Duchess in Borderland   作:M.T.

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いまわのくにのこくみん(1)

クロバside

 

 ミツキさんやヒーロさん達『ぷれいやぁ』の皆さんが『今際の国』に迷い込む、5ヶ月前。

 『今際の国』滞在6日目。

 私達はこの日、『びざ』を獲得する為に『げぇむ』に参加した。

 

「モクバ、足大丈夫か?」

 

「ええ…平気よ」

 

 初日の『げぇむ』で負傷した木馬さんの脚も良くなって、杖無しでも歩けるようになっていた。

 この日私達が向かった『げぇむ』会場は、江戸城だった。

 できれば木馬さんの為に身体を使わない『げぇむ』に参加したかったが、どれだけ探しても、『げぇむ』会場はここしかなかった。

 

「アンタら、参加するなら早く入った方がいいぜ!」

 

 私達が木馬さんを気遣いながら『げぇむ』会場に向かうと、どこからか声をかけられた。

 振り向くと、門の前にいた上半身裸の若い男性が、私達に向かって手を振っていた。

 私達が急いで門を潜ると、既に7人がエントリーしていた。

 他の参加者達の顔ぶれを見ていると、先ほど私達に呼びかけた男性が話しかけてくる。

 

「アンタら、この国に来て日が浅いんだろ?初参加ってわけでもなさそうだけど」

 

「ええ、まあ…」

 

「オレ、キューマっつーんだ。よろしく!」

 

 キューマという男性は、気さくに私に話しかけ、握手を求めてきた。

 私は、キューマさんの握手に応じつつ自己紹介をした。

 

「キューマさんですね。私はクロバといいます。彼等は、私の教え子達です。皆で協力して生き残りましょうね」

 

「全員で協力し合える『るうる』ならな」

 

 私が言うと、髭を蓄えた男性が口を挟む。

 先に参加していたキューマさん以外の6人のうち、4人は彼の知り合いのようだ。

 

「あなた達も、仲間同士で『げぇむ』に参加していらっしゃるのですか?」

 

「そうよ」

 

「オレら、5人でバンドやってたんだよ。まぁ、食っていけるようになったのは最近だけどな」

 

 私が尋ねると、パンクメイクをした女性と、マッシュルームカットの男性が答える。

 4人はキューマさんのバンド仲間で、ゴーケンさん、ウタさん、シタラさん、そしてマキさんというらしい。

 私達がキューマさん達と話していると、今度は髪の長い男性とピアスをつけた男性が話しかけてきた。

 

「オレらもいいか?オレはノバラ。んで、こっちはスミレ」

 

「オレ達、元の世界じゃ、3()()でゲーマーやってたんだ」

 

「3人?」

 

 二人の発言に違和感を覚え、視線を下に降ろすと…

 スナップ君の足元に、何かが転がっていた。

 巨大な芋虫…いや、寝袋に包まった人だ。

 

「ぐぅ……ぐぅ……」

 

「うぉあ、ビックリした!?」

 

 下を見ると、小柄な少女が寝袋に包まって眠っていた。

 

「ああ、コイツな。オレらの連れ。マリっつーんだ」

 

「おいマリ起きろ!そろそろ『げぇむ』始まるぜ」

 

「んん〜……」

 

 スミレさんが小柄な少女、マリさんを起こすと、マリさんは眠そうに起き上がる。

 彼等にも、私達のような絆があるらしい。

 もしかしたら今日の『げぇむ』は、全員生き残れるかもしれない…そんな気がした。

 

 

 

《げぇむ『からくりやしき』。難易度『♣︎9(くらぶのきゅう)』。制限時間内にこの城から脱出する事ができれば『げぇむくりあ』》

 

「キャア!!」

 

「くそっ、これじゃ前に進めねぇ…!!」

 

 私達が参加した『げぇむ』は、高速で飛んでくる手裏剣を避けながら立体迷路のような場内を進んでいく、というものだった。

 私達は、私と木馬さんが道を覚え、砂布君と蝶野兄妹がサポートして進んでいく、という方法で攻略した。

 キューマさん達も、お互いをサポートし合って、誰も大怪我する事なく進んでいった。

 そして、『げぇむ』が始まる直前まで寝ていたマリさんに関しては、一番心配要らなかった。

 

「普段やってるクソゲーに比べたら…これくらい余裕」

 

 彼女は、『げぇむ』が始まるとヘッドホンを装着し、その瞬間まるで別人のように目つきが変わった。

 彼女は、最小限の動きで手裏剣を回避していた。

 その後も私達は、お互いの得意分野を活かし合って、互いにサポートし合って全員で『げぇむくりあ』できた。

 

「っしゃあ!!『げぇむくりあ』!!」

 

「何気に初めてじゃない?誰も死なずに『げぇむくりあ』したのなんて」

 

「ありがとうございます。皆さんのおかげで、『げぇむくりあ』できました」

 

「それはこっちのセリフだぜ。オレらも、アンタらのおかげで『げぇむくりあ』できたんだ」

 

 『げぇむくりあ』した私達は、お互いに礼を言い合った。

 私達が生き残れたのは、キューマさん達やマリさん達のおかげだ。

 

「ここで会ったのも、何かの縁だ。これから5人でセッションするから、アンタら客になってくれよ!」

 

「ではお言葉に甘えて、聴かせていただきますね」

 

「わたしもー。なんか楽しそうだねぇ」

 

 『げぇむ』を通して、私達はすっかり意気投合していた。

 その後、私達は、『げぇむ』で助けてもらったお礼に、キューマさん達とマリさん達にこの国の食材で作った料理を振る舞った。

 そこら辺に動物はたくさんいるし、山に入れば野草や山菜も採れる。

 ここが食材の豊富な国で良かった…

 

「美味ぇこれ!」

 

「ちゃんとした料理なんざ何日ぶりだ!?」

 

「おいしい〜」

 

「気に入ってもらえて良かったです」

 

 山の幸をふんだんに使った料理は、キューマさん達やマリさん達に好評だった。

 食事を終えた後は、キューマさん達の歌を私達とマリさん達とで聴いて、その後はマリさんが『げぇむ』会場で充電してきたゲーム機を使って皆でゲームをした。

 

「クロバさん、アンタ初めてなのにやるじゃねぇか!才能あるよ」

 

「ありがとうございます」

 

 私のゲームの腕を、ノバラさんが褒めてくれた。

 私は、キューマさん達やマリさん達と過ごした時間を振り返りながら口を開く。

 

「それにしても…長年付き合ってきた仲間と一緒にこの国に来て、誰も死なずに生き残ってるなんて、すごい事なのかもしれませんね」

 

「しかもみんな、揃いも揃ってこの国を楽しんでるなんて、なんか変だよね〜」

 

YOU SAID IT(言えてる)!」

 

 私とマリさんの言葉に、キューマさんが賛同した。

 キューマさんも、マリさんも、私達と同じ…この世界で仲間と一緒に過ごすのが楽しいと思っているようだった。

 

「きっとオレ達は、この国で出会えたからこそ、友達になれたんだろうね」

 

「…そうだねぇ。似たもの同士、これからも仲良くしようね」

 

「ええ。こんな時間が、ずっと続くといいですね」

 

 キューマさんも、マリさんも、私達と気持ちは同じだった。

 その後も私達は、一緒に『げぇむ』に参加するわけでもなく、決まった時間に皆で集まって一緒に過ごした。

 ある日は私達が先導して山を登りこの国の生態系について勉強し、ある日はマリさん達が持ってきたゲーム機でゲーム大会をし、ある日はキューマさん達が開いてくれたライブに客として参加した。

 一緒に『今際の国』で生き延びてきた私達は、いつしか血よりも濃い絆で結ばれていた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

レイカside

 

 私は、『びざ』を確保する為にこの日『げぇむ』に参加した。

 私の他の参加者は、眼鏡をかけたスーツの男性、スーツを着た恰幅のいい中年男性、顔に傷のある着物の男性、夫婦と思しき男女、筋肉質なタンクトップの男性、そしてスカジャンを着た中学生か高校生くらいの女の子の7人だった。

 この日の『げぇむ』は、ペアで参加する『げぇむ』で、私達はその場でペアを組まされた。

 夫婦で参加した人はすぐに別室に移動して、恰幅のいい男性と着物の男性はヤクザ同士でペアを組んだ。

 そして…

 

「助けてください。妊娠してます」

 

 残った4人のうち、スカジャンの女の子がスーツの男性に助けを求めた。

 彼女はもう既に臨月なのか、大きなお腹を抱えていた。

 結局スーツの男性は、妊婦の女の子とペアを組んだ。

 そしてあぶれた私は、タンクトップの男とペアを組んだ。

 私は正直不安だった。

 彼は完全に私を性的な目で見ていたから。

 『げぇむ』で助ける代わりに身体で払えなんて要求されかねない。

 だけど私の心配は、杞憂に終わった。

 

《げぇむ『じんとり』。難易度『♢4(だいやのよん)』。ペアを組んでいただいたお2人には、陣取りゲームで対戦していただきます。制限時間は30分。30分後に、獲得した『じんち』の面積が大きい方が『げぇむくりあ』。『じんち』の面積が小さい方は、『げぇむおおばぁ』。なお、30分経過する前にコマを動かせなくなった場合、どちらかが投了した場合は、その時点で『げぇむ』終了です》

 

 蓋を開けてみれば、今日の『げぇむ』は、ペア同士で殺し合う『げぇむ』だった。

 こんなどうしようもない国に放り込まれて、私は既に、おかしくなっているのかもしれない。

 どちらかしか生き残れない『げぇむ』だと聞いて、安心してしまった自分がいたのだから。

 

「私の勝ちよ」

 

 開始から2分、10手で私が相手のコマを全滅させて決着した。

 

「て、テメェ…さてはズルしやがったな!?」

 

「負けたからって言い訳は見苦しいわよ」

 

《第4ブース、『げぇむ』終了です。現時点で『じんち』の面積が小さい方は、『げぇむおおばぁ』》

 

「このクソアマァアアアア!!!」

 

 負けた男は、首を吊られて死んだ。

 レジが置かれた部屋に向かうと、そこには誰もいなかった。

 私が一番乗りだったのね…

 

 しばらく待っていると、着物を着た男性がやって来た。

 彼は、ペアを殺して平然としている私を見るなり、怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「あんさん…えらいスッキリした顔してはりますなぁ。あきまへんなぁ、こないな『げぇむ』やとわかってて好かん人とペアを組みはったんですか?」

 

「まさか。あぶれただけですよ。あなたの方こそ、ペアの人が亡くなったというのに、平気な顔してるじゃないですか」

 

「今日会うたばっかりの他人でしたさかいな。せやけど、やっと出会えた同業者が亡くなってもうたんは惜しい思てまっせ」

 

 私に嫌味を言ってきた彼もまた、ペアを殺して平然としていた。

 口では惜しいと言っているけど、本心は、気に入ったおもちゃがなくなって少し落胆している程度なのだろう。

 私はその目を見て、彼も私と同類なのだと直感した。

 彼もまた、私と同じ、こんなどうしようもない世界でしか生きられない異端者なのだと。

 

「……私、菱川玲香っていいます。あなたは?」

 

「アモンや。駒山阿門」

 

 私がアモンと話していると、さっきのスーツの男性が部屋に入ってきた。

 一人で部屋に入ってきた彼は、ひどい顔をしていた。

 彼が生きてここにいるという事は、彼とペアを組んだ女の子は……

 

「彼女の事、残念でしたね。でもあなただって、結局は彼女とお腹の赤ちゃんの命よりも、自分の命を選んだんじゃないですか」

 

 私は、ひどい顔をしている彼に、事実を突きつけてやった。

 正直な話、妊婦を殺して生き残る事を選んでおいて、被害者面している彼に苛立った。

 そんなに彼女達を殺したくなかったのなら、自分が降りれば良かったのに。

 私は、こういう被害者面した偽善者が一番嫌い。

 そう思っていると…

 

「……違う」

 

 彼は、口を開いてポツリと言った。

 

「私には、決められなかった。彼女達を犠牲にしてでも生き残るべきだったのか、それとも投了して彼女達を生かすべきだったのか……決めかねた挙句…先に彼女が投了したんだ」

 

 彼は、俯いたまま、『げぇむ』で何があったのかを話した。

 自分の命と赤の他人の命とで迷う人なんて、この国に来て初めて見た。

 私は、この人は本当に優しい人なんだと思った。

 自分が善人だと信じてやまない偽善者とも、自分が生き残る為にペアが死んで安堵してしまった私とも違う。

 

「気休めを言います。彼女は多分、誰とペアを組んでも生き残れませんでした。負けそうになったからって簡単に諦めるような人が、生き残れるはずありません。あなたのような優しい人に最期を看取ってもらえただけでも、彼女は救われたんだと思います。誰が何と言おうと、あなたの判断は間違っていなかった。ですからどうか、自分を責めないでください」

 

 私は、彼に精一杯の気休めを言った。

 こんなどうしようもない世界に放り込まれてもなお、高潔さを失わない彼には、そのままでいてほしかった。

 

 夫婦で参加した二人は、時間内に決着がつかずに二人とも『げぇむおおばぁ』になったのか、いつまで経っても部屋に来なかった。

 結局、この『げぇむ』を『くりあ』したのは、私、アモン、そして最後に入ってきたクズリューの三人だけだった。

 私とアモンは4日分の『びざ』が支給されたのに、クズリューだけは何故か8日分の『びざ』が支給された。

 

「何故私だけ『びざ』が8日分なんだ…?」

 

「兄サンのペアは、母親と腹ん中の子で命が2つ。2人殺したボーナスっちゅう事やろなぁ」

 

 クズリューの疑問に対して、アモンが追い討ちをかけるような答えを言った。

 おそらくクズリューにだけ2倍の『びざ』が支給された理由は、アモンの言う通りでしょうね。

 この『げぇむ』を作った奴は、どこまで人の命を弄べば、気が済むのかしら…

 

 

 

 その後、私は、一緒に『げぇむ』を生き残ったよしみでアモンやクズリューと一緒に過ごした。

 雑談をしながら、三人で三麻やブラックジャック、チェスや将棋をした。

 三人でゲームをしながら過ごしているうちに、私達は少しずつ仲良くなっていった。

 クズリューは、私と将棋をしながら、過去の話をしてくれた。

 

「結局、控訴は棄却され、私の弁護していた企業の勝利が確定した…私の雇い主が言っていたよ…司法とは、弱者を守る為にあるのではない。弱者から搾取する為にあるのだと……すまない、こんな話を聞いてもつまらないだろう?」

 

「いいえ。もっと聞かせて」

 

 申し訳なさそうに言うクズリューに対して、私は微笑みながら答える。

 するとクズリューは、少し踏み込んだ質問をしてきた。

 

「仮に、君の病院に1億円の薬が必要な患者と、100円の薬が必要な患者100万人が来たとして、君ならどちらを救う?どちらの命に価値を置く?」

 

「前者を助けるわね。同じ1億円なら、患者1人あたりの利益が大きい方を取るに決まってるわ。医療っていうのは、綺麗事だけで回る世界じゃないのよ」

 

 私は、クズリューの質問に対して即答した。

 貰える報酬が同じなら、1人の患者から得られる利益が多い方を選ぶに決まってる。

 だって、100円の薬を100万人の患者に処方している間に、他の患者が大勢待っているかもしれないって事だもの。

 そもそも医療というのは、医師個人の価値観で左右されるような世界じゃない。

 働かせてもらっている病院の利を優先するのは、当然の事。

 だけど……

 

「ただ、仮に今ここで同じ条件の患者が来たとして、私だったら、早く救える方から先に助けるけど」

 

 私がそう答えると、クズリューは僅かに目を見開く。

 私がさっきカネを多く払える方を助けると即答したのは、それが私一人の価値観で決められる話じゃないからだ。

 仕事じゃなければ、私はカネや社会的地位で命の価値を決めたりはしない。

 

「医師の本分は、人の命を救う事。目の前に患者がいたら、殺人鬼だろうと憎い相手だろうと迷わず助けるし、もし助けた患者が世界を滅ぼしたとしても、助けた事を後悔なんかしないわ」

 

 私は、思っている事を正直に打ち明けた。

 思い返してみれば私は、私を犯そうとしたストーカーを殺した事は悪いと思ってないし、当然の報いだと思うけれど、前にあのストーカーを治療した事自体を後悔した事は一度もなかった。

 目の前にいる患者を助けるのは、医師として正しい事だと思うから。

 

 金銭、社会的地位、名誉、性差、年齢、学歴、美醜、善悪……元の世界で人の価値を測るものさしは、どれも私を納得させてはくれなかった。

 この世界で人の命を測るものさしは、『生きる』か『死ぬ』か、たったそれだけ。

 この唯一で絶対のものさしだけが、私を納得させてくれた。

 

 私は、正しくて美しいこの世界が好き。

 この世界では、病院の利益なんて考えずに、私の正しいと思った事を、誰にも邪魔されずに実行できる。

 それこそ、世界を敵に回した極悪人だろうと、躊躇わずに救う事ができる。

 それが、私の理想としていた医師としての形なのかもしれないわね…

 

「……君と話せて良かったよ」

 

「私もよ。私、やっぱりこの国に来てよかった。こんなに本音をぶっちゃけられる相手なんて、初めてなんですもの」

 

 私とクズリューは、雑談を通して意気投合した。

 私は彼のように優しい人間じゃないから、気休めを言う事くらいしかできないけれど…もしそれで彼が少しでも救われるなら、私は何度でも気休めを言おう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アテナside

 

《『げぇむ』、『とうぎゅう』。難易度、『♠︎7(すぺえどのなな)』。『とうぎゅうし』の皆さんが、『とうぎゅう』を全て倒せば『げぇむくりあ』》

 

 私はこの日、何度目かの『げぇむ』に参加していた。

 武器は全部没収されて細い剣を一本持たされて、その剣でスタジアムにいる闘牛を倒せ、という『るうる』だった。

 私は剣を使って、次々と闘牛を倒していった。

 戦闘経験のない貧弱な男どもは、闘牛に撥ねられて次々と命を落としていく。

 

「ふははははっ!!愉しい、愉しいぞ!!もっと(オレ)を愉しませろ!!」

 

 …おっと、血の気の多いボウヤもいるもんだねぇ。

 構えを見たところ、剣道でもやってたのかね…

 

「………」

 

 別の場所では、フードを被った男が、剣で黙々と闘牛の急所を突いて即死させていた。

 あの男、私と同じ匂いがするね。

 差し詰め、傭兵ってとこかい。

 

 

 

《こんぐらちゅれいしょん。げぇむ『くりあ』》

 

 しばらくして、闘牛が全滅し、私は『げぇむくりあ』した。

 私以外に『くりあ』したのは、フードを深く被った男と、血の気の多いボウヤの二人だけだった。

 

「お主ら、只者ではないな。良ければ、これから共に酒でも交わさぬか?」

 

 ボウヤが、生き残った私達に話しかけてきた。

 私はその後、『げぇむ』で倒した闘牛の肉を捌いて焚き火で焼いて、同じ『げぇむ』で生き残ったシーラビ、ケンダテの二人と酒を交わした。

 その時、ふとしたきっかけから、自分の死生観についてお互いに語り合った。

 

「しかし…お主もやりおるのぉ。『げぇむ』のどさくさに紛れて、命乞いする他の者を躊躇なく殺すとは…」

 

 ケンダテは、『げぇむ』中にシーラビが他の参加者を殺した事について言及した。

 私は見ていた。

 ちょうどこの闘牛に襲われて足がもげた他の参加者を、シーラビが剣でトドメを刺したのを。

 ケンダテが、シーラビの事をどんな気狂いかと嗤っていると、シーラビが口を開く。

 

「人は…生きている事自体が『罪』だ。生きる事は、苦痛と後悔を生み出し続ける…オレは、ああする事でしか、彼を苦痛から救う事ができなかった…」

 

 シーラビは、焚き火を哀しそうに見つめながら言った。

 私は、そんなシーラビを自分に重ねて、放っておけなくなった。

 

「アタシで良かったら聞くよ。アンタに何があったのか」

 

 私がそう言うと、シーラビはポツポツと話し始めた。

 正直、口の硬そうな彼が話をしたのは意外だったけど…同類の私達の前だからこそ、話ができたのかもしれない。

 

 シーラビには、かつてアパッチという戦友がいたらしい。

 アパッチは戦争で致命傷を負い、苦しむアパッチを自分が介錯し、それからずっとシーラビは、アパッチの死に囚われ続けているのだという。

 私は、大吟醸酒を一口飲んでから、口を開く。

 

「そうかい…アンタは、仲間の死をいつまでも清算できずにいるんだね。アンタは、アタシは真逆だね…アタシは、大切な人を亡くしたこそ、1秒でも永く生きたい。悔しかったんだ…あの子が、アタシの手の届かないところで殺された事が…だからせめて、強者側として生き続けてやりたいんだよ…」

 

「そうか…考えは違えど、オレもお前も、過去に囚われた者同士というわけか…」

 

「そうなのかも、しれないね……」

 

 私は、元の世界で教え子を失った。

 あの子は、爆破テロに巻き込まれ、取り残された一般人の命と引き換えに殉職した。

 だから私は、かつての自分を完全否定する為に、この国で人を殺して生き残る事を選んだ。

 あの子を若くして死なせた過去の私が、正しかったはずがない。

 そうでなければ、彼女が人を助けて死んだ事が、正しかったという事になってしまう。

 そんな風に教えた事自体が、間違いじゃなきゃいけないんだ。

 

 無味乾燥の日々を送っているうちに、『彼女に生きていてほしかった』という願いが、いつしか『過去の自分の生き方を否定したい』という願いに変わっていってしまったのかもしれない。

 きっとこの国には、シーラビの言う通り、救いは死の中にしかないのかもしれない。

 それでも、敢えて生の絶望に中に身を置く事で、苦しみ続ける自分に存在意義を見い出しちまってるのかもね。

 

「アンタは無いのかい?大切な人を亡くした事」

 

「無いな。だが(オレ)は、大事なものを失くした…『強さ』という、(オレ)の唯一の存在意義を」

 

 私がケンダテに話を振ると、ケンダテは焚き火を見つめながら話す。

 

「怖いんだ…老いて、日に日に力を失っていく自分が。老いぼれて病に苦しむくらいならいっその事、シーラビの言う通り、『死』に救いを求めた方がマシなのかも知れぬな…」

 

「そうか……」

 

 ケンダテが話すと、シーラビは静かに頷く。

 私達はそれぞれ、全く違う死生観を持ってる。

 それでも、心のどこかで『死』を意識して生きているという意味じゃ、私達は皆同類だ。

 だからこそ、こんなどうしようもない国で出会ったのかもね。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ナツルside

 

 『今際の国』滞在20日目。

 絵札以外の全種類の『げぇむ』が『くりあ』されたらしく、昨日『ねくすとすてぇじ』が始まった。

 昨日のうちに『♡Q(はあとのくいいん)』が誰かに先越されてしまったので、『♡K(はあとのきんぐ)』に行く前のウォーミングアップに、『♡J(はあとのじゃっく)』を倒しに行った。

 僕が『げぇむ』会場に行くと、既に何人か集まっていて、ほとんど全員が僕に注目していた。

 

「えっ、おい嘘だろ!?アレ、相川夏琉じゃね!?」

 

「マジ、本物!?」

 

 他の『ぷれいやぁ』は、僕を見るなり大きな声で騒ぎ立てた。

 唯一、右眼を前髪で隠したお兄さんだけは、特に騒ぐ事もなくじっと僕を見ていた。

 

 しばらく待っていると、エントリー数が規定の人数に達し、『るうる』の説明が始まる。

 『♡J(はあとのじゃっく)』はパートナーが必要な『げぇむ』だから、パートナーを探したわけだけど…

 

「お兄さん、一緒に行こ」

 

「お前…本当にあの相川夏琉なのか?天才歌手の」

 

「……そうだけど」

 

「お前、何ができんの?歌えるだけじゃ、『(はあと)』の『げぇむ』は『くりあ』できねぇぞ」

 

「心配しないで。ボク、『♡9(はあとのきゅう)』と『♡7(はあとのなな)』を立て続けに『くりあ』してるから」

 

「ただのマグレじゃねぇだろうな」

 

「それなりに役に立てるつもりだよ。信用できないなら、いつでも囮にすればいい。お兄さん名前は?」

 

「……松下苑治だ」

 

 僕は、エンジとパートナーになって『げぇむ』を攻略した。

 『♡J(はあとのじゃっく)』の『げぇむ』は、薄暗い迷路を歩き回って『♡J(はあとのじゃっく)』を見つけ出すというものだった。

 僕は耳が良いから暗くても音で道がわかるし、エンジは催眠療法士だから精神誘導には耐性があった。

 一人だったら『くりあ』できなかったかもしれないけど、『(はあと)』に特化した僕達が組めば『くりあ』できない『げぇむ』じゃなかった。

 

「しっかし…お前みてぇなガキがよく生き残ってこられたな。心の強さってやつか?」

 

「別にそんなんじゃないよ…ボクは、退屈な元の世界に戻るくらいなら、別にいつ死んでもいいし」

 

「…はっ、道理で『(はあと)』の『げぇむ』で今まで生き残ってこられたわけだ」

 

 僕とエンジは、雑談をしながら迷路を攻略した。

 そしてとうとう『♡J(はあとのじゃっく)』のもとへ辿り着いた。

 

「アンタが『♡J(はあとのじゃっく)』だったんだな」

 

「……ふん、バレては仕方ないな。殺すなら殺せ」

 

「別に殺しはしないよ。ただ、『今際の国』の情報を洗いざらい吐いてもらう」

 

 僕とエンジは、『♡J(はあとのじゃっく)』に催眠をかけて『今際の国』の情報を洗いざらい吐かせた。

 『げぇむ』に敗れた『♡J(はあとのじゃっく)』は、どこか吹っ切れたような表情をして自害した。

 

「しかし、『ねくすとすてぇじ』の『げぇむ』を全部『くりあ』した先に待つのがそういう選択だとはなぁ……だったら尚更、『永住権』を手に入れる他ねぇよなぁ!?」

 

 『今際の国』の情報を聞き出したエンジは、クスリでもキメたみたいに、恍惚とした表情を浮かべていた。

 僕はそんなエンジを離れたところで見つつ、今まで他の人と一緒に過ごしていた家に戻った。

 『げぇむ』を『くりあ』した僕達は、しばらく一緒に過ごしていた。

 そして開催8日目、とうとう残る『げぇむ』が『♡K(はあとのきんぐ)』ただひとつとなった。

 

「……どうする?ボクは『♡K(はあとのきんぐ)』に行くけど、一緒に参加する?」

 

「やめておく。オレ達はもう充分、『ねくすとすてぇじ』の『くりあ』に貢献したんだ。『♡K(はあとのきんぐ)』狩りは勇敢な誰かさんに任せて、オレは安全に『ねくすとすてぇじ』が終わるのを待つとするさ。ただまぁ、一緒に『げぇむ』を『くりあ』したよしみだからな。『げぇむ』会場にはついて行ってやるよ」

 

「……エンジさん、優しいんだね」

 

「初めてだからな。オレ以外に、『今際の国』の国民になりたいなんて奴に出会ったのは」

 

 そう言ってエンジは、家のカーテンを開けながら話した。

 

「オレは、人から愛される為に催眠療法を学んでいた。だが、簡単に人を操れる技術は、オレの好奇心を刺激し、催眠療法にのめり込めばのめり込むほど人から蔑まれ、忌み嫌われるだけだった。同族に出会えるっていうのは…案外悪くねぇ気分だな」

 

「ボクも…元の世界では、望む形の愛情を与えてもらえなかった。ボクは、自由な歌を歌えないくらいなら、独りでいいって思ってた。だけど本当は、自由な歌を歌うボクを、誰かに愛してほしかったんだと思う。だから『今際の国』の国民になりたいなんて考えているんだろうね…」

 

 その後、僕はエンジと一緒に、『♡K(はあとのきんぐ)』の『げぇむ』会場に向かった。

 『♡K(はあとのきんぐ)』の『げぇむ』会場は、東京タワーだった。

 僕がエンジと二人で待っていると、また別の4人が歩いてきた。

 上半身裸の若いお兄さん、スーツのお兄さん、フードを深く被ったおじさん、そして髪の長いお姉さんの4人だった。

 

「……あら?エンジ君?」

 

 髪の長いお姉さんが、エンジに気づく。

 するとエンジは、顔を引き攣らせる。

 エンジは、心なしか顔色が悪くなっていた。

 

「ミラ先輩…」

 

「知り合いなの?」

 

「オレの学生時代の先輩だったんだよ。オレの腐れ縁の同期の姉弟でよ…」

 

「エンジさん…友達いたんだね」

 

「うるせぇ」

 

 俺とエンジは、小声で話した。

 エンジにも、元の世界に友達がいたんだね…

 この国に来て一番の驚きだよ。

 

「あ、そうそうエンジ君。ガモンを見てない?」

 

「いえ…見てないです…」

 

「そう…弟もこの国に来ていると思っていたのだけれど…残念」

 

 ミラが話しかけると、エンジはビクッと肩を跳ね上がらせ、ガタガタ震えながら答えた。

 エンジの大学の先輩で、エンジの友達のお姉さんだって言ってたけど…

 この怯えよう、過去に何があったんだか。

 なんて考えていると、ミラは今度は僕に話しかけてきた。

 

「それとあなた…歌手の相川夏琉よね?どうしてエンジ君と一緒にいるの?」

 

「…『げぇむ』の時、一緒だったんだ。『♡J(はあとのじゃっく)』から『今際の国』の情報を聞いて…それで、『♡K(はあとのきんぐ)』を倒しにここに来た」

 

 僕は、キューマ、クズリュー、シーラビ、そしてミラと一緒に『♡K(はあとのきんぐ)』の『げぇむ』に参加した。

 展望エリアに辿り着くと、扉が4つあって、それぞれの扉に必ず誰か1人が入らないといけない『るうる』だった。

 

「ここからは、4手に分かれるしかないのか…」

 

「まぁしょーがねーな!LET'S MEET AGAIN(生きてまた会おう)!」

 

「……ああ」

 

 僕達は4手に分かれる事になり、キューマは東、クズリューは南、シーラビは北、そしてミラは西の扉を選んだ。

 僕は4人のうち、誰かについて行く事になるわけだけど…

 

「ねぇナツル、私と一緒に来る?」

 

 僕が誰についていこうか考えていると、ミラが話しかけてくる。

 

「あなたとは、いいお友達になれそうな気がするわ♡」

 

 そう言ってミラは、少し不気味な笑みを浮かべた。

 僕は彼女のように、人というものに興味が持てない。

 だけどきっと、僕は彼女と同類なのだろう。

 人の愛情を求めて、この国で彷徨っている。

 

「じゃあ…お言葉に甘えさせてもらうよ」

 

 そう言って僕は、ミラの手を取って、一緒に西の扉へと進んだ。

 『ねくすとすてぇじ』を全て『くりあ』するまで、あと少し。

 

 

 

 

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