Duchess in Borderland   作:M.T.

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やっと原作キャラが出てきます。
ここまで長くてすまんな。





びいち(1)

 滞在2日目。

 早朝に目を覚ました私は、川で身体の汚れを洗い落とした。

 昨日『びざ』切れで死んだおじさんと寝たし、血を浴びたし、血と汗で身体がベトベトだったから、いい加減綺麗に洗い流したかった。

 たまたま見つけたのが綺麗な川でよかった。

 本当はシャワーとか浴びたかったけど、無いものはしょうがない。

 

 おじさんから得られた情報は、ここに来たばかりの私にとってはとても有益なものだった。

 『げぇむ』は毎日午後6時から、東京23区内のあらゆる場所で開催される事。

 『びざ』は『げぇむ』の難易度に応じて発行され、トランプの数字は『げぇむ』の難易度を示していて、『げぇむ』の難易度が高ければ高いほど、得られる『びざ』の日数も多い事。

 『げぇむ』会場にだけは電気やガス、水道が通っていて、『げぇむ』内容によっては新鮮な食べ物にもありつける事。

 『今際の国』での滞在期間は最長で2週間程度、それよりも前に入国している滞在者はいまだに見つかっていない事。

 この『今際の国』では、7月の日付がループしていて、7月31日の次の日は7月1日に戻る事。

 ダメ元で知ってる情報を聞き出してみたけど、まさかここまで色々知れるとは思わなかった。

 ありがとう、名前も知らないおじさん。アナタの事は忘れない。2日ぐらいは。

 

 川で身体を洗った後は、昨日手に入れた服に着替えた。

 今日の服は、昨日と同じようなチューブトップと、ローライズのジーンズの組み合わせにしてみた。

 

 テントに戻ると、『げぇむ』の賞品で手に入れた猟銃が目に留まる。

 早速猟銃を試してみたくなって、より草木が生い茂っている方へと足を運んだ。

 こう見えても私、高校の頃にクレー射撃をやってたのさ。

 

 東京都内のはずなのに、兎や鹿がそこら中にいて、カサカサと木の葉が揺れる音を立てている。

 狙えそうな獲物を探していると、上の方でバサバサっと音が聴こえた。

 見上げてみると、見た事ない茶色の野鳥が電柱にとまっていた。

 

 何あれ、キジ…じゃないよね?

 私には気付いていないみたい。

 私は、音を立てないように慎重に猟銃を構えて、電柱にとまっている野鳥を狙った。

 狙いを定めて野鳥の頭を撃つと、野鳥はバタバタと翼を動かしてヨロヨロと飛び立ち、そのまま地面に落ちた。

 

「よし、当たった」

 

 やった、朝ごはんゲットだぜ。

 しかもヘッドショットで仕留めたから、肉が全部食べられる。

 

 私は、撃ち落とした野鳥の血抜きをしてからテントに持ち帰って、昨日本屋から調達した本を頼りに野鳥を捌いた。

 図鑑で調べてみたら、ヤマドリっていう日本にしかいない鳥らしい。

 本にはすごく美味しいって書いてあったから、どんな味がするのか楽しみだわ。

 

 まずは羽根を毟り取って、翼の関節を外し、関節が外れた部分にナイフを入れて翼を削ぎ落とす。

 皮を剥いで、脚の関節を折って切り離し、首を切り落としたら、スーパーで売られているローストチキン用の丸鶏そっくりの見た目になった。

 腹を裂いて内臓を取り出し、肉と骨に切り分けたら、下処理は完了。

 モモとムネは塩焼きにして、残りの肉はガラでダシをとったスープに入れて、コンビニから持ってきた調味料で味を整えて鍋にした。

 

「…うん、美味い」

 

 野鳥の肉を捌くのなんて初めての経験だったけど、特に大きなトラブルもなく、美味しい焼き鳥と鳥鍋を作れた。

 やっぱり天才なのかもしれない、私って。

 なんて冗談はさておき、やっぱり新鮮な肉を食べると生きてるって実感するものね。

 昼は魚でも釣りにいこうかしら。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その後、昼時まで人がいそうな場所を探してみたけど、ビックリするくらい誰にも会わなくて、情報収集の為の散歩は無駄骨で終わってしまった。

 初日に他の滞在者から情報を入手できたのは、運が良かっただけなのかもしれない。

 その滞在者も、『びざ』切れで死んじゃったんだけど。

 やっぱり、『げぇむ』が始まるのを待つしかないのかしら。

 はぁ…孤独ったらありゃしないわ。

 

 どれだけ歩き回っても人に会えないとわかったので、今度は図書館で情報収集をした。

 医学書、地図帳、図鑑、サバイバル術や狩猟の本、とにかく役に立ちそうな本を片っ端から集めて読んだ。

 幸い、知識を溜め込む時間なら腐るほどあった。

 

 図書館で釣りの本を調達してやり方を覚えた後は、昼ごはんの食材を手に入れる為に、アウトドアショップで手に入れた釣り竿を使って、河川敷で釣りをした。

 河川敷に座り込んで魚が釣れるのを待っていると、後ろから足音がした。

 

「君、1人かい?」

 

 声をかけられて、振り返って見上げると、細い目をした背の高いお兄さんが後ろに立っていた。

 お兄さんが私の隣に座ったので、話を聞いてくれるものだと思って、私は今までの事を話し始めた。

 

「…ええ。昨日ここに迷い込んできたばかりなの。せっかく『げぇむ』を『くりあ』したのはいいけど、全然人に出会えなくてね…しょうがないから、まずは今日のご飯を確保しようと思って」

 

「そうか…君は強いね」

 

 私が話すと、お兄さんは優しく微笑んだ。

 私に声をかけたお兄さんは、ワイシャツとスラックスを身につけていて、身体に傷は負っていなかった。

 多分、初日に引いた『げぇむ』が身の危険の少ない『げぇむ』だったんだと思う。

 お互い初日で体力ゲーを引かなかったのは、運が良かったのかしらね。

 

「でも、いつまでこんなところにいなきゃいけないのかしらね。アタシ達、このまま死ぬまでここで『げぇむ』をやり続けるしかないのかな」

 

「君は、元の世界に戻りたいのかい?」

 

「……どうかしら。正直、自分でもわからないの」

 

 自分から死ぬつもりは全くないけど、何の為に生かされているのかわからなくなってくる。

 ただただ生きてる実感が欲しくて、今際の際に身を置きたがっている自分がいる。

 仮にいつかは元の世界に戻れたとしても、そもそも私は元の世界に戻りたいのか、自分でもわからない。

 そう思っていると、だ。

 

 

 

「逆境に、屈する必要なんかねーぞ!!」

 

 後ろから、男の声が聴こえた。

 私の目の前には、金髪を逆立てライオンを思わせる風貌のお兄さんが立っていた。

 

「『今際の国(ここ)』に希望がないなら、テメェ自身で創ればいい!オレ達に、ついて来い!!」

 

 彼の後ろには、坊主頭のガタイのいいお兄さん、黒い服を着た細身のお兄さん、長いブロンドの髪を三つ編みカチューシャにしたお姉さん、そして眼鏡をかけたお兄さんが立っていた。

 眼鏡のお兄さんと目が合うと、彼は咄嗟に私から目を逸らした。

 

「……?」

 

 あれ?

 私、何かやっちゃいました?

 なんて思っていると、細目のお兄さんが口を開く。

 

「あぁ…そういえば紹介がまだだったね。僕はマヒル。彼等は僕の仲間…かな。君は?」

 

「ツエダ。潰田千寿よ」

 

 細目のお兄さん、マヒルが名前を聞いてきたので、私は自分の名前を名乗った。

 これが、ボーシヤ、アグニ、ニラギ、アン、マヒル、そしてクズリュー…──後に『ビーチ』と呼ばれるグループの中心となる6人との出会いだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ボーシヤから勧誘を受けた私は、『ビーチ』に連れて行ってもらえる事になった。

 『ビーチ』に向かう途中、私はさっきクズリューに視線を逸らされたのが気になって、思い切って訊いてみる事にした。

 もしかして、前に一度会った事があったりする…?

 

「あのさ…クズリュー、だったよね。どこかで会った事あったっけ?」

 

「いや…会ってないよ。人違いじゃないかな」

 

「……そっか」

 

 うーん、前にどこかで会ってるような気がしたんだけどな。

 まあ、会ってないならいいや。

 

「着いたぞ!ここが『ビーチ』だ!」

 

 私は、世田谷区の多摩川沿いにあるリゾートホテル、『多摩パシフィックビーチ』に連れて来られた。

 私はそこで、信じられないものを目の当たりにした。

 

「明かりがついてる…!?」

 

 ホテルには、『げぇむ』会場でもないのに明かりがついていた。

 それだけじゃない。

 蛇口の栓を捻ると、蛇口からは綺麗な水が出た。

 

「どうだべ、驚いたか!?昨日皆で夜なべしてインフラを整えたんだ!」

 

「電気はガソリンで動く発電機から、水道は川のポンプから、ガスはプロパンガスのボンベから供給しているわ」

 

 ボーシヤが得意げに言うと、アンがこのホテルのインフラについて説明してくれた。

 これを、この6人で全部整備したって事…?

 滞在者がインフラを整えている可能性は考えてはいたけど、まさかここまでとは…

 

「…凄いわね。でも、どうしてここまでして…」

 

「ガンジーは言った!『テメェが見たいと思う世界の変革に、テメェ自身がなれ』ってな!この国でビビってる奴等の為に、ここに『理想郷(ビーチ)』を作るんだよ!」

 

 『ビーチ』…か。

 何か面白そう。

 これから人がたくさん集まるなら情報が手に入るかもしれないし、どうせこの後の事は何も決めてなかったし、しばらくはここにいようかしら。

 

「面白そうね。私も混ぜてくれる?」

 

「あぁ、もちろん!お前も、今日から『ビーチ』の仲間だ!」

 

 私がボーシヤに話しかけると、ボーシヤは私を快く歓迎してくれた。

 するとアグニが前に出てきて、私に話しかけてくる。

 

「ツエダっつったな。お前にも手伝ってもらう事が山ほどある。お前は何ができる?」

 

「そうね、できない事以外なら何でもできるわ。手伝える事があったら何でも言って?」

 

「何だそりゃ」

 

 私がアグニに微笑みかけると、ニラギが私を小馬鹿にしたように笑った。

 その日から、私は『ビーチ』の一員として、このホテルで暮らす事になった。

 私は、『ビーチ』の要であるインフラのメンテを任された。

 専攻は人工知能研究だけど、大学で機械工学科の実習も参加してたし、機械いじりはそこそこ得意分野だ。

 

 

 

「よいしょ…っと」

 

 早速仕事を振られた私は、発電機の燃料として使うガソリンの携行缶を、地下の機械室に運び込んだ。

 機械室では、ニラギが発電機のメンテをしていた。

 彼の元の世界での職業はゲームエンジニアで、私とできる事が似てるからか、『げぇむ』の時以外は一緒に行動する事になった。

 

「ねぇニラギ。今晩アタシと一緒にどう?」

 

「あ?」

 

「ほらぁ、男と女が夜にやる事といえば、ひとつしかないでしょ?」

 

 発電機のメンテ中、ニラギの顎に左手を添えて誘ってみた。

 『ビーチ』で暮らすのはいいんだけど、ストレスは適度に発散しないとね。

 誘ったのがニラギである理由は特にないんだけど、強いて言うなら、一番ノリが良さそうだったから。

 あとは、一目見た瞬間からちょっとだけシンパシーを感じたってのもあるんだけど。

 するとニラギは、一旦作業の手を止めて、私をチラッと一瞥してから口を開いた。

 

「お前、歳いくつだ?」

 

「29♡」

 

「ちなみにオレ、ババァに興味ねぇから」

 

「…………は?」

 

 ニラギに冷たくあしらわれて、ピキッと顳顬に青筋が浮くのが自分でもわかる。

 私、まだギリギリ20代だし。

 ババァって歳じゃないもん。

 

 ちなみに後で聞いた話だけど、ボーシヤとアグニは私より歳下らしい。

 てっきり歳上かと思ってたよ…お姉さんビックリ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 この日も、日没後に『げぇむ』が開催された。

 『びざ』はまだまだあるけど、情報収集という意味でも、今夜は『ビーチ』の皆と一緒に『げぇむ』に参加した。

 お互い何ができて何が出来ないのかは把握しておきたいし。

 

 今日の『げぇむ』の難易度は『♣︎8(くらぶのはち)』。

 場所はショッピングモールで、『げぇむ』の内容は『おつかい』。

 7〜8人でチームを組んで、チームに1つずつ配られたメモ帳に書かれた品物をショッピングモール内から探し出して、先に全部の品物を集めたチームが『げぇむくりあ』、という内容だった。

 

《こんぐらちゅれいしょん。げぇむ『くりあ』》

 

 私達が『くりあ』条件を満たした次の瞬間、『げぇむくりあ』を知らせるアナウンスが鳴った。

 私は、『げぇむ』で助けてくれたボーシヤとアグニにお礼を言った。

 

「…ありがとう、2人とも。おかげで助かった」

 

「…先に助けられたのはオレの方だ」

 

「そういうこった。こういう時はお互い様だべ?」

 

 私が改めてお礼を言うと、アグニは素っ気なく、ボーシヤは陽気に返した。

 私達の『くりあ』が確定した瞬間、相手チームは『げぇむおおばぁ』が確定してレーザーで撃ち抜かれた。

 有能な参加者がいれば『ビーチ』に誘うつもりだったけど、殺し合わなきゃいけない『るうる』だったから、結局この日の収穫はゼロで終わった。

 昨日の『♢10(だいやのじゅう)』といい、何で私がやる『げぇむ』って、生存枠が限られてる『げぇむ』ばっかりなのかしらね。

 尤も、私みたいに人が死んでも何とも思わない奴が殺し合いの『げぇむ』を引いてラッキーだった、という考え方もできるのかもしれないけど。

 

 

 

「………ふぅ」

 

 『げぇむ』が終わった後、私達は『ビーチ』に戻って皆で夕飯の支度をした。

 屋外のプールサイドにバーベキューコンロを設置して、『げぇむ』で手に入れた新鮮な食材を焼いた。

 パチパチと油が弾ける軽快な音が聴こえ、芳ばしい煙が上がり、熱気で汗が湧き出てくる。

 本場のバーベキューとはかなり違うけど、大人数でコンロを囲んで屋外焼肉をするのも悪くはない。

 私がタオルで汗を拭いながら肉を焼いていると、アンがビールを手渡してくれた。

 

「お疲れ様」

 

「ああ、ありがとう」

 

 私は、アンにお礼を言いつつ、ビールを受け取った。

 こっ、これは…!!

 

 キンキンに冷えてやがるっ………!

 あ‥‥ありがてえっ……!

 

「かぁ〜っ!」

 

 涙が出るっ…!

 犯罪的だっ………!

 うますぎるっ………‥!

 労働のほてりと……‥コンロの熱気で…暑苦しい身体に‥‥3日ぶりの冷えたビール‥‥!

 染み込んできやがる…‥‥!身体にっ‥‥!

 

 私が感動の涙を目に浮かべながらビールを飲み干すと、アンが私を見てクスッと笑った。

 何がそんなに面白いんだろうと思っていると、アンがサングラスを外しながら話しかけてきた。

 

「今まで女は私1人だったから、あなたが来てくれて嬉しいわ」

 

「そう?」

 

「ここでの生活には慣れた?」

 

「ええ。とっても楽しいわ」

 

 そう言って私は、乾杯の代わりに自分のグラスを目線の高さまで上げた。

 私がウインクしながら「Cheers!」と掛け声をかけると、アンも目線の高さまでグラスを上げた。

 そうこうしているうちに、肉が焼けた。

 育てていた肉を箸で掻っ攫い、レタスで巻いてタレをつけたものを一口で食べる。

 

「ん〜」

 

 噛み締めた瞬間に、肉汁がじゅわっと口いっぱいに広がる。

 そこへ、ビールを口に流し込む。

 

「はぁ〜っ、たまんないわぁ」

 

 ビールの爽やかな苦味と炭酸の刺激で肉の脂っこさが中和されて、さらに次が欲しくなる。

 さらに私は、ちょうど焼けたばかりの焼き鳥の串を掴んで齧り付く。

 これは酒が進むわぁ〜!

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ふぁぁ…ねむっ」

 

 食事の後、ホテルの近辺を散策してみたら、ラッキーな事に整備すれば使えそうなバイクが何台かあった。

 善は急げという事で、新しいパーツを掻き集めて、停まっていたバイクを夜なべして整備した。

 ちなみに私が今整備しているバイクは、CB400SF HYPER VTEC Revo(NC42)。

 ネイキッドスタイルでお馴染み、ホンダ・CB400スーパーフォアの最新モデルだ。

 ホンダ繋がりでいえば、高校の頃はレブルによく乗ってたし、何ならビギナー向けのバイクといえばレブルだったけど、日本じゃ排ガス規制に引っかかってとっくに販売終了してるのよね。

 まあ、大学に上がってハーレーに乗り換えてからは、乗る機会はほとんどなくなったけど。

 

 ……閑話休題。

 汚れてもいいように暗い色味のタンクトップとカーゴパンツに着替え、肩にかからない長さの髪を首の後ろで一つに結んだ私は、古くなって錆びついたパーツを一通り交換し、最後にバッテリーの交換をした。

 『今際の国(ここ)』じゃ車もバイクも全部使えなくなってるから、足として使うには古くなったパーツやオイルを交換しなきゃならない。Shit.(クソが)

 私がバイクの整備をしていると、発電用の燃料を取りに来たマヒルが話しかけてくる。

 

「それ、もしかして君が整備したのかい?」

 

「まあね。いつ誰が『げぇむ』で怪我して歩けなくなるかもわからないから、使える足は少しでも増やしておこうと思って」

 

 マヒルが私の整備したバイクを指差しながら尋ねるので、私はタオルで汗を拭いながら答える。

 車の整備ができれば話は早かったんだけど、生憎車の整備は不勉強だし、女一人で整備するのは流石にキツい。

 多分これから人が増えるだろうし、車の整備士も探さないとね。

 整備士に会える確率で考えれば、『♠︎(すぺえど)』か『♣︎(くらぶ)』の『げぇむ』が開催されそうな『げぇむ』会場を中心に探すのが一番早いかしら?

 車の整備って肉体労働だし、体力に自信があるなら『♠︎(すぺえど)』か『♣︎(くらぶ)』を狙うハズ。

 ……『げぇむ』で怪我したから『♠︎(すぺえど)』や『♣︎(くらぶ)』を避けてるとか、単にそこまで頭が回ってなくて適当に会場を選んでるとかじゃなければいいけど。

 

「ボーシヤも言ってたじゃない?ここに『理想郷(ビーチ)』を作るんだって。理想に近づく為に何ができるのか、アタシなりに考えてみたの」

 

「君は、どうしてそこまでするんだ?」

 

 マヒルが尋ねると、振り向きながら乾いた唇をペロッと舐め、そして答えた。

 

「決まってるでしょ?面白いからよ」

 

 私がそう言うと、マヒルがワンテンポ遅れて笑う。

 マヒルと話しているうちに、整備が終わった。

 

「よし、終わった。ねぇ、悪いけど運ぶの手伝ってくれない?」

 

 ぱちっと左眼でウインクしてマヒルにお願いすると、マヒルは快く引き受けてくれた。

 幸い、ガソリンスタンドからホテルまではそこまで遠くない。

 とりあえず、直近で使う予定がある二機を、私とマヒルの二人でホテルへと運んだ。

 マヒルには、先に整備しておいたエストレヤを運んでもらった。

 アンもバイクに乗れると聞いたので、女子でも乗りやすいバイクから先に整備したのだ。

 

 私達がホテルに戻ると、クズリューが知らないお姉さんをボーシヤに紹介していた。

 綺麗な黒髪ロングの美人なお姉さんだ。

 やり取りを遠目で見ている限り彼女ではなさそうだし、多分さっき会った滞在者とか、そんなところだと思う。

 

「あら。クズリュー、知り合い?」

 

「あぁ…さっき偶然会ってね」

 

「ミラよ。よろしく♡」

 

 クズリューがミラを紹介すると、ミラはクスッと私に微笑みかける。

 ハイライトのない瞳で妖艶な笑みを浮かべる彼女に、底の知れない不気味さを感じたけど、せっかく来てくれたのだから快く歓迎しようと思う。

 ガールズトークができる仲間が増えるのは嬉しいし。

 

「はじめまして、ミラ。アタシはツエダよ。これからこれで使えそうなものを調達しに行くんだけど、一緒に行かない?」

 

「お誘いは嬉しいけど、私バイクに乗った事ないの」

 

「アタシの後ろに乗せるから大丈夫よ」

 

「そう…じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかしら♡」

 

「アンも一緒に行きましょ?せっかくミラが来てくれたし、女子会って事で」

 

「……ええ、そうね」

 

 私は、物資調達兼女子会という名目で、ミラとアンをツーリングに誘った。

 一昨日イケてるアパレルショップを見つけたんだけど、歩いて行くと遠いからね。

 ミラを後ろに乗せて、盗んだバイクで渋谷へと走り出した。

 

 私が一昨日見つけたアパレルショップに行って、三人でガールズトークに花を咲かせつつ、『ビーチ』で着る服を選んだ。

 メンズの服も充実していたので、ウチの男衆にも服をプレゼントする事にした。

 『げぇむ』用の動きやすい服と、普段のオシャレ用の服、両方選んだ。

 ボーシヤとアグニはアウトドア系、クズリューとマヒルは襟付きの方がいいかな。

 ニラギは…とりあえず黒けりゃいいでしょ、しらんけど。

 

 男衆の服を選んだ後は、掘り出し物があるかもしれないと思い、店の奥の在庫を探してみた。

 するとパリコレとかに出てきそうな、アヴァンギャルドな衣装が出てきた。

 何だこれは…そもそも服なのか?

 何食って生きてたら、こんなぶっ飛んだデザインの服を作れるのかしら。

 

「ねえ見てこれ」

 

 私は、衣装を引っ張ってきて二人に見せた。

 二人は少し驚いたような表情を浮かべていて、アンに至っては完全に引いている。

 

「あなた、どうしたのそれ?」

 

「店の奥にあったの。これ作った人の頭の中を見てみたいわ」

 

「確かにね」

 

 私がアンの質問に答えつつ率直な感想を言うと、ミラがクスッと笑った。

 服を選んだ後は、せっかくホテルに広いプールがあるので、水着も選ぶ事にした。

 季節が7月だからか、店内には選びきれないくらいたくさんの種類の水着が置いてあった。

 もし『今際の国』に来なければ、今頃遊び盛りの平成ギャルで店内が賑わっていたのかしらね。

 

「〜♪〜♫」

 

 私は、鼻唄混じりに店にある水着を物色した。

 個人的はだけど、アンは背が高くてスタイル良いからショートパンツタイプのビキニが、ミラは暗めの色味のパレオで上品にまとめるのが似合うと思う。

 って、いかんいかん。

 人の事より、自分のを選ばないと。

 なんて考えつつ、私が水着を選んでいるとだ。

 

「あなたは私達と似ている。時が来たら、()()()()を選ぶといいわ」

 

 不意に後ろから、ミラに話しかけられたような気がした。

 

「何か言った?」

 

「…いいえ。こっちの話」

 

 私が振り向くと、ミラは何でもないとでも言うように笑った。

 花が美しく咲くのは虫を誘き寄せる為だ、という俗説を聞いた事がある。

 彼女の第一印象は、どこか底知れない感じがして不気味という印象だったけど、蓋を開けてみれば、第一印象の不気味さが嘘のように親しみやすかった。

 自分で誘っておいて言うのも何だけど、会ってすぐにこんなに仲良くなれるなんて思ってなかった。

 今まで怖いものなんてこの世に何一つないと思ってたけど、自然と私達の間に溶け込んできた彼女を、ほんの少しだけ怖いと感じた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 一通り服を選んだ私達は、カバンの中に大量に詰め込んだ服や使えそうな雑貨を持って『ビーチ』に戻った。

 荷物を下ろし終えた後は、アパレルショップで選んだ服を男性陣にプレゼントした。

 アンはボーシヤとマヒルに、ミラはクズリューに、そして私はアグニとニラギに見繕った服を渡した。

 

「はい、こっちはアグニの分」

 

「…ああ」

 

「んで…はい、ニラギ。こっちはアンタのね」

 

「おい。オレのだけバカの一つ覚えみてぇに黒ばっか選んでんじゃねぇよ」

 

「はいはい、着られるんだったら何だっていいでしょ」

 

 文句ありげなニラギを華麗にスルーし、選んできた服を半ば強引に押しつけた。

 炎天下の中わざわざ選んできてやったんだから、文句言うな。

 

 その後ミラの提案で、せっかく服を選んできたから皆でファッションショーをしようって話になって、選んだ服をお披露目する事になった。

 私は…服どうしよっかな。

 プールがあるからって事で水着を選んだし、新しい水着で野郎どもをいっちょ悩殺してやりますか♪

 

 

 

「ねぇ、どう?水着着てみたんだけど。男子って、こういうの好きなんじゃナイ?」

 

 新しい服に着替え終わって、プールサイドに行くと、既に男性陣が着替え終わって待機していて、テーブルにはお酒やおつまみが並んでいた。

 私はニラギの前で、腰に手を当てて自分で一番セクシーだと思うポーズをした。

 

 ちなみに私の格好は、レオタードにも見える紺の競泳水着の上に、ローライズのタイトジーンズ。

 水着がかなり鋭角のハイレグだから、ウエスト部分の素肌が露出している。

 今の私の格好は少佐スタイルさ。

 靴はハイヒールのサンダルだけどネ。

 

 どうだいニラギ君、興味無いとか言ってたけど、本当は気になるんじゃないのかね?

 昨日私を雑にフッた事を後悔させてやら──

 

「調子乗んなババァ」

 

「よしお前、後でコロス」

 

 またもやニラギに冷たくあしらわれた私は、ピキッと顳顬に青筋を浮かせた。

 はぁ〜、歳上に対するリスペクトがまるでなってねぇわ、コイツ。

 まあここでは私の方が後輩だし、リスペクトもクソもないんだけど。

 私がニラギの態度に苛つきつつもタバコに火をつけたその時、アンとミラがプールサイドに顔を出した。

 

「お待たせ♡」

 

 ミラは、妖艶な笑みを浮かべながら私達の前まで歩いてきた。

 アンはショート丈のブラウスとホットパンツを、ミラは黒のワンピースを着ている。

 二人とも系統の違う美人って感じで推せますな、えへへ。

 

 

 

「それじゃあ、『ビーチ』の新しい仲間を歓迎して、乾杯!」

 

 ボーシヤの掛け声と共に、グラスを手に取って高く掲げる。

 私は、グラスに入ったドンペリ・ゴールドを一気に飲み干し、鼻に抜けるフルーティーな香りと軽快な口当たりを楽しんだ。

 ヤニとアルコールに加えて、大勢でワイワイして気分が高揚しているのも相俟って、ドーパミンが大量に分泌されているのが自分でもわかる。

 

 酒を交わしながらくだらない話で笑い合う、ただそれだけで良かった。

 このどうしようもない世界で、帰る場所がある、それだけが希望だった。

 その希望があったから、絶望だらけの世界でも、私は生きていけた。

 

 ……この8人で過ごしてた頃が、一番楽しかったんだけどな。

 

 

 

 ───今際の国滞在3日目

 

 残り滞在可能日数 

 

 潰田千寿 17日

 

 

 

 

 

 




主人公はビーチの初期メンバーです。
具体的には、ボーシヤとアグニの入国の翌日、マヒルさんとクズリューが『ビーチ』に勧誘された日に入国してます。
今際の国のアリスの二次創作で初期メンツが主人公の作品は少なくて(前作含めてほとんどが『おにごっこ』の前後の入国)、その中でも『ビーチ』の初期の描写がある作品は珍しかったので、『答え』もナンバー制度もない平和だった頃の『ビーチ』を描写したかった。

オリ主がぶん回したバイクについてですが、電子制御がどうとかいうツッコミはナシでお願いします(そもそも原作では普通にスマホ使えてたし、『今際の国』で電子制御の製品が使えないという設定はドラマオリジナルと思われ)。
原作でも、『今際の国』の時間軸は2010年で止まっているはずなのにタッタがアヴェンタドールに乗ってたので、割と何でもアリな世界なんじゃないかなと。
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