Duchess in Borderland   作:M.T.

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かいさいむいかめ

ツエダside

 

 『ねくすとすてぇじ』開催6日目、午前8時。

 千代田区の上空で、『♡J(はあとのじゃっく)』の飛行船が内側から爆発して墜落した。

 

「あ、『♡J(はあとのじゃっく)』が…」

 

 これで、残ってる『げぇむ』はあと6種か…

 そろそろ全『くりあ』も見えてきたわね…

 なんて考えていると、ソファーで寛いでいたチシヤが立ち上がる。

 

「さて…そろそろオレも『げぇむ』に参加してこようかな」

 

「おう、ガンバレよー」

 

 チシヤがビニール傘を持って外に出ようとするので、私はヒラヒラと手を振る。

 『げぇむ』に行こうとするチシヤの背中を見て、言葉が口を衝いて出た。

 

「アンタさ、『♢J(だいやのじゃっく)』を倒したら、その足で『♢K(だいやのきんぐ)』に行くつもりなんでしょ?」

 

「そうだけど?」

 

「……アタシさ、つまんない事大っ嫌いなんだよね。自分の命を捨て石にするとか、そういうのクソつまんないからさ…」

 

 気がつけば、口が勝手に開いていた。

 お互い、ただの都合のいい相手として割り切ってたはずなのに。

 今まで抱いてきた男は、皆悲惨な死に方をするか、破滅して社会的に死んだ。

 コイツも、その一人になるはずだった。

 

 私の知らないところでバカが死のうが、どうでも良かった。

 一度は騙して利用して、挙げ句の果てに殺そうとしたのに。

 なのにどうして、コイツに死んでほしくないんだろう。

 

()()()()、死なないでね」

 

 私がそう言うと、チシヤは僅かに目を見開いて驚いたような表情を浮かべる。

 

「らしくないね。アンタ、そういう事言う人だっけ?」

 

「あら。アンタ、アタシの事好きなの?」

 

「気持ち悪い事言うなよ。バカなの?」

 

 私が揶揄うと、チシヤは露骨に嫌そうな顔をして答える。

 良かった、いつも通りで安心したわ。

 

「バカで結構♪先越される前に行ってきなさいよ」

 

 私がチシヤの背中を押してやると、チシヤは『げぇむ』会場に向かって歩き出した。

 ……生きて戻ってきなさいよ。

 簡単に死にやがったら、承知しないから。

 

 

 

 ───今際の国滞在66日目

 

 残り滞在可能日数

 

 潰田千寿 64日

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

No side

 

 『♢J(だいやのじゃっく)』の『げぇむ』会場は、荒川区荒川にある雀荘だった。

 チシヤを含む『ぷれいやぁ』三人は、『♢J(だいやのじゃっく)』に挑んでいた。

 西家の『♢J(だいやのじゃっく)』ことアモンは、38700点を獲得していた。

 

 『♢J(だいやのじゃっく)

 駒山(こまやま)阿門(アモン)/アモン

 暴力団代打ち

 

 北家の『ぷれいやぁ』は1700点、南家の『ぷれいやぁ』は4500点を獲得していた。

 生き残るのはほとんど不可能になった『ぷれいやぁ』二人は、絶望の表情を浮かべており、そのうち一人はどうせ自分は勝ち上がれないからと、現状1着の『ぷれいやぁ』に差し込もうと考えていた。

 その一方で、東家のチシヤは55100点を獲得していて、現状1着だった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アモンside

 

 ワテは、牌山から牌を一枚引いて、引いた牌を見た。

 五索(ウーソー)か…

 

 ほーか、ここが入ってきてくれよるか…

 マンガン確定やが、1着(トップ)の兄サンから和了(アガ)っても逆転には届きよらん。

 高目三暗刻(サンアンコー)1着(トップ)から直撃やが、勝ちを確定させるなら…立直(リーチ)してツモならハネマン。

 高目の直撃でも、逆転1着(トップ)に手が届く!

 

「勝負は、下駄を履くまでわからへん…これやから、賭け事(バクチ)はやめられまへんなぁ」

 

 一索(イーソー)から八索(パーソー)の8面待ちなら、この手、ツモ狙いで迷わず…

 

「立直や」

 

 ワテは、九索(キューソー)を迷わず切った。

 ワテが立直すると、右隣の『ぷれいやぁ』が涙目になりよる。

 えらい分かりやすい奴っちゃなぁ。

 

 

 

 10巡目。

 1着(トップ)の兄サンの手牌は、ドラの中と索子(ソーズ)混一色(ホンイツ)

 ドラは切れへんし、勝負に出て振り込めば、一発でワテの逆転勝ちとあらば、1着目の兄サンの一手は、無難に現物での…

 ベタ降り…!

 

 兄サンは、九索(キューソー)を切って降りよった。

 これでこの局、ワテがツモ和了(アガ)るのを待つだけでんな。

 

「安全思考の合理主義者かいな。リスクをとれんとバクチには勝てまへんで」

 

 一発ツモは、なしかいな。

 残り7巡。

 急ぐ事はおまへん。

 

 

 

 11巡目。

 兄サンは、迷わず八索(パーソー)を切ってきよった。

 今度は一転して、ド本命の当たり牌やと…?

 

 和了(アガ)ってまうか?

 裏ドラが乗ればハネマン直撃で逆転…

 けども、もし裏が乗らへんだら逆転には届かず『げぇむ』終了。

 

 まだ残りの山に索子(ソーズ)はようさん埋もれとる。

 確率から考えても、ここは見逃して8面張(メンチャン)のツモ和了(アガ)リに賭けるべきでっしゃろ。

 これで(ロン)アガリは出来んくなったが、元々ツモアガリが前提のリーチ。

 大した痛手にはならしまへん。

 

 ワテは、牌山から牌を一枚引いた。

 ワテが引いたんは、三索(サンソー)や。

 

 ほれ、来たがな。

 これで高目ツモ……

 

 ……いや、『同巡ツモ和了(アガリ)なし』。

 …ワテに有利なはずの関西(ローカル)ルールを、逆手にとって来よるとは…

 ほーか、ほんなら次巡でよろし。

 次巡でツモれば問題あらしまへん。

 

 

 

 12巡目。

 兄サンは、またしても八索(パーソー)を切った。

 

「あれ?もしかしてさっきから、これが当たり牌だったりするの?だったらさっき和了(アガ)っとかなきゃ。立直して一度和了(アガリ)牌を見逃しちゃったら、アンタはもう、ツモ和了(アガリ)しかできないよね?」

 

 …ほう…か……これが…

 これが、狙いやったんでっか…

 

 ワテは、牌山から牌を一枚引いた。

 今度は四索(スーソー)

 

 また、和了(アガリ)牌…

 今後ワテがどんだけ和了(アガリ)牌をツモろうと、その前に、兄サンにワテの和了(アガリ)牌を切り続けられる限り…

 『同巡ツモ和了(アガリ)なし』のルールでは、ワテのツモ和了(アガリ)はあらへん…

 ワテは、引いた四索(スーソー)をそのまま切った。

 

 

 

 その後も兄サンは、ワテの和了(アガリ)牌を連続で切りよった。

 そしてワテのツモが最後になる17巡目。

 

「この巡で…アンタのツモは最後だね」

 

 そう言うて兄サンは、七索(チーソー)を切りよった。

 これ…で、7連続和了(アガリ)牌をツモ切り…!!

 

 …認めまひょ。

 兄サンが一流の博打(バクチ)打ちやと。

 せやかて兄サンの手もノーテン。

 南場(ナンチャ)は親がノーテンで流局でも続行。

 この勝負、一本場で次に持ち越すだけでっせ。

 

 賭け事(バクチ)は、下駄を履くまでわかりまへんで!

 

 ワテが一索(イーソー)を切ると、右隣の『ぷれいやぁ』がハッとした表情を浮かべる。

 ソイツは、現状最下位の『ぷれいやぁ』やった。

 

 

 

「あ…出た…それ…ロンです…国士無双…32000点です…」

 

 ……………。

 

 ……………。

 

 ……あ?

 今、何を言うた?

 

「……あ゛?国士?」

 

 裏返された牌は、全部么九牌(ヤオチューハイ)

 (ペー)が2枚の国士やった。

 

「オドレがここで32000点を和了(アガ)っても、1着(トップ)には届かんやろがい…!?

 

《『げぇむ』が終了しました》

 

「せやのに……役満…やと?オ…オドレ…」

 

 アナウンスが鳴り響き、床がピシッと割れる。

 何でや…

 コイツ…コイツ…!!

 

《2着以下の方は全員、『げぇむおおばぁ』》

 

「どこで運使っとんじゃあああああ!!!」

 

 

 

 ――ガコッ!!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

チシヤside

 

1着(トップ)の方は、『げぇむくりあ』。『げぇむくりあ』》

 

 床が抜けて、俺以外の参加者3人は、奈落の底に落ちていった。

 俺は、『♢J(だいやのじゃっく)』のドラを捲って、裏ドラを確認した。

 裏ドラは、六索(ローソー)だった。

 

「裏ドラは…索子(ソーズ)…か。最初のオレの八索(パーソー)和了(アガ)ってたら裏が乗って、倍満直撃で君のダントツ1着(トップ)だったのにね♪」

 

 俺は、手の中で牌を転がしながら、奈落の底に落ちていった『♢J(だいやのじゃっく)』に向かって言った。

 

「所詮は安全思考の合理主義者か。リスクをとれなきゃ賭け事(バクチ)には勝てないよ」

 

 そう言って俺は、卓上に並べられた麻雀牌を倒した。

 

「ここにも…面白い奴はいなかったね。やっぱり…行ってみようか。彼の元へ♪」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 俺が次に向かったのは、文京区本郷の裁判所…『♢K(だいやのきんぐ)』の『げぇむ』会場だった。

 俺が『げぇむ』会場に向かうと、既に会場の前に3人集まっていた。

 スーツを着た男と、レインコートを着たジーサンと、派手な格好の女の3人だ。

 

「数字を1つ、言うてみい」

 

「何…?」

 

「何桁でもええ、好きな整数を1つ言えと言うとるんじゃ」

 

「…9517。我々が元の世界に最後にいた日の日経平均株価だ」

 

「307×31……9517=307×31。2以上の全ての整数は、有限個の素数の積で表す事ができるんじゃ。『♢K(だいやのきんぐ)』退治なぞ、ワシの頭脳1つで充分じゃよ」

 

「お!ケーサンならアタイも得意だぜ!つってもトイチだけだけど。あー、つまり年利365%ね。きゃは」

 

 3人が集まって話しているところへ、俺が一歩前に近づいた。

 すると他の3人が、俺の方を見る。

 

「これで4人じゃな」

 

「おーっと、その前に!アンタ、何してた人?何できる人?アンキ?ケーサン?今からやんのは知能戦のテッペン、『♢K(だいやのきんぐ)』!脳筋ヤローはオヨビデナイんだけど?」

 

 女は、俺を指差して言った。

 少なくとも君よりはやれる事多いと思うよ、と言いたいところだったけど、やめておいた。

 

「んー、つい今し方、『♢J(だいやのじゃっく)』を『くりあ』した人、かな?」

 

「は?何それ?チョースベってんですけどっ!?」

 

「威勢が良いのう…雨脚がも強くなってきた事じゃし、行こうかの」

 

 俺が言うと、女が呆れ、ジーサンが笑った。

 もう1人の男は、俺の発言に特に反応せずに先に『げぇむ』会場へ向かった。

 

 俺は傘を閉じ、他の3人と一緒に裁判所に入った。

 裁判所の中は薄暗く、冷たく重い空気が漂っていた。

 一番奥の部屋へ進むと、巨大な天秤が設置された席が5つ、環状に設置されていた。

 出入り口から一番遠い席には、見知った男が座っていた。

 

「やっぱり、アンタだったんだね。()『ビーチ』幹部No.3…クズリュー」

 

「…………」

 

 『♢K(だいやのきんぐ)

 九頭龍(クズリュー)慧一(けいいち)/クズリュー

 国際弁護士

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒーロside

 

「あ、『♢J(だいやのじゃっく)』が…」

 

 台東区のビルの中で台風をやり過ごしていた私達は、荒川区方面で『♢J(だいやのじゃっく)』の飛行船が炎を上げながら落ちていくのを見かけた。

 これで、残ってる『げぇむ』はあと5種…

 私は、その場で準備運動をして、トランプが描かれた地図を眺めながら口を開く。

 

「私、『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』に参加してきます」

 

「ヒーロちゃん…!?」

 

「他の『ぷれいやぁ』の皆が、元の世界に帰る為に頑張ってるんです。私1人じゃあまり戦力にはなれないかもしれませんけど…もし全ての『げぇむ』が終われば元の世界に帰れるなら、私は少しでも早く『げぇむ』を終わらせたい」

 

「ダメよ、危険すぎるわ!『げぇむ』中に発作を起こしたらどうするの!?」

 

「そうよ!それに、私達は『♣︎J(くらぶのじゃっく)』を『くりあ』したのよ!?もう私達にできる事は充分やったじゃない…!」

 

 私が『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』に参加しに行こうとすると、ミツキさん達が止めた。

 

「別に、死にに行こうってわけじゃないです。私は、一日でも早く、元の世界に帰りたい。その為に、今できる事をやりたいだけですから」

 

 私は、ミツキさんの制止を振り切って、『げぇむ』に挑む準備をした。

 するとキズナちゃんが、模擬刀を持って立ち上がる。

 

「だったら、アタシも参加します」

 

「キズナちゃん…!」

 

「どうせヒーロさん、止めても行くつもりなんでしょ?アタシも、ヒーロさんを死なせたくありませんから」

 

 そう言ってキズナちゃんは、模擬刀を腰に差して、肘と膝に防具を装着する。

 私もキズナちゃんも、一度『げぇむ』に参加すると決めたらもう曲がらなかった。

 

「必ず、生きて帰ってきますから」

 

 私とキズナちゃんは、世田谷区にある『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』の『げぇむ』会場に向かって歩き出した。

 

 

 

 ───今際の国滞在17日目

 

 残り滞在可能日数

 

 大木場柊色 33日

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アグニside

 

 あれから俺は、ドードーとかいう小僧を連れて23区外の森の中を探索していた。

 昨日は、『げぇむ』を放棄して森の中に逃げ込んだ『ぷれいやぁ』が、夜の間に『♠︎K(ヤツ)』に撃たれて死んだ。

 

 今日は、小僧に銃の使い方を教え、『♠︎K(ヤツ)』が彷徨いているこの森の中で生き延びる術を教えた。

 俺は小僧に罠の張り方を教えて、防衛線の内側に罠を張った。

 するとだ。

 

「よう!杜ちゃん!」

 

 死んだはずの剛が、俺の背後に立っていた。

 

「カカカ、まだしぶとく生き残ってるとは、さすがだべ!」

 

「剛…!?」

 

「ひどいべ杜ちゃん!10年来のマブダチのオレを撃ち殺すなんてよ。まあ、先に銃向けたのはオレだっけか。カカカ」

 

 どうなっている…!?

 何故、お前がここに…

 

「にしても、お前があんな足手纏いにしかならねぇ小僧(ジャリ)を連れて歩いてるたぁ、一体どういう風の吹き回しだ?アル中親父の暴力に怯えるしかなかった、ガキの頃の自分を重ねてんのか?それとも…あの小僧(ジャリ)を守る事が、お前の独りよがりで、『ビーチ』と心中しようと、数え切れねぇ同志を殺した事への…贖罪のつもりかよ?」

 

 剛の言葉のひとつひとつが、俺を刺した。

 

「あの『♠︎K(バケモン)』にゃ敵わねーのはわかってて、戦ってキレイに散ろうなんざ、死に損ないには贅沢だ。そんなに死にたきゃ、自殺でもすりゃいいんだ」

 

「…わかったから、もう、消えろ…」

 

「ああ、けど、オレは多分また来ちまうぜ!お前の中に、闇しかない限りはな」

 

 そう言い残すと、剛は暗闇の中に消えた。

 嵐が近づいて、強風が吹きつけてくる。

 小僧と2人で見張りをしていると、小僧が口を開いた。

 

「今日は一段と、風が強いですね…台風は…明日にでも上陸するのかな…今夜は…月明かりもない…夜の森って…完全な、闇なんですね…」

 

「闇を恐れるのは、生きる為の警戒心…正常な感情だ…」

 

「ええ…でも…なんて言うか…この闇が何だか、とっても…温かいです…」

 

 温かい…だと…?

 この闇が、か…?

 

「…何?」

 

「妙に落ち着くというか…穏やかで、心地良いというか…もしかしたら…この闇を受け入れて友達になれれば、案外死ぬのも、怖くなくなったりするのかなァ…」

 

 友達、か…

 俺は、さっき剛に言われた言葉を、頭の中で繰り返していた。

 すると、その時だ。

 

「…何か、焦げ臭く…ないですか…?」

 

「…!?」

 

「間違いないです…何かが…燃えてますって!」

 

 何だと…!?

 まさか…

 

「森だ」

 

「え…!?」

 

「燃えているのは…森だ…奴は強風を利用して、オレ達をこの森ごと焼き殺すつもりだ…!!」

 

 火の手が、既に見えるところまで迫っていた。

 

「だ…だったら、早く逃げましょう…!!ここにいたら、焼け死ぬだけですッ!!」

 

 小僧は、火に背を向けて逃げ出した。

 火を目の前にすると、人間は冷静な判断力を失う…

 本能にまかせて火から逃れれば、『♠︎K(ヤツ)』の思惑通りに誘導されているのと同じ…

 まして『♠︎K(ヤツ)』が闇雲に火を放っているはずもないとすれば…

 どのみち俺達は既に…奴の策中に、落ちた後だ…!!

 

「そんな…!もう…こっちにも…完全に…囲まれてる…」

 

 俺達は、完全に火に囲まれた。

 だがこうなる事は、想定済みだ。

 

「こっちだ、来い」

 

「えっ!?」

 

 俺は、小僧を連れて、近くの洞窟に逃げ込んだ。

 洞窟の中までは、火の手は行き届いていなかった。

 

「こんな所に…洞窟が…!?」

 

「20m程進めば、別の出口がある。この風向きなら、おそらく炎の包囲網の外だ」

 

「こうなる事をわかってて…洞窟の風上を寝床に…?」

 

「…数ある想定の、1つに過ぎん…」

 

 俺は洞窟の中を進みながら、小僧に話しかけた。

 

「最初の夜に…オレに尋ねたな…どうすれば戦う為の、強い意志が持てるのか…理由などない……いや、1つ…あるとするならば…過去だ。オレは…オレを縛り続けている過去と…もう、決別したいだけだ…」

 

 死ぬ事で…

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 炎の包囲網から逃れた俺は、ショットガンを構えて周囲を警戒した。

 『♠︎K(ヤツ)』は俺達を仕留めた気でいるはず…

 反撃に出るなら、今……

 

「……!?」

 

 ふと小僧の方を見ると、小僧の眼に、俺の姿が映った。

 そして、俺のさらに後ろにもう1人、人影が映っているのが見えた。

 俺は振り向きざまにショットガンを構え、発砲した。

 

 

 

 ――ガガガガガガ!!

 

 ――ダァーーーン!!

 

 

 

 俺と『♠︎K(ヤツ)』が引き金を引くタイミングは、ほとんど同じだった。

 弾が4発、俺と小僧の方に飛んでくる。

 そのうち一発が、俺の顳顬に掠った。

 俺の撃った弾は、さっきまで『♠︎K(ヤツ)』がいた場所に生えてきた木に直撃し、『♠︎K(ヤツ)』はすぐに木の陰に身を隠した。

 

「ま…待ち伏せ!?けどっ…何でこの場所が…!?」

 

「そんな事よりも今は、戦闘に集中しろ!!」

 

 俺は、小僧に向かって叫びながら、『♠︎K(ヤツ)』が隠れている木に向かってショットガンを発砲した。

 

「『♠︎K(ヤツ)』の銃は、AK(カラシニコフ)…!!ゲリラ戦に持ち込まれた今、フルオートの弾幕の前では、圧倒的に不利だと思え!!オレ達に残されたのは、数の利だけだ!!奴に撃たせる隙を与えるな…!!オレのM870(レミントン)の装弾数は3発…オレがこの最後の1発を撃ち終えたら、再装填(リロード)の間、お前が奴を足止めするんだ!!」

 

 俺は、怯えて震えている小僧に指示を出した。

 『♠︎K(ヤツ)』が木の陰から姿を現した瞬間、俺はショットガンで『♠︎K(ヤツ)』の隠れていた木を狙い撃った。

 

「今だ!!」

 

「ひっ!!」

 

 俺が叫ぶと、小僧は見当違いの方向へ発砲した。

 チッ…

 コイツには、無理だったか…

 

 俺が舌打ちをした次の瞬間、『♠︎K(ヤツ)』はAKを連射してきた。

 木の陰に隠れながら、ショットガンに弾薬を再装填(リロード)する。

 『♠︎K(ヤツ)』の銃が弾切れした瞬間、俺は奴の居場所にアタリをつけてショットガンを発砲した。

 『♠︎K(ヤツ)』は木の後ろに隠れ、弾は木の幹に着弾した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

シーラビside

 

 俺が再装填(リロード)している間にも、連中は連携して発砲してくる。

 俺は、次第に2人の射撃のタイミングが合ってきている事に気がついた。

 

 子供の方は…まるで素人だが、それなりに…息は合ってくるものだな…

 分が悪い連中の次の一手は、この場からの撤退。

 だがそれは、敵に背を向ける最も危険な瞬間。

 

 おそらく連中は、交互に援護し合いながら後退を繰り返し、俺をこの場に足止めしたまま距離を開いていく策を取るはず。

 弾切れを待った後、追撃を再開してもいいが、永く、苦しませたくはない…

 勝負を、急ぐならば…

 距離を詰めるのは、援護として機能していない子供(ベレッタ)の銃声が聴こえた時…

 

「今…だ」

 

 ベレッタの銃声が聴こえた瞬間、俺は身を乗り出してライフルを構えた。

 するとその瞬間、傍からベレッタを持った男が飛び出してくる。

 

「!?」

 

 ベレッタの銃声は…囮か…

 子供の銃の腕を軽視すると読んで、互いの銃を持ち替えていたのか…

 尚且つ…撤退するしかない局面を逆手に取り、敢えて距離を詰めてくるとは…

 

「勝負を…急いでいたのは…オレだけではなかったか…」

 

 俺と男は、互いに得物の銃口を向け合い、すかさず引き金を引いた。

 2つの銃声が、森の中に響く。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

チシヤside

 

 『♢K(だいやのきんぐ)』の『げぇむ』で、俺以外の『ぷれいやぁ』が全員死んだ。

 『♢K(クズリュー)』のストレート勝ちを防ぐ為に、俺とダイモンで協力して『げぇむ』の均衡を崩し、ついてこられなくなったジーサンともう一人の男が最初に脱落した。

 

 そして、ダイモンも死んだ。

 彼女は、俺よりも1点リードしているのをいい事に、『2人以上が同数を選んだ場合、その者の選択は無効票』という新『るうる』を利用して俺とクズリューを潰し合わせようとしていたので、俺は彼女の選ぶ数字を予測して、ピタリ賞を出してクズリューとダイモンに2失点を喰らわせた。

 減点が10点に達したダイモンは、天秤に満杯に注がれた濃硫酸を浴びて呆気なく死んだ。

 

「…相変わらず、虚しい…よね。こうしてまた1人、誰かが犠牲になっていく…大した価値のない、オレの命と引き換えに」

 

 いや…虚しいのは確か…

 『今際の国(ここ)』に来る前も同じだったっけか。

 

「アンタはよく、こんな『げぇむ』を続けられるね。オレもアンタのように、『今際の国(ここ)』に永住して、永遠に続く殺し合いの世界に身を置く事で…人間らしい感情を無くせば、今より楽になれるのかな…?」

 

「…………」

 

「それとも痛みは、増しただけかい…?」

 

「…そう、かもしれないな…」

 

「だったらもう、さっさと終わらせちゃおうよ…」

 

《脱落者が1人出た事により、新『るうる』を1つ追加します》

 

 一番元気があったダイモンがいなくなった事で静かになった裁判所に、無機質な合成音声が鳴り響く。

 俺は、相変わらず顔の前で両手を組んで顰めっ面を浮かべているクズリューに向かって言った。

 

「人の命に興味が持てないオレと、自分の命にすら価値を見い出せないアンタとで、底辺の決着をつけようか」

 

《脱落者が1人出た事により、新『るうる』を1つ追加します。追加『るうる』。『0』を選択した方がいる場合に限り、『100』を選択した方が勝者。1、11回戦と同様、新『るうる』の理解の為に、13回戦の制限時間は5分とします。それでは、13回戦を開始します》

 

 『るうる』の説明が終わると、タイマーが動き出した。

 

「最後は…随分シンプルな『げぇむ』になったもんだね…これで実質この『げぇむ』は、『0』と『1』と『100』のジャンケンになったわけだ。もう『2』〜『99』を選ぶメリットはどこにもないもんね。まあ、2人になった時点で、リードしてるアンタが『0』を選び続けたら勝っちゃうから、当然の追加『るうる』だよね。けれど公平な3択勝負とはいえ、『げぇむおおばぁ』まで1手のオレは、一度の()()()も許されない…これって結構、ピンチじゃん♪」

 

 俺が話をしている間にも、30秒が過ぎた。

 制限時間はまだ、4分以上ある。

 …そろそろ、知っておきたいよね。

 何が『♢K(アンタ)』を、そこまで公平に拘らせるのか。

 

「しかしなんだね、流石に最終局面のこの2人に、ただのジャンケンで5分は長いんじゃない?公平、公平…って、そろそろ押し付けがましくてうるさいよ…何がアンタを、そこまでさせるのかな…?」

 

 俺がそう尋ねると、クズリューが口を開く。

 

「私達の、暮らしていた社会の人間の多くは…1億円の手術で難病の我が子を助けたい両親の訴えを美談と称し、多額の寄付をする一方で、100円の予防注射で地球の裏にいる子供を救えるキャンペーンには目もくれない…この命の差は?救うに値する命と、そうでない命は、メディア次第…ただ、それだけの事なのか…?」

 

「さあ…どうだろうね…オレは多分、どっちも無視しちゃうだろうから…けど仮に、その1億円で、100円の予防注射を100万本用意できたとして、どの100万人を救う?1000万人がその注射を待ってたら、()()100万人を救うんだい?皆は救えない。やっぱり、平等にってのは無理なんじゃない?それとも、アンタには決められるってのかい?」

 

「…わからない。私にはもう、何を決めればいいのかも…」

 

「何を決めていいのかもわからない…か。そっか、つまりアンタは…命の価値がわからないんじゃなく、命の価値を自分で決められないんだ。それならいっそ『今際の国』の国民になって、『♢K(だいやのきんぐ)』としてここで永遠に『げぇむ』に参加し続けてしまえ、とでも思った?自分じゃ決められないから、いっそ『げぇむ』というシステムにその判断を委ねれば、いずれはその苦痛も麻痺するかもしれないと願った?敬服せずにはいられないよ、あまりの青臭さと頭の悪さに」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

クズリューside

 

「もしも仮に、仮定の話に過ぎないが…命の価値なんてものがあるとしたら、そんなものは、それぞれが勝手に決めてりゃいいのさ。大企業は経済効果で決めればいいし、生命保険会社は生涯賃金で決めればいい。ヒューマニストは女子供を優先すれば良いし、損害賠償は遺族と世論が納得する額で手を打てばいい。アンタにとっては世界が滅んででも生かしたい価値のある命があるかもしれないし、他の誰かにとってはその命は道端のゴミ以下の無価値なものかもしれない。命の価値なんてものは自分が勝手に決めればいい。誰もがそうしてるし、オレもそうしてる。自分が感じた事を絶対的な価値だと勘違いして、その価値基準の違いを、いい歳した大人がいちいち人に押し付けるなよ。平等だなんだと拘って、本当は…アンタが一番、人の命に優劣をつけたがってるんじゃないのか?」

 

 チシヤは、眉間に皺を寄せながらそう語る。

 私が一番、命に優劣をつけたがっている…か。

 違う…私は……

 

「ハ…ハハ…やっと、出会えたじゃん…アンタ、面白いね♪オレは、アンタと『げぇむ』をする為に、この『今際の国』に来たのかもしれないね。子供のように、なんで?なんで?を繰り返すアンタに…オレがささやかな手助けをしてやるよ」

 

 そう言ってチシヤは、タブレットを操作して私に見せた。

 チシヤのタブレットには、『100』と表示されていた。

 

「…な、何の…つもりだ…!?」

 

「ここに…死に向かって突き進む命がある。この命に価値があるのか?ないのか?アンタが()()()決めてみなよ♪」

 

 そう言ってチシヤは、不敵な笑みを浮かべた。

 先に『100』を選んだ以上、私が『0』を選ぶ他、生き延びる道はないというのに…

 これを…この私に、決めろだと…?

 

 決めるまでもない。

 国民になった以上、私はその決定を、この国の『げぇむ』の『るうる』に委ねてきた。

 『るうる(それ)』は現状、この世界における唯一の『法』と『秩序』に他ならないからだ。

 彼は自らの意思でこの『げぇむ』に参加した。

 途中棄権など認められていない『げぇむ』の最中に、彼が生きる意思を放棄しようと、私はこの国の『るうる』に則り、勝ちを選択するだけの事。

 

 …何の、為に。

 

 

 

《制限時間になりました。13回戦の結果を発表します》

 

 私は、最後まで迷った挙句、『0』を選んだ。

 私には、チシヤを…彼をここで殺す事はできなかった。

 ここで勝ったところで…そんなのは、公平でも何でもない。

 

《『0』に対して『100』を選択した参加者がいるため、追加『るうる』により、勝者、チシヤ様》

 

 チシヤが勝った事で、私は1ポイント減点となった。

 これで私と彼の点差は、1点差にまで縮んだ。

 

「それがアンタの選択か。オレを生かす事に決めたのかい?」

 

「こんなやり方は、私の本意とするところではない…決着は、あくまで『げぇむ』で公平につけよう…」

 

《14回戦を、開始します》

 

「公平ねぇ…どこまでも、その言葉が好きなんだね。アンタが自分で決める気が無いのなら、さっさと殺せばいい。それが()()な『るうる』だろ?」

 

 そう言ってチシヤは、また『100』を選んで私にタブレットを見せてきた。

 

「…二度も茶番に、付き合う気はないぞ…!」

 

 私は、何を躊躇っているのだ…!?

 彼が死を望もうが、好きにすればいい。

 私は『るうる』に則り、自分が生き残れば…

 

「…………」

 

 …私は、彼を殺してまで生きるべきなのだろうか…?

 それとも、自分の命に代えてまで、彼を生かすべきなのだろうか…?

 私は永住権を手に入れて、『今際の国』の国民になった時点で、いずれは『げぇむ』で命を落とす身…

 自らの選択で、自分の命を捨てたのだ…

 しかしそれは、他人の決断に自分の命を委ねた彼も同じ…

 そんな私達のどちらかに…生きる価値などがあるのだろうか…?

 

 この思考は、今までの堂々巡りだ…

 私に問われているのは、生きるべき、死ぬべき人間を決める事ではないのか…?

 

 私は一体…何を…決めればいい…?

 

 

 

《制限時間になりました。14回戦の結果を発表します》

 

 私はまた、『0』を選んだ。

 

《勝者、チシヤ様》

 

 チシヤが勝った事で、私は1ポイント減点。

 これで互いに、同点になった。

 次で勝者が決まる。

 

《それでは、15回戦を開始します》

 

「これが…狙いなのか…?私には決められない…そう踏んで君は、この同点の状況に私を誘い込むのが狙いだった…?」

 

「だとしたらオレって相当意地悪な策士だよね。それも悪くはないけど…残念ながらオレは…人の命ってやつにも、くだらない『げぇむ』にも、どうしても関心が持てなくてね…今やオレ達の興味は、同じだろう?オレも知りたいんだよ、アンタが最後に出す数字を」

 

 そう言ってチシヤは、また『100』と表示されたタブレットを見せてきた。

 

「……わかったよ…私が、決めさせてもらおう…」

 

 おそらく…私には…

 命の価値もその差異もわからないし…

 きっとこの先も、それを決められる日は来ないのだろう…

 

 私が決めるべきは、命の選別ではなく…

 私がこの絶望に塗れた世界で、どう生き、どう死にたいか…

 それはつまり、私の…

 私の、理想は…

 

 私は悩んだ末に、『0』と『1』を同時に押した。

 

「…………………そっか、アンタは…命の価値を、『自分では決めない』事に、決めたんだね…」

 

《制限時間になりました。15回戦の結果を発表します》

 

 モニターに、結果が表示される。

 私がタッチの差で先に押したのは…『0』だった。

 

《勝者、チシヤ様。ここで、減点が10に達した参加者がおられます。その参加者は、『げぇむおおばぁ』》

 

「いつもの…顰めっ面はどうしたんだよ?それだとまるで…理想を捨てるくらいなら、その為に死ぬ事になっても悔いなんてない…って、顔じゃんか」

 

「だとしたら私は…ようやく、自分の生き方を決められたんだな…君の、お陰だ」

 

 私は最期に、ようやく自分の望む生き方を決められた。

 私は、この答えを見つける為に、この国に来たのかもしれないな…

 

 

 

 ――バシャアアアッ!!

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 9日前。

 私は、ミラと共に、燃え盛る『ビーチ』を眺めていた。

 

「『まじょがり』が『くりあ』された。これで残すは絵札の『げぇむ』のみ…」

 

「いよいよ、私達の出番ね」

 

 絵札以外の全ての『げぇむ』が『くりあ』され、私達は『ねくすとすてぇじ』の準備に取りかかった。

 …また、『ぷれいやぁ』との殺し合いが始まるのか…

 

「乗り気じゃないのね…だったらあなたは、どうして国民としてここに永住する事を選んだのかしら?」

 

「殺し合いを楽しむような人間が永住権を手に入れ、悪趣味な『げぇむ』を創るくらいなら、私が国民となり、せめて私が務める『げぇむ』くらいは、公正でありたい…そう思っただけだ。それに…国民といえど、今は私も『げぇむ』の運営を任されるこの国の駒にすぎないが…もしかしたら、いつかは…この国の全てを統轄する『じょおかぁ』の地位に上り詰める事ができれば、この国の『法』と『秩序』である理不尽な『げぇむ』のシステムそのものを変えられる日が来るかもしれない…」

 

「大した…理想ね。…けれど、実現しない『理想』は、ただの『幻想』よ♡」

 

 私は、『ビーチ』を燃やす炎を眺めながら、『理想』に生き、『理想』に死んでいった者達の顔を思い浮かべた。

 彼等の『理想』は…『幻想』なんかじゃない。

 

「私は、そうは思わないよ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

チシヤside

 

《参加者が最後の1人になりました。『げぇむくりあ』》

 

 クズリューは、笑顔を浮かべたまま、濃硫酸を浴びて溶けた。

 最後に残ったのは、俺だけだ。

 

「…何か、ずるいよね…勝ち逃げされたみたいでさ…」

 

 何故アンタを、面白い奴だと思ったのかわかったよ…

 アンタと俺が対極の人間だからだ。

 アンタが命を懸けてまで苦しみ抜いて、悩み続けたのは、狂おしいまでの、命への関心…

 

「アンタが、羨ましいよ…」

 

 誰もいなくなった裁判所に、虚しい俺の独り言だけが響いた。

 

 

 

 『ねくすとすてぇじ』開催7日目

 

 『げぇむ』 残り4種

 

 『ぷれいやぁ』 残り85人

 

 

 

 

 




♢Kでの罰は原作では王水ですが、本作ではドラマ版の設定を採用して濃硫酸にしてます。
人体への影響という意味では、王水より濃硫酸の方がやばいらしいので。
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