『
私は、跡形もなく崩れた『げぇむ』会場の前で、声が出なくなるまで泣いた。
「うっ……うぅ……ぇぐっ……ひぐっ……」
ジュンさんが死んだ。
私が『
『びざ』切れの心配がないジュンさんは、私の為に命を懸ける必要なんて無かったのに。
私一人で『げぇむ』に参加していれば、こんな事にはならなかった。
……違う。
『
あの時からジュンさんは、何かの覚悟を決めたような顔をしていた。
ジュンさんは初めから、私を生かす為に自分を犠牲にするつもりだったんだ。
私のせいで、ジュンさんが……
「メソメソすんな!」
バチン、とさっきも聴いた音が響き、左頬にジンジンと痛みが走る。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
いきなりヘイヤが、私の頬を引っ叩いてきた。
「へ、ヘイヤ…?」
「大事な仲間が死んだかなんだか知らないけどさ…いつまでもウジウジしてんじゃないわよ、みっともない。生きるっていうのは、そういう事じゃないんだよ!」
「………ごめん」
ヘイヤは、『げぇむ』会場の前で蹲って泣いていた私を見下ろして怒鳴りつけた。
大事な人を失ったのは、私だけじゃない。
この国に迷い込んだ誰もが、大事な人を失った悲しみに暮れ、大事な人を失う恐怖に怯えて、それでも頑張って生きようとしている。
それなのに私は、自分の事ばっかりで、人に迷惑かけてばかりいる。
そんな自分が、嫌になる。
そういえば、まだヘイヤにお礼を言ってなかった。
私を逃がしてくれたのは、ヘイヤだった。
ヘイヤが助けてくれなかったら、今頃私は……
「あの……さ、ヘイヤ。ありがとう、助けてくれて…」
私がお礼を言うと、ヘイヤは何も言わずに荷物を持って立ち上がる。
「それじゃ、アタシはもう行くから」
「え…?行くって、どこに…?」
「決まってんじゃん、23区外に逃げんのよ。『
そう言ってヘイヤは、どこかへ行ってしまった。
その直後、いつの間にか、私の近くに缶詰が置かれている事に気がついた。
ヘイヤが置いてってくれたんだ……
ヘイヤが行った後、ふと、一緒に脱出した女子高生の事を思い出した。
私は、倒れている女子高生の容態を確認した。
……良かった、まだ息はある。
でも出血がひどい。
すぐに手当てしないと…
私は、救急セットに入っていた針と糸で女子高生の傷口を塞いだ。
医学部の授業と、この国に来てから読んだ医学書の知識を総動員させて、慎重かつ素早く縫合していく。
幸い、思ったより傷口が浅かったおかげで、縫合は最小限で済んだ。
足りない分の血は、私の血で補った。
私がO型で良かった……
この子の血液型と合わなかったら、血液型の合う『ぷれいやぁ』を探して回らなきゃいけないところだった。
私は、自分の事しか考えてなくて、そのくせ大口ばかり叩いて、迷惑をかけてばっかりだ。
だからこそ、変わりたい。
ジュンさんの事は助けられなかったけど、せめてまだ救える命は救いたい。
誰かに助けられるだけじゃなくて、誰かを助けられるようになりたい。
「ん………」
輸血を始めてしばらくして、女子高生が目を覚ました。
さっきまで血が抜けたせいで顔が青白かったけど、今は私の輸血のおかげで少しだけ顔色が良くなっている。
「ここは……?『げぇむ』は…?」
「目が覚めたのね。『げぇむ』はさっき『くりあ』したわ」
私がそう言うと、女子高生はガバッと起き上がって、あたりをキョロキョロと見渡した。
そして私の肩を掴むと、ガクガクと揺すってきた。
「ハル…ハルはどこ…!?アタシの妹なの!」
「………ごめんなさい。あなたの妹は……」
私は彼女に、妹のハルちゃんを助けられなかった事を伝えた。
すると女子高生は、虚ろな目で涙を流した後、私が手術に使ったナイフを手に取り、自分の首に突き立てようとした。
私は咄嗟に、彼女の手を掴んで止めた。
「私でよかったら、話してくれない?妹さんの事…」
私が話しかけると、フーフーと息を荒くしていた女子高生がナイフから手を離す。
彼女はナイフを離した後もしばらくしゃくり上げていたけど、私が背中を摩ってあげると、ようやく落ち着いたのか涙を拭い始める。
「私はヒーロ。大木場柊色。あなたは?」
「………キズナ。富庭絆…」
キズナちゃんは、俯いたままポツポツと話し始めた。
ハルちゃんは、彼女の双子の妹だった事。
今までキズナちゃんが、心無い大人達やクラスのいじめっ子から、ハルちゃんを守ってきた事。
ハルちゃんが傷つきそうになった時は、いつもキズナちゃんが汚れ役を買って出ていた事。
毒親の言う事を聞くのが嫌になって、二人で家出している最中に『今際の国』に迷い込んだ事。
そして今までの『げぇむ』は、ハルちゃんと二人で生き延びてきた事。
「……ハルがいたから、アタシはどんな事でも耐えられた。あの子の為なら、
「どうぞ」
私は、ヘイヤに貰ったツナ缶を開けて、プラスチックのフォークと一緒にキズナちゃんに差し出した。
私の血をあげたとは言っても、危ない状態な事には変わりない。
今はとにかく、血になるものを食べてもらわないと…
「さっき、『げぇむ』を生き残った『ぷれいやぁ』に食糧を分けてもらったの。食欲があるなら食べて」
「………いらない」
私がツナ缶を差し出すと、キズナちゃんは顔を背けた。
彼女の表情は、絶望に染まっていた。
私も、ジュンさんを助けられなかったから、気持ちはわかる。
いや……生まれた時からずっと一緒だったハルちゃんを失った彼女の絶望は、もっと深いはずだ。
それでも私は、キズナちゃんに生きてほしい。
ジュンさんやハルちゃんの犠牲で繋いだ命を、無駄にしないでほしい。
「ハルちゃんは、あなたを苦しませる為に死んだんじゃない。ハルちゃんはあなたに、どうしてほしいと思う?」
「……………」
私がそう言うと、キズナちゃんは静かに涙を流して頷き、缶詰を手に取って食べ始めた。
キズナちゃんは、ツナを口の中にかき込みながら、肩を震わせて啜り泣いた。
「わかるよ…
◆◆◆
No side
数十分前。
江東区大島では、炎を上げてビルに突っ込んでいく『
「誰が『くりあ』したんだ!?」
「わかんねーけど、スゲーよコレ!!」
「なんか…オレも…やれる気がしてきた…」
「オレも『げぇむ』に参加すんぞ!!」
「オレもだァ!!」
「『今際の国』の国民なんか怖かねぇぞォ!!」
『
三つ目の『げぇむ』が『くりあ』された今、一丸となって『げぇむ』に参加しようとしていた。
◆◆◆
ミツキside
ヒーロちゃん、ジュンさんと逸れた後、私とコータ君は『
あれから、もう3日目になる。
駅のホームでは、私達と同じように『
「地下に籠って…もう3日です…『
私達と一緒に逃げてきた男性が、その場にいた皆に尋ねる。
私は、コータ君の肩に手を置いて、他の『ぷれいやぁ』の皆に話しかける。
「あ…あの…この子の『びざ』が…今日で切れるんです…今日中に『げぇむ』に参加しないと、この子は…」
コータ君が最後に参加したのは、『いんたあばる』の前日に参加した『
私達はまだ『
私はこの3日間、コータ君の為に一緒に絵札の『げぇむ』に参加してくれないか、他の皆を説得していた。
「私達、話し合って決めたんです!この子の為に、皆で絵札の『げぇむ』に参加しようって…!」
私がそう言うと、私の説得に応じてくれた女性二人が頷く。
「成り行きで一緒にいる事になっただけのガキだ…誰が親ってわけでもないのに、何でそこまでする…?」
焚き火の前にいたお爺さんは、焚き火を見つめながらそう呟く。
他の皆も私達とは目を合わせないようにしている中、最初に口を開いた男性が手を挙げた。
「オレも…付き合いますよ…」
その人は、手を挙げて私に賛同してくれた。
そんな中、お爺さんは、焚き火を見つめたまま口を開く。
「…オレは、小心者だからな…結局は…そういう奴が生き残るんだよ…」
◇◇◇
結局、説得に応じてくれたのは、
私は、カワズさん、サカナさん、タクマさん、そしてコータ君の5人で、すぐに『げぇむ』会場に向かう事にした。
「『
「『
「墨田区だったわよね?」
私が提案すると、カワズさんとサカナさんが顔を見合わせる。
この3日間の間に地下に逃げ込んだ人達が情報を共有してくれたおかげで、どこにどの『げぇむ』会場があるのかは大体把握している。
墨田区か……今日中に歩いて行けない距離じゃないけど、遠いわね…
その間にいつ『
そう考えていると、タクマさんが地下鉄の路線図を指差して提案する。
「あの、だったら線路を東に歩いて日本橋駅まで行くのはどうですか?日本橋で浅草線の線路に乗り換えて、そこからは押上まで真っ直ぐ歩けば着きますよ。このルートなら、『
「あ……!」
そっか、そのルートがあったわ。
それなら、一度も地上に出ずに墨田区まで行ける。
「……決まりね」
「すぐに準備して出発しましょう」
『げぇむ』会場までのルートを決めた私達は、すぐに出発の準備をした。
どんな『げぇむ』が開催されてもいいように、動きやすい服装に着替えた。
すると3日間地下で一緒に暮らしていた人達が、私達の為に駅から食糧や水を集めて持たせてくれた。
「オレ達にはこれくらいしかできねぇけどよ…持ってけ」
そう言ってお爺さんが、食糧の入ったリュックを渡してくれた。
「ありがとうございます」
皆からの厚意を受け取った私達は、墨田区の『
タクマさんの提案通り、東西線の線路を通って日本橋駅まで歩いて、浅草線を通って押上駅に向かう。
休憩も挟みつつ5時間くらいかけて歩いて、昼には押上駅に到着した。
「……よし。『
押上駅から地上に出た私達は、見えるところに『
押上駅から北に2kmほど離れたところに、『
「……行きましょう」
◇◇◇
押上駅を出発してから40分後、私達は『
『
公園の塀には、『げぇむ どろけい』『なんいど ♣︎J』と書かれている。
公園の入り口はフェンスで仕切られていて、門の前には何かの装置がかけられている。
門に貼られた張り紙には、こう書かれていた。
《エントリー数 20名》
《ボタンを装着して会場へお入りください》
「ボタン…?」
「これの事かしら…」
カワズさんが、フェンスにかけてあった装置を手に取る。
背中側に青色のボタンがついた、ハーネスのような装置だ。
フェンスに設置されたモニターには、装置の装着方法が動画で映されている。
私達は、動画の指示に従って、上半身に装置を装着した。
私達が全員装置をつけてもまだ、フェンスには装置が残っている。
まだエントリー数には達してないって事かしら…?
なんて考えてつつ、門を潜って『げぇむ』会場に入ろうとすると、門からビーッ、ビーッと音が鳴った。
「なんだ…!?」
「もしかして、金属に反応してるのかも…」
「武器の持ち込みは禁止って事ね……」
私達は、身につけていた貴金属を全部外して『げぇむ』会場に入った。
『げぇむ』会場に入ると、中には男女が10人いた。
『げぇむ』のエントリー数は20人だから、私達を入れてもあと5人足りない。
「あの…これ、今日までに5人集まらなかったら、『びざ』はどうなるんでしょうか…?」
もし今日までに参加者がエントリー数に満たず、『げぇむ』が翌日に持ち越しになったら、コータ君は『びざ』切れになってしまうかもしれない。
私がその事を心配していると…
「心配いらねぇよ」
アスレチックの上に座っていたお爺さんが口を開いた。
「オレの『びざ』は、昨日で切れるはずだった。オレは昨日からこの『げぇむ』にエントリーして、もうかれこれ20時間以上待ってる。オレが今こうして生きてるって事は、一度『げぇむ』にエントリーしたら、『げぇむ』が終わるまで『びざ』はカウントされないシステムなんだろう」
お爺さんの説明を聞いた私は、安堵のため息をつく。
良かった……じゃあもう、コータ君の『びざ』を心配しなくていいのね…
「良かったら、アンタらもこっち来て一緒に話さねぇか?」
「え……?」
「ほら、『
そう言ってお爺さんが、私達に向かって手招きした。
既に『げぇむ』会場にいた人達は、お互い情報交換を終えたのか、全員強い絆で結ばれている。
これなら、皆で生きて『くりあ』できるかもしれない。
私達は、顔を見合わせて頷くと、皆の輪の中に加わった。
◆◆◆
ヒーロside
『ねくすとすてぇじ』開催3日目の昼、私は池で釣りをしていた。
『
お互い体力が回復してきて、お腹が減ってきたので、お昼ご飯に食べる魚を釣っているところだ。
キズナちゃんは怪我をしてるから、血になるものを食べさせてあげないと…
「わっ、釣れた!」
魚が釣れるのを待っていると、丸々と肥え太った鯉が連れた。
……でも鯉って、どうやって食べればいいんだろう。
川の魚って、泥臭くて食べれたもんじゃないって聞いた事あるような気がするけど……
……焚き火で焼けば食べれるかな?知らないけど。
あれから、大きな鯉が全部で6匹釣れた。
私とキズナちゃんで、3匹ずつかな。
って、流石に3匹も食べれないかな……まぁいいや、余ったら私が全部食べるし。
釣った鯉をバケツに入れて、キズナちゃんと一緒に張ったテントに持ち帰った。
「キズナちゃん。魚釣ってきたよ」
私が魚を持って戻ると、キズナちゃんはテントの外で焚き火を起こしてくれていた。
キズナちゃんは、私が戻ってくるまでの間に、私が持ってきたTシャツを着ていた。
Tシャツに隠れているけど、キズナちゃんのお腹には、『
「まだ無理はしないでね。もしまだ痛むようだったら、いつでも言って?痛み止めあるから」
「ヒーロさんこそ、脚大丈夫…?」
キズナちゃんは、包帯を巻いた私の左脚を心配そうに見た。
左脚の包帯には、少しだけ血が滲んで赤褐色に変色している。
「平気よ。見た目ほど傷は深くないわ」
私は、キズナちゃんを心配させないように、笑顔を浮かべながら脚を包帯の上からポンと叩いてみせた。
脚の傷はまだ少し痛むけど、命に関わったり、斬り落とさなきゃ助からない程の怪我じゃない。
大腿動脈を刺されなかったのが、不幸中の幸いだったわね…
もし大腿動脈を損傷していたら、それこそ出血多量で助からなかった。
「……ヒーロさんって、元の世界で何されてたんですか?」
「あー…医学部に通ってたよ、一応ね」
「え、すごい…じゃあ頭良いんですね」
「いやいや、親に進路を決められて惰性で通ってただけだから」
キズナちゃんが私に変な期待を寄せてくるので、私は頭を掻いて謙遜した。
前は、私にやりたい事をやらせてくれない父さんや、私を見下してくる兄さん達が嫌いだった。
でも、その経験があったからこそやりたい事が見つかったし、医学部で身につけた知識はこの国で役立ってるから、元の世界に帰って、父さんや兄さん達とちゃんと仲直りがしたい。
なんて考えつつ、釣った鯉に串を通して、焚き火に突っ込む。
そのまましばらく待っていると、鯉の表面がこんがり焼けた。
見た目は美味しそうに見えるけど…
大事なのは、見た目よりも味……
「うわっ、まっず!ぺっぺっ!」
何よこれ、泥臭っ!
っていうかもうほぼ泥じゃん!
いくら新鮮な肉が貴重からって、これは食べれたもんじゃないよ!
「キズナちゃん…これは流石に食べない方がいいよ。いくらなんでも泥臭すぎ」
「え、そんなにですか……?」
「うん。泥臭いっていうか、ただの泥」
「ただの泥……」
私が真顔で言うと、キズナちゃんは顔を引き攣らせる。
焼いてる時は、美味しそうに見えたんだけどな…
しょうがない、捨てるしかないかぁ……
「ごめんね…血になるものを食べさせてあげたかったんだけど…」
私がため息をつくと、キズナちゃんが、私の持っていた魚を取り上げる。
そして魚をじっと見ると、何かを思いついたように口を開く。
「……ヒーロさん。アタシが料理し直しますから、その間に、香りを良くする野草を摘んできてもらえませんか?えっと…ヨモギとか、シソとか、山椒とか。そこら辺探せばいくらでも生えてますから」
そう言ってキズナちゃんは、分厚い本を渡してくる。
え、何これ…植物図鑑?
「え?うん、わかった」
植物図鑑を持たされた私は、公園の茂みで香り付けにつかう野草を探した。
見つけた野草は、キズナちゃんに渡された植物図鑑と照らし合わせて、食べられるかどうかを確認する。
「あ、ヨモギ」
公園に野生のヨモギが生えているのを見つけた私は、片っ端からヨモギを摘んだ。
あと、山椒とシソも生えてる。
香り付けするのに良いってキズナちゃん言ってたから、たくさん摘んでおこう。
……ん?あれ?
なんかいい匂いがする。
味噌とお酒、あと出汁を混ぜたような…あと、砂糖と醤油を混ぜたような甘い香りも…
テントの方からだな…
「キズナちゃ〜ん、野草摘んできたよ〜」
香り付けする為の野草をたくさん摘んできた私は、テントに戻った。
すると、焚き火の近くで料理をしていたキズナちゃんが振り向く。
「早かったですね」
「いや、実はテントの方からいい匂いがしたから、気になって戻ってきちゃって……」
そう言って鍋を覗き込むと、味噌仕立ての汁物が鍋の中でプツプツと泡を立てていた。
鍋を温めている焚き火の近くには、開いた鯉の身に串を打ってタレをつけたものが刺さっていて、美味しそうに焦げがついている。
私がズズっと涎を啜りながら鍋を覗き込んでいると、キズナちゃんがクスリと笑う。
「ヒーロさん、鼻が良いんですね。野草でもう一品作りますから、ちょっと待っててください」
そう言ってキズナちゃんは、私が積んできた野草を洗うと、ヨモギはお湯で茹でてアク抜きをした。
捌いた鯉の身は塩胡椒して、チューブの練り梅を塗ったシソを巻いたものに小麦粉を塗し、フライパンに多めに油を敷いて香ばしく焼き上げた。
あとはアク抜きしたヨモギを汁の中に入れ、刻んだ葉山椒は串を打った鯉の身に振りかければ、今日のお昼ご飯の完成。
「どうぞ。鯉の蒲焼きと、梅シソ巻きのムニエル風と、鯉こくです」
キズナちゃんは、出来上がった鯉料理を食卓に並べた。
焼きたての蒲焼きをご飯の上に乗せた鰻丼ならぬ鯉丼と、練り梅とシソで香り付けした和風ムニエルと、鯉とヨモギを味噌味のスープで煮た鯉こく。
何これ、ご馳走じゃん!
こんなご馳走見たの、元の世界以来!
……って、私、まだ『今際の国』に来てから2週間しか経ってないんだけどね。
それはさておき、味はどうかしら……?
「うわっ、美味しい!食べれる!」
「気に入ってもらえてよかったです」
私がキズナちゃんの作った料理をがっつくと、キズナちゃんが笑顔を浮かべる。
キズナちゃんが作ってくれた料理は、どれも絶品だった。
「鯉の泥臭さはお酒とシソで消して、梅でサッパリした味付けにしてるのね…勉強になりました…」
なんて食レポをしつつ、鯉料理を口に運ぶ。
……ほんと美味しいな。
私もこの国に来てから自炊してるけど、流石にこんなに美味しくは作れないや。
「でも、なんでこんなに美味しく作れるの?」
「親がクズだったから、小さい頃からハルとよく2人で家出して、公園で野宿してたんです。夜になると、ハルがお腹空いたって言うから、アタシがご飯を作ってて……」
そう言いかけたところで、キズナちゃんが涙を流して泣き出した。
今の話で、亡くなったハルちゃんの事を思い出してしまったんだ。
私も、ジュンさんと食事をした時の事を思い出して、気がつけば涙が溢れていた。
どんなに楽しく過ごしていても、ふとした瞬間に、ジュンさんの死を思い出してしまう。
今までどんなにつらい事があっても立ち直ってきたけど、こればっかりはどうやっても立ち直れそうにない。
――いつまでもウジウジしてんじゃないわよ、みっともない。生きるっていうのは、そういう事じゃないんだよ!
「………」
ふと、『げぇむくりあ』後にヘイヤに言われた言葉を思い出した。
彼女は、大事な足を失って、それでも生にしがみついた。
ジュンさんは、私を生かす為に、自分の命を犠牲にした。
皆、生きる為に、誰かを生かす為に、この国で必死に戦ってる。
私が生きなくてどうする。
最後まで生き抜いて、絶対に元の世界に帰るんだ。
「………美味しいね」
そう言って私は、器に盛られたご飯粒を口の中にかき込んだ。
それを見て、キズナちゃんも、自分で作った鯉料理をがっつく。
生きる覚悟を決めて平らげた料理は、ちょっとだけしょっぱかった。
───今際の国滞在14日目
残り滞在可能日数
大木場柊色 24日
◆◆◆
No side
開催3日目、正午。
渋谷区では、『ぷれいやぁ』が望遠鏡で飛行船に動きがないかをチェックしていた。
すると、一人の『ぷれいやぁ』が、望遠鏡を覗いて驚いた顔をする。
「は…!?」
「どうした?」
「おい、ウソだろ…!?『
『ぷれいやぁ』の視線の先には、炎を上げながら落ちていく『
ビルに突っ込んでいく『
「マジかよ、誰が『くりあ』したんだ!?」
「知らねぇけど、すげぇよコレ!!」
◇◇◇
その頃、渋谷では。
「はぁ……はぁ……ゲホッ、ゲホッ……」
紺色のボブヘアーを低めの位置でポニーテールにした女が、よろよろとおぼつかない足取りで路地裏を歩いていた。
開催初日に『
ツエダは、路地裏の壁に手をつくと、ゼェゼェと肩で息をして、口を手で押さえて咳き込む。
ツエダが口を押さえていた手を見てみると、彼女の手には、ベッタリと血が付いていた。
「ゼェ…ゼェ…くそ……こりゃあ、アタシも永くないかもな…」
そう言ってツエダは、壁にもたれかかった。
───今際の国滞在63日目
残り滞在可能日数
潰田千寿 67日
『ねくすとすてぇじ』開催3日目
『げぇむ』 残り8種
『ぷれいやぁ』 残り169人
お人好しの女性が♡Kを倒した説、個人的には好きです。
でも♡Jの参加者やアリス達が気にしていたように1人しか生き残れない『るうる』の『げぇむ』があるかもしれない♡にわざわざ仲間を連れて参加するか?っていう点が疑問だったのと(『げぇむ』会場は♡Kの方が近いけど、会場までの距離を根拠にするなら、もっと近い♣︎Qに行くはず)、彼女が『くりあ』した♣︎の『げぇむ』が印象的だったので、本作では全員で生き残れる可能性が一番高い♣︎Jに参加したという事にしています。
あと、原作でお人好しの女性と一緒に『げぇむ』に参加した人達の名前が出てこなかったので、勝手に命名しました。
全員不思議の国のアリスの登場人物の名前になっています。
コータに関してはドラマ版の♠︎Qで出てきた子供、タクマに関してはドラマ版の♣︎4とクズリューの回想に出てきた男性の名前も引っ掛けてます。