Duchess in Borderland   作:M.T.

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かいさいいつかめ

ツエダside

 

「あー、よく寝た」

 

 『ねくすとすてぇじ』開催5日目。

 マンションの寝室のベッドで目を覚ました私は、ふと横のベッドを見る。

 隣のベッドには、そこで寝ていたはずのチシヤがいなかった。

 …いつもは私の方が起きるの早いんだけどな。

 『げぇむ』に参加して疲れてたから、よく寝れたわ。

 なんて考えつつ、黒いパーカーとローライズのジーンズを身につけてリビングに向かう。

 

 リビングでは、チシヤがソファに座って本を読んでいた。

 私は、髪を首の後ろでポニーテールにしながら、チシヤに声をかける。

 

「おはよ」

 

 私が声をかけると、私を一瞥してから、すぐに本に目を移す。

 はー、相変わらず生意気な野郎だわ。

 つーか腹減ったんだけど。

 

 さーて、食べ物は何があるかなーっと。

 キッチンを漁ると、戸棚の中に缶詰やらカップ麺やらが入っていた。

 他のものに比べて埃がついていないやつは、チシヤが持ち込んだのかしら。

 なんて考えつつ戸棚を漁っていると、『なじみのビスケット』と書かれたビスケットの袋を見つけた。

 

「あーお腹減った。ねーこのビスケット食っていい?」

 

「好きにすれば?」

 

「わーい♪」

 

 私は、戸棚にあったビスケットの袋を開けて、ビスケットを一枚食べてみた。

 ……うん、まぁまぁ美味しいわね。

 二袋目も食べたいって程ではないけど。

 

 キッチンでコーヒーの缶を見つけた私は、ケトルにペットボトルの水を注いで、ガスコンロでお湯を沸かす。

 その間に、カップにドリッパーとフィルターをセットして、フィルターの中にコーヒー粉を入れる。

 沸いたお湯をフィルターに注げば、トポポポ、と心地の良い音を立ててお湯が粉の中に沈んでいく。

 こうして淹れたコーヒーに、ガムシロップを入れて、カップを軽く揺らして混ぜる。

 

 本当は酒が良かったけど、無いものは仕方ない。

 ちょうどこれから出かけるつもりだし、その時にコンビニでも寄ってパチってこよ。

 

 そんな事を考えつつ、コーヒーを片手にビスケットを頬張る。

 全然甘さがくどくないビスケットだったから、あっという間に一袋平らげてしまった。

 朝食の後は、少し準備運動をしてから猟銃を持って出かける支度をする。

 

「じゃ、ちょっくら行ってくるわ」

 

「どこ行くの?」

 

「ちょっとその辺で狩りして来るわ。アンタ、明日『げぇむ』に参加するんでしょ?今日の夕飯は鹿食わしてやるよ」

 

 そう言って私は、猟銃を構えてニヤリと笑う。

 痛み止めが効いているおかげか、お腹の傷はほとんど痛まない。

 ちょっとくらいなら、走ったり跳んだりしても平気そう。

 怪我も治った事だし、銃の練習がしたいけど、どうせやるなら目的が無いよりはあった方がいいからねー。

 あー肉が食いたい。

 

「アンタが食いたいだけだろ?」

 

「えへ、バレた♡」

 

 チシヤが私の本心を見透かすと、私はベッと舌を出して笑う。

 マンションを後にした私は、街で獲物を探した。

 ちょっと空模様が怪しいし、雨が降る前に獲物を仕留めておきたい。

 私もそろそろ『げぇむ』に参加するつもりだし、『げぇむ』の前に肉食って精をつけないとね〜♪

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒーロside

 

 『ねくすとすてぇじ』開催5日目、早朝。

 私とキズナちゃんは、テントの外で見張りをしていた。

 夜中に『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』が襲撃に来てもすぐに逃げられるように、皆で30分ずつ交代で見張りをする事にしたのだ。

 私が見張りがてら準備運動をしていると、キズナちゃんがガチャガチャと音を立てて調理器具を準備する。

 

「ヒーロさん。ちょっと手伝ってもらえませんか?」

 

「…うん?」

 

「今から朝ごはん作るので、ヒーロさんは焚き火を起こしてください」

 

「あぁ、わかった」

 

 私は、キズナちゃんに言われた通り、焚き火の準備をした。

 焚き火台の上に着火剤を置いて、その上にキャンプ用品店で手に入れた薪を組んで、着火ライターで火をつける。

 全体に火がついて安定してきたら、追加の薪を入れて火を育てる。

 するとキズナちゃんが、早速調理を始めた。

 パックご飯をペットボトルの水でかさ増しして、サバ味噌の缶詰とツユクサやミズなんかの野草を入れて、スーパーで手に入れた味噌、生姜、昆布だしで味付けしたら、美味しそうな朝ごはんの出来上がり。

 

「はい、皆さんできましたよ〜!サバ味噌雑炊です」

 

「わぁ、美味しそう!」

 

 キズナちゃんが朝ごはんを作ると、皆が朝ごはんの匂いに釣られて起きてきた。

 私とキズナちゃんで皆の分の雑炊をシェラカップによそって、7人で鍋を囲んで朝ごはんを食べた。

 

「美味しい〜…キズナちゃん、ホント神だわ」

 

「ヒーロさん、お弁当ついてますよ」

 

「えっ嘘?」

 

 私が雑炊を頬張っていると、キズナちゃんが頬を指差しながら笑う。

 お茶の水面を覗き込むと、頬の左側にご飯粒が付いていた。

 ベタな失敗に思わず頬を赤くすると、他の皆が微笑ましそうに笑う。

 朝ごはんを食べ終わった後は、皆で後片付けをして、この日も皆で出掛けた。

 近くのスーパーで、必要なものを揃える。

 

「えっと…ティッシュと、トイレットペーパーと……」

 

「食糧とかも多めに確保しておいた方がいいですね。多分明日、台風が来ると思います」

 

「え?どうしてわかるの?」

 

「蒸し暑いし、鳥達が安全な場所に避難しているので」

 

 私がそう言うと、ミツキさん達は驚いたような表情を浮かべる。

 

「……すごいね、観察眼」

 

「道理で、今まで生き残って来られたわけだ…」

 

 ミツキさんとタクマさんは、私を見てそう呟く。

 二人に注目されて恥ずかしくなった私は、慌てて言い訳をした。

 

「いや、私は別にそんな…子供の頃、兄に教わっただけで…」

 

 私は、頭を掻いて少しずつ声のトーンを落としながら言った。

 兄さん達は、私を女だからと見下してたから嫌いだったけど、その一方で、

 台風の前兆は、子供の頃、博識な一志兄さんに教えてもらった知識だ。

 私が発作で倒れた時、救急車を呼んでくれたのは、英樹兄さんだった。

 言い方が悪かっただけで、兄さん達は私の事を気にかけてくれていた。

 それを見下してると決めつけてた私にも、非があったのかもしれない。

 元の世界に戻って、兄さん達とちゃんと仲直りしなきゃ。

 

「あっ、薬も要るんだった!私、ドラッグストア探してきますね!」

 

 薬も探さないといけないのを思い出した私は、慌ててスーパーを飛び出し、向かい側のドラッグストアへ駆け込む。

 えっと、消毒液と、傷薬と、痛み止めと、サプリと…

 

「ゲホッ、ゲホッ…!!」

 

 薬を探していると、聴き覚えのある声が聴こえてくる。

 ニラギさんが、2階から降りてきた。

 

「ニラギさん…!?」

 

 ニラギさんは、咳をして血を吐いていた。

 私は、すぐに彼に駆け寄った。

 

「大丈夫ですか!?これ、使って下さい」

 

「触るな!」

 

 私がハンカチで血を拭こうとすると、ニラギさんが私の手を払いのける。

 

「白々しいマネしやがって、何考えてやがる…?」

 

「別に…何かしようなんて考えてないですよ。怪我してる人を放っておけるわけないじゃないですか」

 

「……テメェ、マジでオレの事心配してんのか?」

 

「当たり前じゃないですか。私にできる事があったら、何でもしますから」

 

 私がそう言って集めてきた薬で使えるものがないか探し始めた、その時だった。

 ニラギさんが、急に私の腕を掴んで床に押し倒してきた。

 

「今、何でもするっつったよなァ?ちょうど身体が熱ってしょうがなかったんだ。ストレス発散に付き合えよ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ニラギside

 

 またあの女に出会った。

 どれだけ突き放しても俺に構ってくる、ヒーロとかいう変な女。

 

 この国じゃ、どんなに善人ヅラした奴だろうと、すぐにメッキが剥がれる。

 俺がコイツを犯せば、コイツも俺の事を蔑むに決まってる。

 俺を嫌わずにいられる奴なんて、いるわけがねぇんだ。

 

 女を押し倒してTシャツを捲ると、女は怯えたような顔をして身を捩る。

 確か、元アスリートっつってたか。

 鍛えてる女はいい身体してやがる。

 スポブラをずらして胸を直接揉むと、女は俺の腕を掴んで抵抗してくる。

 

「ニラギさん、良くないです…こんなところで…」

 

「うるせぇ、オレは今それどころじゃねぇんだよ。どうせオレはもう永くねぇんだ。だったら最期に、テメェとヤって気持ち良く逝ってやるよ」

 

 俺がそう言って女のズボンを掴んでパンツごとずり下ろすと、女は拳を握って目を瞑る。

 全身にガチガチに力が入って、小刻みに震えている。

 

「……お前、まさか処女か?」

 

 俺が尋ねると、女は視線を逸らす。

 …図星か。

 

「ぎゃ…はは、ぎゃはははは!!そりゃあいい!!なァどんな気分だ?初めてがオレでよぉ!?目ん玉かっ開いてよく見ろ!!これが今からテメェを犯す男のツラだ!!」

 

 俺は、顔に巻いたボロ布を解くと、女の顎を掴んで高笑いした。

 仲間に好かれてるお前にはわかんねぇだろうよ。

 人に嫌われる事でしか生きられねぇ俺の気持ちなんて。

 海パンをずり下ろして、女の脚を無理矢理開いてブチ込んでやろうとした、その時だった。

 

「…あ?何だ、その目」

 

 女は、睨みつけるわけでも、目を逸らすわけでもなく、真っ直ぐな眼で俺を見てきた。

 

「さっき…言いましたよね。何でもするって…それで気が済むなら、どうぞお好きに」

 

「チッ、この期に及んでいい子ぶりやがって。それともアレか?泣くとオレを喜ばせるから、せめて平気なツラして耐えようってか?」

 

「そんなんじゃ、ないです……私、この世界に来るまでは、元の世界を恨んでたんです。幸せそうな人が嫌いだった。目に映るもの全部、消えちゃえって思ってた。でも、初めての『げぇむ』であなたに助けられて、結構考え変わったんですよ。私を変えてくれたのは、あなただから…私は、あなたを拒まない」

 

 意味わかんねぇ。

 何なんだよ、コイツは。

 コイツ、今から俺に何されるかわかってんのか?

 普通、蔑むだろ。

 俺が憎いだろ。

 なんで、そんな綺麗なツラしていられるんだ。

 そんな目で俺を見るな。

 

「……チッ、萎えた」

 

 俺は海パンを穿き直して、女を解放した。

 どうしてくれんだよ、すっかり興が削がれちまったじゃねぇか。

 

「ヒーロさん!!」

 

 立ち上がろうとすると、急に別の女が飛び出してきて、俺の肩に何かを振り下ろしてきた。

 反応が遅れて、右肩に重い一撃を喰らう。

 飛び出してきた女は、金箔の装飾を施された模擬刀を持っていた。

 

「離れろ、このケダモノ!!」

 

 女は、俺が痛みでよろめいた瞬間、俺に体当たりをしてきた。

 俺が商品棚に背中を打ちつけて転げ回っている間に、女はヒーロを俺から引き剥がす。

 模擬刀でぶん殴ってきた女は、憎悪に満ちた目で俺を睨んできた。

 

「ぎゃ…はは…危ねぇ…今のが真剣だったらと思うと、ゾッとするぜ……いいねぇ、その目…人間ってやつは、そうじゃなきゃなァ…」

 

「黙れッ…!それ以上喋ったら殺すぞ、クソ野郎!!」

 

 女は、ヒーロを庇うように立って俺を罵ってくる。

 そうだ。もっと憎め。蔑め。

 俺は、明るい陽の下だけを歩いてきたテメェらの顔を、憎悪で染めたくて仕方ねぇんだ。

 なのにまた、ヒーロが俺の邪魔をしてきた。

 

「キズナちゃん、やめて!私、大丈夫だから!」

 

「そういう問題じゃありません!だってアイツは……!!」

 

 ヒーロにせっかくのお楽しみを邪魔された俺は、黙ってドラッグストアから立ち去った。

 後ろからヒーロが呼びかけてくるのも無視して、草が生い茂った道を裸足で歩く。

 何なんだよ、気持ち悪りぃ。

 善人ヅラしやがって。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ツエダside

 

 あの後、狩りに出かけた私は、猟銃で仕留めた小鹿を持ってマンションに戻った。

 駐車場の床にブルーシートを敷いて、鹿を解体していく。

 今日食べる分の肉だけ取っておいて、残った分の肉は、腐らないようにしっかり血抜きをしてから、塩と一緒に真空パックに詰めて塩漬けにする。

 これで当分の間は、肉が食べられる。

 鹿なんて捌いた事がなかったから、朝早くに狩りに行って昼前には戻ってきたのに、食事の支度が終わる頃には夕方になっていた。

 今日食べる分の肉は、薄切りにしてバーベキューコンロで焼き肉にする。

 今日は焼肉パーリーだぜ。

 

「わーい、鹿肉、鹿肉ッ♪」

 

 バーベキューコンロで焼いた鹿肉を皿に盛りつけて、棲家にしているマンションに肉を持って上がり、ダイニングのテーブルに並べる。

 コンビニで手に入れたサッポロビールを片手に、焼いた鹿肉に焼肉のタレをつけて食べる。

 う〜ん、やっぱ鹿肉美味え〜。

 焼肉とビールは最強の組み合わせだわぁ♪

 なんて考えつつ、食事をしながらふとリビングを見ると、チシヤが窓の外を眺めていた。

 

「食べないの?冷めるぞ」

 

 私は、窓を眺めているチシヤに声をかけた。

 何を見ているのかが気になって、外を見てみると、空が真っ赤に染まっていて、遠くの空が曇っていた。

 台風が近いのかしら?

 

「台風か…この国に来てから初めてだわ」

 

「台風どころか、オレがこの国に来てから一度も雨が降ってないけどね」

 

「あら、そうなの?」

 

 そっか、コイツ、『今際の国』に来てから一回も雨降ってるとこ見た事ないんだ。

 まあここ1ヶ月、一度も雨が降ってなかったからね。

 この国って、滅多に雨が降らないのよね。

 最後に雨が降ったのは、滞在20日目とかだったかしら。

 なんて考えながら、窓の外を眺めているとだ。

 

「……ん?」

 

 よく見ると、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の飛行船が山の方へ移動していた。

 『ねくすとすてぇじ』が5日目にもなって、ほとんどの『ぷれいやぁ』が、『げぇむ』を放棄して23区外に逃げている。

 23区外から逃げたところで、『『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の追跡からは逃れられない。

 やっぱり、この『今際の国』に安息の地なんてなかったのね。

 

 

 

 ───今際の国滞在65日目

 

 残り滞在可能日数

 

 潰田千寿 65日

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

No side

 

 少し前、23区のはずれでは。

 サバイバルゲームの精鋭達が、廃ビルで『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』を待ち構えていた。

 

「しかしもう5日か…いざ()()()()()()()()()となると、この広い23区じゃなかなか出会わねーもんだな…」

 

「殺り合う覚悟はできてんだ…いつでも来いよ、オレ達の城に…『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』さんよォ…」

 

 屋上で見張りをしていた『ぷれいやぁ』達は、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』を待ち伏せしていた。

 一方で、屋内で待ち構えていた『ぷれいやぁ』達は、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の襲撃に備えて窓ガラスを割り、土嚢を窓枠に積んでいた。

 指揮官のダンチューイが指示を出し、他の『ぷれいやぁ』達が武器や火炎瓶を用意する。

 その頃屋上の見張りは、トランプでポーカーをして遊んでいた。

 

「しっかし…いつになったら現れるのかねぇ…『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』は…」

 

 そんな中、屋上で見張りをしていた集団が、いきなり音もなく撃たれた。

 

「……え!?」

 

 ゴウンゴウン、と飛行船のプロペラ音が聴こえ、上を見上げると、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』ことシーラビが、ロープで飛行船からぶら下がりながらライフルを構えていた。

 屋上の見張りを全員殺し、屋内に侵入したシーラビは、螺旋階段の隙間から爆弾を落とす。

 

 

 

 ――ボグォオオォォォ…

 

 

 

 シーラビが落とした爆弾が1階で爆発し、ビル全体が大きく揺れる。

 突然の出来事に、ビルで待ち伏せしていた『ぷれいやぁ』達は動揺する。

 

「な…なんだァ!?迫撃砲か!?」

 

「くそっ!!下の階だ!!」

 

「来たぞ来た来た!!『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』だ!!全員戦闘配置に…」

 

 ビルの中で待ち構えていた集団は、シーラビに向かって銃を向ける。

 だがシーラビは、『ぷれいやぁ』達が引き金を引くよりも速く、アサルトライフルを構えると同時に発砲し、待ち構えていた『ぷれいやぁ』を次々と銃殺した。

 

「ク…クイックファイヤ…!?」

 

「やべーよプロじゃん!?アイツ超ープロじゃん!!」

 

「くっ…!!無闇に通路に出るなッ!!一旦退いて、態勢を立て直せェッ!!」

 

 『ぷれいやぁ』達は、物陰に隠れて態勢を立て直そうとした。

 物陰に隠れていて居場所がわからないのをいい事に、『ぷれいやぁ』達はシーラビに奇襲を仕掛けようとする。

 だがシーラビは、左腕のモニターで『ぷれいやぁ』達の位置を確認すると、手榴弾で『ぷれいやぁ』を次々と爆殺した。

 近くにいた『ぷれいやぁ』は全員爆発に巻き込まれ、生き延びたダンチューイも鼓膜が破れる重傷を負った。

 

「ぐっ…!!何も…聴こえない…!!ハンニバル!!エライアス!!無事なら、返事をし─────」

 

 シーラビは、音もなくダンチューイの横に立つと、顳顬にアサルトライフルの銃口を当てて撃ち殺した。

 モニターで『ぷれいやぁ』の位置を確認したシーラビは、撃ち殺したダンチューイの死体に目を向ける。

 一方その頃、生き残っていた『ぷれいやぁ』達はというと。

 

「くそっ!!こうなりゃ破れかぶれだ!!」

 

「刺し違えても!!アイツだけは仕留めてやる!!」

 

 『ぷれいやぁ』達は、相討ちになってでもシーラビを殺そうとしていた。

 そして『ぷれいやぁ』3人が、2方向からシーラビのいる部屋へと攻め入る。

 

「死ねッ!!『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』ッ!!」

 

 『ぷれいやぁ』達は、突入すると同時にお互いに銃を向け合った。

 

「うおおっ!?撃つな!!オレだオレッ!!」

 

「……『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』は…!?」

 

 生き残った『ぷれいやぁ』達は、シーラビを探す。

 『ぷれいやぁ』の一人が、頭から血を流して壁にもたれかかった指揮官を見つけた。

 

「くそォ!!なんてこった!!ダンチューイが…!!オレ達の指揮官がやられちまったァ!!」

 

「もう許さねぇぞあの野郎!!」

 

「しかし肝心の『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』はどこに…!?」

 

「窓から…逃げたのか…!?」

 

 『ぷれいやぁ』達は、シーラビが窓の外に逃げたと思い、窓から下を覗いた。

 するとその時、『ぷれいやぁ』の一人が、床に転がった死体をひっくり返して青ざめる。

 

「オ…オイ、見ろよ…この死体……か、顔の皮が…剥がれてる…!?この死体は…誰なんだ…!?」

 

 その言葉に他の『ぷれいやぁ』が注目し、顔の皮が剥がれた死体に目を向けた、その瞬間。

 壁にもたれかかっていたダンチューイが、突然アサルトライフルを発砲して『ぷれいやぁ』3人を銃殺した。

 『ぷれいやぁ』達がダンチューイだと思っていたのは、彼の顔の皮とヘルメットを被ったシーラビだった。

 シーラビは、ダンチューイの顔の皮を投げ捨て、モニターで生き残りの『ぷれいやぁ』を探すと、『ぷれいやぁ』達が匿っていた女性の前に立つ。

 

「嫌…!!私はまだ死にたく…死にたくないッ…!!なんで…こんな事…何が楽しくて、こんな非道い事ができるのよッ!!」

 

 女性は、泣きながらシーラビに向かって怒鳴りつける。

 するとシーラビは、左手でナイフを抜いて女性に歩み寄る。

 

「ひッ!!」

 

「…オレが、殺しを楽しむ人間であれば…この切っ先をお前の胸に突き刺し、気管支をほんの少し傷つけるだけで、動脈から溢れた血が肺を満たし、絶命するまでの1時間、気管に水が入る苦しみを味わい続けるお前の姿を楽しむ事もできる…外科医並みの技術が必要だが、人体の構造を知り尽くしていればそれも容易い…」

 

 そう言ってシーラビが女性の胸にナイフを突きつけると、女性が泣きながら怯える。

 

「だが、そんな事をする必要がどこにある?オレが…殺しを楽しんでいるように見えるか…?」

 

 シーラビは、ナイフを懐にしまい、女性の顔を正面から見据える。

 すると女性は、目を見開いて唖然とした表情を浮かべる。

 

「……戦場で戦う、兵士にとって、最も怖いものを知ってるか…?『死』などどれだけ想像しても、抽象的なものに過ぎない。人は…()()()()死ねないからだ…戦場で『死』より遥かに強烈に存在する、そこにある恐怖…それは…『苦痛』だ。我々は、痛みなら、苦しみなら知っている。足が捥げ、腸が溢れ、それでも一思いに死ねず、悶え続ける『苦痛』ならば、お前にも想像できるだろう…?」

 

 そう言ってシーラビは、女性にアサルトライフルの銃口を向ける。

 

「だからこれは、『救済』だ。『今際の国』という絶望しかない世界で、永遠に続くとも知れぬ『げぇむ』に怯え、慄き、逃げ惑う日々から、オレが、1日も早く、苦しめずに解放してやる。『生』への未練を絶つ事で、『苦痛』という恐怖から、救われるのだ」

 

 シーラビは、女性の眉間を一撃で撃ち抜き即死させた。

 その直後、窓の外から足音が聴こえてくる。

 シーラビが窓の外を覗くと、中学生くらいの少年が一人、ビルから逃げ出していた。

 

「子供が1人…残っていたのか…」

 

 シーラビは、少年に照準を合わせ、背後から撃ち抜こうとする。

 だがその時、暴風で照準が乱れる。

 

「嵐に、救いの手を邪魔されるとは…運の…悪い奴だ…」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ドードーside

 

「皆…殺された!!あっという間に…!!あんなに…強そうな人達だったのに…!!こんな『げぇむ』、どう考えたって『くりあ』できっこない…!!もう…終わりだよォ…!!」

 

 俺は、ただひたすら森の中を走っていた。

 ついさっき、目の前で人が大勢死んだ。

 皆、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』に殺された。

 

「とにかく逃げなきゃ…!!もっと遠くに…!!アイツが追ってこられないところまでッ!?」

 

 森の中を走っていた俺は、何かにぶつかった。

 当たり負けした俺は、そのまま地面に倒れ込んだ。

 

「ぐえっ!!」

 

 俺が起き上がろうとすると、ぶつかった男の人が銃を構えてくる。

 

「ひっ!!ひぃぃっ!!」

 

 嘘だろ…!?

 まさか、もう『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』が追ってきたっていうのかよ…!?

 無理だ…もう逃げられない…殺される…!!

 

「お…願いします!!どうか…どうか見逃してくださいぃ…!!ひぃ…ひぃぃ!!」

 

 俺が最後の望みに賭けて命乞いをすると、男の人は銃口を逸らした。

 

「へ…?」

 

 顔を上げると、男の人は『チッ』と舌打ちをした。

 

「戦う意志もねぇ軟弱な精神なら…せめて囮として死ぬか…?」

 

 あれ…?

 この人、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』じゃない…?

 

「……あ…なた…は?……いや、てっきり…『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』が追ってきたのかと…」

 

 俺が言うと、男の人は僅かに目を見開いた。

 

「会ったのか…?『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』に?奴は今、どこにいる?」

 

「え…!?まさかあなたも…『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の『げぇむ』を…『くりあ』する気なんですか…?ムッ…ムリムリムリムリ!!絶対ムリですッ!!あんな奴に…絶対誰も敵いっこありませんよッ…!!」

 

 俺は、必死に男の人を説得した。

 あんな化け物みたいな奴、戦ったって無駄死にするに決まってる。

 どう足掻いたって勝てっこない。

 だけどその人は、俺の話を聞いて、怯むどころか逆に俺に話しかけてきた。

 

「…だったら、願ってもねぇ………オレはな、探してるんだよ…死に場所を。『♠︎K(ヤツ)』なら、オレを殺してくれるのか?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒーロside

 

 夕方、お昼ご飯を済ませた私達は、後片付けをしてテントを畳んだ。

 多分明日にでも、台風が東京を直撃する。

 しかもかなり大きい台風だ。

 このまま野宿してたら、テントなんて簡単に潰されてしまう。

 

「台風が近づいてきてる…」

 

「今日は屋内で過ごした方が良さそうですね」

 

「埃まみれだと思いますけど…」

 

 私達は、テントを畳んで近くのビルへと避難した。

 多分ビルの中には埃が溜まってて住めたもんじゃないだろうけど、台風が直撃してきたら、建物の中でやり過ごすしかない。

 キャンプ用品をビルの中に運び込む途中、私は、遠くの空で『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の飛行船が移動しているのを見つけた。

 

「ヒーロさん、行きますよ!」

 

「あ、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』が…」

 

 『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の飛行船は、23区の外に出て、山の方へと移動している。

 

「23区外に移動してる…!?」

 

「23区外に逃げた人達を追いかけてるのかも…」

 

「『げぇむ』は23区内でしか開催されないんじゃなかったの!?」

 

 23区外に移動した『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の飛行船を見て、皆が驚いたような表情を浮かべる。

 今まで『げぇむ』は23区内でしか開催されなかったけど、『ねくすとすてぇじ』が始まった今、23区内どころかこの『今際の国』全域が『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の『げぇむ』会場になってしまった。

 23区外が『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の『げぇむ』の範囲外という望みに賭けて逃げた人達も、結局『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』に殺される。

 どこまで逃げても、『げぇむ』からは逃げられないって事だね…

 

 

 

 ───今際の国滞在16日目

 

 残り滞在可能日数

 

 大木場柊色 34日

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

No side

 

 『ねくすとすてぇじ』開催5日目、午後6時。

 『♡J(はあとのじゃっく)』の飛行船が浮かんでいる千代田区一番町の刑務所に、一人の『ぷれいやぁ』がやって来る。

 『♡J(はあとのじゃっく)』の『げぇむ』会場の前には、テーブルが置かれており、テーブルには貼り紙が貼られ首輪と三角スタンドが置かれていた。

 三角スタンドと貼り紙には、こう書かれていた。

 

 

 

《首輪を装着して会場へお入りください》

 

《エントリー数 20名じゃすと》

《「ぷれいやぁ」の貴金属の持ち込みは不可》

 

 

 

 長い黒髪をしたセーラー服姿の少女は、金色の簪を外すと、首輪をひとつ手に取って、自分の首にはめた。

 少女が首輪を装着して刑務所の門の前に立つと、門がひとりでに開く。

 少女は、『げぇむ』会場に向かってゆっくりと歩き出した。

 

 

 

 『ねくすとすてぇじ』開催5日目

 

 『げぇむ』 残り7種

 

 『ぷれいやぁ』 残り110人

 

 

 

 

 

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