Duchess in Borderland   作:M.T.

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かいさいふつかめ

 『ねくすとすてぇじ』開催2日目。

 昨日、私はアン達と一緒に『♢Q(だいやのくいいん)』を『くりあ』した。

 そして今は、ビルの展望台から望遠鏡で飛行船を見て、『くりあ』済みの『げぇむ』を確認していた。

 

「あ、『♣︎K(くらぶのきんぐ)』落ちてんじゃん。誰が『くりあ』したんだろ」

 

 東京23区を隅々まで望遠鏡で観察すると、昨日まで豊洲の海岸にあった『♣︎K(くらぶのきんぐ)』の飛行船がなくなっている事に気付く。

 私達が『♢Q(だいやのくいいん)』に参加していた間にでも、誰かが『くりあ』したのかしら。

 そういえば、アンはアリス達と別れてきたって言ってたけど……

 ……『くりあ』したの、アリス達だったりして。

 

 残っている『げぇむ』を確認した私は、絵札の『げぇむ』会場の場所を描いた地図を広げて、『♢Q(だいやのくいいん)』と『♣︎K(くらぶのきんぐ)』のマークにバツ印をつけた。

 残っている『げぇむ』は、あと10種。

 

「早ければ今日にでも、誰かが『げぇむ』を『くりあ』するかもな……」

 

 そう言って私は、リュックに入れてきたバナナを一本取り出して、皮を剥いて齧る。

 ……元の世界では、生のフルーツがこんなに美味しいと感じた事なんて一度もなかったわ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 時は遡り、20時間前。

 

「さて…行きますか」

 

 『♢Q(だいやのくいいん)』を『くりあ』した後、『げぇむ』会場を後にした私は、ある場所へ向かった。

 スマホで目的地を確認した私は、路地裏へ行き、壁に設置されていたコントロールボックスを調べる。

 コントロールボックスの中には、指紋認証式の電子ロックが隠されていた。

 

 私が初めて『でぃいらぁ』の存在を確信したのは、『♡5(はあとのご)』の『げぇむ』に参加した時だった。

 『げぇむ』の後、ボーシヤに献上するトランプを回収する為に犠牲者の持ち物を調べていたら、このスマホを見つけた。

 スマホには、元の持ち主がコントロールボックスの中に隠された機械で指紋認証を行い、隠し扉を開けて中へ入っていく様子を記録した映像が残っていた。

 何故こんな映像が『でぃいらぁ』のスマホに残っていたのかはわからないけど。

 

 『ねくすとすてぇじ』が始まる前は、『でぃいらぁ』のアジトが分かっても、私達は手も足も出なかった。

 『でぃいらぁ』の指を切り取って指紋認証をクリアしても、私達が中に入れるのかどうか試すために物を投げたらレーザーで丸焦げになっちゃったし、中に入ろうとした奴はレーザーで撃たれて死んだ。

 アジトの存在がわかったところでどうしようもないって事がわかったから、『ビーチ』で隠し部屋の存在を話題に出した事はなかった。

 でも『ねくすとすてぇじ』が始まった今なら、入れるようになってるかもしれない。

 次の『げぇむ』に参加する前に、試してみる価値はある。

 

 私は、こんな事もあろうかと『でぃいらぁ』の指の型を取って接着剤で作った鍵を指にはめて、電子ロックを解除した。

 だって、電子ロックが指紋認証式だからって、人の指を持ち歩くのは気持ち悪いじゃん?

 電子ロック自体は、死体の指を切り取って解除できるくらいガバガバなセキュリティだから、樹脂で作ったコピーの指紋でも解除できる可能性はあった。

 100均に売ってるお湯で融かすタイプのプラスチック粘土で型を取って、導電率を人間の指に近づける為に導電性インクを混ぜた繊維用接着剤を使って、何十個もサンプルを用意して何度も実験して、電子ロックが解除できる事を検証した。

 試しに隠し扉の中に古い『びざ』のレシートを投げてみても、レーザーが降ってこない。

 

「レーザーが降ってこない…?」

 

 これ、やっぱり『ねくすとすてぇじ』が始まったから、『でぃいらぁ』のアジトに入れるようになったって事?

 意を決して扉の中に入っても、レーザーが降ってこなかったので、懐中電灯で足元を照らしつつ奥へと進んでいくと、管理室のような部屋に辿り着いた。

 ドアを開けると、いの一番に視界に映り込んだのは、レーザーで頭を貫かれて絶命した『でぃいらぁ』の死体だった。

 同じような死体が、部屋の中にいくつも転がっている。

 てかこの部屋臭っ。

 死臭がしてるわけじゃないけど、生臭い。

 ……何の匂いかしら。

 死体を踏まないように間を縫って進んでいると、不意にどこからか声をかけられる。

 

「よぉ、よくここを見つけたな、お姉ちゃん」

 

 そこにいたのは、『ぷれいやぁ』と思われるお兄さんだった。

 お兄さんの足元に転がっている女の死体は、不自然に服をずらされていて、似たような状態の死体がいくつも転がっている。

 ……うっわ、コイツマジかよ。

 

「にしても、ずりぃよなぁ。『でぃいらぁ』だけ冷房のきいた清潔な部屋でフライドチキンやらローストビーフやら美味いもんばっか食ってよ。まぁ、『ねくすとすてぇじ』が始まってから電気系統は全部イカレてっから、食いもんはもう傷み始めてっけど」

 

 そう言ってお兄さんは、デスクの上に広げてあるローストビーフを一枚手づかみで取って食べる。

 よく見ると、『でぃいらぁ』は全員身体を清潔に保たれていて、服もアイロンがけされている。

 栄養のあるものを普段から食べているからか、髪や肌にもツヤがある。

 同じ滞在者なのに、この待遇の差は何なのかしら。

 『でぃいらぁ』にほとんど勝ち筋がない事を考えれば、ある意味イーブンなのかもしれないけど。

 

「アンタはどうやってここを見つけたの?」

 

「ああ、オレは最初から主催者の存在を疑ってたからな。『げぇむ』会場を遠くから見張ってりゃ、主催者が出入りするんじゃねぇかと思ってよ。そんで『でぃいらぁ』をとっ捕まえて指を切り取って、ここに辿り着いたってワケ」

 

 お兄さんは、そう言って袋詰めにした指を服の内ポケットから取り出す。

 うわぁ…この人、死体の指を持ち歩いてるよ…

 

「うっわ、人の指切り取って持ち歩くとか引くわ〜」

 

「人を異常者みてぇに言うなよ。しょうがねぇだろ、電子ロックは『でぃいらぁ』の指紋がねぇと開かねぇんだからよ」

 

「ゼラチンとか接着剤で指紋のコピーでも作りゃあいいじゃん。物によるけど、スマホの指紋認証くらいなら意外と騙せるものよ」

 

「頭良いなお姉ちゃん」

 

「そう?ちなみについさっき『♢Q(だいやのくいいん)』を倒したのはアタシよ」

 

「はは、そいつぁすげぇ………マジで?」

 

 なんて会話をしつつ、私は管理室内をくまなく調べて、電源を復活させられないか試した。

 だけど電子回路の入っているものは全部壊れていて、直しようがなかった。

 

「……ダメね。コンピュータの電子回路が物理的に壊されてる。これじゃ復活のさせようがないわ」

 

 まぁ、『でぃいらぁ』の管理してるコンピュータをハッキングできれば『げぇむ』を止められるかも、なんて馬鹿な期待はしてなかったけどさ。

 別に何かするつもりでここに来たわけじゃないし。

 紙のデータは残ってるけど、書いてあるのは『でぃいらぁ』の名簿とか、今までの『げぇむ』の詳細とかだけで、『ねくすとすてぇじ』の『げぇむ』に関する情報は一切なかった。

 ここに来れば何か情報が掴めるかもって思ったけど…大した収穫は得られなかったわね。

 なんて考えていると、お兄さんが話しかけてくる。

 

「お姉ちゃん、今1人?良かったら、他の奴等が『げぇむ』を全部『くりあ』するまでここにいねぇか?」

 

「は?」

 

「ここはいいぞ〜。ここには食糧もあるし、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』は地上にいる奴等を狩るのに必死で攻めてこねぇ。女もわんさかいるしな」

 

 お兄さんは、思いがけない提案をしてきた。

 確かにここにいれば、食糧は豊富だし、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』に襲われる心配もない。

 『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』は、集団で固まっている地上の『ぷれいやぁ』から先に殺していくだろうから、必然的にここにいる『ぷれいやぁ』は後回しになる。

 地上の『ぷれいやぁ』を殺し終わるまでは、ここに攻めてくる事はないだろう。

 だけど私は、どうも気が乗らなかった。

 

「悪いけど、アタシはパス」

 

「はぁ?何で?」

 

「お生憎様。こんなカビ臭いとこで過ごすのは性に合わないのよ。そんなに『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』が怖けりゃここで1人でオナってな、インキン野郎」

 

 そう言って私は、お兄さんに向かってサムズダウンをする。

 誰がこんなカビ臭い地下で暮らすかっての。

 ここで全部の『げぇむ』が終わるのを待つとか、バカじゃねーの?

 こんな死体だらけで、しかも換気ができないようなとこにいたら、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』に殺される前に死臭と雑菌に殺されるわ。

 あと私、引きこもりのインキン野郎にはキョーミねーのよ。

 

「食べ物だけありがたくいただいていくわね」

 

 私はそう言い残して厨房に行き、食べられそうなものを探してバッグに詰め込んだ。

 肉とかは火を通さないと流石にもう気持ち悪いけど、野菜とか果物とかパンとか、まだ食べられそうなものは結構残っている。

 食べられそうなものが残っててよかった。

 食べ物を確保した今、もうここに用はない。

 寝るとこ探さないとな。

 

 

 

「んしょ……」

 

 『でぃいらぁ』のアジトを出た私は、『♡K(はあとのきんぐ)』の『げぇむ』会場に向かう途中、野宿するのに良さそうな大学のキャンパスを見つけた。

 大学構内には川が流れていて、川の近くにはテントを張れそうな広場があったので、そこにテントを張った。

 寝てる時に『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』が飛んでくるかもしれないから、念の為にテントの周りに罠を張った。

 寝床を確保した私は、アジトで入手した食糧を口にした。

 

「……美味っ」

 

 やっぱ新鮮な食べ物って美味しいわね。

 こんなに食べ物が美味しいって思ったの、3日ぶりくらいだわ。

 腹拵えをした後は、テントの中に敷いたシュラフの中に潜って仮眠を取った。

 

 

 

 それから、どれくらい時間が経っただろうか。

 シュラフに包まって気持ちよく寝ていると、テントの外で突然バンッと破裂音が鳴り響いた。

 

「うぉっ!?」

 

 大きい音に驚いて飛び起きた私は、ほぼ反射的に腰に差した銃を手に取って周囲を警戒する。

 今のは、昨日作ったお手製フラッシュバンが炸裂した音だ。

 寝ている時に奇襲を受けてもすぐに起きて逃げられるように、フラッシュバンを罠に括り付けておいて、誰かが罠を踏んだ瞬間に炸裂するようにしておいたのだ。

 フラッシュバンが炸裂したという事は、誰かが罠を踏んだという事。

 

 テントの外に出て見てみると、近くに仕掛けておいた罠に兎がかかっていた。

 トラバサミにかかった兎は、キーキーと痛そうに鳴きながら、トラバサミから抜け出そうと暴れている。

 トラバサミに噛まれた兎の左脚は変な方向に折れていて、傷口からは肉と骨が露出していた。

 

「ったく、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』用の罠だったのに……人が苦労して作った罠を、よくも一個無駄にしてくれたわね」

 

 せっかく苦労して罠を仕掛けたのに、収穫が兎一匹とはね……

 ……まあ、こんなしょぼい罠に『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』が引っかかるとは思ってなかったけどさ。

 苦労が水の泡になってしまった事にため息をつきつつ、兎を締めて脚を斬り落とした。

 今は食糧が豊富にあるから、別に兎が獲れても嬉しくないんだけどな。

 なんて愚痴を垂れつつ、せっかく撮れた獲物を無駄にするわけにもいかないので、兎を捌いて朝ごはんにした。

 塩胡椒で下味をつけてヨモギと葉山椒で香り付けをして、フキの葉っぱで巻いたものを焚き火にぶちこんで包み焼きにした。

 この包み焼き、お手軽だしどんな食材でも失敗しない調理法だから、重宝していたりする。

 

 結局、寝てる間に『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』は襲ってこなかった。

 運良く私のところを通らなかったか、それか私のところは通ったけど、『げぇむくりあ』を人任せにしている『ぷれいやぁ』の殺戮を優先して、私をスルーしたのかもしれない。

 多分『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』は、私が『♢Q(だいやのくいいん)』を『くりあ』した事も知ってる。

 私が『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』なら、絵札の『げぇむ』を『くりあ』して次の『げぇむ』に参加しようとしてる血気盛んな奴とかは、殺すのを後回しにする。

 そもそも23区内全域が『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の『げぇむ』会場っていう『るうる』だって、『げぇむくりあ』を人任せにする奴を『げぇむおおばぁ』にする為のシステムだろうし。

 

 つーか、孤独ったらありゃしないわ……

 私の馬鹿げた妄想に付き合ってくれる相手も、発散させてくれる相手もいないしよ。

 『ビーチ』にいる時間が長かったからあんまり感じなかったけど、独りってこんなに寂しいのね。

 

 ……そういや、チシヤ何してんだろ。

 アイツの事だから、死んじゃいないだろうけど……

 いや、アイツ割と自分の命を軽く見てる節があるから、案外しょうもない理由で呆気なく死んじゃってたりして。

 なんて考えつつ、焼いた兎を食べているとだ。

 

 

 

「なぁアンタ、ちょっといいか?」

 

「あ?」

 

 突然、チェック柄の服を着て無精髭を生やしたお兄さんが話しかけてきた。

 ビックリした……何、急に。

 『でぃいらぁ』のアジトを出てから人に飢えていた私は、茶目っ気たっぷりに微笑んでウインクをする。

 

「あらお兄さん、イケメンね。何かご用?」

 

「この辺りで、『♢Q(だいやのくいいん)』を『くりあ』した『ぷれいやぁ』を探しているんだ。何か知ってる事があったら教えてくれないか?」

 

「ふぅん……『♢Q(だいやのくいいん)』を『くりあ』した『ぷれいやぁ』か…なんで探してるのかは知らないけど……アンタ、運が良いよ。それ、アタシだから♪」

 

「本当か!?その話、詳しく聞かせてくれないか!?」

 

 私が揶揄うように言うと、お兄さんはすぐに私の話に食いついてきた。

 なんでそんなに、『げぇむ』を『くりあ』した話を聞きたがってるんだか…

 

「ああ、いーよヒマだし」

 

 そう言って私は、懐からキャメルを取り出して火をつける。

 ちょうど、誰かと話がしたいと思っていたところだ。

 

「あ、ちょっと待ってくれ。その前に……」

 

 私が『げぇむ』の話をしようとすると、お兄さんが待ったをかけ、手に持っていたビデオカメラを私に向ける。

 え、撮るの?聞いてないんだけど……

 まあいいや、せっかく撮るなら可愛く撮ってもらいたいな。

 撮影の準備を終えたお兄さんは、ビデオカメラで撮影を始める。

 

「『ねくすとすてぇじ』開催2日目。今日は、絵札の『げぇむ』を『くりあ』した『ぷれいやぁ』に出会った。悪いが、自己紹介頼めるか?」

 

 お兄さんがカメラを私に向けてくるので、私は手を振って自己紹介をした。

 

「はぁ〜い、アタシ、潰田千寿。元AI研究者兼エンジニアの無職で〜す。アメリカから帰国したその日にこの国に迷い込んじゃいました〜。今日で確か……滞在62日目だったっけ?で、昨日『ねくすとすてぇじ』開始早々『♢Q(だいやのくいいん)』を『くりあ』しました〜」

 

「『びざ』のレシートとトランプはあるか?」

 

「え、見せんの?ったく、しょうがないなぁ」

 

 私はズボンのポケットから『♢Q(だいやのくいいん)』のトランプと新しい『びざ』のレシートを取り出して、カメラの前に出す。

 

「はい、ちゃんと見えてる?」

 

「バッチリだ」

 

 私がトランプとレシートを見せると、お兄さんはカメラを近づけたり遠ざけたりしてピントを合わせる。

 

「じゃあ、さっきの話の続きを…」

 

「ああ、『げぇむ』ね。昨日の『げぇむ』は、『♢Q(だいやのくいいん)』の絵札の主との対戦だったわ。ダイスとか、トランプとか、将棋とか……好きなゲームを選んで『Q(くいいん)』と勝負すんの。で、負けた方はビタミン剤か毒が入った注射器を打って、毒で『Q(くいいん)』を殺せたら勝ちって『げぇむ』」

 

「『♢Q(だいやのくいいん)』から話は聞いたのか?」

 

「ええ、聞いたわよ。『今際の国』の国民は、『げぇむ』を作ったり、『でぃいらぁ』に『げぇむ』の指示を出したりしているんですって。今までのクソゲーは全部、アイツらが作った『げぇむ』だったってわけ」

 

「この国の『答え』については?何か言ってなかったか?」

 

「さぁ……聞いたけど、何も教えてくれなかったわ」

 

 私がタバコを吸いながら言うと、お兄さんは落胆したような表情を浮かべる。

 アンは何度も質問を変えてこの国の答えをレイカに聞いたけど、レイカは頑なに答えを言わなかった。

 レイカの事だから、国民の間で『答え』を教えちゃいけないっていう暗黙のルールがあって、それを律儀に守っていたと考えるのが自然だけど、もしかしたら彼女もこの国の『答え』を知らなかったのかもしれない。

 実は誰も、この国の『答え』を知らなかったりして。

 

「それにしても、どいつもこいつも、そんなに『答え』が知りたいもんかね。そんなに『答え』が重要?」

 

「アンタは『答え』を国民から聞き出す為に『げぇむ』に参加したんじゃないのか?」

 

「そうねぇ…『答え』に全く興味がないと言えば嘘になるわね。アタシもアンタと一緒で、くだらない事を考えるのが趣味だからさぁ。この『今際の国』に来たばかりの頃は、この国の事を色々と調べてたよ。でもアタシって飽き性だからさぁ〜。この国の真実を突き止めるのなんて、すぐ飽きちゃった」

 

「だったら、なんで『げぇむ』に……」

 

「言ったじゃん。くだらない事を考えるのが趣味だって。この国の国民は何を考えて『げぇむ』でアタシらを苦しめてるんだろうとか、全部の『げぇむ』を『くりあ』したらどうなるんだろうとか、どうでもいい事ばっかり考えて、その答えを知りたいがばっかりに『げぇむ』に参加してみちゃったりするんだ。……でも、やっぱり一番の理由は、自分が楽しみたいからかな」

 

 私が煙を吐きながらそう言うと、お兄さんは呆れたような表情を浮かべる。

 こんな奴に聞いた俺がバカだった、とでも言いたげな顔だ。

 お兄さんは、ため息をついて失望したように言葉を放つ。

 

「理解できない状況を前に思考停止して、惰性で生きてる人間にはわかんねぇか……」

 

「は?」

 

「アンタは、何も分かってない!この国の『答え』を知る事の意味を──」

 

「自分の為でしょ?」

 

 私はお兄さんの言葉を遮って、ハッキリとそう言った。

 お兄さんが「違う」と否定する前に、続けて言い放つ。

 

「アンタさぁ…この国の『答え』を探す事が崇高な使命だって勘違いしちゃってるようだけど……()()()()()を知ってどうするの?この世界で絶望している『ぷれいやぁ』の心を救いたいの?死んだアイツの無念を晴らしたいの?元の世界に帰って、この国の真実を、1人でも多くの人に知らせたいの?……どれも違うね。本心は、『答え』らしきものを見つけて、自分を納得させたいだけでしょう?アタシは『答え』を知らないし、探す気も起きないけど…アンタがなんでこんなバカバカしい問答を続けてるのかだけは、わかってるつもりよ」

 

 そう言って私は、サッポロ黒ラベルの缶を開けてぐいっと飲み干す。

 インタビュー中に脳天気に酒を飲みながら好き勝手語る私にお兄さんは不満そうな顔をしつつも、図星だったのか、何も言い返せずにいた。

 

 私はコイツの事を何も知らないけど、ただひとつだけ、コイツ自身以上に知っている事がある。

 コイツがここまで『答え』に拘る理由なんて、考えるまでもない。

 死んだ人達の為でも、この国で絶望している『ぷれいやぁ』の為でも、元の世界で帰りを待つ人の為でもない。

 ただただ、自分が目の前の現実を受け入れられない、受け入れたくないから、自分を納得させられる理由が欲しいだけだ。

 納得できる理由がなきゃ理不尽な現実に耐えられない、生物としての欠陥品。

 私の言葉を否定できずに黙り込むお兄さんを見ていたら、なんだか可哀想になってきたので、少しだけ知ってる事を教えてあげる事にした。

 

「あ、そうそう。いい事教えてあげましょうか。この国の国民は、前回の『ねくすとすてぇじ』を生き残った『ぷれいやぁ』よ」

 

「何だって…!?『♢Q(だいやのくいいん)』が、そう言ってたのか!?」

 

「『♢Q(だいやのくいいん)』に勧誘されたのよ。アンタも全部の『げぇむ』を『くりあ』したら国民になれってさ」

 

 私は、レイカから聞いた話をお兄さんに話した。

 国民の『ぷれいやぁ』との最大の違いはおそらく、『びざ』が発行される事なく永遠にこの国で暮らせる『永住権』。

 彼女の言葉を素直に受け取るなら、この国にいる『ぷれいやぁ』は全員、『ねくすとすてぇじ』を生き延びたら自動的に永住権を獲得するって事になる。

 だけど彼女の発言は、どうも()()()()だけが国民になれるというニュアンスを含んでいた。

 もし、国民になる事を望まない人には、別の結末が待っていたとしたら…?

 ……おっと、ここまで話すのは野暮ね。

 命懸けの『げぇむ』を生き延びたのに、タダで情報を全部やる程私もお人好しじゃない。

 

「アタシから話せるのはここまでよ」

 

 そこまで話すと、お兄さんが撮影をやめようとした。

 私はお兄さんがカメラを構えているうちに、咄嗟に口を開いた。

 

「菱川玲香」

 

「………え?」

 

「アタシが倒した『Q(くいいん)』の名前。元の世界では内科医をしていたそうよ。元の世界の地位や法律に囚われないこの世界が好きだって言ってた。もしどっかで彼女の知り合いに会ったら、伝えといてくれないかな……レイカは最期まで、この世界で悔いのないように戦ったからって」

 

 私は最後に、お兄さんにレイカの話をした。

 私がこんな話をするのは、彼女に対する同情でも、彼女を死なせた事に対する罪滅ぼしでもない。

 誰でもいいから、ただ一人でも、彼女がこの国で生きていたって事を、誰かに知ってほしかった。

 私が話すと、お兄さんは、しばらく黙り込んでから口を開く。

 

「……ああ、わかった。伝えておくよ」

 

「ありがと。そういや…アンタ、まだ名前聞いてなかったわね」

 

「亀山海斗…仲間内じゃ、『ウミガメ』って呼ばれてたよ」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ウミガメと話した後、私はテントを畳んで大学を後にした。

 そのままひたすら南へ移動して、『♡K(はあとのきんぐ)』の『げぇむ』会場へ向かう。

 通り道の中野区で眺めの良さそうな展望台を見つけたので、23区内の飛行船を確認した。

 ちょうど今、『♣︎K(くらぶのきんぐ)』が昨日か今日のうちに落ちた事を確認したところだ。

 

「……よし、行くか」

 

 さーてと、そろそろ『♡K(はあとのきんぐ)』を倒しに行くか。

 私が『くりあ』してやらなきゃ、永遠に終わらなさそうだし。

 絶望してウジウジしてる軟弱どもの為に、お姉さんがひと肌脱ぎますか。

 つっても本音は、私が楽しみたいだけなんだけどさ。

 

 

 

 ───今際の国滞在62日目

 

 残り滞在可能日数

 

 潰田千寿 55日

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒーロside

 

 『ねくすとすてぇじ』開催2日目、午後11時。

 私とジュンさんは、『げぇむ』の支度をしていた。

 次の『げぇむ』に備えて、できるだけ動きやすい格好に着替えて、武器になりそうなものを色々とかき集める。

 私達がこれから挑むのは、絵札の『げぇむ』だ。

 これまでみたいに丸腰ってわけにもいかない。

 

 私はタンクトップとショートパンツ、陸上用のスパイクシューズを身につけて、腰には救急セットを入れる為のポーチをつけた。

 ジュンさんには、露出が多すぎて目のやり場に困るだの、怪我したらどうするだの言われたけど、走る時は軽くて空気抵抗がない服の方がいいんだけどな……

 

 一方でジュンさんは、ミリタリー系の服の上に防弾チョッキを着て、銃をいくつも装備している。

 警察署から集めてきた銃の手入れをしていたジュンさんは、何度もため息をついて手を震わせていた。

 

「ジュンさん、大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ……悪い……」

 

 私が声をかけると、ジュンさんはふぅっと息を吐いて整備の手を進めたけど、顔色はあまり良くなかった。

 私の処置が功を奏したのか、足の痛みはもう無いようだけど、多分問題はそんな事じゃない。

 

 絵札の『げぇむ』はきっと、今までの『げぇむ』とは難易度も桁違い。

 それに私達がこれから参加するのはよりによって、絵札の『げぇむ』の中でも、多分危険な部類の方に入る『げぇむ』だ。

 他にも『げぇむ』会場はあったけど、一番近いのがそこだったし、私達の得意なジャンルを考えれば、そこ以外に選択肢はなかった。

 

「よし、終わったぞ。ヒーロちゃんも持っとけ」

 

「ありがとうございます…でも私は、ナイフを持って行こうと思います。身軽な方がいいので…」

 

「そっか…」

 

 私が腰にナイフを差すと、ジュンさんは少し残念そうな顔をする。

 申し訳ない事しちゃったかな…

 でも銃って意外と重いし、走る時邪魔になりそうだからなぁ…

 私、銃はからっきしだし、むしろ錘になっちゃいそう。

 なんて思っていると、日付が変わるまで残り30分を切った。

 

「もうすぐ日付が変わる…」

 

「行きましょう」

 

 『げぇむ』の準備を終えた私とジュンさんは、『げぇむ』会場に向かって歩き出す。

 顔を上げると、『げぇむ』会場の真上に浮かんでいる飛行船の下には、私達がこれから参加する絵札の『げぇむ』……『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』のタペストリーがはためいていた。

 

 

 

 

 ───今際の国滞在13日目

 

 残り滞在可能日数

 

 大木場柊色 13日

 

 

 

 『ねくすとすてぇじ』開催2日目

 

 『げぇむ』 残り10種

 

 『ぷれいやぁ』 残り211人

 

 

 

 

 




せっかくなのでウミガメをオリ主と絡ませました。
ちなみにオリ主が野宿した大学のモデルは、武蔵大学江古田キャンパスです。
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