Duchess in Borderland   作:M.T.

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だいやのくいいん(1)

 『げぇむ』  『とらいある』

 難易度    『♢Q(だいやのくいいん)

 エントリー数 5名+『♢Q(だいやのくいいん)

 制限時間   なし

 

 『るうる』

 『ぷれいやぁ』が1人1回ずつ『♢Q(だいやのくいいん)』と対戦を行う。

 『ぷれいやぁ』が勝負の内容を決め、『♢Q(だいやのくいいん)』が了承した時点で『げぇむすたあと』。

 対戦に負けた方は、6本の注射器の中から1本を選んで打つ。

 

 6本の注射器のうち、5本は人体に無害なビタミン剤が、1本は致死量の猛毒が入っている。

 猛毒の注射器を打った参加者は『げぇむおおばぁ』となり、その時点で『げぇむ』終了。

 5回の対戦で『げぇむ』が終了しなかった場合、勝ち数の少ない方が6本目を打つ。

 

 『♢Q(だいやのくいいん)』が『げぇむおおばぁ』になった時点で、『ぷれいやぁ』の『げぇむくりあ』。

 『ぷれいやぁ』の誰かが『げぇむおおばぁ』になった時点で、『♢Q(だいやのくいいん)』のみが『げぇむくりあ』となり、『ぷれいやぁ』は全員『げぇむおおばぁ』。

 

 

 

 

 

「知能戦の女王だか何だか知らないけど、このツエダ様に敵なんかいないのよ♪」

 

 私はそう言って、レイカの向かい側の席に座る。

 するとレイカは、スッと目を細めて声をかける。

 

「あなたがツエダね?病院内は全面禁煙よ」

 

「あら、吸ってたら『げぇむおおばぁ』になっちゃうわけ?」

 

 レイカが私に注意をしてくるので、私は茶目っ気たっぷりに笑って冗談を言う。

 レイカが私の冗談をスルーして無言で私をじっと見てくるものだから、面白くなくなった私は、舌打ちをして携帯灰皿にタバコを押しつけて消す。

 ったく、気持ちよく吸わせろよなぁ。

 これが最期の一本になるかもしれないんだから。

 タバコを禁止されたのがイラっときたから変顔でおちょくってやったけど、レイカは私の変顔をスルーして話を変える。

 

「勝負の内容は?」

 

「そっちが決めていいよ。自分でゲームの内容考えるの面倒くさいから」

 

 私は、勝負のジャンル決めをレイカに丸投げした。

 自分でゲームを考えるのが面倒くさいのもあるけど、有利な勝負を持ちかけるより、不利な勝負に乗る方が楽しいからね。

 ぶっちゃけどんなゲームを持ちかけられても、負ける気しないし。

 

「わかったわ。でもせっかくだから、あなたの得意なジャンルで勝負してあげる。ギャンブル、ボードゲーム、クイズ、どれがやりたい?」

 

「どれでもいいよ、どーせアタシが勝つもん」

 

 私にハンデを与えようとするレイカを煽り返すと、レイカはピクリと目元を動かす。

 だけど私の挑発には乗らずに、顎に手を当てて考え込む。

 

「そうね……最初に『♢10(だいやのじゅう)』を『くりあ』したの、あなただったのよね。『♢K(だいやのきんぐ)』が感心してたわよ。入国初日に『♢10(だいやのじゅう)』を『くりあ』するなんて。あの時の『げぇむ』は確か、テキサスホールデムだったかしら」

 

「そうだけど?」

 

「ちなみにあなたが『♢10(だいやのじゅう)』で負かしたセンダって男も『でぃいらぁ』よ。言っとくけど彼、元の世界では違法賭博で荒稼ぎしていたイカサマ師だったのよ?」

 

 ふーん、あのゲーム、イカサマ師が『でぃいらぁ』として参加してたのか。

 だから難易度が『♢10(だいやのじゅう)』だったわけね。

 つっても、最初の『げぇむ』で対戦した奴なんて、ナナミ以外覚えてないけど。

 覚えてないって事は、大した奴じゃなかったんだろうな。

 

「……あー、ごめん。どんな奴だったか覚えてないわ。つーか『でぃいらぁ』が誰とか今更種明かしされても、興味ないし」

 

 私が頭を掻きながら言うと、気まずい空気が流れる。

 おい、そんなつまらなさそうな目で見るな。

 しょーがねーだろ、マジで覚えてないんだもん。

 

「……それは残念」

 

 そう言ってレイカは、肩を竦める。

 

「じゃあ今度は、もう少し難しいルールで私と勝負してみない?オマハハイローはご存知?」

 

「ええ、カジノで何回かやった事あるわ」

 

 レイカは、カジノゲームが並んだテーブルの上からトランプを選んで取る。

 オマハハイローは、テキサスホールデムを発展させたポーカーの一種で、テキサスホールデムよりさらに難易度が高い。

 基本的な流れはテキサスホールデムと同じだけど、オマハは手札が4枚ずつ配られて、配られた4枚のうち2枚と、5枚のコミュニティカードのうち3枚を組み合わせて役を作る。

 オマハは、自分の手札2枚とコミュニティカード5枚の計7枚から自由に選べるテキサスホールデムより、高度な戦略が求められるゲームだ。

 さらにオマハハイローでは、ハイハンドとローハンドの二つで勝負する。

 ハイハンドでの勝負は普通のポーカー同様一番強い役を作ったプレイヤーが勝つけど、ローハンドでの勝負は一番弱い役を作ったプレイヤーが勝つ。

 ハイローのややこしいところは、相手より強い役を作るのと同時に、相手より弱い役も作らないといけないってところだ。

 

「それじゃあ、あなたとの勝負はオマハハイローにしましょうか。所持チップはお互い1000枚。相手のチップを全部奪った方が勝ち。イカサマはしてもいいけど、相手に指摘された時点で強制的に負け。どう?やる?」

 

「ええ、望むところ」

 

 私は、レイカの提案したゲーム内容を了承した。

 ゲームを始める前に、まずディーラー決めのコイントスを行う。

 このゲームは、カードを配る時にイカサマを仕込めるディーラーが圧倒的に有利だ。

 レイカは、コイントス用のコインを見せながらルールを説明する。

 

「最初のディーラーは、コインを投げて表が出たらあなた、裏が出たら私ね」

 

「OK、それでいいわ」

 

 コイントスの結果、裏が出たので、1回目のディーラーはレイカが務め、4回戦が始まる。

 まずはお互いにブラインドの賭け金を支払い、レイカがカードをよく切って、私と自分に4枚ずつ配る。

 初日にやったテキサスホールデムと同様、プリフロップでお互いチップを賭けてから、レイカが3枚コミュニティカードを出し、フロップを行い、4枚目のコミュニティカード公開、ターン、最後のコミュニティカード公開、リバーの順にゲームが進行する。

 賭け金が揃ったら、ハイハンドとローハンドでそれぞれ勝負を行う。

 

 30分後。

 勝ったり負けたりを繰り返して、互いのチップにほとんど変動はない。

 学生時代にラスベガスのカジノ王を完膚なきまでにボコボコに負かしたこのツエダ様の敵じゃないと思ってたけど、蓋を開けてみれば、思ったより『♢Q(レイカ)』が強かった。

 『(だいや)』の『げぇむ』は、大きく分けて対戦型と協力型の2種類があるけど、対戦型の『げぇむ』は大体が博打か戦略ゲーだ。

 2回戦の丁半と3回戦の囲碁を見てわかったけど、この女は博打と戦略ゲーの両方に隙がない。

 彼女の頭脳が『今際の国』でもトップクラスなのは、疑う余地もない。

 『♢Q』(知能戦の女王)を名乗るだけの事はあるわ。

 10ゲーム目が終わった後、レイカが口を開く。

 

「ここまで勝負が長引いたのは初めてだわ。流石は『♢10(だいやのじゅう)』を最初に『くりあ』した『ぷれいやぁ』ね。格好が破廉恥なのが気に入らないけれど、あなたの事、嫌いじゃないわ」

 

「称賛は素直に受け取っておくわ。アタシも、ここまで勝負を楽しめたのはアナタが初めてよ」

 

「楽しめた……ねぇ。嬉しいわ、この国で同族に出会えるなんて。私は……あなたと『げぇむ』をする為に『今際の国』の国民に()()()のかもね」

 

 私が言うと、レイカは微笑みながら意味深な発言をした。

 今、『今際の国』の国民に()()()って言ったわよね……?

 もしかして、『今際の国』の国民って……

 

「ねぇ、ツエダ。この国に残らない?」

 

「……は?」

 

「この国は、全てが正しくて美しいわ。そしてあなたには、この国の国民になれる素質がある。もし私に勝ったら、()()♢Q(だいやのくいいん)』にならない?あなたなら、きっと優秀な『♢Q(だいやのくいいん)』になれるわ」

 

 レイカは、目を細めて不敵な笑みを浮かべながら言った。

 なるほどね、やっぱり()()()()()()()()なわけか。

 

「正しくて美しい?この国が?」

 

「ええ、そうよ。元の世界の肩書きなんて関係なく、勝者だけが生き残れる。理不尽で非合理な法律も、この国には存在しない。私はね、この正しい世界で生きる為に、今日まで生き残ってきたのよ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

レイカside

 

「経過は良好ですね。いつものお薬処方しておきますね。もし何か気になる事がありましたら、またいつでもいらしてください」

 

「先生、ありがとうございます」

 

 かつての現実世界で、私は大きな病院で内科医をしていた。

 あの頃の私は、人の命を救う仕事に誇りを持っていた。

 子供の頃から勉強熱心で、医療に関心があった私にとって、医者はまさに天職だった。

 上司からは優秀な医師として評価され、後輩からは尊敬され、順風満帆な日々を送っていた。

 だけど、悩みが何もなかったわけじゃない。

 

「菱川先生、欠点って言う欠点が無いよな」

 

「な〜。超美人で、東大卒のエリートで、しかも良家のお嬢様」

 

「すごいよな、仕事熱心っていうか……あれだけ美人なのに、浮いた話とか全然聞かないもんな」

 

「まさに高嶺の花だよな」

 

 職場の同僚や実習生、そして患者の中には、私を女として見ている男が大勢いた。

 中には、立場を弁えずに私にプロポーズしてきた奴もいた。

 何度断っても、男共はしつこかった。

 ストーカー被害に悩まされて、上司に無理を言って勤務地を変えてもらった事もあったけど、移動した先でも同じように男に付き纏われた。

 

「知ってる?大野先生、菱川先生にプロポーズして玉砕したんだって」

 

「菱川先生さ…なんかうざくない?」

 

「ね〜。美人で、頭が良くて、ストイックで、おまけにお金持ちのお嬢様。せめてこれで性格が悪かったらなぁ」

 

「欠点が無さすぎるってのも、ね」

 

 女の同僚や看護師からは、羨望や嫉妬、憎悪を向けられた。

 根も葉もない噂を広めて私を陥れようとしたり、私物を隠したり汚したりして嫌がらせをする人もいた。

 私は、自分の能力や家柄を自慢した事もなければ、立場の差を理由に彼女達を見下した事も一度もない。

 落ち度が無くても妬みを買ってしまうのは仕方のない事だと割り切っていたけれど、だからって繰り返し嫌がらせをされても何も感じないわけじゃない。

 

 それでも、仕事をしている間は、つらい現実を忘れられた。

 そしてもうひとつだけ、荒んだ私の心を救ってくれる存在がいた。

 

「あの…菱川先輩。何か悩んでる事があったら、話してください。僕でよかったら、いつでも相談に乗るんで…」

 

「……ありがとう、大木場君。でも私は大丈夫だから」

 

 大学の後輩で、職場の後輩でもあった大木場英樹君。

 いつも私の事を気にかけてくれていて、相談にも乗ってくれた。

 彼の話も聞いた。

 歳の離れた妹がいるらしくて、最初はしつこいと思っていた彼の妹自慢も、いつの間にか楽しみにしている自分がいた。

 誇らしげに妹の話をする彼の顔を見たら、悩んでいた事なんてどうでも良くなった。

 大木場君が励ましてくれたから、私は壊れずにいられた。

 だけどその生き甲斐すらも、理不尽に奪われた。

 

 

 

 ある日の事、仕事を終えた私は、大木場君が職場に忘れ物をしている事に気がついた。

 本当は次の日に職場で渡せば良かったのかもしれないけど、彼が妹から貰った誕生日プレゼントだからと大事にしていたボールペンだったから、その日のうちに届けに行く事にした。

 大木場君の家に忘れ物を届けに行こうと、慣れない地下鉄を乗り継いで彼の家の近くまで向かっていた。

 その途中、私は何者かに背後から襲われ、地面に押し倒された。

 

「な、何…!?」

 

「あっ、あの…ひっ菱川先生……僕の事、覚えてませんか…?」

 

 私は、ストーカーの顔に見覚えがあった。

 私を襲ったストーカーは、かつて私が担当医をしていた患者だった。

 その男は、息がかかるくらいの距離で話しかけてきた。

 

「ぼ、僕、病院で初めて会った時からずっと、先生の事が好きだったんです…」

 

「ひっ…!やめて、離して!!警察呼ぶよ!!」

 

 男がいきなり私に襲いかかってきたものだから、私は後退りして警察を呼ぼうとした。

 すると男は、私の手首を捻り上げて至近距離で怒鳴り散らしてきた。

 

「どうして僕の気持ちを踏み躙るんだぁああッ!!!僕がこんなに好きなのにッ!!!そっちが思わせぶりな態度を取ってきたくせにッ!!美人だからって調子に乗りやがって!!」

 

 ものすごい力で押さえつけて意味不明な事を叫び散らす男を前にして、私は青ざめて震える事しかできなかった。

 男は、持っていた刃物で私の服を切り裂いて、私の口にガムテープを貼りつけてきた。

 理屈の通じない人間の圧倒的な暴力の前では、生まれ持った頭脳や積み上げてきた知識なんて、何の役にも立たなかった。

 

 私が何をしたっていうのよ。

 人から恨まれるような事なんて、何もしてない。

 今まで、医者としての使命を全力で果たしてきた。

 なのにどうして私がこんな目に……そればかり考えていた。

 

「ハァ、ハァ…先生が悪いんですよ…僕を誘ってるんでしょ?」

 

 男は、気持ちの悪い台詞を吐きながらいやらしい手つきで私の身体を撫で回してきた。

 泣きたくなんてないのに、恥ずかしさと悔しさで涙が止まらなかった。

 

 私は、なんとか抵抗しようとして、咄嗟にバレッタを手に取った。

 そして、手に取った鋭利な凶器を、油断している男の首に、力いっぱいに突き刺した。

 しばらくして、男は首から大量の血を流して動かなくなった。

 

 

 

「もう嫌……どうして、こんな事になっちゃったんだろう……」

 

 ショックのあまり家への帰り方を忘れてしまった私は、気がつけば夜明け前に一人で公園にいた。

 公園のトイレで、胃液しか出なくなるまで吐いた。

 相手がストーカーだったとはいえ、私は人を殺してしまった。

 

 院長や先輩、そして大木場君……私に優しくしてくれた人達の顔が、浮かんでは消えていく。

 もし警察に見つかったら、私は殺人犯として逮捕されるのだろうか。

 この先一生、四面楚歌の人生を送らなければならないのだろうか。

 数少ない生き甲斐にすら、もう縋る事はできないのだろうか。

 

 だったらいっその事、死んで楽になりたい。

 それか、どこか知らない、遠い国にでも行きたい。

 そう思った瞬間、明け方の空に花火が上がった。

 

 

 

 

 

 ――ミーンミンミーン…

 

「………え?」

 

 気がつけば私は、『今際の国』に迷い込んでいた。

 『今際の国』滞在1日目、私は『♢7(だいやのなな)』の『げぇむ』に参加して、私一人だけが『げぇむくりあ』した。

 

「これが『びざ』……これからも、こんな事を続けていくしかないのね……」

 

 最初は、初めて死線に立った恐怖と、これからも命懸けの『げぇむ』を永遠に続けなければならないという絶望に打ちひしがれていた。

 だけどそんなものは、『今際の国』で過ごしているうちに薄れた。

 『げぇむ』も3回も経験すれば、人を殺す罪悪感はすっかり無くなっていた。

 元の世界で、ストーカーを殺してパニックになっていた事が馬鹿馬鹿しく思えてきた。

 そして『今際の国』で過ごしているうちに、私の中で心境の変化が起こった。

 

 この『今際の国』は、今まで私が見てきたどんな世界よりも正しくて美しい。

 ここでは、元の世界での肩書きなんて関係ない。

 おこぼれ欲しさにおべっかやおべんちゃらを使う人間も、私の能力や家柄を妬んで嫌がらせをしてくる人間もいない。

 女だからって不当な扱いを受ける事もない。

 正しい行いをした人を排斥するような、理不尽な法律も無い。

 元の世界で居場所を失くした私にとっては、この『今際の国』だけが、たったひとつの居場所だった。

 

 

 

 『ねくすとすてぇじ』が始まって3日目、私は『♢Q(だいやのくいいん)』に参加した。

 先代の『♢Q(だいやのくいいん)』を倒した私は、ある決断をした。

 

《おめでとうございます。ただ今を持ちまして、()()の全ての『げぇむ』が『くりあ』されました。これより、生き残った『ぷれいやぁ』の皆様全員には、この『今際の国』の国民となって()()の『げぇむ』に参加する事が出来る『永住権』を、取得するか放棄するかの選択が与えられます。それぞれがお答え下さい。この国に永遠に身を置き、これからも殺し合いを続ける権利を、『手にする』か『手にしない』かを》

 

「無論、永住権を『手にする』わ」

 

 私は、迷わず永住権を手に入れる決断を下した。

 どうせ元の世界に戻ったって、人を殺した私に居場所なんてない。

 だったら私は、『今際の国』の国民になって、この正しい世界で生きていく。

 誰にも、邪魔なんてさせるものか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「この世界はいいわよ。一貫した『るうる』に従って全てが正しく回ってる。あなたも、国民になればこの世界の良さがわかるわ。あなただって、元の世界で一度は経験したでしょう?理不尽に能力に見合わない扱いをされた事。無駄だらけの元の世界に帰る意味なんて、無いと思わない?」

 

「……なるほどね。確かにアンタ、筋は通ってるよ。元の世界に適合できないからこの国で暮らす、それは別に何も間違ってないわ」

 

 ツエダは、私の主張を肯定した。

 今まで、『ぷれいやぁ』に私の考えを肯定された事なんて一度もなかった。

 やっぱり私の見込んだ通り、彼女は私達と同族だわ。

 

「ねぇレイカ、アタシはこの世界が楽しいから好きよ。でもアタシは、元の世界が無駄だとは思わない。元の世界でくだらない人生を送ってきたけど、だからこそ今こうしてアンタと『げぇむ』ができてるわけだし。勝手にアタシの事を決めつけて、アンタの考えを押し付けんなよ」

 

「そう……価値観の違いは決定的ね」

 

 元の世界が無駄だとは思わない……か。

 まさか彼女の口から、そんな言葉が出てくるなんて。

 せっかく、分かり合える同族に出会えたと思ったのに。

 

「さ、次のゲームを始めるわよ」

 

 そう言って私が微笑むと、ツエダはベットエリアに50枚チップを置くので、私は100枚チップを置く。

 次によく切ったカードをツエダに4枚配り、自分の分のカードも4枚取る。

 私の手札は、♡A、♠︎K、♠︎6、♢4。

 ツエダが自分の賭けたチップに50枚上乗せして、お互いの賭け金が揃い、ベットラウンドは次のラウンドに移る。

 

 私は、よく切ったカードをテーブルの上に3枚並べた。

 最初の場のカードは、♣︎A、♣︎K、♡5。

 今度はツエダが100枚チップを賭けたので、私も100枚賭ける。

 

 フロップの賭け金が揃ったので、カードを一枚取ってテーブルに並べる。

 4枚目のカードは、♣︎2。

 ツエダが200枚チップを賭けたので、私も200枚賭ける。

 

 ターンの賭け金が揃ったので、カードを一枚取ってテーブルに並べる。

 最後のカードは、♢A。

 私が手持ちのAとKを使ってフルハウスを作れば、ツエダがそれに勝つにはクワッズ(フォーカード)以上の手を出すしかないけど、Aは私が持ってるから場のカードを3枚使ってクワッズを作るのは不可能だし、ストレートフラッシュも作れない。

 ローハンドでの勝負も、ほぼ確実に勝てる理想手。

 対するツエダも、かなり強い手が入っているようだけど……

 

「う〜ん…じゃあ、オールインさせてもらおうかな」

 

 ツエダは、ニヤリと笑ってチップを全部賭ける。

 よほど強い手が入ってるのね、怖いわ。

 

「……いいわ。受けてあげる。私もオールインよ」

 

 私も、チップを全部賭けた。

 チップは、お互いオールイン。

 次のショーダウンで、4回戦の勝者が決まる。

 

「それじゃあ、ショーダウンといきましょうか」

 

 そう言って私は、自分の手札を公開した。

 

「まずはハイハンドから公開ね。私の役は、AとKのフルハウスよ」

 

 私のハイハンドは、♡A、♣︎A、♢A、♠︎K、♣︎Kのフルハウス。

 オマハのルール上出せるハイハンドの中では、最強の手札。

 だけどツエダは、私の手札を見て焦るどころか、ニヤリと笑って手札を公開した。

 

「奇遇だね〜、アタシと一緒♪」

 

 ツエダのハイハンドは、♠︎A、♣︎A、♢A、♢K、♣︎Kのフルハウスだった。

 ……彼女もAとKを持ってたのね。

 オマハではスートの区別をしないから、この勝負は引き分けね。

 

「……あら。じゃあハイは引き分けね。次はローハンドね。私のハンドは、手持ちの4と6、それと場のA、2、5よ」

 

 私は、自分のローハンドを公開した。

 私のローハンドは、♣︎A、♣︎2、♢4、♡5、♠︎6。

 ツエダが私に勝つには、A、2、3、5、6のローハンドかナッツロー(作り得るローハンドの中で最強のハンドの事。この場合だとA、2、3、4、5)を出すしかない。

 私が勝つ確率の方が高いんだから、オールインするのは当然。

 

「でも……惜しかったわね」

 

 そう言ってツエダは、ニヤリと笑うとローハンドを公開した。

 ツエダのローハンドは、♣︎A、♣︎2、♣︎3、♡5、♡6。

 

 嘘………!?

 私が負けるなんて……

 

「あら、アタシの勝ちね」

 

 ツエダは、頬杖をついてクスリと笑った。

 私はずっとツエダを観察していたけど、彼女はイカサマなんてしてなかった。

 なのに、チップ全額を賭けた大勝負に、私より強いローハンドで勝った。

 

「フルハウスとローハンドを同時に引いた時点で、確実に勝てると踏んだんでしょうけど…甘いわよ。アタシだって、アンタが引いたのがナッツだったら負けてた。博打は、蓋を開けてみなきゃわからないから面白いんでしょう?」

 

 そう言ってツエダは、♠︎Aのトランプを手に取って、私の方へヒュッと投げた。

 

「なかなか楽しかったわ。でも、まだまだアタシの敵じゃないわね♪」

 

 ツエダは、得意げに口角を上げてウインクをした。

 私は今まで、絶対に負けるゲーム以外は、どんなに不利でも予測と技術で勝率を100%に変えて勝ってきた。

 今回だって、最後まで私の計算通りに勝負が進んでいたはずなのに……

 この女、一体何者なの……?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ツエダside

 

《4回戦が終了しました。勝者、ツエダ様》

 

 合成音声が、4回戦の結果を知らせた。

 危ない橋を渡るのはこれで終わり。

 私が引いたのはほぼ負ける事がない手だったけど、不利だったのはむしろ私の方。

 レイカのローがナッツだったら、私は勝ち数が足りずに『げぇむおおばぁ』になってた。

 だけどこの程度のギャンブルなら、カジノでいくらでも経験してきた。

 レイカもなかなか強かったけど、博打じゃ私の方が上手だったみたいね。

 

「負けちゃった……自信あったのになぁ」

 

 レイカは、私の作ったハンドを見て残念そうに項垂れる。

 彼女は負けても次があるのに、何をそんなに一喜一憂する事があるのか。

 ……まあ、気持ちはわからなくもないけど。

 次があるとか関係なくて、勝ったら嬉しいし、負けたら悔しい。

 単純な話だ。

 私は、項垂れているレイカに声をかけた。

 

「アンタ、さてはバカだろ」

 

 私がそう言うと、レイカはゆっくりと顔を上げる。

 

「そんなに勝ちたいなら、イカサマすりゃ良かったじゃん。イカサマがバレても、アンタは次があるんだし…つーか、ハナから『イカサマがバレたら負け』なんて『るうる』にしなきゃ良かった話でしょ?」

 

 レイカは、私との勝負で一度もイカサマをしなかった。

 互いに予測や計算をして何度も試行錯誤して最適な戦略を立てて、最後には運だけが残った。

 正直言って博打じゃ私の足元にも及ばないけど、それでも彼女は、イカサマに頼らず知能と強運だけでここまで食らいついてきた。

 

 イカサマをしていれば、読み合いとか戦略とかクソもなく強引に勝ちを狙いに行けたはずなのに。

 ……まあ、イカサマをしても私がそれを潰して勝つだけなんだけど、皆負けたくないからイカサマやズルを平気でする。

 勝負事じゃ、ズルいとか卑怯とか無くて、それが普通。

 ましてや、命のかかった勝負でイカサマをせずに挑むなんて、私みたいに瀬戸際に立つスリルを楽しみたいだけの酔狂な奴だけだ。

 

 それだけじゃない。

 レイカは、私との勝負だけじゃなく、今までの4回の勝負全て、ズルをせず真剣に挑んでいた。

 2回戦の丁半なんて、やろうと思えばイカサマなんてやりたい放題だったのに、彼女は実力だけでお兄さんを捩じ伏せた。

 

「私は、正しい世界で生きる為に『今際の国』の国民になったの。ズルして生き残るくらいなら、正々堂々戦って散った方がマシよ」

 

 レイカは、何の迷いもなくそう告げた。

 わかんないな、なんでそこまで正しさに拘るんだか。

 

「正しく生きようと必死だね。何がアンタをそうさせるんだか……見てるこっちが息苦しいよ」

 

 私がそう言うと、初めてレイカの表情が曇った。

 レイカは、箱に入った注射器を一本手に取ると、躊躇なく自分の腕に打った。

 当然、レイカは死ななかった。

 

「アン、トリはよろしく」

 

「ええ」

 

 レイカとの対戦を終えた私は、席を立ってアンとバトンタッチした。

 私と入れ替わりで、アンが対戦席に座る。

 

 現状、2勝2敗のイーブン。

 5戦しても脱落者が出なかったら、勝ち数の少ない方が6本目を打つから、実質次の勝負で『げぇむ』が終わる。

 5回戦を控えたアンとレイカは、互いに向かい合って静かに睨み合う。

 

 

 

 げぇむ 『とらいある』

 

 難易度 『♢Q(だいやのくいいん)

 

 1回戦 勝者:『ぷれいやぁ』チーム

 2回戦 勝者:『♢Q(だいやのくいいん)

 3回戦 勝者:『♢Q(だいやのくいいん)

 4回戦 勝者:『ぷれいやぁ』チーム

 

 生存者 6名中6名

 

 

 

 

 




最初の予定では、オマハハイローを『♢10(だいやのじゅう)』にするつもりだったのですが、『るうる』がややこしすぎてついてこられない『ぷれいやぁ』がいそうだと思ったのと、(関西ルール)とはいえ麻雀が『♢J(だいやのじゃっく)』で、日本ではマイナーなオマハが『♢10(だいやのじゅう)』なのは理不尽だと思ったので、『♢10(だいやのじゅう)』はテキサルホールデムにしました。

ブラックジャックに比べて『げぇむ』の難易度設定が高い気もしなくもないですが、クローズドポーカーに慣れてる日本人にとっては戦略を立てづらいのと、1時間以内に自分以外の9人を殺さなきゃいけないのと、カジノでイカサマ師をしてた『でぃいらぁ』が混じってる事などを考えれば、難易度は『♢10(だいやのじゅう)』が妥当かなと。
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