ツエダside
開催2日目、ウミガメと話を終えて他の『げぇむ』会場を展望台からチェックした後、私は『げぇむ』に行く準備をした。
まず『げぇむ』会場に向かう足を調達しに、ガソリンスタンドに向かった。
ガソリンスタンドに行くと、整備すれば動きそうなドラッグスターを見つけたので、早速整備をする。
まずはパーツを交換して、最後にバッテリーを交換し、エンジンがかかるかどうかを確認する。
「よし、完璧」
バイクを整備した後は、近くにあったショップで必要なものを揃えて、動きやすい服に着替えた。
ショート丈のタンクトップの上に黒いパーカー、そして下はカーゴパンツにコンバットブーツといった格好だ。
準備を終えた私は、整備したバイクに乗って『
バイクを走らせてから1時間、日没前には渋谷駅に到着した。
『
……そういえば、この国に来て最初に目が覚めたのも、スクランブル交差点だったわね。
「ここか……」
スクランブル交差点から文化村通りを歩いていくと、『
『
会場の入り口には、看板が立てられていて、看板にはこう書かれていた。
《エントリー数 無制限》
《制限時間 なし》
《武器の持ち込み可》
「武器の持ち込み可……か」
なーんか匂うわね。
殺し合いもOKって事?
今回も一人しか生き残れないパターンだったりして。
なんて考えつつ、会場に入り、矢印の指示通りに進む。
すると途中で突き当たりに辿り着き、矢印が分岐した。
突き当たりに貼られた貼り紙には、こう書かれていた。
《⬅︎女性の方はこちら》 《男性の方はこちら➡︎》
なんか、男女で別の方向に誘導されてんだけど…
これ、何か意味があるのかしら?
そんな事を考えながら突き当たりを左に曲がって進んだ先には、仮設シャワーと簡易更衣室、そして黒のドレスが設置されていた。
ドレスの前に立てられた看板には、『正装に着替えてから会場にお入りください』と書かれている。
なるほどね、汚い格好で会場に入るなってか。
でも、わざわざドレスに着替えさせるって事は、身体を使う『げぇむ』が開催される可能性は低いと考えていいのかな。
仮設シャワーで身体の汚れを落として、用意されたドレスに着替えてから、矢印の指示に従って会場に向かう。
辿り着いたのは、3階にあるコンサートホールだった。
コンサートホールの入り口の前には、パンフレットが置かれている。
『げぇむ』に必要な情報が書かれているかもしれないから、一応持って行くか…
私はパンフレットを一枚手に取って、コンサートホールの扉を開けた。
扉を開けた瞬間、私は思わず顔を引き攣らせる。
「うわ……1人か……」
会場には、誰も人がいなかった。
まあそりゃあ、4つのジャンルの中でも一番えげつない『
逆に、だからこそ裏をかいて、この『げぇむ』会場に来たら『げぇむくりあ』……とかいうパターンだったりはしないか。
なんて考えつつ、パンフレットに目を通す。
するとコンサートホールのスピーカーから、合成音声が流れる。
《『ぷれいやぁ』の皆様、当会場にご来場いただきありがとうございます。『げぇむ』は、20時丁度に開始します。今しばらくお待ちください》
20時ちょうど…
20時まで、あと5分と少し。
それまでここで待ってろって事ね。
『げぇむ』が始まるまでの間、『げぇむ』に挑む準備をしていると、時計が20時を差した。
その瞬間、開演のブザーが鳴る。
《エントリーを締め切りました。『げぇむ』を開始します》
合成音声が鳴るのと同時に、ステージの赤い幕が上がる。
ステージの上には、誰かが立っていた。
『ようこそ。ボクの『げぇむ』会場へ』
マイク越しにそう声をかけてきたのは、中学生くらいの小柄な男の子だった。
赤毛で癖のついたセミロングヘアーで、高そうなタキシードを着ている。
見た目だけだと、かなりの美少年といった印象を受ける。
『ボクは
『
中学生/リート歌手
『まさか、もう『げぇむ』会場に来てくれる人がいたとは思わなかったな。『ぷれいやぁ』と対決するのは、もっと終盤だと思ってたんだけど……まあいいや、来てくれて嬉しいよ』
そう言って『
クスリと笑う彼の声は、素直に綺麗だという印象を受けた。
『あー、ちょっと緊張してきたな……いや…実はさ。国民として『げぇむ』をするのは、何気に初めてなんだよね。誰も来てくれないから』
ナツルは、緊張気味に照れ笑いしながら頭を掻いた。
こんな小さい子が『
正直意外というか……
…いや、別に子供だからって見縊ってるわけじゃないけどさ。
『お喋りはこの辺にして、そろそろ『げぇむ』の説明をしようか。今からキミにやってもらう『げぇむ』は、『りさいたる』。難易度、『
ナツルがそう言うと、ステージの天井から巨大なモニターが降りてくる。
モニターには、♡のKのトランプが表示されている。
『『るうる』は至ってシンプル。ボク主催のこの『りさいたる』が終わった時点で
「コンサートが終わるまで生き残れれば……って、それだけ?」
『うん。『げぇむ』中は、このコンサートホールを離れる事以外なら何をしても構わないよ。ただし『げぇむ』が終わるのは、『げぇむ』中にキミが死ぬか、ボクが
『りさいたる』を最後まで聴き続ければ『げぇむくりあ』って……随分と易しい『げぇむ』ね…
……いや、この『げぇむ』の難易度は『
絶対何か裏があるはず……
『最後に、ヒントをあげる。この『げぇむ』こそが、ボクが『今際の国』の国民になった理由だよ』
国民になった理由…ねぇ。
やっぱり全ての『げぇむ』を『くりあ』した後、望んだ人だけが国民になれる…と解釈していいわけだ。
『まぁ、『くりあ』できないと思うけど…せいぜい頑張って。それじゃ、『げぇむすたあと』』
ナツルが急に真顔になってそう言うと、ステージのパイプオルガンがひとりでに鳴った。
パイプオルガンの自動演奏に合わせて、ナツルが歌い始める。
元の世界では歌手でもやっていたのか、ナツルの声量はすさまじく、ステージから離れた客席に座っていても、肌がビリビリと震える感じがする
それだけじゃなく、ナツルの歌声を聴いていると、頭の中をクラクラと揺らされるような錯覚に陥る。。
でもうるさいというわけじゃなくて、むしろどこか心地よさを感じる声だった。
こんなので人が死ぬわけないじゃない。
ナツルは一体、何がしたいの…?
この『げぇむ』を通して、私に何をさせたいの?
◇◇◇
『げぇむ』が始まってから、3時間が経過した。
あれからぶっ通しで歌い続けているというのに、ナツルは全然息を切らしていない。
でもあと少しで、パンフレットに書かれている最後の曲を歌い終える。
もうすぐ『げぇむ』が終わるってのに…何、この余裕は…?
開演から3時間半、ようやくナツルは、パンフレットに書かれた最後の曲を歌い終えた。
ナツルは、ふぅっとため息をついて笑顔を浮かべた。
「流石にちょっと疲れたな。今から1時間を休憩時間とするよ。休憩が終わったら、また再開するから。あ、ちなみに休憩時間中は、コンサートホールを出てもいいよ。その間にトイレでも済ませてきたら?」
そう言ってナツルは、腕を回してペットボトルの水を飲んだ。
は……?休憩?
『りさいたる』はもう終わりのはずじゃ……
そこで違和感に気づいた私は、パンフレットにもう一度目を通した。
よく見ると、パンフレットには閉演時間が書かれていない。
しかも入り口の看板には、『制限時間 なし』と書かれていた。
……ちょっと待って。
この『げぇむ』、いつ終わるの?
「あ……」
この時私は、初めて気がついた。
なんで一見簡単なこの『げぇむ』の難易度が、心理戦の中でも一番難易度の高い『
このままだと、私の『げぇむおおばぁ』が確定してしまう。
『げぇむ』が終わるのは、私が死ぬか、ナツルが
もしナツルが喉が裂けて声が出なくなるまで歌い続けて、閉演の宣言すらできなくなったら、私はただ餓死か『びざ』切れを待つだけの身となる。
そうでなくとも、もし私が終わらない『げぇむ』に痺れを切らしてナツルを殺せば、『自主的に閉演を宣言する』という『くりあ』条件を満たせなくなって、詰みが確定する。
あの子の目的は、歌い疲れて死ぬか、私に殺される事で、私を『げぇむおおばぁ』にする事。
あの子は最初から、自分が死ぬ事も織り込み済みだった。
だから『武器の持ち込み可』、『会場から出る以外は何をしてもいい』なんて『るうる』にした。
「この『げぇむ』、こっちからアクションを起こさないと終わらないんだ……!」
自分が死ぬ事も計算に入れてるような奴が、そう簡単に『げぇむ』を終わらせるはずがない。
この『げぇむ』は、
こうやって歌を聴きながら相手の隙を窺っている時点で、既に『
『げぇむ』の『るうる』に惑わされて、本質を見失うところだった。
この『げぇむ』の本質は、長時間の『りさいたる』に耐える事じゃなくて、『
◇◇◇
「さて、休憩が終わった事だし、続きやるよー」
休憩時間が終わって、お色直しを終えたナツルがステージに戻ってくる。
3時間も歌った後だというのに、ナツルのコンディションは完全に回復していた。
「…って、あんまりちゃんと休めなかったようだね。そんなんじゃ、『げぇむ』が終わるまで保たないよ?何せ、『りさいたる』はまだまだ続くんだから」
そう言ってナツルは、クスリと笑うとステージの上に設置された台の上に立つ。
第二ラウンドが始まってすぐ、ナツルはパンフレットに書かれた最初の曲を歌い始める。
なるほどね……パンフレットの曲をエンドレスで歌うわけか。
『げぇむくりあ』する方法はわかった。
でも、肝心の手段が思い浮かばない。
喉が裂けて、体力を使い果たして死ぬのも織り込み済みの奴だぞ?
どうやって『りさいたる』をやめさせるっていうのよ…
……いや、落ち着け。
ナツルが死ぬまでは実質『げぇむ』が終わらないって事は、裏を返せば、考える時間は腐るほどあるって事。
考えれば、何か方法が思いつくはず。
凡人が思いつかないようなアイディアを思いつくのなんて、アタシ超得意分野じゃん。
『
「あ……れ……?」
突然、視界がぐにゃりと歪んだ。
なんだ……これ……
頭の中がフワフワする。
視界がグルグルして、思考がまとまらない。
何とかしなきゃいけないのに、身体がいう事をきかない。
私の身体が、私のものじゃないみたい…
この『げぇむ』中に、異変を起こすなんて…
どう考えても、『
でもナツルは、私の身体に触れてすらいない。
だとしたら、どうやって……
この会場に入ってから、食べ物も飲み物も一度も口にしてないから、毒を盛られたという線はない。
だったら、神経毒のガスか何か……違う、それだったら同じ部屋にいるナツルもタダじゃ済まないはず。
まさか、今聴いてるこの歌のせい…?
ナツルの歌のせいで、頭の中がおかしくなってる…!?
◆◆◆
ナツルside
僕の歌を聴いた『ぷれいやぁ』ツエダは、脱力してその場に膝をついた。
僕は、彼女が床に膝をつくのもお構いなしに、決められた順番通りにオペラの曲を歌い続ける。
1/fゆらぎといって、スペクトル密度が周波数に反比例するゆらぎがある。
人の心拍や波の音、ろうそくの炎の揺れなんかの自然現象にもみられ、人の心を落ち着かせ集中力を高める力があると言われている。
ごく稀に人の声にもみられ、カリスマ的人気がある歌手の中には、この声を持つ人もいる。
僕の声はこのゆらぎを持っているらしく、人を
元の世界では、歌手として催眠効果のある歌を大衆の前で披露して、人気を博していた。
ツエダは、異変の原因が僕の歌って事に気づいてようやく耳を塞ぎ始めたけど、もう遅い。
僕の歌声を何時間も聴かされ続けて、彼女の脳は既に催眠状態に入っている。
普通なら、どんなに強力な催眠術だろうと、自殺を強要する事はできない。
だけど死や苦痛の恐怖と絶望にまみれている『今際の国』でなら、自殺への抵抗が薄れても不思議じゃない。
それこそ、時間をかけて暗示をかけ続ければ、自殺させる事だって不可能じゃない。
彼女には、落ち度は一切なかった。
『
この『げぇむ』を『くりあ』したいなら、僕の歌を聴かないという選択肢は無い。
だけどまさか、音色そのものに罠が仕込まれているなんて、誰も想像がつかない。
『げぇむ』に慣れた猛者であればあるほど、小さなヒントや
これは、いわば猛者専用の罠。
今まで、僕の催眠から自力で抜け出せた人はいない。
彼女はもう、『
◆◆◆
ツエダside
あれから、どれだけの時間が経ったのかわからない。
気がつけば私は、深い霧の中にいた。
足元には、膝まで浸かるくらい水が溜まっている。
……あれ?
ここは、どこだろう。
私、何をしてたんだっけ。
何か、大事な事を忘れているような気がするんだけど…
思い出せないや……
まあでも、思い出せないって事は、きっと大した事じゃなかったんだろうな。
ひたすら霧の中を彷徨っていると、霧の奥に、人影が浮かび上がった。
見間違えるはずがない。
かつて私が本気で憧れ、ずっと共に生きたいと願った人。
そしてもう、この世のどこにもいないはずの人。
「千寿」
「サム…」
そこにいたのは、正気を失う前のサムだった。
なんで、サムがここに……
…いや、なんとなくわかってきた。
これは、夢だ。
『今際の国』の絶望の中で思い描いた、幸せな夢。
生き続ける事に疲れた私が、最後に縋る事を選んだ夢。
「今まで1人で背負わせてごめんな。オマエはもう充分、理不尽と、絶望と戦った。だからもう、休んでいいんだ」
そう言ってサムは、私に手を差し出してきた。
この手を取れば、私は楽になれる。
これ以上苦しんでまで生きなきゃいけない理由が、どこにも見つからない。
誰にも愛されず、唯一私を見てくれた人は、もう死んだ。
何か忘れているような気がするけど、それが何だったのか、もう何も思い出せない。
「オレと一緒に行こう。ここでオレと一緒に、どこまでも逃げよう」
一緒に逃げる…か。
それも悪くないわね。
私は、サムの手を取って、一歩前に踏み出した。
するとサムは、私の手を引き寄せて、私を抱き寄せようとした。
◆◆◆
ナツルside
『げぇむすたあと』から、10時間が経った。
ツエダは、虚ろな目でブツブツと独り言を言いながらナイフを手に取る。
そして、ナイフの刃を自分の腹に向けて、思いっきり振り下ろした。
こうなる事はわかってたけど、こうも呆気ないものなのか。
「結局キミも…他の皆と同じだったね」
このまま彼女が自殺すれば、『げぇむ』が終わる。
彼女は、最期まで気づけなかった。
僕が『今際の国』の国民になった理由に。
◆◆◆
ツエダside
「オレと一緒に行こう。ここでオレと一緒に、どこまでも逃げよう」
私がサムの手を取ると、サムは私の手を引いて私を抱き寄せようとした。
力強く引き寄せられ、唇と唇が触れる、その瞬間。
「死ねェ!!」
私は、サムの唇が触れる前に彼の肩を左手で掴んで、右手で彼の右手首を捻りあげると、そのままデカい身体を思いっきり背負い投げた。
ろくに受け身を取っていなかったサムは、大きな弧を描いて宙を舞い、足元の水の中に思いっきり背中から着水する。
「誰がテメェなんかとキスなんてするか!二度と汚ねぇツラ見せんな!ボケ!!カス!!」
私は、水の中で仰向けに伸びているサムの顔面を、何度も踏みつけた。
ちゃんと水の冷たさや踏みつける感触があるなんて、よくできた夢ね。余計にムカついてきたわ。
気が済むまで踏みつけて、息を整えていると、ボロボロになったサムがヨロヨロと起き上がる。
「千寿……オマエ、どういうつもりだ…!?」
サムが驚いた顔で私を見てくるので、私はため息をついて答える。
「どういうつもりも何もないわよ。アタシに『今こっちに来たらぶっ飛ばす』って言ったアンタが、『一緒に逃げよう』なんて虫のいい事言うから、ムカついてぶっ飛ばしただけよ」
私がそう言うと、サムはポカンとした顔をする。
苦しい思いをしても、それでも生きなきゃいけない理由なら、ここにあった。
彼が、全部一人で背負い込んで、自分の命を捨ててでも、私を生かしてくれたから。
罪も、苦痛も、絶望も、全部背負って生きる。
「アンタがアタシを救ってくれたから、アタシは今日まで生きてこられた。アンタに1人で背負わせた分、今度はアタシが背負う番。全部背負って、命が燃え尽きるまで、全力で生きてやる。次『一緒に来い』なんて言ってみろ。何度でも殴ってやる」
私がそう言って拳を突きつけると、サムは満足そうにフッと笑う。
「……そうかよ。まぁ、せいぜい頑張れ」
サムは、そう言い残すと、塵になって消えた。
今ので、やっと思い出してきた。
そろそろ、夢から覚める時間だ。
私にはまだ、やらなきゃいけない事が残ってる。
「ガフッ……!!」
腹にツキリと刺すような痛みで、目を覚ます。
気がつくと私は、自分のお腹にナイフを突き立てて血を吐いていた。
……思い出した。
私はまんまとナツルの催眠に嵌って、自分で自分の腹を刺して自殺しようとしたんだった。
お腹にはしっかりナイフが刺さっていて、血が滲み出てるけど、幸い臓器は貫通していなくて、致命傷にはなっていない。
自殺する直前で正気を取り戻したおかげで、死なずに済んだ。
まさか歌声で催眠をかけていたなんて、私とした事が油断した。
「はは……急所外した…ホンットに……自分でもウンザリするよ。アタシの悪運の強さにはさ」
お腹が痛い。
気絶しそうなほど痛くて、傷口からは血が溢れ出てドレスを赤く染めている。
だけど今は、この痛みさえも心地が良い。
痛みがあるって事は、まだ生きられる。
痛みでアドレナリンがドバドバ出てるおかげで、もう催眠にはかからない。
生きてる限り、まだ負けてない。
「……はは。まさかボクの催眠から自力で抜け出すとは…大した……執念だね…」
自力で戻ってきた私を見て、ナツルは呆れたように笑った。
そして、「もしかすると、彼女なら……」と独り言を呟く。
その一言を聞いて、私はある疑念を抱いた。
するとナツルが、私に話しかけてくる。
「ひとつ聞いてもいいかな。キミはどうして、生きる事を選んだの?」
「バァカ、このアタシがこんなところでくたばってたまるかよ。死んだら、聞けなくなっちまうだろうが……」
「聞けなくなる…?何を?」
私がニヤリと笑いながら言うと、ナツルが怪訝そうな表情を浮かべる。
やっとわかった。
この『げぇむ』が開催された目的。
そして、この『げぇむ』を『くりあ』する、唯一の方法。
私は、ナツルを指差して口を開く。
「今度はこっちが聞きたいんだけどさ………アンタの好きな曲、何?」
私が尋ねると、ナツルが僅かに目を見開く。
ナツルは少し考え込んでから、私の質問に答えた。
「好きな曲…?特に無いけど」
「……そっか。やっぱりそうだわな。アンタならそう答えると思ったよ」
やっぱり、思った通りだ。
コイツなら、『好きな曲なんて無い』って答えると思ってた。
「今の質問で分かった。アンタ、今の人生が退屈でしょうがないんでしょ?だったらアタシが、暇潰しに付き合ってやるよ」
私がそう言うと、ナツルは図星を突かれたのか、僅かに目を見開く。
今の反応で確信した。
やっぱり、私の考えは正しかった。
私は、『『げぇむ』が終わるまで生き残れれば『げぇむくりあ』』という『るうる』に疑問に思っていた。
そもそもこの『げぇむ』は、本当に勝ち負けなのか?
もしこの『げぇむ』が勝ち負けなら、ナツルは催眠なんて手を使うまでもなく、普通に私を殺せばよかったはず。
私を殺せば簡単に『げぇむくりあ』できたはずなのに、ナツルはそれをしなかった。
というか、『
絵札の『げぇむ』のシステムにとらわれすぎて、私達『ぷれいやぁ』の目的は絵札の主に勝つ事だと思い込んでたけど、もしその考えが、根本から間違っていたとしたら?
もしこの『げぇむ』の解決法が、『今際の国』の国民と戦う事とは真逆の解決法だったとしたら?
だとしたら、ナツルは
その答えは、『この『げぇむ』こそが、『今際の国』の国民になった理由』という発言にあった。
この子がどうして『今際の国』の国民になったのか、やっとわかった気がする。
私がすぐにこの『げぇむ』の本質を見抜けなかったのは、この子が『今際の国』の国民になった理由が、『
この子の願いは、ただひとつ、今を笑って生きる事。
この子が元の世界での平穏な生活を捨ててまで『今際の国』で生きる事を選んだのは、凡人にとってはありふれた願いが、彼にとっては、この世界でしか叶えられない願いだったから。
私も人の事言えないけど、元の世界では、よっぽどつまらない人生を送ってきたんでしょうね。
『げぇむ』をしている時の彼の目が、それを物語っていた。
生気がなくて、笑っているように見えても目が笑っていない。
彼の目は、何にも生きる喜びを見い出せず、世界の全てに退屈している人間の目だ。
私もそうだったから、同族の事は誰よりもわかる。
初めから、何も難しい事を考える必要なんて無かった。
今までの『げぇむ』は、『ぷれいやぁ』が勝つか、
だけどこの『げぇむ』は、国民と戦って勝たなきゃいけないという思い込みにさえ囚われなければ、『ぷれいやぁ』も、『
「今からアタシがお手本を見せてやるよ。見てな」
そう言って私は、ヘラヘラ笑いながらナツルを指差す。
生憎腹の傷のせいで、私にはあんまり時間がない。
こんなクソゲー、ソッコーで『げぇむくりあ』してやる。
でも今激しく動いたりなんかしたら、傷口が開いて大変な事になっちゃうかもなぁ…
もしこれで『げぇむくりあ』できなかったら、私はここで死ぬ。
だけど今は、そんな事は知ったこっちゃない。
アイツの分まで、背負って生きるって決めたから。
私は、傷を手で押さえながら立ち上がると、観客席の階段を降りてステージへ向かった。
そして、ステージに上がり、挑発するようにナツルにニヤリと不敵な笑みを向ける。
これから歌が始まるというのに、観客席で待たずにステージに立っている私を見て、ナツルはキョトンとしていた。
「……何してるの?」
「休憩時間以外の禁止事項は、このコンサートホールから出る事だけ。ステージの上に立っちゃいけないなんて『るうる』は無かったろ?」
そう言って私は、ナツルの立っている台の上に上がる。
そして、ナツルが持っていたマイクを無理矢理ひったくった。
「貸せ!いいか、歌ってのはな、こうやって歌うんだよ」
マイクを奪われたナツルが唖然としているので、私は煽るように上から目線で言ってやった。
私は、そのマイクの音量を最大にして、誰もいない観客席に向かって叫んだ。
『オーディエンスの皆ァーーー!!アタシ達のライブへようこそーーー!!楽しんでるかァーーー!?』
私が叫ぶと、コンサートホールのスピーカーから私の声が聴こえて、会場全体がビリビリと響く。
私を見上げてポカンとしているナツルを他所に、私は好きなロックバンドの曲を脳内で流した。
見てろ、クソガキ。
ここからは、アタシのターンだ。
げぇむ 『りさいたる』
難易度 『
生存者 2名中2名
♡Qのミラより立場が低い事と、♡Kの絵札には口髭がない事から、本作の♡Kは子供にしてみました。
ちなみに『げぇむ』会場のモデルはBunkamuraのオーチャードホールです。