人とも。それ、追い討ちだから」
ゲームオーバーになったボーシヤさんと、振り出しに戻ったアグニさんに対して、ニラギさんとツエダさんが追い討ちにしかなっていないフォローをすると、見兼ねたアンさんが二人を止めた。
その様子を見て、ミラさんは他人事のように笑っていた。
「あら、面白くなってきたわね♡」
「次は私か」
次はクズリューさんがサイコロを振る。
クズリューさんのコマが止まったのは、見覚えのあるマスだった。
「放火魔に襲われて全身に火傷を負う……このマス、さっきも見たような気が……」
「そうだったかしら?はい、サイコロ」
クズリューさんがデジャヴを感じていると、ミラさんが面白そうに笑いながらクズリューさんにサイコロを渡す。
クズリューさんが二回目に出した目は0だった。
このマスの0って確か……
「マジかよ…」
「ウソぉ、ゲームオーバー2人目…?」
「…………」
ボーシヤさんに続けて二人目の脱落者となったクズリューさんが、何とも言えない表情を浮かべる。
ここまでの流れを見て何かに気づいたクズリューさんは、隣にいたミラさんにコソッと耳打ちをする。
「……ミラ。このすごろく、私達の未来を示唆してるんじゃ…」
「そうかもね。だって『よく当たるすごろく』だもの♡」
あり得なくもなさそうな考察をしているクズリューさんとは対照的に、ミラさんはどこか他人事のように笑っていた。
誰が得をしても損をしても始終笑っているミラさんが、俺にはどこか恐ろしかった。
すごろくを純粋に楽しんでいたミラさんも途中でゲームオーバーになって、結局ゴールまで辿り着けたのはマヒルさん、アンさん、ツエダさん、ニラギさん、アグニさんの5人だけだった。
結果発表。
1位 マヒルさん(所持金1000万円)
2位 アンさん(所持金500万円)
3位 ツエダさん(所持金-100万円)
4位 ニラギさん(所持金-300万円)
5位 アグニさん(所持金-500万円)
6位 ミラさん(ゲームオーバー)
7位 クズリューさん(ゲームオーバー)
8位 ボーシヤさん(ゲームオーバー)
結果は、8人中3人がゲームオーバー、ゴールしたツエダさん、ニラギさん、アグニさんも借金を負っていて、勝ったと言えるのはマヒルさんとアンさんだけだった。
「楽しかったわね。また皆で一緒にやらない?」
「二度とやるかこんなクソすごろく」
楽しそうに笑うミラさんの提案を、彼女以外の初期メンバーが全員拒否した。
すごろくが終わる頃には、空が暗くなり、街には少しずつ『げぇむ』会場が現れ始める。
今日も、命をかけた『げぇむ』が始まる。
◇◇◇
『今際の国』滞在12日目。
『今際の国』に来てから、もうすぐ二週間が経とうとしていた。
あれから、『ビーチ』はすっかり変わってしまった。
整備士や医者が『ビーチ』に来てくれて、俺達の生活が潤ったのはいいけど、日が経つにつれ悪い奴等も増えた。
中でも、5日くらい前に入ってきたラスボスなんかがその筆頭だ。
後から入ってきた悪い奴等のせいで、傷害事件や強姦事件が後を経たない。
誰かに襲われる心配なんかせずに、皆で楽しくやってた頃の『ビーチ』が好きだったんだけどな…
結局この国には、安心して暮らせる場所なんてどこにも無いんだろうか。
そう考えていると、昨日『ビーチ』に来た新入りのタクヤが、俺に話しかけてきた。
「なぁ、一緒にガソリン調達に行こうぜ」
「…ああ」
そういや、今日は俺がガソリンの調達係だったな。
俺とタクヤは、車を走らせて一緒にガソリンを調達しに行った。
タクヤは、俺と同い年で、『今際の国』に迷い込んだ日も俺と同じだという。
話してみたらすごく気のいい奴で、入ってきたその日に仲良くなった。
同い年なのに俺よりずっとしっかりしていて、今日まで一人でサバイバル生活をしてきたそうだ。
ガソリンスタンドで新しいガソリンを調達した俺達は、ガソリンを車の荷台に積む。
だけどタクヤは、どういうわけか、『ビーチ』の方角とは逆方向に車を走らせた。
「あれ?こっちって、逆の方向じゃ…」
「まぁまぁ、ついてこいよ」
そう言ってタクヤが車を走らせた先にあったのは、倒壊したスタジアムだった。
スタジアムは間欠泉になっていて、一定間隔で温泉が噴き出し、周囲には硫黄の匂いが立ちこめていた。
「うわぁ〜、温泉…!」
「『ビーチ』に来る途中で見つけたんだ。こんなところに温泉があるなんてビックリだよな。せっかくだから入ろうぜ」
「え、でも、いいのか?ボーシヤさんは、寄り道せずにガソリンを持って帰ってこいって…」
「大丈夫大丈夫。怒られたらオレが庇ってやるからよ」
タクヤは、そう言ってニカッと笑いながらウインクをして、車に積んできたタオルを俺に投げた。
『ビーチ』は治安が悪くなってもはや安息の地とは言えないけど、俺はコイツの明るさに救われた。
タクヤが言うなら、と俺も服を脱いで裸になった、その時だった。
「こんなところに温泉があったのね」
「ねぇ、ここ熱くないわよ。せっかくだし入らない?」
「でも、ボーシヤはすぐ帰ってこいって…」
「まぁまぁ、たまにはいいじゃない」
俺達が入ってきた方とは反対側から、女の人の声が聴こえてくる。
多分、アンさんとツエダさんだ。
確か、この近くで『げぇむ』をしていたはずだけど…
もう『くりあ』してここに来たのか…流石だな。
なんて考えていると、タオルを巻いたアンさんとツエダさんが、風呂桶を持ってこっちに歩いてきた。
するとタクヤが、二人の前に立ちはだかる。
「ちょっと待て!アンタら、ここはオレが先に見つけたんだぞ!一番風呂はオレ達に譲ってもらおうか!」
「はぁ〜?」
タクヤが二人を指差して言うと、ツエダさんが不服そうに声を上げる。
二人の方が歳上だし『今際の国』でも先輩なのに、タクヤがやたらと偉そうな態度を取っていたので、俺は後ろからやんわりとタクヤを諌めた。
「おいタクヤ、先輩達に向かってそんな…」
「いーや、先輩だろうと後輩だろうと、順番は守ってもらわねぇとな!まぁ、どうしても入りたいって言うんなら一緒に入ってもいいぜ?ただし、身体に巻いてるタオルは取れよ。タオル巻いて入るのはマナー違反だろ?」
そう言ってタクヤは、アンさんとツエダさんの前で仁王立ちする。
タクヤ、お前…そんな奴だったのか……
アンさんはフルチンでセクハラ発言をするタクヤにドン引きし、ツエダさんは冷静に上の方を眺めていた。
ツエダさんが「あ」と声を漏らした瞬間、上の方の瓦礫がピシッと音を立てて崩れ、タクヤの頭上に落ちた。
「ふげぇっ!!」
「タクヤーーーー!!!」
頭に瓦礫が直撃したタクヤは、そのまま気を失って倒れる。
その様子を見て、ツエダさんはわざとらしく言った。
「あーあ、ここら辺瓦礫脆いから、頭上に気をつけなって言おうと思ったのに」
「知っててわざと教えなかったのね」
「そんなわけないじゃない、教えるタイミングを逃しただけよ」
瓦礫が落ちてくる事を知っていてわざとタクヤに教えなかったツエダさんにアンさんが引いていると、ツエダさんは肩を竦めてとぼける。
この二人が『ビーチ』屈指の女傑だって事、すっかり忘れてた……
そんな中、俺が後ろにいるのに気づいたツエダさんが、クスッと微笑んで俺に歩み寄る。
「ねぇアンタ、一緒に入る?」
ツエダさんは、妖艶な笑みを浮かべながら、胸元のタオルを下に寄せて胸の谷間を見せつけてくる。
ここで首を縦に振れば、何をされるかわかったもんじゃない。
さっきこの人がタクヤに制裁を喰らわせたのが脳裏に焼きついている俺は、フルフルと首を横に振るのが精一杯だった。
女の人って怖え……
「はぁ〜、気持ちいい〜♡」
「温泉なんていつぶりかしら」
瓦礫を挟んだ向こう側から、ツエダさんとアンさんの声が聴こえてくる。
俺は、ツエダさんに脅されて見張りをやらされている。
ふと、温泉の中に沈んだ瓦礫の隙間からブクブクと泡が出ているのが気になったので覗いてみると、瓦礫の近くに男の人が沈んでいた。
うわ……死体……
ここ、もしかして前は『げぇむ』会場だったのかな。
さっきまで楽しい気分だったのが、急に現実に引き戻されて、憂鬱な気分になってくる。
毎日のように『げぇむ』に参加させられるわ、心の拠り所だった『ビーチ』ですら事件が起こるわ、もううんざりだ。
これが夢なら、せめて夢の中くらい、楽しい思いだけさせてくれよ。
「アンタら、何してんの?早く戻らないと怒られるわよ?」
「あ、はい…!」
不意にツエダさんに声をかけられた俺とタクヤは、慌てて服を着て車に乗り込んだ。
この時の俺達は、まだ知らなかった。
この先、まさかあんな地獄が待っていただなんて……
途中に出てきたすごろくのシーンは、シーズン3に出てきたミライすごろくのオマージュです。
『今際の国』で起こる未来を示唆している、という設定です。