Duchess in Borderland   作:M.T.

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【特別編6】すぺえどのじゃっく

ヒーロside

 

 『ねくすとすてぇじ』開催6日目、23時55分。

 私とキズナちゃんは、『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』の『げぇむ』会場の前に来ていた。

 『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』の『げぇむ』会場は、世田谷区太子堂にある道場だった。

 

《エントリー締切 午前0時マデ》

《エントリー数 無制限》

《武器の持ち込み可(ただし飛び道具は不可)》

 

 エントリー数無制限、武器の持ち込みは、飛び道具以外ならOKか…

 ……やっぱり、国民との殺し合いの『げぇむ』なのかな。

 なんて考えつつ、私達が中に入ろうとすると、後ろから声をかけられる。

 

「何や、アンタらも参加者か?」

 

 私達の後ろには、コーンロウの髪をした背の高い女性が立っていた。

 

「…ええ、まあ。あなたは?」

 

「ウチはクイナ。アンタらは?」

 

「私はヒーロです。大木場柊色…で、彼女はキズナちゃんです」

 

「ヒーロとキズナ、か。中入ろか。もうすぐエントリー締め切ってまうからな」

 

 私達は、クイナさんと一緒に『げぇむ』会場に入った。

 そのまま歩いていると、クイナさんが話しかけてくる。

 

「アンタら、絵札の『げぇむ』を『くりあ』したんやろ?」

 

「えっ、なんで分かったんですか?」

 

「やっぱりな。アンタらは、他の『ぷれいやぁ』と面構えがちゃうねん。ほんで、何の『げぇむ』に参加したん?」

 

「アタシは『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』、彼女は『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』と『♣︎J(くらぶのじゃっく)』です」

 

 クイナさんの質問に、キズナちゃんが答える。

 するとクイナさんは、悲しそうな目をして話し始める。

 

「……ウチの話、聞いてくれるか?ウチは、『♣︎K(くらぶのきんぐ)』に参加してんけどな、『げぇむ』で仲間を1人亡くしてん。アイツは、ウチらを助ける為に、腕を犠牲にしよった。ウチは、アイツの為にも、一日でも早く『げぇむ』を終わらしたい。もうこれ以上、『げぇむ』で仲間を殺しとうない。せやから、ウチはこの『げぇむ』に1人で参加してん。アンタらもあるか?『げぇむ』で大事な人を亡くした事」

 

「…私は、『げぇむ』で一緒に生き延びてきた仲間を失いました。彼は私達を助ける為に、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を巻き込んで自爆したんです」

 

「アタシは、妹を亡くしました。私を庇って、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』に撃ち殺されて…」

 

「そうか…お互いつらいな。絶対、一緒に『くりあ』しよか」

 

 私達は、クイナさんと一緒に、道場の一番奥の扉を開けて中に入った。

 中には、見るからに強そうな男の人が7人いた。

 私達以外全員男か…

 やっぱり、圧倒的に男の人が多いな…

 なんて考えていると、参加者のうちの一人が、クイナさんを見て驚いたような表情を浮かべる。

 

「……!お前は…」

 

「ドレッド…アンタ、生きとったんか…!」

 

 ドレッドヘアーの男の人がクイナさんに気づくと、クイナさんは憎しみのこもった眼をドレッドヘアーの男に向けた。

 

「クイナさん、お知り合いですか?」

 

「知り合いやなんて思いとうないわ。アイツは……いや、アイツの事は後回しや。今は『げぇむ』に集中せんと…」

 

 今にもドレッドさん?に掴みかかろうとしていたクイナさんは、冷静さを取り戻して矛を収めた。

 どう見ても、ただの知り合い同士じゃなさそうだけど…

 今は、『げぇむ』を生き残る事が最優先だよね…

 

《エントリーを締め切りました。『げぇむ』を開始します》

 

「よくぞ来た。(オレ)の『げぇむ』会場へ」

 

 声のした方を振り向くと、そこには、小袖と袴を身につけた筋骨隆々の大男が立っていた。

 

(オレ)は『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』。剣立(ケンダテ)雄士(ゆうじ)と申す」

 

 『♠︎J(すぺえどのじゃっく)

 剣立(ケンダテ)雄士(ゆうじ)/ケンダテ

 武道家

 

「それではこれから、『げぇむ』の説明を始める。『げぇむ』、『ちゃんぴおん』。難易度、『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』」

 

「『ちゃんぴおん』って…まさか、オレらとアンタで殺し合いをしろって事か?」

 

「左様。『ちゃんぴおん』である(オレ)を倒せばお主らの『げぇむくりあ』だ。ただしお主らには、(オレ)に挑む前に、ここにいるクズ共を相手にしてもらう」

 

 そう言って『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』ことケンダテがパチンと指を鳴らすと、奥の隠し扉がガコン、と開く。

 そして隠し扉の奥からは、武器を持った男の人がゾロゾロと出てきた。

 なんか世紀末っぽい人達だな…

 

「ぎゃはは!おい見ろよ、女がいるぜ!」

 

「ヒュ〜、ありゃ上玉だなァ!」

 

 奥から出てきた人達は、下卑た目で私たちを見てきた。

 アイツらも国民なの…?

 

「『るうる』は至って単純。場外か、降参か、行動不能のいずれかの状態に陥れば『げぇむおおばぁ』。勿論、我々も同様だ。ソイツらを全員殺した者のみ、(オレ)が相手をしてやろう」

 

 なるほどね、『♠︎(すぺえど)』らしい単純な『るうる』だわ。

 降参か行動不能で『げぇむおおばぁ』っていうのはわかるけど…

 

「場外…?」

 

 私が『るうる』の説明に首を傾げていると、突然床にピシッと亀裂が入り、私達をぐるっと囲む形で床が円形に抉れ、円の外の床板が奈落の底に落ちる。

 私達や相手の男達がいる広い場所と、ケンダテが立っている狭い場所だけが足場になって、即席のリングが完成した。

 これは、落ちたらひとたまりもないわね…

 

「質問だァ!!もしオレらが勝ったら、コイツら好きにしていいのか!?」

 

「構わん。敗者をどうしようと、勝者の勝手だ…とだけ言っておこう」

 

 相手の男が尋ねると、狭い足場に立ったケンダテが答える。

 

「オイオイ、聞いたかお姉ちゃん達ィ!とことん運がねぇぜ!死ぬまでオレらに可愛がられるなんてよォ!」

 

「あの背の高い女、いい身体してやがる」

 

「あのウルフの女、締まり良さそうだな」

 

「刀持ってる女も楽しめそうだぜ、ヒヒヒッ」

 

「やっぱり『今際の国』の国民になって良かったぜ。元の世界じゃ、絶対こんな事できねぇもんな」

 

 下品な奴等だな…

 なんで私達に勝てると思ってるんだろう。

 

 私は正直、コイツらに負ける気が全然しない。

 アテナは、もっと恐かった。

 クロバ達は、もっと強そうだった。

 アテナやクロバ達に比べれば、こんな奴等、ちっとも怖くない。

 

「それでは、『げぇむすたあと』」

 

「「「「「オラァアアアアア!!」」」」」

 

 ケンダテの合図と同時に、男達が一斉に襲いかかってきた。

 男達はまず、一番近くにいたクイナさんに襲いかかる。

 

「クイナさん!」

 

 私とキズナちゃんは、クイナさんを助けに行こうとした。

 だけど、その心配は要らなかった。

 

「セイッ!!」

 

「ぐあ!!」

 

 クイナさんは、棒きれを振り下ろしてきた男の顎に、掌底を喰らわせた。

 すると男が気絶し、レーザーで頭を撃たれる。

 そしてもう一人の男も、上段蹴りを喰らわせて気絶させる。

 クイナさんは、襲いかかってきた男を立て続けに二人倒した。

 これは…自分たちの心配をした方が良さそうだな。

 なんて考えていると…

 

「ひゃっほぉう!!」

 

 別の男が、私に向かって棍棒を振り下ろしてくる。

 私が棍棒を避けると、ちょうど私を狙おうとしていた別の男が、剣で突きを放ち、狙いを外して棍棒の男の心臓部に剣を突き刺した。

 

「ぎゃ!!」

 

 剣の男が棍棒の男を刺し殺した直後私は剣の男を軽く押した。

 すると剣の男は、バランスを崩してリングの外へと身体の重心が傾く。

 

「あっ、足外し…」

 

 剣の男が足を踏み外して完全に場外になった瞬間、レーザーが降ってきて奈落の底に落ちた。

 ……いける。

 

 私は、リングの上を縦横無尽に駆け抜けて、国民達から逃げ回った。

 逃げながらも、同士討ちや場外を誘って、確実に一人ずつ人数を減らしていく。

 

「どこだ!?どこ行った!?」

 

 私を見失った国民達は、パニックに陥っていた。

 その間に、キズナちゃんが模擬刀を国民の首に叩きつけて倒す。

 私は、国民から逃げ回って返り討ちにしていたけど、走っているうちに胸が苦しくなって、心臓の辺りをぐっと抑える。

 

「くっ…!はぁっ、はぁっ…!」

 

「ヒーロさん!無理しないで!」

 

「大丈っ夫……まだ、動ける……!」

 

 私は、ズキズキと痛む胸を押さえながら、戦場を逃げ回る。

 胸は発作で痛むのに、信じられないくらいに感覚が澄んで、翼でも生えたみたいに身体が軽い。

 この感覚、陸上をやっていた時と同じだ。

 不謹慎かもしれないけど…命懸けで逃げ回っている今この瞬間が、ちょっとだけ楽しい。

 

「死ね、このバケモンが!!」

 

 私が態勢を立て直そうとすると、国民の男が槍で突きを放ってくる。

 私は、男の攻撃を見切ると、その場で床を踏み込んで槍の真上へと跳び上がり、さらに槍を足場にして高く跳び、男の頭上を取る。

 そのまま組みつこうとしたその時、別の男が斧を振り下ろしてくる。

 

「くたばれぇ!!」

 

「おいバカやめろ!!」

 

 私は、空中で身を翻して斧を避けた。

 すると、振り下ろされた斧が、槍の男の首に直撃する。

 

「ぎゃああああっ!!」

 

 斧で斬られた男が、血飛沫を上げながら倒れる。

 私はそのまま、仲間を叩き斬った斧の男に組み付く。

 両腿で頭を挟んで、バック宙の要領で身体を回転させ、頭を思いっきり床に叩きつける。

 今ので完全に気絶したのか、レーザーが男の頭を貫く。

 

 気がつけば、私達はリングにいた国民を全員倒していた。

 リングは、国民の血で汚い赤色に染まっている。

 私達『ぷれいやぁ』は、何人か重傷を負っているとはいえ、全員生き延びていた。

 私は、今のうちに心臓の薬を水筒の水で口に流し込んで、ゆっくり息を整える。

 

「何やコイツら、全然手応えあらへんやん。ホンマに国民なんか?」

 

 クイナさんは、地面に転がった国民の死体を見て呆れたように言い放つ。

 確かにコイツらは、言っちゃ悪いけど、全然大した事なかった。

 私のような丸腰のただの陸上部でも無傷で生き残れてしまうくらい、コイツらは弱い。

 コイツらと、ケンダテ達絵札の主の違いは何…?

 

「あとはオッサン、テメェだけだぜ」

 

 そう言って『ぷれいやぁ』の一人が、持っているナイフでケンダテを指す。

 するとケンダテは、ニヤリと不敵に笑った。

 

「ほう…まさか全員生き残るとはな。流石は修羅場を乗り越えてきた『ぷれいやぁ』達だ」

 

「仲間が全員殺されたっちゅうんに、えらい余裕やな」

 

「フン、彼奴らは所詮、()()()()()()()()()今日までのうのうと生き延びてきた雑魚。仲間でも何でもない。むしろ、お主らが彼奴らを処分してくれて清々しているくらいだ」

 

「仲間の命も捨て石って事…アンタら最低ね」

 

 ケンダテが死んだ国民達を見下して言い放つと、キズナちゃんが眉を顰める。

 国民達やケンダテの発言を聞いて、ようやく確信した。

 やっぱりコイツら『今際の国』の国民は、前回の『ねくすとすてぇじ』を生き残った『ぷれいやぁ』だったんだ。

 ケンダテの、『命を懸ける事もなくのうのうと生き延びた』という発言が、どうしても気になる。

 ……もしかして、絵札の主と、そうじゃない奴等の違いは、前回の絵札の『げぇむ』に参加してるかしてないかって事?

 

「さて…ここまで生き延びたお主らに敬意を表し、(オレ)が直接殺してやる」

 

 そう言ってケンダテは、壁に立て掛けてあった宝刀を手に取ると、宝刀を左腰に差す。

 するとケンダテが立っている足場から橋のようなものが伸び、私達が立っている足場と繋がった。

 ケンダテは、足場と足場を繋ぐ橋を渡って、私達のいる足場へと足を踏み入れる。

 

「来るぞ…!」

 

「油断するなよ!」

 

 私達は、相手が一人だからと決して侮る事はなく、気を引き締めて挑もうとした。

 前に立っていた男性は、私達全員に呼びかけた。

 だけど『油断するな』と叫んだその一瞬が、彼にとって致命的な油断となってしまった。

 

 次の瞬間には、その男性の頭がトーテムポールみたいに180°回転し、ゴトッと重い音を立てながら地面に落ちた。

 そしてその近くにいた男性も、ずるっと上半身がずれて地面に落ちた。

 見るとそこには、いつの間にか刀を抜いたケンダテが立っていた。

 

「どうした?かかってくるが良い」

 

 ケンダテは、裏を取られた『ぷれいやぁ』をズバズバと斬り伏せ、肉塊に変えていく。

 気がつけば、最初は私達含めて10人いた『ぷれいやぁ』も、私、キズナちゃん、クイナさん、ドレッドさんの4人だけになってしまった。

 

 コイツ、さっきまでの奴等とは全然レベルが違う…!

 私がケンダテの剣技に驚いていると、ケンダテは、怪我人のキズナちゃんに目をつけ、キズナちゃんを斬り伏せようとする。

 キズナちゃんは、模擬刀でケンダテの刀を受けたけど、あまりの力量差で上にのしかかられ、模擬刀をへし折られてしまった。

 

「あっ…!!」

 

「キズナちゃん!!」

 

 模擬刀をへし折られたキズナちゃんは、手首を痛めて怯んでしまう。

 するとケンダテが、キズナちゃんを斬り伏せようと刀を構える。

 

(オレ)を倒したければ、真剣を持ち込むべきだったな。死ね」

 

 そう言ってケンダテが刀を振り下ろす、その瞬間。

 

「ハァッ!!」

 

 クイナさんが、ケンダテに向かって飛び蹴りを喰らわせ、キズナちゃんを助けた。

 ケンダテは、クイナさんに蹴られて吹っ飛ばされたけど、地面に膝をついて『げぇむおおばぁ』を免れた。

 

「今の蹴り…お主、只者ではないな」

 

「アンタの相手はウチや!かかってこい!」

 

 クイナさんは、空手の構えをすると、ケンダテを挑発した。

 するとケンダテは、刀を構えてニヤリと笑う。

 ケンダテは、刀を振り上げながらクイナさん目掛けて突進すると、そのまま振り下ろそうとする。

 クイナさんは、ケンダテの動きを見切って、ケンダテの懐に入り込んで回し蹴りを叩き込もうとした。

 だけどケンダテは、斬りかかる途中でビタッと動きを止め、そのせいでクイナさんの蹴りは狙いを外して空を切った。

 

「なっ…!」

 

「フン!!」

 

 狙いを外したクイナさんがよろけた一瞬の隙を突いて、ケンダテがクイナさんの脇腹に蹴りを入れた。

 

「がはっ…!!」

 

 ケンダテに蹴られたクイナさんは、目を見開いて血反吐を吐きながら吹っ飛んでいく。

 クイナさんは、場外へ吹っ飛ばされる前に態勢を立て直し、ギリギリ場外を免れた。

 ケンダテがクイナさんに飛びかかってトドメを刺そうとしたその時、サバイバルナイフを手に持ったドレッドさんが、背後からケンダテに斬りかかる。

 

「オラァ!!」

 

「遅い!」

 

 ケンダテは、ドレッドさんの動きを見切ってあっさり避けると、ドレッドさんを刀で斬り伏せようとする。

 私は、ケンダテ目掛けて飛び掛かって、ドレッドさんを助けた。

 するとケンダテは、私の左脚に刀を突き刺してきた。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

「ヒーロさん!!」

 

 私が脚を押さえてその場に倒れ込むと、キズナちゃんが私に駆け寄ってくる。

 ケンダテが私に斬りかかろうとすると、キズナちゃんとクイナさんがケンダテに飛びつく。

 

「やめろ!!!」

 

 二人がケンダテに飛びつくと、ケンダテは刀を振るって二人を斬りつけた。

 クイナさんとキズナちゃんは、血を流して痛みで顔を歪める。

 ダメ…もうこれ以上、皆に血を流させるわけには…

 私が立ち上がってケンダテと戦おうとしたその時、ドクン、と心臓が跳ねて、息が止まった。

 

「ぁぐ…っ!!」

 

「ヒーロさん!」

 

「アンタ、大丈夫か!?」

 

 私が胸を押さえて苦しむと、キズナちゃんとクイナさんが振り向く。

 ケンダテは、当然空気を読んでくれるわけなんかなくて、容赦なく二人に斬りかかってくる。

 私達4人は、躊躇なく刀で攻撃してくるケンダテに有効打を与えられずに、怪我が増えていく一方だった。

 特にキズナちゃんとクイナさんは、脚の怪我と発作のせいで戦えない私を守りながら戦ってるから、全身刀傷でボロボロになっていた。

 

「はぁ、はぁ、くそ…!」

 

 クイナさんとキズナちゃんの足元は、二人の血で赤く染まっている。

 二人とも、もう体力が限界だ。

 私のせいで…

 私が、皆の足を引っ張ってる…

 嫌だ……!!

 

「フン、今までの他の『ぷれいやぁ』よりは骨があるようだが…4対1でもその程度か。やはりこの国にも、(オレ)を楽しませてくれる奴はいないのか…」

 

 ケンダテが私達を見下して鼻で笑うと、クイナさんが口を開く。

 

「ひとつ聞きたいねんけど、アンタ、なんでこの国に残ったん?」

 

 クイナさんが尋ねると、ケンダテがピクリと眉を動かして反応する。

 クイナさんは、空手の構えをしながら、ケンダテに続けて話しかける。

 

「ウチの仲間が言うててん…アンタら、前回の『ねくすとすてぇじ』を生き延びた元『ぷれいやぁ』なんやろ?元の世界に戻るっちゅう選択肢は無かったん?アンタは自分の意思で、この国に残る事を選んだんか?」

 

「戦いの最中に雑談とは…随分と余裕だな。(オレ)は…老いや衰えなどという足枷を捨て、武の道を極める為に、この国に残った。それだけだ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ケンダテside

 

 己は、元の世界であらゆる武道を極めてきた。

 柔道、剣道、空手道、合気道…

 あらゆる武道の大会に出場して優勝を掻っ攫い、巨額のファイトマネーを稼いでいた。

 元の世界には、もはや己の敵と呼べる武道家はいなかった。

 武道家として、ただひたすら己を研磨する事だけが、己の生き甲斐だった。

 武の道を極めた己には怖いものなどないと思っていた。

 

 だが己には、たった一つだけ、恐れていたものがあった。

 それは、老いだ。

 己が倒してきた武道家が、老いで衰えた己を軽々と超えていく。

 それが己にとっては、この上ない屈辱であり、生きる理由を失くす程の絶望だった。

 

「時の流れというものは、残酷だ…(オレ)はこのまま、凡夫と同じように老い衰えていく運命なのか…このまま老いて朽ち果てるくらいなら、せめて戦いの中で死なせてくれ…」

 

 その願いは、天に届いた。

 

 

 

 

 

 ――ミーンミンミーン…

 

「どこだ…ここは…?」

 

 気がつけば己は、『今際の国』に迷い込んでいた。

 『今際の国』には、元の世界でどんなに望んでも手に入らなかった、戦いの中に身を置く楽しさがあった。

 そして何より、元の世界と時間の進み方が違うこの世界では、永遠に歳を取らない。

 この国に永住すれば、己は力が衰える事なく、永遠に武の道を極められるという事だ。

 己にはもはや、この国に永住しない理由がなかった。

 元より血が湧き踊る戦いに飢えたかつての現実世界には、飽き飽きしていたんだ。

 

《おめでとうございます。ただ今を持ちまして、()()の全ての『げぇむ』が『くりあ』されました。これより、生き残った『ぷれいやぁ』の皆様全員には、この『今際の国』の国民となって()()の『げぇむ』に参加する事が出来る『永住権』を、取得するか放棄するかの選択が与えられます。それぞれがお答え下さい。この国に永遠に身を置き、これからも殺し合いを続ける権利を、『手にする』か『手にしない』かを》

 

「無論、手にしよう」

 

 己は先代の『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』を倒し、『ねくすとすてぇじ』を『くりあ』した後、迷わず永住権を手にした。

 この世界は素晴らしい。

 もう己の武の道を阻むものは、何一つない。

 己 は、まだまだ強くなれる。

 己は、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』をも超えて、この国で最強の男になって、いずれは『じょおかぁ』の座に君臨するのだ…!!

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

(オレ)は…老いや衰えなどという足枷を捨て、武の道を極める為に、この国に残った。それだけだ」

 

 己は、決意を語りながら刀を構える。

 すると空手家の女は、呆れたような目で己を見てため息をつく。

 

「武の道を極める為にここに残った…か。強がんのも大概にせぇ。アンタはただ、怖かっただけとちゃうんか?」

 

「何だと…?」

 

「アンタは弱い。せやから、老いには逆らえんっちゅう現実を受け入れられへんかったんやろ?お前はただの阿呆や。自分と向き合えずに、こないなくだらん事続けて現実逃避しとるだけの老害や。ウチらは、ボケ入ったオッサンの介護に付き合うとる暇なんか無いんじゃ。さっさと終わらせたるから、かかって来ぃや」

 

 女は、空手の構えをしながら己を侮辱してきた。

 少しは骨のある女だと思っていたが…

 己の決意がわからぬとは、とんだ見込み違いだったようだな。

 

「…どうやら、お主を認めた(オレ)が間違いだったようだ。お主らは、(オレ)の武の道の礎となる資格すらない。今ここで死ね」

 

 そう言って己は、女に飛びかかり、刀を振り抜いた。

 だが己が刀を振り抜く瞬間、女が己の視界から消えた。

 そしてその次の瞬間には、ゴッ、と顎に鈍い衝撃が走る。

 

「がぁっ…!」

 

「顎がガラ空きじゃ、ど阿呆」

 

 顎に直撃を喰らった己は、頭を揺らされ、意識が飛びそうになる。

 間一髪のところで舌を噛んだ事で、『げぇむおおばぁ』を免れた。

 この女……舐めた真似を…

 

「死ねェッ!!」

 

 己は、女に向かって刀を振り下ろした。

 すると女は、リングの上に落ちていた斧を手に取り、斧の柄で己の刀を受けた。

 刀が深く刺さった斧を女が力強く引いた、その瞬間だった。

 

「「オラァッ!!」」

 

 男と模擬刀の女子が、同時に己に飛びついてきた。

 二人同時にタックルを仕掛けられた衝撃で、刀を握る手が一瞬緩む。

 その隙を突いて、空手女が己の刀を斧ごと奪い取り、場外へ投げ捨てた。

 しまった、刀が…!!

 

 己が刀に向かって手を伸ばした、その瞬間。

 ぞわ、と背筋に寒気が走った。

 振り向くと、『ぷれいやぁ』共の足手纏いだった陸上女が、場外ギリギリの位置に、己の背丈よりも長い槍を構えて立っていた。

 あの女…何をするつもりだ…!?

 

 女は、自重を超える重量であろう槍を片腕で持ち上げて肩の上に担ぐと、大きく床を踏み込んで走り出した。

 馬鹿な…瀕死の女のどこにそんな力が…

 まさか、まさか……!!

 敢えて死の淵に身を置く事で、限界を超えたとでもいうのか…!?

 

 女は、助走で勢いをつけたかと思うと、担いだ槍を己の方へ投げてきた。

 ボッ、と音を立てて槍が飛んできて、ほんの刹那の間に、槍の刃先が己の眼前に迫ってきた。

 避けられないと悟った瞬間には、槍は己の身体を貫いていた。

 

「ぐぁ……!!」

 

 槍で胸を貫かれた己がよろけた、その瞬間。

 

「ヤァッ!!」

 

 空手女が、回し蹴りを放ってくる。

 女が蹴りを放つ瞬間、目に映るものが全て極端に遅く見えた。

 そして己は、瞬時に理解した。

 己はこの一撃を受けて、『げぇむおおばぁ』になって死ぬと。

 

 ……これが死か。

 己は、この国で永遠に鍛え続けられると思っていたのだがな…

 己の武の道も、ここまでか…

 

 だが案外、悪くない気分だ。

 己は、戦いの中で死ぬ事ができた。

 己は、満足だ。

 

 

 

 ――ゴッ!!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒーロside

 

 クイナさんが、ケンダテの脳天に回し蹴りを叩き込んだ。

 すると、その一撃でケンダテは気を失ったらしく、レーザーがケンダテの頭を貫く。

 頭を撃ち抜かれ槍で胸が抉れたケンダテの死体が、リング上に倒れる。

 …私達が、勝ったんだ。

 

「はっ……はっ……!」

 

 最後にケンダテに文字通り一矢報いた私は、胸を押さえて呼吸を整える。

 私は、リングの上に落ちていた槍を拾い上げて、やり投げの要領で槍を投げた。

 銃や矢なんかの飛び道具は持ち込み禁止だけど、持ち込んだ武器を飛び道具にしちゃダメって『るうる』は無かった。

 陸上部にいた頃は、走る練習ばかりやってて、やり投げなんかほとんどやった事なかったから、まさかここで活きるとは思ってなかったんだけど…

 

《『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』が『げぇむおおばぁ』になりました。残った『ぷれいやぁ』は全員、『げぇむくりあ』》

 

 ケンダテが『げぇむおおばぁ』になって、『げぇむ』が終わった。

 結局『げぇむくりあ』したのは、私、キズナちゃん、クイナさん、そしてドレッドさんの4人だけだった。

 私は、『げぇむ』が終わって緊張の糸が解けたせいか、その場にへたり込んでしまった。

 

「ヒーロさん!!」

 

 私が尻餅をつくと、キズナちゃんが駆け寄ってきて、上着を破いて左脚の傷口を縛って止血をしてくれた。

 

「ありがとう…」

 

「とりあえず、近くの病院を探しましょう。それまでの辛抱ですから…」

 

 そう言ってキズナちゃんは、私を肩に担いで、そのまま歩き出そうとする。

 するとクイナさんが、もう片方の肩を担いだ。

 

「手ぇ貸すで」

 

「クイナさん…ありがとうございます…」

 

 私達三人は、血を流しすぎてヨロヨロとおぼつかない足取りになりながらも、病院を目指す。

 そんな私達を見て、ドレッドさんが一言言い放った。

 

「礼は言わねぇぞ」

 

 ドレッドさんがそう言うと、クイナさんが「やかましいわ」と不快そうな顔をした。

 私達が『くりあ』できたのは、ドレッドさんのおかげだ。

 せめて、お礼だけでも…

 

「あの…ドレッド…さん?さっきはありがとうございました」

 

 私は、先に『げぇむ』会場を出ていくドレッドさんにお礼を言った。

 するとドレッドさんは、足を止めて口を開く。

 

河守(こうもり)蛍介(けいすけ)だ。覚えとけ」

 

 そう言ってドレッドさんは、どこかへと去っていった。

 私達は、近くにある病院へと足を運んだ。

 

 これで、残る『げぇむ』はあと4種。

 もしかしたら、私達が『げぇむ』をしている間に、他の『げぇむ』も『くりあ』されてるかもしれない。

 あと少し…あと少し頑張れば、元の世界に帰れるんだ。

 

 

 

 ───今際の国滞在18日目

 

 残り滞在可能日数

 

 大木場柊色 43日

 

 

 

 『ねくすとすてぇじ』開催7日目

 

 『げぇむ』 残り2種

 

 『ぷれいやぁ』 残り70人

 

 

 

 

 




♠︎J(すぺえどのじゃっく)』は唯一、ドラマ版の『げぇむ』を採用した絵札の『げぇむ』です。
それと、原作で武闘派に寝返ったドレッドヘアーの男ですが、名前が出てこなかったので勝手に命名します。
名前は、河守(こうもり)蛍介(けいすけ)といいます。
名前の由来は、帽子屋の歌に出てくるキラキラ光るコウモリです(以前はボーシヤの側近だった事と、すぐに手のひらを返す人をコウモリと呼ぶ事から)。

あと、『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』のプロフィール載せときます。


♠︎J(すぺえどのじゃっく)

◆プロフィール

本名:剣立(ケンダテ)雄士(ゆうじ)/ケンダテ
性別:男性
年齢:51歳
身長:195cm
出身地:愛知県
職業:武道家
得意ジャンル:『♠︎(すぺえど)』(肉体型)
好きなもの:武道


◆容姿

黒の短髪を逆立てた筋骨隆々の大男。
顔や腕に傷跡がある。

◆服装

小袖と袴を身につけ、侍のような風貌をしている。
本気で戦う時は、真剣を腰に差す。

◆人物

♠︎J(すぺえどのじゃっく)』の絵札の主。
剣道や空手、柔道など、あらゆる武道の達人。
純粋な筋力は、絵札の主の中で一番強い。
戦いの中で生き戦いの中で死ぬ事を望む、生粋の戦闘狂。

元の世界では、武の道を極めていたが、加齢と共に力が衰えていく事に絶望していた。
戦いの中で死ねずに老衰するくらいならと自害しようとしていた時、『今際の国』に迷い込む。
先代の『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』を倒し『ねくすとすてぇじ』を『くりあ』した後、老いに怯える事なく武の道を極めたいという思いから、永住権を手に入れる選択をした。

開催7日目にクイナやヒーロ達と対戦し、真剣勝負に敗れて死亡した。

名前の由来は、仮面ライダーディケイドの仮面ライダーブレイドこと剣立カズマと、スペードのジャックのモデルとなったシャルルマーニュ伝説のオジエ・ル・ダノワ。
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