Duchess in Borderland   作:M.T.

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【特別編3】すぺえどのくいいん(2)

 『げぇむ』  『いんふぇるの』

 難易度    『♠︎Q(すぺえどのくいいん)

 エントリー数 無制限

 制限時間   ?分

 

 『るうる』

 『げぇむ』会場が倒壊するまでに、会場内のどこかにいる『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を殺害し、会場から脱出する事ができれば、脱出できた『ぷれいやぁ』は全員『げぇむくりあ』。

 『げぇむ』会場が倒壊するまでに『ぷれいやぁ』が全員『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』に殺された場合は、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』ただ1人が『げぇむくりあ』。

 どちらの条件も満たさず全員倒壊に巻き込まれた場合は、『ぷれいやぁ』と『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の両方とも『げぇむおおばぁ』。

 

 

 

 

 

「間に合った……!!」

 

「やるね」

 

 私が『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』に組みついて両脚で彼女の両腕を拘束し、両腕で彼女の首を絞めると、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』はニヤリと笑った。

 女子高生の悲鳴を聴いた私は、南棟2階の会議室から西棟4階の会議室まで走ってここまで来た。

 ジュンさんが整備してくれた銃を持っていれば、銃を持った腕を狙い撃てたんだろうけど、生憎走ったり跳んだりする事だけが取り柄の私には、接近戦(こっち)の方が向いてたみたい。

 彼女達が殺される前に駆けつけられたのは良かったけど……

 これが『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』…なんて馬鹿力……!!

 

 私は、必死に『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』に喰らいつこうとしたけど、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』はものすごい力で私を振り解いた。

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』に投げ飛ばされた私は、壁に背中を叩きつけられる。

 

「がはっ……!!」

 

 私が背中を打ちつけて床に膝をつくと、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』はハンドガンの銃口を私に向けてくる。

 もう避けられないと悟った、その時だった。

 

「ヒーロちゃん!!」

 

 私を追いかけてきたジュンさんが、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』目掛けてハンドガンを撃った。

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は、咄嗟に飛び退いて銃弾を避ける。

 だけど避けた先にはフラミンゴさんとハリネズミさんが待ち伏せしていて、二人は『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』目掛けて一斉に銃を乱射した。

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は身を屈めて銃弾を避けたけど、全弾は避けきれずに肩に銃弾が掠る。

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』が反撃しようとハンドガンを構えた瞬間、ヘイヤがハンドガン目掛けて矢を放ち、ハンドガンを弾き落とす。

 続けてヘイヤが『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』目掛けて矢を放つと、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は身体を横転させて避ける。

 

「オレ達もサポートします!」

 

「皆で生きて帰りましょう!」

 

「皆……!」

 

 ジュンさん、フラミンゴさん、ハリネズミさんは、銃を構えて私に微笑みかけた。

 女子高生を助けに駆けつけてきた私達を前に、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』はニヤリと笑った。

 

「オールスターかい」

 

「バケモンが……!!」

 

 『ぷれいやぁ』7人に囲まれている圧倒的劣勢の中でも余裕そうに笑っている『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を見て、ジュンさんが歯噛みする。

 ジュンさん、フラミンゴさん、ハリネズミさん、ヘイヤが『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を狙い撃とうとした時、天井が崩れて瓦礫が降ってくる。

 建物内で立て続けに爆発が起こったせいで、爆発した場所から崩れていってる……

 

「ここもそろそろ限界だねぇ…また別の会場探さないと」

 

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は、崩れた天井を見上げて余裕そうにそう呟く。

 すると、その時だった。

 

「オラァアア!!」

 

 瓦礫と一緒に屈強そうな男の人が二人降ってきて、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を殴り飛ばした。

 殴り飛ばされてよろめいた『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を、ジュンさんとフラミンゴさんが撃った。

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は銃弾を避けられず、胴体に銃弾を喰らう。

 まともに銃弾を受けた『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は、その場に仰向けに倒れ込む。

 

「勝っ………た……?」

 

 恐る恐る『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の方を見ると、彼女は仰向けに倒れたまま動かない。

 それを見た男の人二人は、ガッツポーズをして喜ぶ。

 

「ぃよっしゃああああああ!!!『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』撃破ァ!!!」

 

「これで後はここから脱出するだ──」

 

 

 

 ――パラララッ

 

 

 

 男の人二人が喜んだ直後、その二人は蜂の巣になり血飛沫を上げる。

 一瞬、何が起こったのかわからなかった。

 私が呆然としていると、次の瞬間、また銃声が鳴り響く。

 

「針子!?針子ォ!!!」

 

「ぁ………」

 

 声が聴こえて、振り向くと、フラミンゴさんが血まみれになったハリネズミさんを抱き抱えていた。

 ハリネズミさんは、肺に穴が開いて血が溜まっているのか、口から血をゴポゴポと吐き出している。

 

「そんな……!」

 

 なんでよ……

 なんで、ハリネズミさんが撃たれてるのよ……!?

 皆で生きて元の世界に帰るって決めたのに……

 なんでこうなるのよ!?

 

「死んだフリをして不意打ちを喰らわせて一網打尽……とか考えたんだけどねぇ…」

 

 声が聴こえた方を振り向くと、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』が立ち上がり、サブマシンガンにマガジンを装填していた。

 

「惜しかったねぇ……いいところまでいったじゃないか。1対19なんだ……ああ、今は1対6か。悪く思わないでおくれ」

 

「防弾チョッキ……!」

 

 至近距離で撃たれたのにピンピンしている『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を見て、ヘイヤが歯噛みする。

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は、黒いコートの下に防弾チョッキを着ていた。

 

「テメェエエエエ!!!」

 

 フラミンゴさんは、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』目掛けてやたらめったらに銃を撃つ。

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は、銃弾を難なく避けると、フラミンゴさんにサブマシンガンの銃口を向けてくる。

 

「っ危ない!!」

 

 私は、咄嗟にフラミンゴさんに飛びついた。

 その直後、サブマシンガンの銃弾が、私達のスレスレのところに飛んでくる。

 

「フラミンゴさん!」

 

「アイツ、よくも針子を……殺す…殺してやる…!!」

 

 フラミンゴさんは、ハリネズミさんを殺した『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を睨みつけていた。

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は、9人に囲まれた状態で、致命傷一つ負わずに三人を射殺した。

 私がもっと早く動けていたら、ハリネズミさんや他の『ぷれいやぁ』を救えたかもしれないのに……

 

 ……いや、本当はわかってた。

 絵札の『げぇむ』が、全員で生き残れるほど生易しい『げぇむ』じゃないって事くらい。

 だけど……まさか、こんなに『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』が強いなんて思わなかった。

 

「………遠い」

 

 どれだけ速く走っても、とても追いつけそうもない程に。

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の姿が、見えない。

 あまりにも程遠い境地にいる強敵に絶望した、その時だった。

 

「やああああああっ!!」

 

 女子高生姉妹の妹の方が、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』に飛びかかった。

 女子高生が『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』に鋭い蹴りを放つと、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は彼女の蹴りを咄嗟に躱す。

 だけど避けたはずの『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の頬には、赤い線が走っていた。

 見ると、女子高生の靴の爪先からは、ナイフが飛び出ていた。

 

「お姉ちゃん逃げて!私が時間を稼ぐから!」

 

「ハル!!」

 

「いっつもそうだった…お姉ちゃんは、いっつも私の代わりにつらい目に遭ってた。私は苦しんでるお姉ちゃんを、黙って見てる事しかできなかった」

 

「違う!!全部アタシの意思でやった事だ!!アンタは関係ない!!」

 

「もう、お姉ちゃんを苦しませたくない…!今度こそ、お姉ちゃんを守らせて」

 

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は、女子高生姉妹が会話している間にも、彼女達を殺そうと銃を向けてくる。

 私は、彼女達を殺させまいと、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』に飛びついて囮になった。

 腰に差したナイフを抜いて、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の右肩に突き刺す。

 だけどすぐに投げ飛ばされ、空中で一回転してから床に叩きつけられる。

 

「ゲホッ……!!」

 

 今の攻撃で肋骨にヒビが入ったのか、脇腹がキリリと痛む。

 痛みの中、目を開けると、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』がジュンさん、フラミンゴさん、ヘイヤ、そして女子高生姉妹の妹の方と応戦していた。

 ジュンさんとフラミンゴさんが銃を撃ち、ヘイヤが矢を放ち、女子高生がナイフのついた靴で蹴りを放つ。

 その近くでは、女子高生姉妹の姉の方が脇腹を押さえて咳き込み、鉄刀を持って立ち上がろうとしていた。

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は、そんな彼女を見下ろし、サブマシンガンの銃口を向ける。

 女子高生は、ボロボロの身体で、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』と応戦しようとしていた。

 私が痛む身体に鞭を打って飛び出そうとした、その時。

 

 私より早く、誰かがザッと駆け抜けた。

 その次の瞬間、妹の方が『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の前に立ち、彼女の銃を抱え込み、銃弾が何発も放たれた。

 もはや今となってはすっかり見慣れた、鮮やかな赤色をした血飛沫が飛び散る。

 撃たれた女子高生は、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』にゴミのように投げ捨てられ、姉の近くに倒れた。

 

「おね……ちゃ………」

 

「ハル……!?いや…ウソ、ウソ……!!」

 

 目の前で妹が撃たれたのを見て、女子高生姉妹の姉の方が絶望の表情を浮かべる。

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は、サブマシンガンを投げ捨てると、完全にウラを取られたフラミンゴさんをハンドガンで撃つ。

 そして続けて、ジュンさんを狙い撃った。

 ……やめてよ。

 これ以上、誰も死なせないで。

 

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は防弾チョキを脱ぎ捨て、私に狙いを定めた。

 ハンドガンの銃口を向けられ、逃げられないと悟った、その瞬間。

 

「ああああああああああっ!!!」

 

 鉄刀を持った女子高生が、死角から『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』に襲いかかる。

 一瞬反応が遅れた『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は、振り向きざまに、ハンドガンを持った右肩に女子高生の鉄刀を喰らう。

 そのまま女子高生が鉄刀を振り下ろしてもう一撃喰らわせようとすると、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は女子高生の動きを見切り、左の裏拳で鉄刀を捌き、そのまま鉄刀を弾き飛ばした。

 そして右の拳を握り締め、女子高生の顔面に右ストレートを喰らわせる。

 

「がっ……!!」

 

 モロに顔面にパンチを喰らった女子高生が倒れると、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』はすかさず女子高生の上に馬乗りになり、腰に差したナイフを抜いて女子高生のお腹に突き刺した。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」

 

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は、痛みのあまり暴れる女子高生のお腹に、何度もナイフを突き立てた。

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』が女子高生の心臓にナイフを突き立てようとしたその時、私は『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』に飛びついた。

 そのまま両腕を『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の首に回して絞め落とそうとすると、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は私の左足をナイフで斬りつけてきた。

 

「あ゛あ゛っ…!!」

 

 痛みで拘束が緩んだ瞬間、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は私を投げ飛ばし、落ちていたハンドガンを拾い上げる。

 そしてその銃口を、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』に矢を放とうとしていたヘイヤに向けた。

 

「残りはアンタだけだよ」

 

「くそっ……」

 

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』がヘイヤにハンドガンの銃口を向け引き金を引こうとすると、ヘイヤは悔しそうに顔を歪める。

 この場で無傷なのは、ヘイヤ一人だけ。

 そのヘイヤが殺されてしまえば、勝機はなくなってしまう。

 皆で一緒に元の世界に帰るって約束したのに……

 なんでいつも、こううまくいかないんだろう。

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の指が引き金に手をかけた、その時。

 

「くっ………!なんだい、これは……!?」

 

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は、手に持っていたハンドガンを落とし、その場に膝をついた。

 さっき『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を刺したナイフには、怪我人の治療用に持ち込んだ麻酔薬が塗ってあった。

 傷口から麻酔が入り込み、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』が他の皆と戦って暴れているうちに、傷口から入り込んだ毒が全身に回って今になって効いてきた、という寸法だ。

 ジュンさんやフラミンゴさん、ヘイヤ、そして女子高生姉妹が抵抗しなければ、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の身体に麻酔が回るのはもっと遅かった。

 それだけじゃない…その5人と、ハリネズミさん、そして他の『ぷれいやぁ』達が『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の体力を削ってくれなければ、あの一瞬の隙は生まれなかった。

 皆が戦い抜いたのは、全部、無駄なんかじゃなかったんだ。

 私は、麻酔で動けなくなった『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を見下ろして口を開く。

 

「致死性の毒薬です。さっきあなたを刺したナイフに仕込んであったんです。このまま戦えば、あなたはあと5分もせずに死ぬ。もう勝負はついたんです」

 

 私は、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』にハッタリをかけた。

 毒で死ぬなんて嘘、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の体内に入り込んだのは、致死量には到底達しない量の麻酔だ。

 自分があと5分もせずに死ぬとわかれば、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』も、これ以上他の皆を殺す必要がなくなるはず。

 私が『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の気を引いている間に、他の皆を逃がす。

 ジュンさんも、フラミンゴさんも、女子高生姉妹も、今ならまだ助かるかもしれない。

 

「わかったら……諦めて、まだ動ける人だけでも見逃してください」

 

 これ以上、誰も死なせてたまるか。

 私が決意を固めてナイフを『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』に向けた、その時だった。

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』が、私の顔スレスレにハンドガンを撃ってくる。

 

「見逃す……?ふざけるんじゃないよ。だったらアンタらを全員殺して、本当に助からないかどうか、試してやろうじゃないか」

 

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は、自分の脚にナイフを突き立てて、痛みで無理矢理意識を覚醒させた。

 嘘でしょ……麻酔でも動きを止められないなんて……!

 

「おい婆さん……もうひとつの選択肢を忘れてるぜ」

 

 どこからか、声が聴こえた。

 その次の瞬間、ジュンさんがガバッと起き上がって、後ろから『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』に抱きついた。

 

「オレがアンタを殺して『げぇむくりあ』だ」

 

「な……!?」

 

「へへっ、やっとアンタの驚く顔が見れたぜ…お互い死んだフリが得意だな……」

 

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』が驚くと、ジュンさんは口から血を吐きながら微笑む。

 ジュンさんの足元には、致死量なんてもんじゃない量の血が溜まっていた。

 ダメ、その出血で動いたりなんかしたら……!!

 

「ジュンさん…!」

 

「悪いな、ヒーロちゃん…オレァ、婆さんとデートの予定ができちまった…約束、守れそうにねぇわ……」

 

「何言ってるんですか!皆で生きて元の世界に帰ろうって……!」

 

「無いんだよ」

 

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』が暴れた事で、二人の身体の向きが変わり、ジュンさんの背中がみえる。

 ジュンさんは、胴体に大量のダイナマイトを巻いていた。

 

「オレには…生きて元の世界に帰る理由が…何も無いんだ。オレの分まで、生きてくれ」

 

 ウソ……

 やだ、やめて……

 それだけはダメ…!!

 

「ヘイヤ!!今すぐヒーロちゃん連れて逃げろ!!」

 

「は…!?なんでアタシが!?」

 

「この場でまともに動けるのは、お前だけだ…!ガフッ…この子は、オレの命の恩人だ……頼む、助けてやってくれ」

 

 ジュンさんは、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を羽交い締めにしながら、ヘイヤに話しかけた。

 やだ…ダメ、ダメダメダメ…!!

 そんなのダメだよ、一緒に元の世界に帰るって約束したじゃない…!!

 

「やだ!!そんなのダメ!!ジュンさん!!なんで……なんで!!」

 

 私は、ジュンさんのもとへ這いずって、今からやろうとしている事をやめさせようとした。

 だけど、私の行く手をヘイヤが阻んだ。

 

「ヘイヤ!!どいて!!ジュンさんが!!」

 

 私は、ヘイヤを押し退けてジュンさんのところに行こうとした。

 ヘイヤは、私の頭に左手を回して抱き寄せると、私の耳元で「ごめん」と呟いた。

 その次の瞬間。

 

「ぅぐ………!!」

 

 ヘイヤの拳が、私の鳩尾に突き刺さる。

 遠くにジュンさんと『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の姿が見えたのを最後に、私の意識は途絶えた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ジュンside

 

 俺は『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を羽交締めにして、その隙にヘイヤとヒーロちゃんを逃がした。

 ヘイヤは、泣いて暴れるヒーロちゃんを気絶させて抱きかかえ、そして迷った挙句、もう一人の剣道女子も抱えて、よたよたとおぼつかない足取りで会議室を出て行った。

 ヒーロちゃんを助ける為とはいえ、義足の女の子に無理言っちまったな……

 

「なるほどね、自爆かい……確かに、アタシが死んだ時点であの娘達が脱出できれば、あの娘達は『げぇむくりあ』さ。だけど…」

 

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は、俺の右脚を思いっきり踏み潰した。

 

「ぐあああああっ!!」

 

 俺が痛みのあまり『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を羽交締めにしていた腕の力を緩めると、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は手に握っていたナイフで俺の脇を突き刺す。

 

「瀕死のアンタ1人で、アタシを押さえ込めるとでも思ったかい?アンタを殺して、あの3人も撃ち殺せば、アタシの勝ちさ」

 

 そう言って『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は、俺の腕を振り解いて突き飛ばそうとする。

 だけどその時、さっき撃たれたフラミンゴが、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の下半身に抱きついた。

 

「ジュンさん……オレも付き合いますよ……」

 

「な…!?アンタ、何のつもりだい!?」

 

「どうせ助からないなら…アンタだけでも道連れにしてやる……針子の……妻の仇だ……」

 

 フラミンゴは、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を離すまいと、彼女の両腰に腕を回してしがみついた。

 俺の他にもこの女を抱きしめたい男がいたとは、妬けるねぇ。

 

「アンタみたいないい女は、バーでスクリュードライバーでも奢って口説きたかったぜ」

 

 そう言って俺は、ポケットのライターの火をつけた。

 

「地獄でまた会おう」

 

「フッ……こりゃやられたね」

 

 俺がダイナマイトの導火線に火をつけると、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』はフッと笑った。

 元の世界ではクソみてぇな人生を送ってきたし、この国にも絶望しかなかったけど、最期に俺を助けてくれた女の子を救う事ができた。

 俺なんかにはもったいねぇ、最高の人生だった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒーロside

 

「………きろ。起きろ!」

 

 繰り返し声をかけられて、ペチ、ペチと何度も頬を叩かれる。

 目を開けると、私の目の前にはヘイヤがいた。

 

「………ヘイヤ…?」

 

「ったく、感謝しなさいよ。ここまで運んでやったんだから。アタシはもう腕が限界。あとは自力で逃げな」

 

 そう言ってヘイヤは、すっくと立ち上がった。

 あたりを見渡すと、全体が瓦礫で埋もれていて、炎が燃え盛っている。

 そして私達の近くには、女子高生姉妹の姉の方が横たわっていた。

 だけど、ジュンさんがどこにも見当たらない。

 

「ジュンさんがいない……ジュンさんは…!?」

 

 私がジュンさんを探そうとした、その時。

 バチン、と大きな音と共に、左頬に痛みが走った。

 前を見ると、ヘイヤが苛立った表情を浮かべて右手を出していた。

 今、ヘイヤに叩かれたのか……

 

「そのジュンに頼まれたから、アンタをここまで運んだんだよ。でもアタシは、アンタらの事なんか知ったこっちゃないし、これ以上アンタらに構って死ぬなんて嫌なの」

 

 そう言ってヘイヤは、私達を置いて歩き出した。

 ……思い出してきた。

 ジュンさんはヘイヤに、私だけでも逃がしてほしいって言ってた。

 ジュンさんは、はじめからああするつもりだったんだ。

 私が助かっても、それでジュンさんが死んじゃったら、意味ないじゃない…!

 

 

 

 ――ドォォ…ン!!

 

 

 

「……え!?」

 

 突然天井が崩れ、私達が今いるフロアに落ちてきた。

 天井と一緒に、人が落ちてくる。

 まさか、ジュンさん…!?

 

「ジュンさ……」

 

 私は、駆け寄ろうとした足を止めた。

 天井と一緒に落ちてきたのは、ジュンさんじゃなかった。

 そこにいたのは、右腕と胸から下が吹き飛んだ『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』だった。

 

「ガフッ………あんな手に引っかかるとは……アタシも衰えたねぇ……」

 

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は、虚ろな目をしてゴポッと大量の血を吐く。

 これだけの重傷を負ってまだ生きている『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を見て、ヘイヤが「どこがよ」と不平を言った。

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』は、左手に持ったハンドガンを、私に差し出してくる。

 

「……もう、思い残す事はない……早く殺しとくれ…」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アテナside

 

 私は30代の頃、機動隊の爆発物処理班に所属していた。

 子供の頃に戦争で親を亡くし、天涯孤独の身となった私にとっては、死線に立つ事なんて怖くもなんともなかった。

 昇進して前線を退いた後も、教官として後進を指導していた。

 

教官(せんせい)!私、ずっと教官(せんせい)に憧れてたんです!一生ついていきます!」

 

「一生はやめてくれ」

 

 私の教え子達は、私を母親か歳の離れた姉のように慕ってくれた。

 子宝に恵まれず、夫にも先立たれた私にとっては、あの子達が家族みたいなもんだった。

 だけど私の教え子の一人が、爆破テロに巻き込まれ、市民を庇って殉職した。

 その後私は、辞表を提出し、教え子を殺した犯人が釈放されるのを30年間待った。

 教え子の仇を殺して死体を海に捨てた、その帰り道、私は花火を見た。

 

 

 

 

 

 ――ミーンミンミーン…

 

 気づけば私は、『今際の国』に迷い込んでいた。

 初めて参加した『♠︎8(すぺえどのはち)』の『げぇむ』で右眼を失い、私以外全員死んだ。

 その時、私は初めて気づいた。

 

 私は、あの子に生きていてほしかった。

 自分の命を犠牲にしてまで市民を救う警察官になんか、なってほしくなかった。

 他人を踏み躙って殺してでも、生きてくれてさえいればそれで良かった。

 

 私を親のように慕ってくれたあの子が殺された事が、どうしようもなく悔しくて、許せなかった。

 だからこそ、この理不尽しかない世界で、たったの1秒でも永く生きたかった。

 二度と同じ過ちを繰り返さないように、たとえ他人を踏み躙ってでも、生き残りたかった。

 

 

 

《おめでとうございます。ただ今を持ちまして、()()の全ての『げぇむ』が『くりあ』されました。これより、生き残った『ぷれいやぁ』の皆様全員には、この『今際の国』の国民となって()()の『げぇむ』に参加する事が出来る『永住権』を、取得するか放棄するかの選択が与えられます。それぞれがお答え下さい。この国に永遠に身を置き、これからも殺し合いを続ける権利を、『手にする』か『手にしない』かを》

 

「アタシは……『手にする』よ」

 

 私は、先代の『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を倒して『ねくすとすてぇじ』を『くりあ』した後、迷わず永住権を手にした。

 当時、『ぷれいやぁ』の間では、『永住権』を放棄したらレーザーで強制排除されるという噂が流れていた。

 『永住権』を放棄して強制排除されるくらいなら、私は『永住権』を手に入れて、『ぷれいやぁ』を何十人、何百人殺してでも、誰よりも永く生き延びてやる。

 

 

 

 そう思っていたけど……もう充分。

 いつかは誰かに倒されて殺されるって事くらい、とっくにわかってた。

 『国民』として『げぇむ』をすればするほど、生への執着は薄れていった。

 いつか私を殺す『ぷれいやぁ』が現れたら、それでもいい。

 この理不尽しかない世界で、私は充分すぎるほど永く生きた。

 これでやっと……あの子のところへ行ける。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒーロside

 

「…………」

 

 私は、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』が差し出してきたハンドガンを受け取ると、銃口を彼女の心臓に向けて引き金に指をかけた。

 その横では、ヘイヤが『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の頭目掛けて弓矢を構えていた。

 

 この女の『げぇむ』のせいで、多くの人が死んだ。

 フラミンゴさんも、ハリネズミさんも……そしてジュンさんも。

 でもこれは、復讐じゃない。

 この先どんなにつらい事が待っていても、私は生きるって決めた。

 私が生きる為の決断を、人任せにはしたくない。

 

「「私は生きる」」

 

 私とヘイヤは、同時に『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の心臓と眉間を撃った。

 その直後、天井がガラガラと崩れて降ってきたので、私とヘイヤは、女子高生を抱えてすぐにその場を離れた。

 これ、もう5分ももたない……!

 私達が会議室の外に出ると、ビルが崩れて1階分低くなったおかげで、窓から飛び降りられる高さになっていた。

 

「ちょっとごめんね…!」

 

 私は、女子高生の上着を脱がせてロープを作り、彼女の身体を私の背中に固定した。

 その後ろでは、ヘイヤが下を見て青ざめていた。

 

「これ……飛び降りるしかないの……?」

 

 私は、意を決して窓から飛び降りた。

 

「ああもう!!こうなると思ったよ、くそ!!」

 

 するとヘイヤも、意を決して飛び降りた。

 その直後、『げぇむ』会場がガラガラと音を立てて崩れた。

 

「ハァ……ハァ……いったぁ……」

 

 ギリギリのところで『げぇむ』会場から脱出した私とヘイヤは、地面に打ちつけて痛む身体を起こして、『げぇむ』会場の方を振り向く。

 『げぇむ』会場は跡形もなく倒壊し、炎が上がっていた。

 

《こんぐらちゅれいしょん。『げぇむくりあ』。『げぇむくりあ』》

 

 どこからか、『げぇむくりあ』を知らせる合成音声が鳴り響く。

 上を見ると、飛行船に吊るされたタペストリーの表示が、『げぇむくりあ』に変わる。

 そして飛行船が内側から爆発し、炎を上げながら隣のビルへと突っ込んでいった。

 

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を『げぇむくりあ』したのは、私とヘイヤ、そして剣道女子だけだった。

 フラミンゴさんとハリネズミさん、剣道女子の妹……そしてジュンさんは、助けられなかった。

 『げぇむ』を『くりあ』して緊張の糸が解けた途端に、ジュンさんとの思い出が次々と頭の中に蘇ってきて、ぶわっと涙が溢れてきた。

 

「う……うぅ……うぁああああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 ───今際の国滞在14日目

 

 残り滞在可能日数

 

 大木場柊色 24日

 

 

 

 『ねくすとすてぇじ』開催3日目

 

 『げぇむ』 残り9種

 

 『ぷれいやぁ』 残り175人

 

 

 

 

 




♠︎Q(すぺえどのくいいん)』編、完結。
♠︎Q(すぺえどのくいいん)』のプロフ載せときます。


♠︎Q(すぺえどのくいいん)

◆プロフィール

本名:剣崎(けんざき)貴那(アテナ)/アテナ
性別:女性
年齢:71歳
身長:170cmくらい
出身地:東京都
職業:無職(元警視庁警備部機動隊員 爆発物処理班所属)
得意ジャンル:『♠︎(すぺえど)』(肉体型)
好きなもの:格闘技全般、昼寝、散歩


◆容姿

白銀色のロングヘアーをポニーテールにしており、菫色の瞳を持つ。
右眼に傷があり、眼帯で覆っている。
顔には皺が刻み込まれているが、顔立ちは整っており、スタイルの良い美人。

◆服装

黒のミリタリージャケットとカーゴパンツの上に黒いコートを着ている。
コートの下には、防弾チョッキを着ている。

◆人物

♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の絵札の主。
老婆とは思えないほど身体能力が高く、特に銃やナイフを使った近接格闘に長けている。体力や生命力も常人離れしており、『ぷれいやぁ』が19人束になっても自爆という最終手段を使わなければ殺しきれないほど。
また、爆発物に関する知識もあり、建物の倒壊を緻密に計算して爆弾を仕掛けるなど、爆弾に関する事なら頭も切れる。
人を殺す事を何とも思わない冷酷な性格だが、強い相手は素直に認める傾向にある。

元の世界では、若い頃に機動隊の爆発物処理班に所属しており、前線を退いた後も教官として後進を育てていた。
だが、教え子の一人が爆破テロに巻き込まれて死亡した事を機に警察を辞め、30年の懲役を経て出所した犯人を殺害。その日のうちに、『今際の国』に迷い込んだ。
『今際の国』で生きているうちに、教え子の命を奪った理不尽そのものを憎むようになり、命を奪われる事そのものへの憎しみから、生きる事に執着するようになる。
『ねくすとすてぇじ』を『くりあ』した後、理不尽な世界で1秒でも永く生きたいという思いから、永住権を手に入れ『今際の国』の国民になった。

開催3日目、ヒーロやヘイヤら19人の『ぷれいやぁ』と対決。
圧倒的な戦闘力で『ぷれいやぁ』を劣勢に追い込むものの、『ぷれいやぁ』サイドのチームプレイによって体力を削られたところを、ジュンの自爆に巻き込まれて致命傷を負い、ヒーロとヘイヤにトドメを刺されて死亡した。

名前の由来は、ドキドキ!プリキュアのキュアソードこと剣崎真琴と、スペードのクイーンのモデルになったギリシャ神話のアテーナー。



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