Duchess in Borderland   作:M.T.

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【特別編5】はあとのじゃっく(2)

ヤブヤベside

 

 『げぇむ』  『どくぼう』 

 難易度    『♡J(はあとのじゃっく)

 エントリー数 20名

 制限時間   1時間

 

 『るうる』

 最後の5分間だけロックされる『どくぼう』の中で、自分の首輪に現れたマークを当てれば、次のターンへと進める。

 

 『♡J(はあとのじゃっく)』が『げぇむおおばぁ』になれば、残った『ぷれいやぁ』は全員『げぇむくりあ』。

 生存者が残り2人になれば、『♡J(はあとのじゃっく)』唯1人が『げぇむくりあ』。

 

 禁止事項は3つ。

 ロックされた『どくぼう』内に2人以上がいた場合。

 他者の『どくぼう』への入室を妨害した場合。

 他者を自力で解答できない状態にした場合。

 

 

 

 

 

《それでは次のターンも、パートナーを信じて頑張って下さい》

 

 8ターン目。

 最初は20人いた『ぷれいやぁ』も、残り9人になってもうた。

 窓の外を覗いたら、雨が降っとった。

 

「いつの間にか…夜明けだ…雨が…降ってたんだな…」

 

「台風が、来るのでござろう…」

 

 ウチと一緒にいやはったイッペーはんとロクドーはんが、そう言わはった。

 もう夜明けやなんて、全然気づかへんかったわ。

 こうしてずっと閉じ込められとると、時間の感覚がおかしなるんやんな。

 

 ウチは、お茶を飲んで深呼吸し、緊張をほぐした。

 食堂を出て、一般房にいやはるヤバはんとコトコはんのペア、バンダはんとエンジはんのペアに目を向ける。

 

「あきまへんなぁ…」

 

 一番警戒せなあかんのは、ヤバはんと、バンダはん。

 片や、自己愛と万能感に満ちた、傲慢なサディスト。

 片や、共感性の乏しいサイコパスの快楽殺人者。

 『♡J(はあとのじゃっく)』やなかったかて、警戒するに越した事はあらへん。

 

 ウチが二人を観察しとると、バンダはんとヤバはんが御手洗いに行かはった。

 その間に、ミツルギはんとカリヤはんが、エンジはんとコトコはんに声を掛けに行かはった。

 ウチらも、ミツルギはんやカリヤはんと一緒に、エンジはんとコトコはんを説得する。

 したら、ちょうどええタイミングで、バンダはんとヤバはんが戻って来はった。

 

「…これは一体、何の集まりだ?」

 

「これで、9人全員が揃ったな…ここにいる君達のパートナーには、これからある()()を聞いてもらいたくて集まってもらった。オレ達はこの5人で、新たなグループを組む」

 

 ウチらは、そう言わはるミツルギはんの後ろに立った。

 エンジはんとコトコはんは、ウチらの宣言に驚いてはった。

 そないな中、ヤバはんがウチらを嘲り笑う。

 

「フ…ハハ!この数時間、何を見ていたのだ?性懲りも無くまたグループを組むだと?あの寄せ集めの悲惨な末路を知らぬ訳ではあるまい?」

 

「あのグループには、欠けていたからだ…『理念』が。オレ達のグループは、この『げぇむ』を降りる。今後二度と誰かを欺いたり、殺めたりしないと決めたんだ。それが『♡J(はあとのじゃっく)』でも例外じゃない。仮にこの5人の中に『♡J(はあとのじゃっく)』がいても構わない。オレ達はもう殺し合いの土俵に上がる事なく、半年か…1年分はある食糧庫の中身が尽きるまで、この刑務所の中で静かに暮らすと決めたんだ…」

 

「…まるで、無期懲役刑だな。よもや、本気ではあるまい?」

 

「本当なら…ここまで犠牲が増える前に何とかしたかったが…何ターンも前から皆に話をして回った末に、説得に応じてくれたのは、この3人だけだった…」

 

「『♡J(はあとのじゃっく)』を生かしたまま『げぇむ』を降り、ここで過ごす…だと?お前達は本気で、こんな世迷言に耳を貸すつもりなのか?」

 

 ヤバはんは、ミツルギはんの計画に乗ったウチらにそう訊かはった。

 したら、イッペーはんが俯いたまま口を開く。

 

「オレは…もう…疲れたんだ…目の前の人が騙したり騙されたりして死んでいく事に…これ以上、あんなのを見ずに済むのなら…誰が『♡J(はあとのじゃっく)』だろうが…もう…どうでもいい…」

 

「今、正に奴の発している言葉こそが、欺瞞だとは疑わないのか?」

 

「説明なんて…できねーけど…わかるんだよ…彼の言葉が、嘘じゃないって…」

 

 ヤバはんが尋ねると、イッペーはんはミツルギはんを見て言わはった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 6ターン目。

 

「キミ…ちょっといいかな」

 

 ウチは、ミツルギはんに話しかけられた。

 

「少しでいいんだ。オレ達の話を聞いてくれないか?」

 

 ウチは、ミツルギはんとカリヤはんに連れられて、食堂の端に集まった。

 そこには、イッペーはんもいやはった。

 ウチとイッペーはんは、ミツルギはんとカリヤはんから、計画を聞かされた。

 

「殺し合いの『げぇむ』を…オレ達で…降りる!?」

 

「ああ…放棄するんだ。この理不尽な国でのやり取りの一切を、オレ達自身の選択で」

 

「オレ…は、そうしたい……でも、やっぱり……ダメなんだ…!!今のオレにはもう…誰の言葉も…信じられねぇんだよォ…!!」

 

 イッペーはんは、仲間殺しをしはるウルミはんらを見て、すっかり疑心暗鬼に陥ってはった。

 まぁ、目の前であないな事されたら、無理もあらへんなぁ。

 なんて考えとると、ミツルギはんが口を開く。

 

「…オレの、かつての世界での生業は…いわゆる詐欺師だった。生まれながらに他人の考えを見通せた。あまりに簡単に人を欺ける才能から、当然の権利と自分の行為を正当化し、ただ驕っていた…そんなある時、1人の男に水脈投資詐欺を持ちかけた。騙された事も知らずに、男は会社の資金を使い込み、追い詰められた挙句…一家無理心中。男には…2歳になる娘と、出産を間近に控えた妻がいた…どうして…もっと早くに気づけなかったのか…この他人を見通す力は、こんな事に使う為に持って生まれたんじゃなかったのに…『オレを信じてくれ』なんて、口が裂けても言えない…今のオレには、本当に信じてもらいたい相手にすら、そんな言葉を口にする資格などないのだから…」

 

 ミツルギはんは、俯いて泣きながら言わはった。

 ミツルギはんの言葉には、嘘偽りはあらへん。

 

「………オレ…は、アンタを…信じるよ…」

 

 イッペーはんは、ミツルギはんを信じて計画に乗らはった。

 

「その計画…ウチも協力さしてもろうてもよろしおすか?」

 

 ウチも、手を挙げてミツルギはんとカリヤはんの計画に賛同した。

 

「ウチは、生き残る為に誰かを騙すなんて、やっぱ嫌やわ。それに…どのみちウチは、誰にもマークを教えて貰えへんかったら生き残れしまへん。ウチで良かったら、協力させておくれやす」

 

「もちろん、協力してくれるなら嘘偽りないマークを教えるわ」

 

 ウチが協力を申し出ると、カリヤはんは本当のマークを教えるて約束してくれはった。

 殺し合いをせんで済むんやったら、その方がええもんな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「どのみちウチは、ミツルギはんに協力しいひんかったら生き残れしまへん。それに…ウチは、もうこれ以上殺し合うんは嫌やわ…」

 

「儂は…自分が生き残りさえすればそれでいい…だが、この『げぇむ』を『くりあ』して外に出ても、数日後に死ぬかも知れぬくらいなら…確実に半年は生き延びられる刑務所(ここ)の中での暮らしを選んだのじゃあッ!!」

 

 ウチとロクドーはんは、ミツルギはんの計画に乗った理由を言うた。

 したら、コトコはんが口を出す。

 

「ちょっと…待ってよ!!『びざ』は…!?いくら半年分の食糧があったって、『びざ』が切れたらおしまいなのよ!?」

 

「そもそも、『げぇむ』の最中は、『びざ』はカウントされるのか?オレの知る限りでの『げぇむ』はこれまで、必ず日付が変わる前に決着がついていた。ここに来て初めて、日付を跨ぐ『げぇむ』が現れたんだ。そしてその疑問は、既に検証済みだ。オレの『びざ』は、昨日で切れるはずだった」

 

 ミツルギはんがコトコはんの疑問に答えると、コトコはんとエンジはんが目を見開いて驚かはる。

 ミツルギはんは、驚いてはる2人に対してさらに話を続けはった。

 

「昨夜のうちにこの『げぇむ』が開始され、日付を跨った今も、オレがまだ生きているという事は、少なくともこの『どくぼう』が続く限りは、オレ達の『びざ』の残り日数が減る事はない」

 

「これが例外的なのかはわからないけども、半年以上の食糧が用意されていた時点で、この『げぇむ』の最中は、『びざ』がカウントされない可能性が高かったわけね…」

 

「これまでずっと『今際の国』で残り数日の命に怯えていたオレ達が、少なくとも、あと半年は平穏に暮らせる選択肢を手に入れたんだ。殺し合いの放棄と平和的共生が、オレ達5人の『理念』だ」

 

「…大切なのは理念。その考え方には大いに賛同だが…生憎その理念は、私のものとはかけ離れている」

 

「最後まで…同意を得られないのは、アンタ達2人だという事はわかっていた…残りの取り巻きの2人は、気が変わったら、いつでも声をかけてくれ…オレ達の宣言は、以上だ」

 

 そう言うてミツルギはんは、ヤバはんとバンダはんに背を向けた。

 ウチらも、ミツルギはんと一緒にその場を去った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

《制限時間5分前になりました。ロックされた5分の間に自分の首輪のマークを、口頭で当てて下さい》

 

「『♠︎(すぺえど)』」

 

 ウチは、残り5分の間に、『どくぼう』で自分のマークを答えた。

 えらい長う感じる5分間が、過ぎていく。

 

《制限時間になりました。8ターン目の生存者は、9名中9名》

 

 9ターン目。

 それは、ウチが『どくぼう』の外に出るのとほぼ同時の出来事やった。

 

 

 

 ――ガシャアアン!!

 

 

 

「!?」

 

 いきなりヤバはんが、ミツルギはんのいやはる『どくぼう』の扉を閉じて、ミツルギはんを『どくぼう』に閉じ込めた。

 

「オイッ!?アンタ…何してんだよッ…!?」

 

「私には、こんな穴蔵で半年を過ごす気など毛頭無いものでな。少しばかり強行手段を取らせてもらおう。このまま1時間、『どくぼう』の中で誰とも接触できなければ、自分のマークを知る由もあるまい。お前達の理念とやらは、この国に似つかわしくない。元々世界は理不尽だったのだ。『今際の国(ここ)』ではそれが表面化しただけ…他者を蹴落としてでも生きる野性すら忘れたのであれば、潔く往生しろ」

 

 ヤバはんは、『どくぼう』の扉に体重をかけてミツルギはんを閉じ込めながら笑わはった。

 あかん…この人、うち思うとった以上にえげつない人や…

 

「アンタが力尽くでミツルギを止めるっていうなら、こっちだって…!!」

 

 カリヤはんは、ミツルギはんを助ける為にヤバはんに立ち向かおうとしはった。

 したらそん時、コトコはんが包丁を持ってカリヤはんの前に立ち塞がる。

 

「ヤ…ヤバ様の、()()ヤバ様の…邪魔はさせないんだから…!!」

 

「殺すなよ。失格になられては困る。お前は大切な私のパートナーなのだから」

 

「はい…ヤバ様…!!」

 

 ヤバはんが言うと、コトコはんは恍惚とした表情を浮かべながら頷く。

 ヤバはんの発言を聞いて、カリヤはんがハッとしはった。

 

「そうよ…『るうる』!!『るうる』の禁止事項よ!!禁止事項の2つ目は、『他者の『どくぼう』への入室を妨害した場合』!!アタシがその『どくぼう』に入室する意志を邪魔すれば、アンタ達は『げぇむおおばぁ』よ!!」

 

 カリヤさんが言うと、コトコさんは包丁を下ろして俺達の前から退く。

 カリヤさんは、ヤバの正面に立って言い放った。

 

「さあ、ドアの前から退いてちょうだい!」

 

「…フム、確かに。私には、お前の要求を拒む事はできないようだな。いいだろう」

 

 そう言うてヤバはんは、あっさりとドアの前から退き、カリヤはんの肩に手を置く。

 

「そんなに入りたければ、さあ、遠慮なく入れ!!」

 

 ヤバはんは、強引にカリヤはんを『どくぼう』の中に押し込み、乱暴にドアを閉めてカリヤはんとミツルギはんを同じ『どくぼう』に閉じ込めた。

 

「オイ開けろ!!開けろォ!!」

 

 『どくぼう』から、カリヤはんの怒鳴り声が聴こえる。

 

「…なるほどね。『どくぼう』からの退室の妨害は、禁止されてはいない…そして、『るうる』の禁止事項の最後の1つは…『ロックされた『どくぼう』内に2人以上がいた場合』」

 

 バンダはんは、『どくぼう』のドアを封じてはるヤバはんを見て言わはった。

 ミツルギはんとカリヤはんが『どくぼう』のドアを内側から叩いてはるけど、ドアはビクともしいひんかった。

 

「学生時代を思い出す。アメフト部では、クォーターバックを4年間務めていたっけな」

 

 そう言うてヤバはんは、ミツルギはんとカリヤはんを閉じ込めながら笑わはった。

 あきまへんなぁ…

 これでもう、ウチらのグループは終わりやんか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その後、ウチは食糧庫に行かはったイッペーはんを探した。

 イッペーはんは、食糧庫の隅で泣き言を言ってはった。

 

「もう無理だ…オレはもう、無理だ…!!」

 

「『(だいや)』」

 

 ウチが言うと、イッペーはんが顔を上げる。

 ウチは、イッペーはんにボトルのお茶を差し出した。

 

「よかったらこれ、おあがりやす」

 

 ウチがお茶を差し出しても、イッペーはんは受け取ってくれへんかった。

 立て続けに仲間を失うて、もう限界なんやな…

 

「イッペーはん。お気持ちはようわかりますえ。ミツルギはんとカリヤはんがあないな風になって、もういっぱいいっぱいなんやろ?」

 

「ヤブヤベさん……オレには…見つからないんだ…あそこまでしてでも、この国で生き続ける理由が…もう何も…見つからないんだ…」

 

「そうなんやな、悲しいなぁ。そやけど今は、ウチらで正解を教え合うしかあらへんやんか。今回だけでええ。今回だけは、ウチのマークを教えておくれやす」

 

 そう言うてウチは、イッペーはんに背を向けて首輪のマークを見した。

 したらイッペーはんは、ウチのマークを見て口を開く。

 

「……『(はあと)』…」

 

「……おおきに」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 イッペーはんとマークを教え合うた後、ウチは御手洗いに寄ってから、廊下に戻ろうとした。

 そん時、ロクドーはんがウチを見つけるなり走って来はった。

 

「ああ、いた!!ヤブヤベ殿ォ!!」

 

「…何どす?」

 

「わっ、儂のマークを教えてくれぇ!!もうミツルギ殿も、イッペー殿も頼れませぬ…かくなる上は、儂とヤブヤベ殿で、マークを教え合いましょうぞ!!」

 

 ロクドーはんは、ウチにマークを教えろと迫って来はった。

 エゴ剥き出しもここまで来ると、逆に尊敬もんやわ。

 そやけどウチは、こうはなりたないなぁ。

 

「かなわんわぁ。なんでウチがあんさんにマークを教えなあきまへんのん?」

 

「なんでって…儂らでマークを教え合うしか、生き残る道は残されておりませんぞ!!」

 

「ウチはええんどす。もうマークはわかっとるさかい、あんさんに頼るまでもあらへん。そないな訳で、ウチは勝手にやらしてもらいますわ。自分のマークは、自分で何とかしたらええんとちがう?」

 

「そんなッ…何故そんな事を言われるのだ…!?儂らは、新たなグループでマークを教え合うと約束したではありませんか!!」

 

 ウチは、どこまでも自分が生き残る事しか考えてへんロクドーはんに、ハッキリ言うたる事にした。

 

「イッペーはんに聞いたんやけど…アンタ、カネコはんとヒビノはんに嘘のマーク教えはったんやってなぁ?」

 

 ウチは、ロクドーはんがカネコはんとヒビノはんを騙して殺した事を言及した。

 絶望の表情を浮かべはるロクドーはんに、ウチは扇子を広げて口元を隠しながら言い放つ。

 

「堪忍え。ウチ、嘘つきは好かんどすえ」

 

 ウチはそう言うて、一人で立ち去った。

 

「ま、待ってくれ!!ヤブヤベ殿ッ!!ヤブヤベ殿ォーーーー!!」

 

 後ろからロクドーはんが呼び止めはるけど、ウチの知った事やあらへん。

 多分もうマークを教えてくれはる人はいーひんと思うけど、せいぜいおきばりやす。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

《制限時間になりました。9ターン目の生存者は、9名中5名》

 

 10ターン目。

 ミツルギはん、カリヤはん、イッペーはん、ロクドーはんが脱落した。

 ウチは、イッペーはんが入った『どくぼう』の小窓を覗きながら、ポツリと呟く。

 

「優しすぎやわ、イッペーはん……」

 

 『どくぼう』の中では、首から上が無うなったイッペーはんの死体が、血溜まりの中に沈んどった。

 イッペーはんは、ウチがマークを教えたのに死んでもうた。

 彼は、殺し合いの『げぇむ』に身を置く事に耐えられんと、自ら命を絶った。

 

「かなわんなぁ。ウチ、パートナーがいーひんやんか」

 

 生き残りはウチ、ヤバはん、バンダはん、エンジはん、コトコはんの5人。

 パートナーがいないのは、ウチ一人だけ。

 ……これ、ピンチやんか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その後、ウチは食糧庫でお菓子を選んではるエンジはんに声をかけた。

 バンダはんは、今いやはらへんみたいやな。

 

「あんさん」

 

 ウチが声をかけると、エンジはんが振り向かはる。

 

「少し、お話聞いてくれはりますか?」

 

「何だよ」

 

「あんさんのマークを教えたるさかい、ウチのマークを教えておくれやす」

 

「間に合ってるよ」

 

 ウチが交渉を持ちかけようとすると、エンジはんは黙って立ち去ろうとしはる。

 ウチは、食糧庫を出て行こうとしはるエンジはんの前に立って口を開いた。

 

「あんさん、バンダはんに騙されてはるかもしれへんで?」

 

「……は?」

 

「残り5人。ここからは、パートナー同士の裏切りがあってもおかしない。今回のターンで、あの兄さんがあんさんに嘘教えるかもしれへんで。本当のマークは、ウチが教えたる。答えの選択肢は多い方がええやろ?あんさんのマークは『(はあと)』。ウチのも教えておくれやす」

 

 ウチがそう言うと、エンジはんはウチを疑うような目つきで見やはった。

 そやけど少し考え込んだか思うと、ウチの横を通り過ぎながら言わはった。

 

「……アンタのも『(はあと)』」

 

 そう言うてエンジはんは、ウチより先に食糧庫を出て行かはった。

 ウチは、去って行くエンジはんに向こうて、ボソッと言い放つ。

 

「おおきに」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その後、ウチは御手洗いに行ってはったコトコはんに声を掛けた。

 

「コトコはん。今、少しええか?」

 

 ウチが声をかけると、コトコはんは足を止めて振り向かはった。

 

「アンタのマークを教えたるさかい、ウチのマークも教えてくれはらへん?」

 

 ウチが交渉を持ちかけると、コトコはんはわかりやすう視線を逸らす。

 かなわんなぁ、ヤバはんに他の『ぷれいやぁ』と喋るなとでも言われてるんかいな。

 

「アンタ、ヤバはんとえらい仲ようしてはりますなぁ」

 

 ウチがそう言うと、コトコはんは頬を赤らめて顔を背けはった。

 

「堪忍な、ほんの冗談どすえ。そやけどアンタ、ほんまはヤバはんの事、信じきってはらへんのとちがう?」

 

「っ………」

 

 図星やな。

 もうひと押し、してみまひょか。

 

「心配せんでええ、ウチが本当のマークを教えたる。アンタのは『(だいや)』。ウチのマークは、『♣︎(くらぶ)』………いや、『♠︎(すぺえど)』?」

 

 ウチが尋ねると、コトコはんはウチの質問には答えへんで去って行かはった。

 ……さて。

 まんまと罠にかからはったなぁ、『♡J(はあとのじゃっく)』……松下苑治はん。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

エンジside

 

 10時間前。

 『げぇむ』開始直前───

 

 うっは♪役者が揃ってきやがった。

 開演が楽しみすぎて、うっかり顔に出ちまいそうだぜ。

 ようこそ───

 

 この俺のご機嫌な舞台劇(ミュージカル)へ!!

 

 早めにエントリーして今回の役者を観察しておいた俺は、ヤバ、バンダ、アイゼン、ミツルギ、そして最後に入ってきたパーカーの女に目を向けた。

 人心誘導に長けていそうなご機嫌な役者は、ざっとあの5人。

 もう少し…的を絞るなら…

 主演は、ヤバとバンダ(この2人)ってとこか!?

 

 役者が何人いようと、そのほとんどはただのエキストラ。

 この『どくぼう』はとどのつまり、圧倒的な自信とカリスマでもって他者を支配(コントロール)できる主演役者が、最終幕まで生き残る『げぇむ(ショー)』!!

 グループを組んで付け焼き刃の信頼関係を築くなんてのは素人のする事。

 あの2人は、最も操作しやすい人物ただ1人をパートナーに選び、得意のカリスマで完全な支配下に置くはず。

 途中の過程はどうあれ、最後に残る席は4つ。

 

 ()()の役者は、どんなご機嫌な『げぇむ(ショー)』を見せてくれるのかな?

 俺は出しゃばらずに裏方に回らせてもらうから、皆、楽しませてくれよな!

 

 1ターン目、ヤバは主体性の低いコトコに目をつけ、言葉巧みに言いくるめてパートナーにした。

 

 おうおう、手が早いねぇ。

 この『げぇむ』を最終幕まで楽しむ為には、まずは残った空席を確保しとかねーとな。

 

 オレは、バンダに接触し、いかにも奴の好む支配を受けやすそうな役を演じる事で、奴に俺を支配させた。

 頭がいいと思ってるだろ?

 お前は幻想の世界で自分に酔ってるだけのただの異常者だ。

 最終幕への最後の1席は確保した。

 さぁて、お次はいよいよ、この『げぇむ(ショー)』のラストに、俺一人が生き残るという大団円を迎える為の、ご機嫌な仕掛けの準備に取り掛かろうか!

 

 俺はヤバと離れて一人で行動していたコトコに接触し、コトコに催眠をかけた。

 『ヤバは必ず最後に君を裏切る。ヤバを信じちゃいけない』、そう刷り込んだ。

 舞台が整ってきたぜ!

 ダメ押しの、総仕上げといこう!

 

 俺は時間をかけてコトコに催眠を施し、『ヤバを殺せ』と命令した。

 俺の用意したシナリオは、概ね順調に進んでいた。

 ひとつだけ、想定外があったとすりゃあ…もう一人、ヤブヤベとかいう女子高生が最終幕まで生き残った事だ。

 運良くここまで生き残れたようだが、パートナーがいない脇役なんざどうとでもなる。

 

 『♡J(オレ)』が生き残る為の舞台は全て整った。

 後は衝撃の最終幕に向けて皆、存分に、歌って、踊って、俺を楽しませろ♪

 

 10ターン目。

 いよいよ、最終幕(グランドフィナーレ)だ。

 コトコに仕上げの催眠をかけ、嘘のマークを教えた俺は、バンダのところに戻った。

 

「とうとう…5人にまで減りましたね…」

 

「そうだね…僕らのどちらかが、『♡J(はあとのじゃっく)』の確率も、今じゃ2/5もあるね…」

 

 …ここに来て、まだ主導権を主張する為の揺さぶりをかけてくるか。

 最後まで…喰えない奴だ。

 せいぜい、自分に酔ってな。

 

「じゃあ、僕から教えようか。君のマークは…『(はあと)』だよ」

 

 『(はあと)』…か。

 コイツがこのターンで俺を殺そうと嘘を教えた可能性もある。

 そんな事をしても無駄だとも知らずにな。

 

「では次はオレが、バンダさんのマークも、『(はあと)』です」

 

 俺は、バンダの首輪に表示された『♣︎(くらぶ)』のマークを見ながら言った。

 完ッッッ璧だ!!

 

 自分を支配者と疑わない男2人と、自分が操られている事にすら気付かない女!!

 その全てを人知れず俺が支配する、完璧な最終幕(グランドフィナーレ)がここに完結した!!

 

 この達成感!!

 優越感!!

 充実感!!

 高揚感!!

 堪んねぇよなぁ!!

 これだから『げぇむ』はやめられねぇんだ!!

 

 こんなご機嫌な『げぇむ(ショー)』を最前列で楽しめるとあっちゃ、もう、元の世界になんか戻れねーよな!!

 俺は、永遠にこの世界で『げぇむ』を楽しむ為に、『今際の国』の国民に()()()()()()()よ!!

 

 制限時間5分前まで1分を切り、全員が『どくぼう』に入室した。

 上機嫌で3番目の『どくぼう』に入ると、扉がひとりでに閉まる。

 

《制限時間、5分前になりました》

 

 ちなみに、実のところこの『げぇむ』には、端からお前ら『ぷれいやぁ』に勝ち目なんて無かったんだけどな!

 何故なら…

 

 俺は、前髪で隠していた右眼の瞼をこじ開け、中に仕込んでいた義眼を取り出す。

 そのまま数秒経つと、義眼の表面にマークが浮かび上がる。

 

 俺の首輪のマークと連動しているこの義眼モニターがあれば、間違えようが無いんだからな!!

 

 義眼に浮かび上がったマークは、『(はあと)』だ。

 バンダが俺に教えたマークは、本当だった。

 

「マジで『(はあと)』だ…バンダの奴、まさか最後までオレを信じてやがったのか。所詮は、()()()()の殺人鬼だな」

 

 コイツは卑怯でも何でもないぜ。

 『るうる』で貴金属の持ち込みを禁止されてるのは、『今際の国』の国民ではなく、『ぷれいやぁ』だけなんだ!

 そもそも20人の中からたった1人生き残らなきゃならねぇ『♡J(オレ)』の条件を考えりゃ、これくらいのハンデは用意させてもらわねーとな!

 

 誰がお前ら(『ぷれいやぁ』)と真剣に命の獲り合いなんかするかよ。

 『るうる』を創ってんのは俺達(『今際の国』の国民)なんだ!!

 俺は殺し合いの『げぇむ(ショー)』を間近で()()に楽しみたいだけなんだよ!!

 

《ロックされた5分の間に自分の首輪のマークを、口頭で当てて下さい》

 

「『(はあと)』…!!」

 

 楽しい『げぇむ(ショー)』を見せてもらったぜぇ。

 アンタら主演賞もんだったよ!

 名残惜しいが、これにて閉幕…

 

 早速俺の頭ん中は、次の『げぇむ(ショー)』の事でいっぱいだ!

 

 

 

《制限時間になりました。10ターン目の生存者は、5名中───4名》

 

 ……………は?

 

「オ…オイ、どうなってんだ…!?何かの間違い…」

 

 俺が『どくぼう』から出て振り向くと、そこには、ヤバとバンダ、そしてヤブヤベが立っていた。

 

「あ…りえねぇ…何でお前らがまだ、生きてんだよォ!?」

 

 

 

 げぇむ 『どくぼう』

 

 難易度 『♡J(はあとのじゃっく)

 

 11ターン目

 

 生存者 20名中4名

 

 

 

 

 

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