アグニside
ドードーと『
「アイツ…ヘナチョコのくせに…何カッコつけてんのよ!!」
ヘイヤは、矢を放ってドードーを援護した。
だが『
「ぐ…おおお…!!」
俺は、ヘイヤが繋いだワイヤーを滑り降りていたが、途中で布切れが擦り切れ、土石流で流されたビルの屋上の上に落ちた。
「ぐああッ…!!…くっ!!ドードー!!」
顔を上げると、ドードーはモールの庇の上に立って、『
『
「ウ…ソ…ウソウソウソ…!!ドードーォオ!!!」
ヘイヤが、土石流に落ちたドードーに向かって叫ぶ。
俺は、絶望のあまりその場で膝をついた。
俺がその場で呆然としている間にも、『
俺と『
「ドー…ドー…」
なのに何故…
アリスと剛、そしてドードーの顔が脳裏に浮かんだ。
どいつも、こいつも、何故オレを、死なせないッ!!?
「オオオオオオオオッ!!!」
俺は、雄叫びを上げながら、『
奴は、俺に向かって発砲してくる。
肩に、腕に、脚に、弾が当たる。
それでも俺は、一発もその弾を避けずに突き進んだ。
奴が撃たれた脚の痛みに態勢を崩した瞬間、俺は奴に飛びかかり、奴の頭と首を掴んだ。
――ゴギッ!!
俺は力任せに、『
奴は、力無くその場に倒れ込んだ。
◆◆◆
ヘイヤside
「ドードー!!どこにいんだよくそッ!!生きてたら返事しろォ!!」
私は、土石流の中を走り回って、ひたすらドードーを探した。
すると、土石流の中に、ドードーの手が埋もれているのを見つけた。
「…ド、ドードーっ!?」
私は、ドードーの周りの土を掘って、ドードーの身体を引っ張り出した。
ドードーは、息をしていなかった。
「オイ!!何で息してねーんだよ!?起きろドードー!!オイッ!!」
何度頬を叩いても、ドードーは返事をしなかった。
こうなったら…
「くっ…!!」
私はドードーの口を強引にこじ開けて、口の中に詰まった泥を掻き出した。
「気道確保…!!」
本で読んだ知識を総動員して、人工呼吸と胸部圧迫をする。
くそッ…これで起きなかったら、許さねぇからな…!!
「大体…卑怯なんだよテメェは…!!こんな時にばっかカッコつけやがって…!!
私が目に涙を浮かべながら力任せにドードーの腹と胸に拳を打ちつけた、その瞬間だった。
「ガフッ!!」
ドードーが、口から泥を吐き出した。
激しく咳き込みながら意識を取り戻したドードーが、私を見上げた。
「ヘ…イヤさん…?」
「ドードー…!」
私は、ドードーの身体を起こして抱きついた。
良かった…良かったぁ…!!
「うあああ!!あああッ!!うああああ!!ふあッ!!ああああ!!うああッ!!」
私はドードーを抱きしめながら、わんわんと泣いた。
ドードーは、私の耳元で弱々しく囁いた。
「ヘイヤさんって…意外と…泣き虫なんですね…」
バカっ…他人事みてーに言いやがって…
どれだけ心配したと思ってんだよ…!!
◆◆◆
シーラビside
俺にはかつて、共に死線を乗り越えてきた戦友がいた。
日本に帰国し、変わらず平和な街を見て、自分がもう戦場でしか生きられない事を悟ったその時、俺の戦友のアパッチが、俺を次の作戦に誘ってくれた。
俺には、どうせ使い捨ての駒として死地へ送られるだけだという事は、わかっていた。
だが俺は、結局奴と共に作戦に参加した。
あの日は、ちょうど先のモールのガス爆発のように、戦地の至る所で爆撃が起こっていた。
敵の攻撃から生き延びた俺とアパッチは、一度撤退して態勢を立て直そうとした。
だがその時、無数の銃弾が俺達を貫いた。
それでも俺は、アパッチを連れて逃げ延びた。
銃撃で致命傷を負ったアパッチは、自らの死を悟り、俺に殺してくれと頼んできた。
どうせ助からない身なら、早く苦痛から楽になりたいと。
――頼むよ戦友…!!死ぬより辛ェんだ…オレを殺す事で…オレをこの『苦痛』から、救ってくれ!!
俺は泣きながら、アパッチの身体を銃弾で貫いた。
これは救済なのだと、自分に言い聞かせながら。
すまない…友よ。
こんな形でしか、お前を救えなかった。
「ヒュ…ヒュ……」
首の骨を折られ、少しずつ意識が遠のいていく。
俺に致命傷を負わせた男は、俺の覆面を剥いだ。
「…な……チ、…ま…ない……パッ…チ…あんな形で…しか…お前…を、救って…や…る事が…でき…なかっ…た…す…まない…アパッ…チ…」
俺は、死ぬ前に、この手にかけたアパッチに詫びた。
「お前を恨んだ事は一度もない。救ってくれてありがとう、友よ」
男は、全てを理解し、アパッチの言葉を代弁してくれた。
そう…か……
お前も…俺と……同………
◆◆◆
アグニside
俺は、ゆっくりと目を閉じて息絶える『
するとその時、背後から剛が現れる。
「『
許してもらいたかった…か。
違う…俺は……
俺は、お前に詫びたかったんだ…
あんな形でしか救ってやる事ができなかった、お前に。
俺が剛に詫びようとすると、剛が俺に歩み寄った。
「許しを乞うのはオレの方だ。ダチのお前に嫌な役目を押し付けて…悪かったな。ここに来んのはこれで最後にすっからよ…いつまでもオレの事なんて気にしてねーで、達者でやれよ、杜ちゃん」
そう言って剛は、どこかへと去っていった。
気付けば、台風は過ぎ去って、空はすっかり晴れ渡っていた。
俺が顔を上げると、ヘイヤとドードーが歩いてきた。
生きてたのか……
俺がよろけると、ドードーが俺の身体を支えた。
「この…死に損ないが…」
「…そっちこそ」
俺が声をかけると、ドードーは笑顔を浮かべながら返事をした。
すると、その時だった。
『
《『こんぐらちゅれいしょん』、『げぇむくりあ』。『げぇむくりあ』》
「これでドードーの『びざ』も延びたし、万事OKじゃん!」
アナウンスが鳴ると、ヘイヤが喜ぶ。
だがアナウンスには、まだ続きがあった。
《『げぇむくりあ』。見事、『
「な…に…!?」
「23区にいる『ぷれいやぁ』全員に、『びざ』が貰えるんじゃなかったの…!?じゃあ…ドードーの『びざ』はまだ…残り…1日のまま…!?何よそれ…!?せっかくここまで生き延びてきたってのに…どーすんの…!?どーすんのよォッ!!」
ヘイヤが叫び、ドードーが絶望の表情を浮かべた、その時だった。
《………ここで『今際の国』に滞在する全『ぷれいやぁ』の皆様に、重要なお報せがございます。おめでとうございます。『ねくすとすてぇじ』の絵札の『げぇむ』も、残すところあと、1つとなりました。全『げぇむくりあ』まであと一息です。最後の『げぇむ』も頑張って下さい》
なん…だと……!?
「あと…1つだと…!?」
「それってつまり…今日中に最後の『げぇむ』を『くりあ』したら、ドードーが助かるどころか…アタシ達、元の世界に戻れるの…!?」
「そしたら…アグニさんも…病院で治療を受けられますよね…?オレ、行ってきます。だからヘイヤさんは、アグニさんを頼みますよ!」
そう言ってドードーは、笑顔を浮かべる。
…本当に、強くなったな。
「アンタ1人にそんな大役任せてられるかっての。アタシも、ついて行ってやるわよ!」
「オレの心配なら要らねぇよ…どうせ誰も死なせちゃくれそうにねぇんだ…だったらどこまでも…生きてみるさ…だからテメェらこそ、絶対生きて帰ってきやがれ」
俺がそう言うと、ドードーとヘイヤは、最後の『げぇむ』会場に向かって走っていった。
◆◆◆
ツエダside
チシヤが倒れた。
ニラギに撃たれそうになったウサギと、咄嗟にウサギを突き飛ばした私を庇って、腹を撃たれた。
「チシヤっ!!」
ウサギは、怪我した腕を吊っていた包帯を解いた。
「血は…あんまり出てない…!!」
「けど、臓器が……」
私とウサギは、チシヤの傷を応急処置した。
するとチシヤが口を開く。
「おそらく臓器を損傷してる…まともな医療設備もないこの国じゃ…おそらくあと数時間か、もって半日かな…」
「どうして…私を…?あなたらしくもない…」
「ハハ…『らしくない事』を…してみたくなったのかもしれないね…きっと…『変わりたい』と強く願う、彼のせいかな…全てを見透かした気になって…退屈な日々をこれからもただ浪費していくよりは…自分にはまだ、知らない世界がある…その事実を受け入れて、先にある世界を見る為に変化するのも悪くない…そんな気分に、なってみただけの事だよ♪」
チシヤは、目を細めながら弱々しい声で言った。
馬鹿野郎が……
アンタは死なないでって言ったじゃん。
それでアンタが死んだら、意味ないじゃない…
そう思っていると、アリスが、チシヤに話しかける。
「……なぁ、チシヤ。撃ち合いになる前に…オレに言いかけた事があったよな…あれ…何だったんだよ…?」
「………………オレ…は…真面目な人間が、バカに見える。誠実な奴を蔑みたい。一生懸命な奴を、罵りたくてしょうがない。心の罵倒が止まらないんだ…人を傷つけずにはいられない…他人の好意や善意が疎ましくてしょうがない…いや…妬ましいんだろう…オレには、ないものばかりだから…オレはなぜ…生きている?誰の為…何の為…まるで自分が誰よりも虚しい人間である事を…証明する為に存在しているようだ…」
チシヤは、虚ろな目をしながら語った。
するとアリスは、チシヤを見下ろして頷く。
「わかるよ…」
「君なら…そう言ってくれる気がしたよ…」
◆◆◆
チシヤside
俺は、父親を知らない。
正確に言うと、物心ついた頃から、父親と会話というものをした記憶がない。
俺が知っているのは、いつも取り憑かれたようにモニターと医学書に向かう、彼の背中だけだ。
教育方針でも、愛情の裏返しでもない。
彼はただ、俺に『関心』が無かったのだ。
ならば何故俺を産んだ?
夫婦としての世間体か。
病院長としての体裁か。
皮肉にも彼と同じ医学の道に進んだのは、俺にはない『それ』を感じてみたかったのかもしれない。
俺は、人の命に関心が持てなかった。
そんな俺にも興味を引くものがあった…
もちろんそれは人じゃないが…
何故だろう…
子供の頃に行った美術館で見た、モナ・リザの絵。
その絵を一目見た時から、目が離せなかった。
俺はただ、誰かにわかってほしかった。
モナ・リザは…女装したダ・ヴィンチ自身、という説がある。
誰もが、自分を見てほしい。
◆◆◆
ニラギside
俺は、ウサギを撃ち殺そうとして、アリスにショットガンで撃たれた。
俺が地面に伸びていると、アリスが歩み寄ってくる。
「…散弾銃ってのは…案外撃たれても…死なねぇもんだな…」
「弾の…号数にもよるよ…バードショットだからな…」
「……殺りたきゃあ…とっとと殺れよ…綺麗に死のうなんて思っちゃいねぇ…命乞いもしねぇ…どうせオレは…お前らとは違うからな…」
俺が言うと、アリスはシケたツラをしやがる。
何つー目で見やがんだ……
「……言っとくが…間違っても…オレを悪党だなんて呼ぶなよ…オレが70億人いたら…悪党は…テメェらの方だったってだけの話だ…よかったな…テメェは…大勢の側の人間で…」
俺は、同情の目を向けてきやがるアリスに言ってやった。
いつの間にか雨は止んで、空は晴れ渡っていた。
◆◆◆
アリスside
「一応止血はしたけど、このままだと時間の問題だわ。早くちゃんとした医療機関に診せないと…」
二人の容態を確認したツエダが、芳しくなさそうな表情で口を開く。
さっき銃弾が当たった彼女の右肩には布がきつく巻かれていて、血が滲んでいる。
ウサギを撃とうとしたニラギを止めようとして、ウサギより先に撃たれたんだ。
「ツエダ…アンタ、さっきウサギを助けようとしてくれてたんだろ…?」
「あの子を守ったんじゃないわ。アタシは、自分を守ったのよ。自分に胸を張れないような、つまんねー生き方をしたくなかった。それだけよ」
そう語るツエダの表情には、曇りがなかった。
ツエダ…
アンタも、変わったんだな…
「行きなさい。バカガキ共の面倒は、アタシが見てやるから。アンタには、ウサギが必要なんでしょ?」
ツエダはそう言って、ウサギのいる方向を顎でしゃくった。
俺はツエダの言葉に頷くと、ウサギのもとへ歩いていく。
ウサギは、不安そうな顔で俺を見ていた。
「…2人とも、かろうじて一命を取り留めちゃいるが…多分このままだと…永くねぇ……ウサギ、オレは…どうすりゃいいかな…?…………………いや…」
いけねぇ…
気を抜くとすぐにまた、自分の事ばっかりだ…
俺は深呼吸をしてから、ウサギに話しかけた。
「…ウサギ、君は、どうしたい?」
俺が尋ねると、ウサギは優しく微笑んで、自分の考えを話してくれた。
「『今際の国』の国民は、元は私達と同じ『ぷれいやぁ』…たとえ全ての絵札の『げぇむ』を『くりあ』しても、私達が新たな国民になって永遠にこの国で『げぇむ』に参加し続けるだけ…あなたがキューマから聞いた事が、真実なのかもしれない…けれどもし…全ての『げぇむ』を『くりあ』した先に、『皆が元の世界に戻れる可能性』があるとしたら…?チシヤとニラギを元の世界に戻せれば、2人を助けられるかもしれない。アリス…私は自分が見たものしか信じない。だから私は、真実を自分の眼で確かめる為に、最期まで、戦いたい」
ウサギがそう語ると、俺はキューマが言っていた言葉を思い出した。
俺は、『
そしたらキューマは、こう答えた。
――君がそう感じた
…キューマは、真実だとは言っていない…
だったら俺は…どうすればいい…?
…いや、俺はどうしたい…?
「オレ…は…」
――ゴオオォォォ…
「な…何の音だ…!?」
異音に気付いた俺達が振り向いた、その直後だった。
――ゴオオオオォォォォッ!!
突然、俺達の前に、巨大な物体が炎を上げながら落ちてきた。
炎の中で、『
「ひ…飛行船…!?『
あのバケモノみてぇに強い『
誰が、倒したんだ…!?
俺とウサギが、燃える飛行船を見て呆気に取られていると、どこからかアナウンスが聴こえた。
《ここで『今際の国』に滞在する全『ぷれいやぁ』の皆様に、重要なお報せがございます。おめでとうございます。『ねくすとすてぇじ』の絵札の『げぇむ』も、残すところあと、1つとなりました。全『げぇむくりあ』まであと一息です。最後の『げぇむ』も頑張って下さい》
「あと…」
「1つ…!?」
俺が立ち止まってる間に、他の皆が、他の『げぇむ』を全部『くりあ』したってのか…
呆然と立ち尽くす俺に、ウサギが話しかける。
「………アリス…あなたは、どうしたい?」
…まだ、やれるのか?
辛かったら頑張らなくていい…
嫌ならやらなくったっていい…
しんどかったら無理しなくていい…
怖かったら逃げ出したっていいんだぞ…!?
それでも俺は、やれるのか…?
まだ、やれるんだな…?
だったら俺は、どうしたい…?
ふと、脳裏に浮かんだのは、カルベとチョータ、シブキさん、アサヒ、モモカ、『ビーチ』の皆…そして、キューマの顔だった。
俺は…皆の想いがあったから、今日この日まで生きてこられた。
進み…たいッ!!
たとえこの先にまた、つらい事しかなかったとしても…
挫折しか、絶望しか待ってなかったとしても…
それでも俺は、もう一度進みたいッ!!
『皆で元の世界に戻れるかもしれない』
そんな僅かな…拙い希望でもいい…
それがあれば、俺は辛うじてでも…
強くなれるかもしれない…
誰かを労われるかもしれない…!
生きていけるかもしれない!!
「オレも、死んでいった仲間と、今生きてる皆の為に、もう一度戦いたい」
俺は、自分の決意を口に出した。
するとウサギは、先に歩き出した。
「だったら、急がなきゃ。時間、ないわよ」
「ああ、行こう。最後の『げぇむ』会場へ」
俺とウサギは、一緒に歩き出した。
◆◆◆
チシヤside
ツエダは、俺とニラギを日陰に移して並べて寝かせ、俺とニラギの間に座って、リュックの中に入っていた救急セットで応急処置を施した。
一通り応急処置を終えて、今は消毒したタオルで俺達の身体を拭いていた。
「なんでこっちに残ったんだよテメェ……」
「だってアンタら、アタシがいなきゃすぐ死ぬじゃない。最後まで、アタシが一緒にいてあげる」
ニラギが嫌そうに言うと、ツエダは微笑みながら言った。
するとニラギが、ツエダに向かって悪態をつく。
「ゲホッ…調子乗んな……ババァ……」
「はいはい、無駄口叩く元気があって何よりですよ」
ツエダは、血で汚れたニラギの口周りをタオルで拭きながら、ニラギの暴言を受け流した。
彼女も、初めて会った時から随分と変わった。
命懸けの『げぇむ』を乗り越えた事で、彼女にも何か気づきがあったんだろうか。
「シラけさせんなよなぁ……テメェも、オレを独りにすんのかよ……」
「……そうかもね。でも、自分勝手なのはお互い様でしょ?」
ニラギの独り言に、ツエダがタオルで拭くのを続けながら答える。
一通り治療を終えたツエダは、俺の頭を持ち上げて、自分の膝の上に置いた。
そして俺の頭を優しく撫でてきた。
なんだか、落ち着いてくる。
そういえば、誰かに抱きしめられたのは、彼女が初めてだったな……
◆◆◆
ツエダside
私は、母に愛されていなかった。
彼女はいつも新薬の研究に没頭していて、私に親らしい事をしてくれた事はなかった。
子供には欲しいものさえ与えておけばいいと考えているような女だった。
私の事を娘として扱ってくれた事なんて、一度もなかった。
だから殺されても、別に悲しくなかった。
……そう思っていたけど、この国で命懸けの『げぇむ』を乗り越えているうちに、思い出した事がある。
私が2歳の頃、高熱を出して死にかけた事があった。
その時に母は、濡れたタオルを私の額に当てて、一晩中私の頭を撫でてくれた。
私を今際の際から救い出してくれたのは、母だった。
なんでチシヤにどうしても死んでほしくなかったのか、やっとわかった。
子供の頃の私に、そっくりだったから。
幸せそうに生きてる奴等を見下して、自分より賢い人間なんかいないと驕って、何でもかんでも知った気になってた。
そんな自分が嫌いだったし、向き合いたくなかったけど、なかった事にはしたくなかった。
今までくだらない生き方をしてきたけど、やっとわかった気がする。
残りの人生を、どう生きたいのか。
私は、子供だった頃の私を救いたかった。
かつて私を救ってくれた、サムみたいになりたかった。
人を見下して、傷つけてばかりいたけど、本当は、誰かに見てほしかった。
誰かに必要とされたかった。
たった一人でも、仲間が欲しかった。
生まれてきて、今日まで生きてきた事を、感謝されたかった。
子供の頃の私は、もう救えない。
だけど今目の前にいる他人になら、まだ手が届く。
サムみたいになんて、なれないのかもしれない。
誰かの為になんて、生きられないのかもしれない。
誰かの為に生きられないなら、私は自分の為に生きる。
私は、
「昔ね、一度だけママにこうしてもらった事があるの。アンタにもやってあげる」
私はそう言って、チシヤを膝枕して頭を撫でてやった。
するとニラギが、水を差すような発言をしてくる。
「キッショ」
「アンタも後でやってあげる」
「やめろ」
「嫌なら抵抗すれば?できるもんならね」
「ふざけんなババァ」
私は、嫌がるニラギの頭を押さえつけて、無理矢理頭を撫でてやった。
ニラギは、私達を自分とは違う人間のように見ているけど、私は彼が違う側の人間だとは思わない。
私だってずっと、自分のやりたいようにやってるだけだ。
コイツが誰かを傷つけたいのも、私がコイツらに構いたいのも、結局は全部自己満足。
この国じゃ皆、生き抜きながら、自分がどう生きたいのかを探し続けてる。
彼にもいつか、誰かと折り合いをつけられるところが見つかるといいな。
◆◆◆
ヒーロside
病院で目を覚ました私とキズナちゃんは、他の『ぷれいやぁ』が集まっているであろう港区へと向かった。
その道の途中で、私達はミツキさん達と合流した。
「ヒーロちゃん!!」
「ミツキさん…!」
私とキズナちゃんが肩を貸し合いながら戻ると、ミツキさんは再開するなり私達を抱きしめた。
私達がミツキさん達との再会を喜んでいた、その時、23区外の空から『
「ウソ、『
「誰が倒したの…!?」
私達が驚いていると、近くに設置されていたスピーカーからガガッと音が鳴り、アナウンスが鳴り響く。
《ここで『今際の国』に滞在する全『ぷれいやぁ』の皆様に、重要なお報せがございます。おめでとうございます。『ねくすとすてぇじ』の絵札の『げぇむ』も、残すところあと、1つとなりました。全『げぇむくりあ』まであと一息です。最後の『げぇむ』も頑張って下さい》
「あと1つ…!」
残る『げぇむ』は、『
私は、『
「……私、参加してきます」
私が言うと、タクマさん、カワズさん、サカナさんが驚く。
「そんな…せっかく『げぇむ』から生還できたのに…!?」
「その怪我でまた『げぇむ』に参加するなんて無茶よ!」
「無茶は百も承知です。でも今日中に『げぇむ』を『くりあ』すれば、今日で『びざ』切れしてしまう人を、全員救えるかもしれない。もうこれ以上、誰も死なせずに、元の世界に帰れるかもしれない。私は、最後まで戦って生き抜きたいんです」
「アタシも参加します。アタシだって、ヒーロさんを守りたいですから…」
私とキズナちゃんが言うと、ミツキさんはそれ以上は止めなかった。
止めても無駄だってわかっているみたいだ。
「…絶対、生きて戻ってくるのよ」
「「はい!」」
私達は、肩を貸し合って、『
絶対に『くりあ』して、皆で元の世界に帰るんだ…!!
◆◆◆
アリスside
俺とウサギは、アウトドアショップで身なりを整えてから、最後の『げぇむ』である『
俺達が『
そこには、見覚えのある人達もいた。
「あれって…もしかして…」
俺とウサギが近づくと、門の前に集まっていた人達が振り向く。
「アリスっ!?」
「何やて!?」
「アリス君!」
「ウサギ!!」
「アリス…さん…?」
マヒル、アン、クイナ…『ビーチ』の皆が、俺達を見て喜んでいた。
「ハハッ…皆っ!!」
俺は笑顔で、皆に声をかけた。
すると見覚えのある男の子が、俺の方へ駆けつけてくる。
「ドードー…?ドードー…なのか…!?」
ドードーは、俺に飛びつくと、俺の身体を強く抱きしめながら大泣きした。
俺がドードーの頭を撫でていると、クイナがズカズカと歩み寄ってきて、俺にキツいゲンコツを喰らわせてきた。
クイナは、『どんだけ心配したと思てんねんお前ら!!』と怒鳴ったかと思うと、らしくもなく涙を流しながら大声で泣いた。
そんなクイナを見て、俺とウサギも、つられて泣いた。
俺達は、1週間ぶりの再会を喜び合った。
「何か…久しぶりに笑ったな…」
「ああ」
「私も…」
「まーな!」
俺達は、久々に皆で笑い合った。
この日初めて会ったヘイヤやレイ、ヒーロやキズナともすぐに打ち解けた。
特にヒーロやキズナは、ウサギと仲良くなっていた。
「じゃあ、そろそろ行くか」
俺が声をかけても、皆は立ち上がらなかった。
「もしかして、誰かが今『げぇむ』に参加してる最中なのか?でなきゃ何で皆して会場の前で…」
「これよ」
俺が尋ねると、アンが答える。
アンが指した方を見ると、
《エントリー数 無制限》
《制限時間 なし》
《武器等の持ち込み可》
と書かれた貼り紙が、門に貼ってあった。
「確かに…不気味だな…」
「よりによって、最後の『げぇむ』は心理型の『
アンは、最後の『げぇむ』を警戒しながら口を開いた。
「けど…じゃあ誰が行くんだって話になると…」
「ねぇ…」
他の皆が、俯きながら言葉を濁す。
するとクイナが啖呵を切る。
「こん中の誰かを人身御供になんかできるかいな!ここまで来たら、全員で参加したらええやないかい!」
「誰かが行ってくれるなら、アタシはその方が助かるけどね。行きたい人が行けばいいってのが原則じゃん?」
「この人選が既に、『
ヘイヤが言うと、マヒルも口を開く。
地面に座り込んだヘイヤは、頭を掻きながら口を開いた。
「ただ、何にせよ…急ぎたいんだよねー。このままじゃアタシらの仲間が…アグニが死んじゃうからさ」
「アグニ…!?」
「アグニさんが…!?」
ヘイヤが言うと、『ビーチ』の皆とヒーロが驚く。
「アグニさんは…オレ達の為に…命を懸けて『
ドードーは、アグニの身に何があったのかを話した。
あのアグニが、ドードー達を守る為に、『
アグニ…そっか…
アイツも、変われたんだな…
「状況は、こっちも同じよ…チシヤとニラギも、瀕死の重傷なの。元の世界で治療しないと、2人とも助からないわ」
「ツエダが2人を診てくれてるけど…2人とももう、永くないって…」
ウサギと俺は、皆に事情を説明した。
するとヒーロが目を見開いて驚く。
「ニラギさんが…!?」
「知り合いなの?」
「初めて参加した『げぇむ』で、助けてもらったの…アグニさんとニラギさんに…」
レイが尋ねると、ヒーロが答える。
ニラギに助けてもらった…か。
アイツも、誰かの命を救った事があったんだな…
「あの2人か…!いけ好かん奴等やけど…見殺しにしてしもうたら、後味…悪いわな。ここで…迷っとる時間はあらへんっちゅー事か…」
クイナは、焦りの表情を見せながら言った。
俺は、他の皆に、ある提案をする事にした。
「ここにいる皆はさ…この最後の『げぇむ』を『くりあ』できれば、生き残ってる『ぷれいやぁ』全員が元の世界に帰れるかもしれない…って、考えてんだよな…?」
「だったらどーなの?」
「誰が『くりあ』しても皆が戻れるんならさ…皆を危険な目に遭わせたくないって理由で、オレ1人が『げぇむ』に参加するってのはダメかな?」
俺が手を挙げながら立候補すると、皆がどよめく。
「ソイツはありがたい申し出だけど…本気…なのかよ?」
「…まあ、カッコいいように言っちまったけど、実のところはさ…やっぱオレ、どうしても知りてーんだわ。『答え』を。『今際の国』に来て、今日までずっと…生きる事が…ただその日を生き延びる事だけが目的の毎日だった…やっぱオレには進む為に必要なんだよ、『答え』が。これが『今際の国』の国民と会う最後の機会になるかもしんねーなら、『
俺は、頬を掻いて笑いながら言った。
するとウサギも、手を挙げて立候補する。
「だったら……私も行くわ。過去の『げぇむ』には、2人で協力しないと『くりあ』できないものもあった…信頼できるパートナーがいる事で、有利に働く『げぇむ』かもしれないなら、
「読みが外れて、仲間内での殺し合いの『げぇむ』だったら?」
「それでも『2人』なら、
アンがウサギに尋ねると、ウサギは覚悟を決めた表情で言った。
すると今度は、クイナが手を挙げる。
「そないな事言われた日にはウチも、その『2人』の席に立候補せんワケにはいかへんな!アンタらだけに全部押しつけて、高みの見物決めれるかいな。3人やと多いっちゅうなら、どっちかが譲ってくれるとありがたいんやけど?」
「クイナ………」
…何となく、クイナならそう言う気がしてたよ。
「皆は、どうしたい?」
俺は、他の皆に意見を聞いた。
するとその場にいた全員が、順番に意見を言った。
「心理戦は気乗りしないけど…クイナと同意見よ」
アンが。
「オレは初めから…誰かが何とかしてくれるとは、思ってませんから」
ドードーが。
「本当は私達はもう…これ以上『げぇむ』に参加する気なんてなかったの…けど…」
「何で来ちゃったんだろうね…?」
「きっと…自分の未来を誰かに任せたくはなかったんだよ…」
マシロ、アカリ、キシベが。
「ドードーが行かないならアタシはパス。誰も行かないならアタシが行く」
ヘイヤが。
「僕も自分の眼で『答え』を見てみたいかな。最期までそれを求めて死んだ、友人の為にも」
マヒルが。
「私も立候補させてもらおうかな。私、『
レイが。
「私は…これ以上誰も死なせない為に、できる事をしたい」
「アタシは、ヒーロさんが行くなら行く」
ヒーロとキズナが。
「ちゅーわけや。見くびんなやアリス!この最後の『げぇむ』会場の前に集まった人間に、他人任せに自分だけ生き残ろうなんて輩は1人もおらへん!!」
そう言ってクイナは、笑顔を浮かべる。
他の皆も、クイナと同意見だった。
「……そっか。皆行きたいんじゃ、仕方ないよな…じゃあ…ジャンケンでもしてみるか?」
俺が言うと、クイナが呆れ返る。
「………ジャンケン?」
「オレ達って…ここに来る前はさ…自分の事だけ考えてりゃ良くて、他人と関わっても損する事の方が多い…そんな世界にいたんだよな。それが今じゃ皆して…おかしいよな……オレは、皆に会えてよかったよ。誰が選ばれても文句無し。ジャンケンで勝った『2人』に、快く、最後の『げぇむ』を託すってのは?」
俺は、思い切って皆に提案した。
すると皆が、呆れたような表情を浮かべる。
「…ははっ」
「変な奴!」
「オレ、ジャンケン強いですよ」
俺が言うと、マヒル、ヘイヤ、ドードーが笑った。
「しょーがねーなー!!乗りゃいーんだろっ!!」
「しゃああ!!絶対勝ァつ!!」
「「「「「せぇーのォ!!ジャンケン、ポンっ!!」」」」」
◆◆◆
ヒーロside
結局、ジャンケンに勝ったのは、アリス君とウサギちゃんの2人だった。
2人は、最後の『げぇむ』会場へと足を踏み入れた。
「行っちゃったね…」
「ああ…」
「ホントに頼りになんのかよ、あの2人?」
「もちろんですよ」
アリス君とウサギちゃんにここで今初めて会ったヘイヤは半信半疑だったけど、ドードー君は2人を信じた。
「あの2人なる確率って…」
「1/78」
マヒルさんが口を開くと、アンさんが即答する。
「まぁこの流れやと…当然の引きかもな」
「……そう、ですね」
クイナさんがそう言うので、私も頷いた。
きっとあの2人だから、勝ち抜いたんだ。
あの2人なら、きっと大丈夫。