『げぇむ』 『りさいたる』
難易度 『
エントリー数 無制限
制限時間 なし
『るうる』
『りさいたる』終了後、『ぷれいやぁ』が1人でも生き残っていれば『げぇむくりあ』。
『りさいたる』が終わる前に『ぷれいやぁ』が全員死亡すれば『げぇむおおばぁ』。
ただし『りさいたる』が終了するのは、『
『オーディエンスの皆ァーーー!!アタシ達のライブへようこそーーー!!楽しんでるかァーーー!?』
私は、そのマイクの音量を最大にして、誰もいない観客席に向かって叫んだ。
私が叫ぶと、コンサートホールのスピーカーから私の声が聴こえて、会場全体がビリビリと響く。
私を見上げてポカンとしているナツルを他所に、私は好きなロックバンドの曲を脳内で流した。
見てな、クソガキ。
今度はアタシのターンだ。
◇◇◇
私の歌う子守唄は、下手くそだとよく言われる。
親に愛されず、友達が一人もできなかった私が、小さい頃に一度だけ聴いた子守唄。
街で私と同じくらいの歳の女の子が歌っているのをたまたま聴いて、一度聴いて覚えたその歌を自分で歌って、寂しさを紛らわせていた。
だけど間違えた音程で歌っていたのをそのまま覚えて、正しい歌い方を教えてくれる人が誰もいなかったから、その歌い方が染み付いてしまって、結局正しい歌い方を覚えられなかった。
まるで、一度折り目をつけた紙が元通りにならないのと同じように、幼かった私の心には一生消えない折れ目がついた。
ナツルも、もしかしたら私と同じだったのかもしれない。
心に折れ目がついたまま大きくなって、退屈した人生を送ってきたのかもしれない。
好きな歌を歌って、心の底から笑って生きる。
おおよその人間が送っているありふれた人生すら、この子にとっては、たとえ全てを擲っても永遠に手が届かない願いだった。
だからこんなどうしようもない国で生きる事を選んだのかもしれない。
ナツルの願いを叶えて、私も生き延びて『げぇむくりあ』する方法が、ひとつだけある。
どんな音楽を聴いても感動できなかった私だけど、たったの一度だけ、音楽を通して心を動かされた事があった。
数年前、私達の立ち上げた会社がまだ弱小企業だった頃。
サムが私の故郷の日本を観光したいって言うから、彼を連れて一緒に帰国した時の事だった。
東京観光の最終日、路上でライブが行われているのを見かけた。
ライブをしていたのは、グループ名も知らないような、駆け出しの5人組のミュージシャンだった。
全然人が集まっていなくて、私も興味がなかったから素通りしようとしたけど、サムが1曲だけ聴いてみたいって言うから、1曲だけならと仕方なく付き合った。
『次で
「「YEAHHHHHHHHH!!!」」
気がつけば私達は、名前も知らない駆け出しのミュージシャンの曲に聴き入っていた。
それこそ命を懸けて歌い奏でる彼等に魂を揺さぶられて、あの時確かに、心が躍った。
リズムに合わせて勝手に身体が動いて、掛け声に合わせて全力の大声でレスポンスをした。
あの時だけは、悩みなんて全部忘れて、等身大の自分になれた気がした。
「最後まで付き合ってくれてありがとな!あんなにノってくれた客は、アンタらが初めてだよ」
「
サムと、バンドのメンバー…特にボーカルのお兄さんは、ライブが終わる頃にはすっかり仲良くなっていた。
私もサムも、時間を忘れて最後までライブを楽しんで、危うく帰りの飛行機に乗りそびれるところだったのは、今では笑い話だ。
あれから、あのバンドは一度も見ていない。
あれ以来一度しか日本に帰らなかったから、彼等がミュージシャンとして成功したのか、それとも結局売れずに解散したのかは、今となっては知る由もない。
ここで死んじゃうかもしれないなら、もう一回くらい聴きたかったな。
◇◇◇
あの時の5人は、折れ目のついた私の心に響く曲を届けてくれた。
あの時の歌と同じように命懸けで歌えば、私と同じように一生消えない折れ目をつけられたナツルの心にも、私の歌が響くかもしれない。
ボーカルの彼は確か、こんな感じで歌ってたっけ。
『FOOOOOOOOO!!!』
私が叫ぶと、ナツルは目をまんまるに見開いて私の方を見る。
彼は、催眠効果のある歌を歌うのも忘れて、驚いた様子で私を見ていた。
ナツルが私に注目しているうちに、私は好きだったロックバンドの曲をアカペラで歌う。
上手く歌おうだとか、歌詞に感情を込めるとか、余計な事は一切考えずに、ただ好きなように全力で歌った。
ありがとう、名前も知らないバンドの皆。
アナタ達が教えてくれた事が今、私の中で生きてる。
ナツルを楽しませようだなんて、余計な事は考えない。
命懸けで歌って踊っている今が、楽しくて仕方がない。
どうせやるなら、もっと死ぬ気で楽しみたい。
私は、動きやすいようにドレスのスカートを破くと、傷口が開いて血が滴るのもお構いなしにステージの上を踊った。
ナツルを歌で楽しませれば、満足して『げぇむくりあ』させてくれるかもしれないなんて、ただの私の願望混じりの妄想。
私の歌でナツルが満足してくれる保証はないし、そもそもナツルが満足する事が勝利条件っていうのも、私の見当違いかもしれない。
むしろ、このまま私の体力が尽きるか失血死して『げぇむおおばぁ』になる可能性の方が高い。
でも、この命を、最後の一秒まで使い切るって決めたから。
大人しくジワジワ死ぬのを待つくらいなら、人生最大の大博打に、残りの人生全部ベットしてやる。
ナツルが『げぇむ』を終わらせるか、私が先に死ぬか、二つに一つ。
どっちにしろ最後まで、歌って、踊って、騒いで、笑って、この『げぇむ』を命懸けで楽しんでやる。
『
私は、声を張り上げて思いっきり叫んだ。
私の叫び声が、会場にビリビリと響く。
私が血を流しながら踊り歌っていると、ナツルがソワソワと身体を動かしながら私を見る。
おい聴いてるかクソガキ。
アンタの歌い方は、全然なってない。
歌ってのは、上手けりゃいいってもんじゃない。
魂で歌うもんなんだよ。
この『げぇむ』で、私かアンタのどっちかが死ぬ。
だけどそれは、このクソゲーに負けたからじゃない。
この『今際の国』の絶望に負けたからでもない。
全力で今を楽しんで、気持ちよく最期を迎えるんだ。
このアタシが、最高の気分で逝かせてやる。
嫌な事全部忘れて、頭ん中空っぽにして、イイ声上げて鳴いてみろ。
◆◆◆
ナツルside
僕の家は、代々続く音楽家の家系だった。
そんな家に生まれた僕も、楽譜を絵本代わりに幼少期を過ごした。
僕の父は偉大な音楽家で、僕は父に音楽を教わった。
「いいか夏琉。お前は誇り高き相川家の最高傑作だ。常に1番を目指せ。2位以下はただのゴミだ」
「……はい。お父さま」
父に歌の才能を見い出された僕は、世界一の歌手になれと言われ、物心ついた時から歌わされて、プロが出るようなコンクールにも出場させられた。
父も音楽業界では有名人だったけど、天才と呼ばれる類のライバル達に敗れて、世界一にはなれなかった。
父が幼かった僕を歌手に育てたのは、自分が叶えられなかった夢を、僕に叶えてほしかったから。
僕の歌声には、人の心を惑わす力があった。
1/fゆらぎを持つ歌声で、精神をリラックスさせて集中力を高める事で効果を発揮できる、一種の催眠。
僕の歌は、どんなに疑い深い人でも従順にさせたり、そこにあるはずのないものを見せたりする事もできる。
それを可能にしているのは、僕のもう一つの才能…人の心を読む力だった。
厳格な家で育ち、人の顔色を見て生活してきたからか、僕は割と高い精度で人の感情を読む事ができた。
相手がなんとなく好きそうな歌をなんとなく歌うだけで、簡単に人の心を操る事ができた。
人の心を操る歌声も、人の心を読む力も、父も、母も、ライバルも、誰も持っていなかった。
僕だけが持つ、特別な力だった。
僕が人を惑わす歌を歌えば、聴衆は皆操り人形のように僕を褒め称え、歌のコンクールはいつも僕の独壇場だった。
「君の歌は素晴らしい!!」
「天才だ!!」
「流石は相川家の子だ!!」
周りの大人は皆、僕を『天才』『神童』と褒め称えた。
だけど僕は、歌を歌っていて楽しいと思った事がなければ、ましてや皆に褒めてもらえて嬉しいと思った事なんて一度もなかった。
父に決められた通りに歌って、歌の力で正常な判断力を奪われた聴衆が思考停止して僕の歌を褒め揚す。それの一体どこが楽しいというのか。
僕は、好きなように好きな歌を歌える普通の人が羨ましかった。
僕には、悩みを共有できる友達なんてものはいなかった。
親の都合でしょっちゅう色んな国を転々としてたし、そもそもコンクールで忙しくて学校にはほとんど行ってなかったから、同年代の子達との接点がほとんど無かった。
僕はいつも、他の子が楽しそうに好きな歌っているのを見ているだけだった。
だけど父は、僕が他の子を羨ましそうに眺める事すら許さなかった。
「夏琉、あんなものに興味を持つな」
「あ…!」
「お前は、アレらとは違う。お前には、世界一の歌手になる義務がある。人の上に立つ者に、馴れ合いなど不要だ」
「……ごめんなさい、お父さん」
僕が楽しそうに歌う他の子を眺める度に、父は僕の手を引いて強い口調で責めた。
父は口癖のように僕に1番になれと言ってきたけど、僕は人の心を惑わせて獲る1番になんて興味がなかった。
好きなように好きな歌を歌って、楽しく生きたかった。
だから僕は、一度だけ親に逆らって、コンクールで歌いたい曲を歌いたいように歌った事がある。
リート歌手のコンクールにそぐわないような、無名のロックバンドの歌を歌った。
そうしたら、いつもの歓声は起こらず、観客や審査員達は僕の歌を酷評した。
その場にいた観客は、誰一人として僕の歌を評価してくれなかったけど、僕はそれでも良かった。
たとえ世界中の人がいつもの歌がいいって言ったとしても、僕は自由に歌を歌いたかった。
だけど僕の親は、それを許さなかった。
「なぜ言われた通りにできないんだ。優勝を逃すどころか客に酷評されて、恥ずかしいとは思わないのか?」
父は、コンクールで勝手に好きな曲を歌った僕を非難してきた。
この際だから僕は、その機会にずっと思っていた事を父に伝えた。
もう既に好き放題やって観客の反感を買った僕に、怖いものなんかなかった。
「…お父さん。ボク、もうお父さんの言われた通りに歌うの、いやだ。ボクは、好きな歌を好きなように歌いたい。それが歌手としてダメだっていうんなら…ボク、もう歌手やめる」
僕がそう言うと、父は僕の頬を平手打ちした。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
僕が顔を上げると、父は家畜を見るような目を僕に向けて口を開いた。
「そんな勝手が許されると思っているのか?お前には、世界一の歌手になる義務がある。人の心を揺さぶる歌声を持つお前になら、それができる。歌で1番になる事が、相川家の誇りであり、お前のただ1つの存在意義だ」
父にそう言われた瞬間、僕は父に見切りをつけた。
ああ、もう、この人には何を言っても無駄なんだ。
この人にとって僕は、第二の自分であって、自分のコンプレックスを隠す為の道具でしかない。
プライドが高く自己顕示欲の強い父は、かつて自分が叶えられなかった世界一の歌手という夢を僕に叶えさせる事で、自分の欲望を満たそうとしていた。
僕はそんな父も、父に教わった音楽も嫌いだった。
中学に上がる頃には、僕はテレビでも取り上げられるような、世界的に有名な歌手になった。
世界中の色んなコンクールで何度も優勝して、外を歩けば嫉妬や羨望の眼差しを絶えず向けられるようになった。
どいつもこいつも、操り人形のように僕の歌を素晴らしいと口を揃える聴衆ばかりで、僕が自由になれる場所なんてどこにもなかった。
父に言われるがままに歌った歌が評価される度に、『お前はただの道具だ』と突きつけられるような気分になる。
歌なんて、音楽なんて大嫌いだ。
「毎日、毎日、くだらない事の繰り返し……ボクって、何の為に生きてるんだろう」
僕の人生の主人公は、僕じゃない。
僕はずっと、親に決められる人生を送ってきた。
毎日、毎日、自己顕示欲に塗れた親と、くだらない聴衆の為に、歌いたくもない歌を歌う。
何も考えずに言われた通りに歌った歌を、聴衆が褒める事の繰り返し。
僕が『天才歌手の相川夏琉』であり続ける限り、何をしても満たされる事はない。
他の皆が当たり前に感じている喜びを、僕は何も感じない。
人生なんて、80年は続くクソゲー。
こんな事をあと70年も続けなきゃいけないなら、もういっその事、死んで楽になりたい。
それか、どこか知らない国にでも行きたい。
どこでもいいから、この世界の事なんて何もかも忘れて自由に生きられる、どこか遠い国へ。
そう思った瞬間、空に無数の花火が上がった。
――ミーンミンミーン…
「………え?」
気がつけば僕は、『今際の国』に迷い込んでいた。
僕が最初に参加した『げぇむ』は、『
生きたいと願う人の心を弄ぶ悪質な『げぇむ』だったけど、僕は余裕で『くりあ』できた。
だって僕には、生きなきゃいけない理由がなかったから。
「『げぇむ』……か。こんな事を、何度も繰り返さなきゃいけないんだね」
この世界で生き残るには、命懸けの『げぇむ』に参加して、『びざ』を手に入れ続けなきゃいけない。
だけど不思議と、それが苦痛だとは感じなかった。
少なくとも、元の世界で無駄な時間を過ごすよりは百倍マシだ。
僕は、好きな歌を歌って自由に生きられるなら、どんな世界でも良かった。
それがたとえ、毎日殺し合いが行われ、死の絶望と恐怖に塗れた世界でも。
その後も『げぇむ』を難なく『くりあ』して、滞在86日目、『ねくすとすてぇじ』が始まった。
『ねくすとすてぇじ』開催2日目、僕は『
人を操る声を持ち、人の感情をかなりの精度で読む事ができる僕にとっては、絵札のレベルでも『
僕の嫌いな父さんに育てられた才能のおかげで生き残れたのは、不本意だけど。
『
エンジと一緒に先代の『
そして開催8日目、僕は『
最後の『げぇむ』を『くりあ』した後、僕はある選択を迫られた。
《おめでとうございます。ただ今を持ちまして、
「僕は……『永住権』を『手にする』よ」
僕は迷わず、永住権を手に入れる選択をした。
永住権を放棄すれば、元の世界に戻れたのかもしれない。
それでも、僕の嫌いな音楽しかない元の世界に戻るくらいなら、僕はこの『今際の国』で自由に生きたかった。
◇◇◇
元の世界の肩書きに囚われないこの世界でなら、僕も笑って生きられるのかもしれないと思っていた頃もあった。
だけど、それが叶わない事はすぐにわかった。
せっかく『今際の国』の永住権を手に入れて、父さんの呪縛や歌手としての重圧から解放されたのに、歌が全然楽しくない。
好きだったはずの曲を歌っても、もう何も感じない。
父さんに歌いたくない歌ばかり歌わされて、歌の力で自我を奪われた聴衆に持ち上げられてばかりいた僕は、いつからか、心から楽しんで歌う事ができなくなっていた。
せっかく自由になったのに、どうやって楽しめばいいのかわからない。
『今際の国』に逃げたところで、結局僕の人生は、父さんの望んだ歌手としての人生に縛られたままだった。
だから僕は、『
歌手としての僕を、誰かに殺してほしかった。
催眠になんか負けない、父さんの思い通りになんかならないってところを、見せてほしかった。
歌手としての自分を殺して、今度こそ自由になりたかった。
その時は、僕も心から笑えるんだろうか。
それが叶うなら、命だろうと、何だろうといくらでもくれてやる。
『
騒がしい声に、思考を現実に引き戻される。
僕の隣で、ツエダが僕のマイクを奪って歌い踊っている。
彼女はボロボロの格好でステージの上を踊り、さっきナイフを刺した腹の傷からは血が流れ、ステージ上に血が滴り落ちている。
歌も、ダンスも、何もかも下手くそで滅茶苦茶。
歌の意味とかテクニックとかがまるで感じられず、完全に好き勝手やってるだけ。
うるさいし、汚いし、何より品がない。
だけど、どうしてだろう。
身体が、勝手に弾む。
心が、躍らずにはいられない。
他の誰に向けた歌でもない、自分勝手な歌だからこそ、僕は心を動かされた。
気づけば僕は、足でステージを踏み鳴らしてビートを刻んでいた。
するとツエダが、頬を赤らめて息を切らしながら、僕にマイクを差し出してくる。
「ほら、歌ってみろ」
「え…?」
「歌うって楽しいぜ。今日死んじゃうかもしれない事なんか、どうでもいいって思えるくらいにな」
そう言ってツエダは、満面の笑みを浮かべる。
僕は、ジャケットとネクタイを脱ぎ捨てると、ツエダのマイクを奪って次の歌を歌い始めた。
今まで抱えてきたものを、全部歌に乗せて吐き出した。
そうしたら、少しだけ心が軽くなった。
「ぎゃははは、やりゃあできんじゃねーか!!歌え!!踊れ!!騒げ!!笑え!!思いっきり楽しめ!!」
僕が歌い始めると、ツエダが豪快に大笑いする。
そこからは、僕とツエダはマイクを奪い合い、お互いの魂をぶつけ合うように歌った。
『
『YEAHHHHHHHHH!!!』
『
僕とツエダは、全力で大声を張り上げて掛け合いをしながら、狂ったように歌った。
リズムは支離滅裂、メロディーも滅茶苦茶、なのに自然と、歌がスラスラと出てきた。
身体が軽い。
今なら、何だってできるような気がする。
ツエダの言う通りだ。
歌うって、こんなに楽しかったんだ。
それこそ、この『げぇむ』が終われば死んじゃう事なんて、どうでもいいと思えるくらいに。
傷口が開いて血を流しながらも顔を熱らせて踊り歌うツエダを見て、僕も身体が、顔が熱くなっているのがわかる。
心臓がうるさいくらいに高鳴って、息が荒くなる。
こんなに気持ちいい事があるなんて、知らなかった。
僕が歌っていると、ツエダが右手を差し出してくる。
僕は快く彼女の手を取り、一緒に踊りながら歌った。
お互いの歌声をぶつけ合うようなさっきまでの歌い方とは対照的に、二人で歌声を重ね合わせる。
僕もツエダも、正気じゃなかった。
『
命を燃やして歌うツエダの事を、ほんの少しだけ、綺麗だと思ってしまったから。
やっとわかった気がする。
僕はきっと、彼女と出逢う為にこの『今際の国』に来たんだ。
そして、今この瞬間を生きる為に生まれてきたんだ。
◇◇◇
僕とツエダは、これが命懸けの『げぇむ』だって事も忘れて、全力で歌って、全力で踊って、全力で笑った。
命懸けで歌った
気が済むまで歌った僕は、ツエダの方を見る。
彼女はもう、血を流しすぎてる。
そろそろアドレナリンが切れてきて、体力も限界に近づいている頃だろう。
これ以上『げぇむ』を長引かせたら、失血死して『げぇむおおばぁ』になってしまう。
今まで、『ぷれいやぁ』の命なんかどうでもいいと思ってた。
だけど、彼女が死ぬとなれば話は別だ。
だって彼女は、皆の為に歌う僕じゃなくて、好きに歌う僕を選んでくれた、たった一人の
「ツエダ」
僕は、僕に歌う楽しさを思い出させてくれた彼女に声をかけた。
こんなに誰かに自分を曝け出せたのは、生まれて初めてだった。
できる事なら、この楽しい時間が、ずっと続いてほしい。
だけど楽しい時間は、いつかは必ず終わる。
僕が閉演を宣言すれば、その時点で彼女は『げぇむくりあ』できる。
もう、『げぇむ』を終わらせる時間だ。
「ありがとう。キミのおかげで、やっとボクの願いが叶った」
僕は、好きに歌って、心の底から笑う為に、『今際の国』の国民になった。
その願いが叶うなら、命だろうと何だろうと差し出すつもりだった。
だから、僕の残りの命は、全部あげる。
「……ご来場の皆様。本日はお集まりいただきありがとうございました。これにて、『りさいたる』を閉演します」
僕は自分の意思で、ハッキリと、『閉演』を宣言した。
すると閉演のブザーが鳴り、スピーカーからガガッとノイズが聴こえる。
《『りさいたる』が閉演しました。『げぇむ』終了です。ここで、『げぇむ』を生き残った『ぷれいやぁ』がおられます》
合成音声が、『げぇむ』の終わりを知らせる。
もうすぐ、僕はレーザーで頭を撃たれて死ぬ。
これが死か……
ここに来るまで色々あったけど、もう思い残す事は何もない。
僕は最期に、元の世界での立場なんて忘れて、自由になれた。
好きに歌って、心の底から笑って生きられた。
こんなにも幸せな事はない。
今日まで、無駄な時間を過ごしてきた。
生まれてこなきゃ良かったと思った事もあった。
それでも僕は、この世界で、誰よりも自由に生きたから。
最期に、こんなにも楽しい事があるんだって知れたから。
やっぱり生きてて良かったって、心の底から思える。
神様。
僕を生んでくれて、今日まで生かしてくれてありがとう。
この世界で、本当の自分を曝け出せる仲間に出会わせてくれて、こんなにも幸せな人生をくれて、本当にありがとう。
でも、ごめんなさい。
やっぱり、レーザーで撃たれて殺されるなんて、真っ平御免なんだ。
僕は、タキシードの胸ポケットに入れていたハンドガンを抜いて、銃口を顳顬に当てた。
僕達『今際の国』の国民に『げぇむ』をやらせている『誰か』に対して、心の中で「ざまぁみろ」と呟きながら、満面の笑みを浮かべる。
ねぇ、神様。
僕はこの世界が好き。
この世界に僕を呼んでくれた事、本当に感謝してる。
でも僕は、最期まで自由に生きたい。
この国から強制排除されて終わるなんて、絶対に嫌。
だから僕は、この世界の『るうる』通りには生きてあげられない。
僕は、誰にも殺されないし、誰の思い通りにもならない。
僕は最期まで自分勝手に生きるけど、許してね。
《よって『
「あー、楽しかった」
そう言って僕は、レーザーが降ってくるよりも早く、引き金を引いた。
僕は最期まで、楽しく、そして自由に生きた。
本当に、いい人生だった。
◆◆◆
ツエダside
ナツルが、アナウンスの途中で自分の顳顬にハンドガンを向けて引き金を引いた。
バン、と発砲音が響いた後、ナツルは血と脳漿をぶちまけながら倒れる。
『げぇむおおばぁ』のアナウンスの後、レーザーがナツルの額を貫いたけど、既にナツルが自殺した今となっては、もはや無意味だった。
ステージの上に仰向けに倒れた彼は、満足そうに笑っていた。
最期に好きなだけ歌って逝く事ができた彼の顔は、未練なんて一ミリもなくて、死んでいるのが信じられないくらいに綺麗だった。
《『ぷれいやぁ』は、見事『りさいたる』を生き残る事ができました。こんぐらちゅれいしょん。『げぇむくりあ』。『げぇむくりあ』》
私以外誰もいないコンサートホールに、合成音声が無機質に鳴り響く。
それとほぼ同時に、身体の力が抜けて、私はナツルの近くに倒れ込んだ。
「くそ……痛ぇ……無茶しすぎた……」
腹の傷口からは大量の血が溢れ出ていて、私の下には血溜まりができていた。
傷が塞がり切らないうちに思いっきり歌ったり踊ったり叫んだりしたから、傷が開いたみたい。
幸い傷は致命傷じゃないけど、これ以上血を流したらそろそろやばい。
腹を刺したばっかなのに踊ってバカ騒ぎするとかバカかよ、くそ…
私が傷口を手で押さえながら起きあがろうとすると、ふと、ナツルの顔が目に留まる。
血を流しすぎてうまく動かない身体を引きずって、ナツルの顔を覗き込む。
この子は、『今際の国』の理不尽に負けたんじゃない。
現実世界の理不尽に負けたわけでもない。
かつての世界で歌って笑う楽しみを奪われて、この『今際の国』で足掻き苦しみながら、それでも最期の最期に、やりたい事をやり切った。
最期は、この世界の絶対の『るうる』からも逃げ切った。
彼は私の知る限り、一番美しく鮮やかに勝った。
絶望という、一度はこの私すらも打ちのめした、一番強大で凶悪な敵に。
私の目の前で死ぬ奴は皆、私には無いものを持ってる。
私が母を殺した少年を撃ち殺した時もそうだった。
撃ち殺した少年の服の中を漁ると、彼は服の中にロケットペンダントを隠し持っていた。
ロケットペンダントの中には、家族写真が入っていた。
写真に写っていた彼は、笑顔を浮かべた家族に囲まれて、とても幸せそうだった。
家族に愛されていた彼は、人の痛みを知る事ができたからこそ、私を殺せずに死んで、私は親に愛されず、人の痛みを知らなかったから、簡単に彼を撃ち殺せた。
私の前からいなくなった奴は皆、私にはもったいない奴等ばかりだった。
サムも、ナナミも、ボーシヤも、ファンの子達も、そしてナツルも。
気づけば私は、あの時彼に言った言葉と同じ言葉を、ナツルにかけていた。
「……アンタが羨ましいよ」
そう言って私は、ナツルの頬を撫でると、そっとキスを落とした。
ねぇ、ナツル。
私は、何がアンタをそこまでさせるのか、最後までわからなかった。
私はアンタみたいに、自由な生き方を貫けそうにない。
でも、これだけは本当の気持ちだから、アンタに言うね。
アンタとのライブ、最高に楽しかったよ。
───今際の国滞在63日目
残り滞在可能日数
潰田千寿 67日
『ねくすとすてぇじ』開催3日目
『げぇむ』 残り8種
『ぷれいやぁ』 残り169人
お察しの方もいると思いますが、主人公が帰国した時に会ったミュージシャンは、キューマ達5人です。
キューマ達となんとか接点を作りたかったのですが、こんな形でしか接点を作れなかったんや…
あと、『
『
◆プロフィール
本名:
性別:男性
年齢:12歳
身長:139cm
出身地:東京都
職業:中学生/リート歌手
得意ジャンル:『
好きなもの:なし → 歌
◆容姿
癖のついた赤毛を肩まで伸ばしている。瞳の色は紅色。
中性的で小柄な体格。
◆服装
黒のタキシード。襟元に黒の蝶ネクタイをつけている。
◆人物
『
中学生でありながら、世界的に有名な天才歌手。
人の心を落ち着かせる声を持ち、催眠効果のある歌で人の心を操る事ができる。
何にも楽しみを見い出せず、どこか冷めた表情を浮かべている。
幼い頃から音楽家の父親に英才教育を受け、孤独な幼少期を過ごす。
自身の才能ばかりが一人歩きして自由な歌を歌えずに燻っていたところ、『今際の国』に迷い込む。
『今際の国』で過ごしているうちに、元の世界への未練が薄れ、『今際の国』に残って自由で楽しい歌を歌いたいという願いを抱くようになる。
『ねくすとすてぇじ』では、『
開催2日目、ツエダと対決。
最初は催眠効果のある歌で彼女を自殺に追い込もうとしたが、彼女が自力で催眠を解き、逆に彼女に本心を見抜かれ、命懸けのライブに巻き込まれ心を動かされる。
ツエダのライブによって、笑って歌うという願いを叶え、開催3日目の昼に『げぇむ』の終了を宣言し、拳銃自殺した。
名前の由来は、仮面ライダー剣の仮面ライダーカリスこと相川始と、ハートのキングのモデルとなったシャルルマーニュ(カール大帝)。