Duchess in Borderland   作:M.T.

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いまわのくにのこくみん(2)

レイカside

 

 『ねくすとすてぇじ』8日目。

 最後の『げぇむ』の『♡K(はあとのきんぐ)』が『くりあ』され、『今際の国』全域に花火が打ち上がる。

 近くに設置されていたスピーカーから、合成音声が鳴る。

 

《おめでとうございます。ただ今を持ちまして、()()の全ての『げぇむ』が『くりあ』されました。これより、生き残った『ぷれいやぁ』の皆様全員には、この『今際の国』の国民となって()()の『げぇむ』に参加する事が出来る『永住権』を、取得するか放棄するかの選択が与えられます。それぞれがお答え下さい。この国に永遠に身を置き、これからも殺し合いを続ける権利を、『手にする』か『手にしない』かを》

 

 『永住権』か……

 やっぱり、『♢Q(だいやのくいいん)』の言っていた事は本当だったのね。

 彼女達『今際の国』の国民は、元は『ねくすとすてぇじ』の『げぇむ』を全て『くりあ』した『ぷれいやぁ』だった。

 そして私が『永住権』を手にすれば、私が彼女達に成り代わる。

 ここで『手にしない』を選べば、元の世界に帰れるのかもしれない。

 だけど……

 

「無論、永住権を『手にする』わ」

 

 私には、『永住権』を手に入れる以外の選択肢はなかった。

 元の世界に、私の求めていた物は無い。

 私は、この正しく美しい世界で、永遠に『げぇむ』を続けていく。

 そう心に決めた瞬間。

 

 

 

 

 

 ――ドンッ!!

 

 

 

 一際大きな花火が打ち上がり、私の視界は真っ白になった。

 

 

 

 

 

「……あら?ここは…?」

 

 気がつくと、私は薄暗い空間にいた。

 まるで暗闇の中にいるかのように、前後左右上下全てが漆黒で、音の反響が無いせいで、広さがわからない…というか、そもそもここが部屋なのかすらわからない。

 異様な空間の中に、長いテーブルだけがポツンと設置されていて、私を含めて12人の男女が椅子に座っていた。

 その中には、私がかつて『げぇむ』会場で一緒になったクズリューとアモンもいた。

 他は、フードを深く被った男、上半身裸の男、天才歌手の相川夏琉、黒いコートを着た老婆、ロングヘアーの女、ヘッドホンをつけた少女、筋骨隆々な大男、前髪で右眼を隠した男、精悍な顔立ちをした七三分けの男がいた。

 席は全部で13席あり、一番奥の一席だけが空席だった。

 

「ここは…?」

 

「ぉわっ!?何だコレ、ここどこ?」

 

「ぐごぉ〜…すぴぃ〜……」

 

 フードを被った男が静かに周りを見渡し、半裸の男はオーバーリアクションをする。

 他の皆も、この状況を理解できていないようだった。

 唯一、ヘッドホンをつけた少女だけは、この異様な状況の中でも爆睡していたけれど。

 

「あら、案外短いお別れだったわね♡」

 

「ミラ…」

 

 ロングヘアーの女が口を開くと、クズリューが反応する。

 あの二人、知り合いだったのね…

 というか、そんな事より、ここはどこ…?

 他の皆も、私と同じように『永住権』を手に入れたって考えていいのかしら?

 

「よくわかんないんだけど、ここにいるのは皆、『永住権』を手に入れた奴等って事でいいのかい?」

 

「そうみたいですね…」

 

 私は、老婆の質問に頷いた。

 するとその時、さっきまで寝ていた少女が目を覚ましてあたりを見渡す。

 

「ふにゃ……あれぇ…?ここは…?ノバラとスミレがいないよぉ?」

 

「私の生徒達も、どこへ行ってしまったのでしょうか…」

 

 少女と七三分けの男は、一緒に『げぇむ』を乗り越えてきたであろう仲間を探していた。

 そういえば、他に『永住権』を手に入れた人達はどうなったのかしら?

 『ねくすとすてぇじ』の『げぇむ』は、絵札の12種類。

 そして私達はちょうど12人。

 この人選って、まさか……

 

 

 

「おめでとう、元『ぷれいやぁ』諸君」

 

 私がこの人選の意味を推測したその時、ちょうど空席だった一番奥の席に、全身が漆黒の、男から女かもわからない人物が現れた。

 その姿を見た瞬間、背中に嫌な汗が湧く。

 目の前にいる人物が、この世のものではない事は、誰の目にも明らかだった。

 

「誰だ貴様」

 

 大男が、この状況に一切動じず、黒ずくめの人物に偉そうに尋ねる。

 するとクズリューが口を開く。

 

「『じょおかぁ』……この国を統轄する存在…といったところか」

 

「左様」

 

 クズリューの推測を、黒ずくめの人物が肯定する。

 目の前にいるこの世のものではない“何か”こそが、『じょおかぁ』。

 『今際の国』の全ての命を支配する存在ってところかしらね…

 

()()は、79名の生存者のうち、40名が『永住権』を取得した。君達12名は、()()の『げぇむ』の絵札の主に選ばれたのだ」

 

「絵札の主、か…」

 

「私達が……」

 

 『じょおかぁ』の言葉を聞いて、他の皆がそれぞれ反応する。

 何人かは、『当然だ』とでも言いたげな表情をしていたけれど。

 すると半裸の男が、『じょおかぁ』に尋ねる。

 

「それはそうと、オレの仲間はどうなったんだ?一緒に『永住権』を手にしてると思うんだけど」

 

「君達以外の『今際の国』の国民は、別の場所で待機している」

 

「ここにはいないだけで、この国のどっかにはいるって事ね。OK、充分だ」

 

 絵札の主に選ばれなかった人達は、この国のどこかにいるのね…

 じゃあ、『永住権』を手に入れなかった人達は?

 元の世界に帰れたのかしら?

 それとも、レーザーで強制排除されたのかしら?

 

「『永住権』を手にしなかった人達は、どうなったの?」

 

「それを知る権利は、君達には無い。『永住権』を放棄した者のみぞ知る事だ」

 

「そう、聞いた私がバカだったわ」

 

 言われてみれば、その通り、としか言えないわね。

 私達が選ばなかった選択を知る権利は、その選択をした当人にしか無い。

 それを承知の上で、この国の国民になる事を選んだんだもの。

 

「これより、絵札の選定を行う。1人1枚ずつ、トランプを引け」

 

 『じょおかぁ』がそう言うと、全員の席にトランプの束が現れる。

 トランプの束の側面を手で触って、枚数を確かめる。

 トランプは全部で12枚ある。

 ……これって、実は全部同じカードだったりしないわよね?

 

 そう思いつつも、私は無作為に束の1番上のトランプを引いた。

 他の皆も、束の中から1枚トランプを引く。

 中にはよくカードを切ってから引く人や、ズルをしてより自分に都合の良いカードを引こうとしている奴もいたけど…

 全員がカードを引き終えて、同時に自分のカードを確認する。

 

「君達の引いたカードが、今日から君達が担当する絵札だ」

 

 私が引いたのは、♢Qのカードだった。

 自分の絵札を確認してほくそ笑む人、表情ひとつ変えない人、狙った絵札じゃなくて舌打ちをする人、反応はそれぞれだった。

 カードを裏返して他のカードを確認すると、ちゃんと♢Q以外の11種類の絵札が揃っていた。

 カードに何か仕掛けがしてあるわけでもなさそうだし…だとしたら、全員が違う種類の絵札を引くなんて、何か特別な力が働いているとしか考えられないわね。

 なんて考えていると、大男が立ち上がって異議を唱える。

 

「待て。何故(オレ)が『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』なんだ。この(オレ)こそが、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』に相応しいはずだ」

 

「君の引いたカードは、君の選択の結果だ。異論は認めない」

 

「では、誰が『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』を引いたというのだ?」

 

 大男は、見るからに苛立った様子で尋ねる。

 私は、自分こそが一番だとでも言いたげな彼の態度に、少し苛立ちを覚えた。

 すると、一番端の席に座っていたフードの男が、徐に口を開く。

 

「……オレだ」

 

 フードの男が言うと、大男がぴくりと目元を動かす。

 そんな中、今度はロングヘアーの女が口を開いた。

 

「彼は『ねくすとすてぇじ』初日に『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』を倒しているのよ。これ以上の適任がいるかしら?」

 

 ロングヘアーの女がフードの男の功績を主張すると、大男は不満を顔に出しながらも大人しく席に座った。

 『ねくすとすてぇじ』初日に『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』を倒したという功績があっては、今は大人しく『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の座を譲る他ないと判断したのでしょうね。

 ……もっとも、彼がこのまま大人しく『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』の座に甘んじるとは思えないけど。

 

「君達にはこれから、絵札の主として『げぇむ』の制作、管理をしてもらう。他の国民にも、『永住権』を手にした以上は君達の『げぇむ』に参加してもらうわけだが…誰がどの『げぇむ』を担当するかは、君達に任せる」

 

「そういう事なら遠慮なく、オレは仲間と『げぇむ』をやらせてもらうぜ!」

 

「わたしも〜、ノバラとスミレと一緒がいいなぁ〜」

 

「私も、生徒達と一緒に『げぇむ』に参加する事を希望します」

 

 おそらく『♣︎(くらぶ)』の絵札を引いたであろう三人は、仲間と一緒に絵札の『げぇむ』を担当する事にした。

 残りは、全然知らない国民…おそらく絵札の『げぇむ』に参加しなかった人達が20人近くいるわけだけど…

 

「残りの血の気の多い子達はどうするんだい?アタシは別に引き取ってやってもいいし、誰かに譲ってやってもいいんだけど」

 

「ワテは遠慮さしてもらいますわ。ワテの『げぇむ』は、1人の方が都合がええさかいな」

 

「オレもだ」

 

「オレも、信頼もクソもねぇ奴等と『げぇむ』をやるなんてゴメンだぜ」

 

「……要らない」

 

 アモンと『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』、前髪で右眼を隠した男、そしてナツルの4人は、ハッキリと『要らない』と拒否した。

 特に『(はあと)』や『(だいや)』は、信頼関係の無い国民を仲間にして足でも引っ張られたらたまったものじゃないからね。

 

「私はどっちでも。どうぞお好きに」

 

 私は正直、どっちでも良かった。

 本当は一人で『げぇむ』をやりたいけど、誰も他の国民と一緒に『げぇむ』をやりたくないなら、別に私の『げぇむ』に参加させられなくもない。

 どうやらクズリューとロングヘアーの女も、同じ考えらしい。

 そんな中、さっき絵札の選定にケチをつけた『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』が口を開く。

 

「ならば、(オレ)がソイツらを全員引き取ろう」

 

 『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』は、腕を組んで言った。

 

「どうせ誰もゴミ共と一緒に『げぇむ』をやりたくないのだろう?この(オレ)が、ゴミを上手く使ってやる。ちょうど面白そうな『げぇむ』を思いついたのでな」

 

 その言葉に、誰も反対しなかった。

 結局、『♣︎(くらぶ)』の皆の仲間以外の『今際の国』の国民は、全員『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』に参加する事になった。

 

 『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』、椎羅日勲。

 『♡K(はあとのきんぐ)』、相川夏琉。

 『♢K(だいやのきんぐ)』、九頭龍慧一。

 『♣︎K(くらぶのきんぐ)』、久間欣治。

 

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』、剣崎貴那。

 『♡Q(はあとのくいいん)』、加納未来。

 『♢Q(だいやのくいいん)』、菱川玲香。

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』、四葉真里。

 

 『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』、剣立雄士。

 『♡J(はあとのじゃっく)』、松下苑治。

 『♢J(だいやのじゃっく)』、駒山阿門。

 『♣︎J(くらぶのじゃっく)』、黒葉蘭寿郎。

 

 私達12人が、新たな国民に成り代わり、次に来る『ぷれいやぁ』と戦う事になる。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その後私達は、『でぃいらぁ』のアジトに案内され、『げぇむ』の説明を受けた。

 約1週間後から『でぃいらぁ』の入国が始まって、『でぃいらぁ』が集まってから本格的に『げぇむ』の準備が始まり、さらにその1週間後から次の『ぷれいやぁ』の入国が始まるらしい。

 次の『でぃいらぁ』が入国するまでの約1週間は、所謂『いんたあばる』。

 その間は、私達国民はこの国で好きに過ごしていいそうだ。

 

 ひと通り説明が終わった後は、『今際の国』の国民専用の寄宿舎に案内された。

 寄宿舎は電気がついていて、綺麗に清掃されている。

 『今際の国』にある荒廃した建築物とは大違いだった。

 

「電気がついてる…」

 

「国民になったから、クーラーのきいた部屋で快適に眠れるってわけかい」

 

 早速、寄宿舎の中をチェックする。

 私達絵札の主には専用の個室が用意されていて、他の国民には普通の個室と大部屋が用意されていた。

 

「オレはシタラ達と一緒に大部屋を使うぜ!この部屋を1人で使うってのも性に合わねぇもんでな」

 

「私も、生徒達と同じ部屋を使わせていただきます」

 

 キューマとクロバは、絵札の主用の個室ではなく、仲間と一緒に大部屋を使う事にしたみたい。

 私は、プレートに『♢Q』と書かれた部屋の扉を開け、部屋を確認した。

 絵札の主用の個室は、豪華なスイート仕様になっていた。

 部屋には埃ひとつないベッドやソファー、テーブルなんかが設置されていて、クローゼットまである。

 クローゼットの中には、数日分の着替えが入っていた。

 サイズがピッタリなのが怖いわね…

 

 テーブルの上には、パソコンと書類が置かれていて、書類にはパソコンなんかの備品の使い方が書かれていた。

 部屋のパソコンで『げぇむ』の案を作成したり、過去の『(だいや)』の『げぇむ』を見たりする事ができるみたい。

 あとは、欲しいものは部屋の内線で注文すれば、大抵のものは手に入るそう。

 

 それはそうと、まずはお風呂に入りたい。

 頭とか、身体があちこち痒いし。

 

 

 

「……あら、悪くないわね」

 

 衣服を全て脱いで新品のタオルで軽く身体を隠し、国民専用の寄宿舎の大浴場に足を踏み入れる。

 タイル張りのシックな浴室に、充分な数の洗い場と、広い浴槽が設置されている。

 温泉が使われているのか、浴槽からは少し香ばしい香りがする。

 

「ふぅ……」

 

 私は、洗い場のシャワーで身体の汚れを落とした。

 お風呂に入るのなんて、何ヶ月ぶりかしら。

 今まではシャワーすら浴びれなかったものね…

 シャワーを浴びたら、身体を流れたお湯がすぐに茶色く濁ってビックリした。

 私が入念に身体を洗っていると、さっきのロングヘアーの女、ミラが浴室に入ってきた。

 

「お隣、いいかしら?」

 

「あ…はい」

 

 ミラは、クスッと笑うと私の隣に座った。

 私は、少し緊張しつつも会釈をした。

 私と同じ『Q(くいいん)』といえど、力関係は彼女の方が上…というか、『K(きんぐ)』の4人よりも立場が上かもしれない。

 おそらく歳も、彼女の方が上でしょうし…

 

「私はミラ。『♡Q(はあとのくいいん)』よ。よろしく♡」

 

「私は菱川玲香といいます」

 

「『♢Q(だいやのくいいん)』…よね?」

 

 私が名乗る前に、ミラは私の引いた絵札を当てた。

 多分消去法で当てたんでしょうけど、自分の絵札を当てられて少し動揺してしまった。

 

「はい、そうですが…」

 

「やっぱりね。そう緊張しないで?敬語も使わなくていいわ。同じ『Q(くいいん)』同士、仲良くしましょう♡」

 

「ええ…」

 

 私は、ミラの事を少しだけ怖いと思いつつも、敬語を使うのをやめて彼女と話す。

 するとその時だった。

 

「わぁい、ひろ〜い♪」

 

「風呂なんて何日振りかねぇ」

 

 マリとアテナも、浴室に入ってきた。

 彼女達が新しい『♣︎Q(くらぶのくいいん)』と『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』ね…

 

 

 

「あぁ〜…きもちいい〜…♪」

 

「この国で温泉に入れるなんて最高だねぇ…」

 

 垢が溜まった身体をしっかり洗って、髪を高い位置で結んで湯船に浸かると、身体が温まって心まで洗われる感じがした。

 私の隣では、マリが浴槽の縁の上で腕を組んで寛いでいて、アテナも浴槽の縁に両肘を置いて寛いでいた。

 私も温泉の中で身体を伸ばしてリラックスしていると、ミラが話しかけてくる。

 

「ところで、ひとつ聞きたいのだけれど…あなた達はどうして『永住権』を手にしたの?」

 

「元の世界での価値観、道徳観は、どれも私を納得させてくれなかった。私の居場所は、この国にしかないのかもしれない…そう考えただけの事よ」

 

「死にたくない。それだけさね」

 

「わたしはぁ、ノバラとスミレと一緒に『げぇむ』がしたかったからかなぁ」

 

 私、アテナ、マリの三人は、ミラの質問に対して自分なりの答えを言った。

 するとミラは、無邪気に笑った。

 

「ふふっ。面白いわね、あなた達。私はね、この国で見届ける為に国民になったのよ。人間というものをね」

 

 ミラは、笑いながらそう語った。

 私には、ミラがこの国で起きている事を純粋に楽しんでいるように見えた。

 そんな会話をしつつ湯船に身体を沈めると、胸が浮いてきた。

 浮いてくる胸を上から押さえていると、マリが話しかけてくる。

 

「…むむ、レイカちゃんどうしたのぉ?」

 

「浮いてきちゃって……」

 

「レイカちゃんおっぱいおっきいもんねぇ」

 

 マリは、興味津々といった様子で私の胸を見てきた。

 大きくてもいい事なんて無いんだけどな…

 なんて考えていると、マリがいきなり私の胸を揉んできた。

 

「きゃっ!?何するのよ!」

 

「わぁ、もちもちでふわふわ〜♪マシュマロみたい」

 

「ちょっと、離しなさい!」

 

「はいはい、その辺にしなさいな」

 

 マリがふざけて私の胸を揉んでいると、アテナがやんわりとマリを引き剥がしてくれた。

 その後キューマの仲間のウタと、クロバの仲間のモクバとブレッドも大浴場に来て、絵札の『げぇむ』を乗り越えた者同士、皆で女子会をした。

 お風呂の時は胸が浮いてきちゃうという話をしたら、浮くものなんて無ぇよ勢が食ってかかってきたりもしたけど、なんだかんだで最後には皆仲良くなった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ナツルside

 

 部屋のシャワーを浴びて、クローゼットに用意してあった服に着替えて談話室に向かう。

 談話室には、僕以外の『K(きんぐ)』の三人がいた。

 三人は、談話室の飲み物を飲みながら仲良さそうに話している。

 この三人は、僕が『♡K(はあとのきんぐ)』の『げぇむ』に参加した時に一緒だった人達だ。

 一応『K(きんぐ)』同士、仲良くしておいた方がいいのかな。

 

「えっと…ボクが『♡K(はあとのきんぐ)』です。よろしくお願いします」

 

「ああ、キミが?オレ、『♣︎K(くらぶのきんぐ)』ね。よろしく〜」

 

「私は、『♢K(だいやのきんぐ)』だ」

 

「……『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』」

 

 僕が声をかけると、他の三人が顔を上げて自己紹介をする。

 初っ端から仲間外れにされるような事が無くて良かった…

 既に構築された人間関係に割って入るのは、ちょっと気が引けるけど。

 

 僕は、クズリューとシーラビの間のちょうど空いている席に座って、会話に加わった。

 僕は、今思ってる事を三人にぶっちゃけた。

 

「正直、ボクに『♡K(はあとのきんぐ)』が務まるのか…って思ってるよ。立場も『♡Q(ミラ)』の方が上だし、最後の『げぇむ』も、ほとんど貢献できなかったしさ」

 

 僕は正直、『♡K(はあとのきんぐ)』に相応しくないんじゃないかと思ってる。

 実質『(はあと)』のトップはミラだし。

 最後の『げぇむ』でも、僕はほとんど何もしなかったし。

 なんて思っていると、正面の席に座っていたキューマが話しかけてくる。

 

「キミ、『げぇむ』中、ミラと一緒にいたんだろ?何か話したりした?」

 

「まぁ、それなりには」

 

 僕は、ミラと一緒に『♡K(はあとのきんぐ)』の『げぇむ』に参加した時の事を話した。

 この三人も、一緒に『げぇむ』に参加したけど、『るうる』上別行動をしなきゃいけなかったから、僕とミラが『げぇむ』中に何をしていたのかは知らない。

 僕はミラと、今までどんな『げぇむ』に参加したとか、その中に面白い人はいたかとか、そんな話をした。

 僕とミラは『(はあと)』の『げぇむ』が得意だから、『げぇむ』中でも関係ないお喋りをする余裕があった。

 

「……ボクはあんなに、人間というものに興味が持てないから…正直、彼女の好奇心が少し怖いとも思ったよ」

 

「私もだ」

 

「…そうだな」

 

 僕がミラの事をどう思ってるか正直に話すと、クズリューとシーラビが僕の意見に賛同した。

 僕だけじゃなかったんだな…ちょっと安心した。

 

「だけどね、彼女の気持ちは少しわかるんだ…ボクは、元の世界で大勢の観客に囲まれていた。だけど、不自由で独りだった。何をしてても。簡単に人を操れてしまうこの力は、ボクを不自由と孤独から救ってはくれなかった。望んだ生き方を見つける為に、ボクはこの国に残る事を選んだのかもしれないな…」

 

「…そっか。見つかるといいね。君だけの生き方が」

 

 僕が俯いて言うと、キューマが僕に寄り添った言葉をかけてくれた。

 キューマ、良い人だな…

 良い人なんだけどさぁ……

 

「……ところでキューマさん、なんで裸なの?」

 

「今更!?」

 

「いや…ツッコんでいいのかわからなくて…」

 

 僕が指摘すると、キューマは、『ヌーディズムは立派な社会運動』だの何だのと意味不明な事を言った。

 脱ぐのはいいけど、せめて椅子に座る時くらいはズボンを履けよ。

 ……座った後の椅子、どうするつもり?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

クロバside

 

 生徒達がお風呂に入っている間、私は娯楽室で本を読んで過ごしていた。

 娯楽室には、他の『J(じゃっく)』の皆さんがいた。

 ケンダテさんは刀の手入れをしていて、エンジさんは飲み物を取りに行っていた。

 その様子を眺めていると、アモンさんが話しかけてきた。

 

「暇やなぁ。兄サン方、ワテの遊びにちょい付き合うてくれまへんか?」

 

 アモンさんが話しかけてくるので、私は本を閉じて微笑む。

 

「ええ、いいですよ。何をするんです?」

 

「麻雀やりまへんか?ちょうど4人おる事やしな」

 

「麻雀ですか…ルールはなんとなく知っていますが、やった事はないですね。この機会に、やってみたいです。良かったら教えていただけませんか?」

 

 私は、アモンさんの誘いに乗って、麻雀をする事にした。

 元の世界では、生徒を教えるのに忙しくて、そういった遊びをする機会がなかったから、この機会に挑戦してみるのも良いのかもしれない。

 私とアモンさんは、エンジさんとケンダテさんの方を見る。

 

「オレはやった事あるぜ。嗜む程度だがな」

 

「知らん。興味が無い」

 

「負けるんが嫌やったら、無理にやらんでも構いまへん」

 

「待て、やらんとは言っておらんぞ」

 

 アモンさんがケンダテさんを煽ると、ケンダテさんが勝負に乗った。

 結局、暇潰しに私達4人で麻雀をする事になった。

 アモンさんは、初心者の私とケンダテさんでもわかるように、ルールを説明してくれた。

 最初のうちは当然、プロのアモンさんと経験者のエンジさんが勝ったが、私も回数を重ねるうちに勝てるようになってきた。

 

「それ、ロンです」

 

「……あ?」

 

 私は、エンジさんの捨てた牌で和了った。

 私が自分の役を公開すると、エンジさんが驚き、アモンさんも僅かに目を見開いた。

 

「えーっと…これ、四暗刻、大三元、字一色のトリプル役満…ですよね?」

 

「兄サン、やりますなぁ」

 

「ビギナーズラックだろ」

 

「……フン」

 

 私がトリプル役満で1着をもぎ取ると、アモンさんが素直に感心し、負けたエンジさんとケンダテさんは少し不機嫌になった。

 アモンさんは、麻雀牌を片付けながら私達に尋ねる。

 

「ところで、兄サン方はなんで国民になったんです?ワテは、元の世界に戻ったかて暇やさかい、この国に残る事にしたんでっけど」

 

「そりゃあもちろん、この国で永遠に『げぇむ』を楽しむためさ。『今際の国』の国民になれば『げぇむ』を続けられると知っちゃ、元の世界になんか戻れねぇよ!」

 

「世界一の強者に上り詰める為だ」

 

「私は、この世界でずっと生徒達を守っていく為です」

 

 アモンさんの質問に、エンジさん、ケンダテさん、そして私の順に答える。

 私達は、案外似た者同士なのかもしれないな…

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

レイカside

 

 皆でお風呂に入った後は、『じょおかぁ』が用意してくれたご飯を食べた。

 他の皆は、気になる人に話しかけに行ったり、お酒や食事を選んだりしていた。

 見ている限りだと、ミラがナツルにアップルティーを渡したり、甘いものばかり選んでいるマリにクロバが野菜料理を取ってあげたりしている。

 皆行動早いな……

 

「ひひひっ、『Q(くいいん)』はどんな女かと思えば…すげぇ上玉がいるじゃねぇか」

 

「げへへ、あのデカ乳で『♢Q(だいやのくいいん)』は反則だろ」

 

「あーあ、『絵札の主に『げぇむ』以外で危害を加えたら強制排除』っつー『るうる』さえなきゃ遊べたのによ」

 

「向こうからその気になってくれりゃあ話は早いんだがなぁ…いっその事、クスリでも盛っちまうか?」

 

「やめとけ、ビーム喰らっても知らねぇぞ」

 

 ケンダテの『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』の『げぇむ』に参加する事になった人達が、私の事を性的な目で見ていた。

 ……丸聴こえよ。

 胸や臀部に向けられる視線が気持ち悪い。

 男って、なんでこうも欲望に忠実なのかしら。

 『絵札の主に『げぇむ』以外で危害を加えてはならない』っていう『るうる』が無かったら、今頃アイツらに手を出されていたと思うとゾッとする。

 そう考えつつ、男達の視線が届かない場所へ移動しようとすると、クズリューが私の隣に立った。

 

「食べたいものがあったら取るよ」

 

「ああ、ありがとう…」

 

 クズリューが男達の視線を遮る位置に立ってくれて、不快さが少し紛れた。

 この国で私よりも頭が良い人に出会ったのは、彼が初めてだった。

 それに彼は、他の偽善者とは違う、本当に優しい人だった。

 

 命懸けの『げぇむ』を乗り越えて国民になった今、気付いた事がある。

 私は、彼の事が好きなのかもしれない。

 尊敬する仲間として、信頼できる同族として、そして一人の男性として。

 

 もし、元の世界で彼が心を汚される前に出会っていたら… 

 …なんて考えるのは野暮ね。

 私も彼も、自分の意思でここに残る事を選んだんだもの。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「お邪魔〜♪」

 

「あらいらっしゃい♡」

 

 食事が終わった後、私とマリとアテナは、見繕ったお菓子を手にミラの部屋を訪れた。

 ミラは、私達の為に紅茶を淹れて待っていた。

 お風呂の時、国民同士で親睦を深める為に、後で皆で女子会をしようという話になったのだ。

 ウタ、モクバ、ブレッドの三人も来て、賑やかに女子会が始まった。

 

「女子会といえばぁ〜、恋バナでしょ〜!」

 

「え…本当にやるの?」

 

「面白そう♡」

 

「アタシは乗った」

 

 マリの提案で、皆で女子会をする事になった。

 好奇心旺盛なミラはもちろん、アテナも意外と乗り気だった。

 こういう話題に興味が無いストイックな人だと思ってたわ…

 

「はーい、まずはわたしからね。わたしはぁ〜、ノバラとスミレだよぉ」

 

「おや、2人ともかい?」

 

「うん、2人とも好き。ずっと一緒。ウタちゃんはキューマ君でしょ?」

 

「いや、無いわ。確かに仲間として信頼してるし好きだけど、彼はそういうのじゃないわ」

 

「あれ?意外」

 

「ほら、いるじゃない?やたら話しかけやすいのにそういう対象じゃない奴。モクバとブレッド、アンタらわかるでしょ?」

 

「あ〜、うん。わかるわ。スナップとかバタがそうだわ」

 

「そういう事ね」

 

 ウタがモクバとブレッドに話を振ると、二人が納得する。

 ウタとモクバとブレッドは、一緒に『げぇむ』を乗り越えてきた仲間がいる者同士、通じ合うものがあるようだった。

 

「アタシはもうそういう歳じゃないからねぇ」

 

「私は皆の恋愛模様を見ている方が楽しいわ」

 

 年長組のアテナとミラは、特にそういう相手はいないようだった。

 

「なるほどね…アテナちゃんとミラちゃんは見る専…っと。じゃあ最後!レイカちゃんは?」

 

「え、私?」

 

「ほら、好きな人とかいないの?」

 

「……いないわ」

 

 咄嗟に嘘をついてしまった。

 それが結果的に自分の首を絞める事になるとも知らずに。

 マリは、ニヤリと笑って問い詰めてくる。

 

「これはクロですなぁ。誰か当ててあげよっか」

 

「いないから」

 

「わかった、クズリュー君でしょ」

 

 その名前を出された瞬間、胸がドクン、と鳴った。

 それでも表情の変化を悟られないように、平静を繕った。

 

「なんでそうなるの?いないって言ってるじゃない」

 

「えー、じゃあクズリュー君の事嫌い?」

 

 私が誤魔化そうとすると、さらにマリが問い詰めてくる。

 いや、その聞き方はずるい…

 

「いや、嫌いじゃ…ない……けど……」

 

「「「きゃ〜!!」」」

 

 私は、とうとう隠し通せなくなって白状した。

 するとマリ、モクバ、ブレッドが黄色い声を上げる。

 

 マリに問い詰められて、気がついた。

 私は、結構本気で彼の事が好きなんだ。

 

 でも、この気持ちは、心の中にしまっておこう。

 『今際の国』の国民になった以上、私達はいつか『げぇむ』で敗れて死ぬ。

 もし彼に気持ちを伝えたら、『死にたくない』という気持ちが芽生えてしまうかもしれない。

 その気持ちが、『げぇむ』で足枷になってしまうかもしれない。

 最期くらいは、何の悔いもなく散りたい。

 私は、次の『ねくすとすてぇじ』が始まるまで、『♢Q(だいやのくいいん)』として彼の補佐に徹する。

 当分は、私がこの国で生きていく理由はそれでいい。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 それから数週間後、次の『げぇむ』が始まった。

 

「クズリュー、明日の『げぇむ』の案をまとめておいたわ」

 

「ありがとう」

 

 私は『♢Q(だいやのくいいん)』として、クズリューのサポートに徹した。

 そんなある日、クズリューからある『ぷれいやぁ』の話を聞かされた。

 

「『ビーチ』?」

 

「ああ。私はそこに行ってみようと思うんだ。彼等の『理想』とやらに興味があってね…」

 

 クズリューは、ある『ぷれいやぁ』が創設した『ビーチ』というコミュニティに潜入してみたいと言い出した。

 こんなに早く彼の興味を引く『ぷれいやぁ』が現れるなんて、正直意外だった。

 

「…わかったわ。あなたがいない間、『(だいや)』の『げぇむ』は私が回しておくわ」

 

「すまないな」

 

「任せて」

 

 私は、クズリューから仕事を一部引き継いで、彼がいない間の『(だいや)』の代表として『げぇむ』の制作や管理をした。

 国民としての仕事中、クズリューが話していた『ビーチ』の映像がモニターに映る。

 彼は、『ビーチ』の一員として、心なしか楽しそうに過ごしていた。

 

 クズリューは、この国の国民になった理由を私に打ち明けてくれた事がある。

 彼は、もし『げぇむ』で勝ち続けて『じょおかぁ』の座に上り詰めれば、この国の理不尽なシステムそのものを変えられるかもしれないと言っていた。

 私は彼を尊敬しているけれど、そこだけはどうしても賛同しかねた。

 私にとっては、『げぇむ』での命の選別こそが、自分を納得させてくれる唯一のものさしだから。

 だけど彼の創る理想の世界も、案外悪くないのかもしれない。

 おそらく理想の世界(そこ)に、私はいないでしょうけど。

 

 

 

 

 




絵札の主の選定やら、国民用の寮やらの設定は完全捏造です。
『でぃいらぁ』のアジト同様、『ぷれいやぁ』からは絶対に見つからない場所にありますし、万が一『ぷれいやぁ』が入ろうものならレーザーでピシュンされます。
『でぃいらぁ』ですらクーラーのきいた部屋でゴロゴロしたりローストビーフやら色々豪華な食事を食べたりするのが許されてたんだから、『ねくすとすてぇじ』を勝ち上がった国民は『げぇむ』が始まるまで贅沢空間で食ーちゃ寝するくらい許されてないと割に合わんて。
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