Duchess in Borderland   作:M.T.

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じょおかあ

ツエダside

 

 ずっと、なんで生きているのかわからない人生だった。

 何の為に、誰の為に。

 

 

 

「ママ、これ見て!ほめて!」

 

 私は昔、母の書斎に忍び込んで、母のパソコンを使ってアプリを作った事があった。

 動機は、ちょっとした好奇心だった。

 たまたま目に映ったパソコンに興味があったのは事実だけど、それよりも、私が何かを成し遂げた事を褒めてくれるのか、それとも余計な事をしたと怒るのか…母がどんな反応をするのかに興味があった。

 だけど母は、私のした事には特に反応をせず、その代わり新しいパソコンと、情報工学や電子工学の本を私に買い与えてくれた。

 

「好きなように使いなさい。その代わり、私の仕事の邪魔はしないでください」

 

 そう言って母は、何事もなかったかのように、仕事に戻っていった。

 どうしても母に構ってほしくて、仕事の邪魔をすれば怒られるだろうと思って、母のラボで実験用の機器や薬品を勝手に触ってボヤ騒ぎを起こした時もそうだった。

 母は愚痴のひとつもこぼさずに一人で黙々とラボを片付け、私に難解な化学の本を買い与えただけで、私を叱る事すらしなかった。

 子供には欲しそうなものを買い与えておけば満足すると考えているような女だった。

 何をしても母が私に関心を向ける事はなかったから、私の方からも母に干渉しなくなった。

 熱を出して死にかけた私を助けてくれたから、いつかまた優しい母が帰ってきてくれると信じていたけど、私に無関心な母と過ごしているうちに、いつしか母が私に優しくしてくれた記憶すらも薄れていった。

 

 

 

「なんとか言ってみなさいよ」

 

「……痛い」

 

「アンタのそういうところが気に食わないのよ!殴られても泣かないなんて、ホント気味悪い!そうやってすました顔して、私の事バカにしてるんでしょ!?」

 

 母の代わりに私の世話をしてくれたシッターも、私の事が嫌いだった。

 気に入らない事があると、母が私に関心がないのをいい事に、私に八つ当たりした。

 別に、暴言を吐かれたり殴られたりして、何も感じなかったわけじゃない。

 泣きも怒りもしなかったのは、泣いたり怒ったりしたってどうにもならないって事を、知っていたから。

 そのうちシッターは、ろくに人と関わろうともせず家で読書やパソコンばかりしている私に愛想を尽かして、仕事をサボって私を置いて外に遊びに行くようになった。

 

 唯一の肉親だった母親すら、私が子供の頃にあっさり殺された。

 母を殺した犯人を銃殺した私だけが生き延びた。

 生きていたくなんかなかったのに、気がつけば私は、彼を撃ち殺していた。

 生まれて初めて人を殺した時、私は罪悪感なんてこれっぽっちも抱かなかった。

 

 

 

「あの子、あんな事があったっていうのに…平然としてて不気味よね」

 

「なんつーか…危ない感じだよね」

 

「行こうぜ。アイツ、いつか絶対犯罪犯すぞ」

 

 親を亡くした私は、施設に入って定期的にカウンセリングを受けていたけど、人を殺したのに私が平然としていたから、そのうち施設の大人達や他の子供まで私を腫れ物のように扱うようになった。

 私はまた、独りぼっちになった。

 

 ずっと独りで過ごしていたから、家族や友達と幸せそうに毎日笑い合ってる奴等がバカに見えた。

 自分の殻に閉じ籠もって、なんでもわかった気になって傲慢になって、そのくせ理解できないものをくだらないと切り捨ててきた。

 そんな自分が嫌いだった。

 毎日が孤独で、退屈で、虚しかった。

 

 本当は、幸せそうな奴等が羨ましかった。

 同じ目線で語り合える仲間がいる奴等が妬ましかった。

 

 

 

「センジュ……アンタ、マイクの事振ったって本当?」

 

「いやぁ、なんか飽きちゃってさ」

 

「アンタ…自分が何をしたかわかってる?彼が学校に来なくなってから、ウチのアメフトチームが統率取れなくなって惨敗したの、アンタも知ってるでしょ?噂じゃ、クスリ漬けになってるって…」

 

「だから何よ?何回かヤったくらいで彼氏ヅラしてたバカが自滅しただけでしょ?アタシを思い通りにできると思ってんじゃねーよ、バァーカ♪」

 

「……センジュ…アンタ、いつか絶対地獄に堕ちるわよ」

 

「キャハハ、いーねそれ。行けるもんなら行ってみてーわ」

 

 退屈と孤独を紛らわせたくて、中学に入ってからは色んな事を始めてみた。

 友達を作って一緒に遊んでみたり、乗馬クラブに入ったり、自分探しの旅ってやつをしてみたりもした。

 それでも退屈と孤独は拭えなくて、非行に走った事もあった。

 高校に入ったあたりから、身体を使って男をオモチャみたいに弄んで、飽きたら捨てて、別の男に乗り換えた。

 そのせいで傷つく人がいる事なんて、気にも留めなかった。

 

 

 

「センジュお前、タバコ吸いすぎじゃねぇの?身体壊すぞ」

 

「へぇ〜、じゃあどれだけ吸えば具合悪くなるか試してやろうじゃねーの」

 

「つーかお前、ギャンブルにのめり込んでるみてぇだけどよ…そんなんで大学卒業できんのか?」

 

「人の心配するヒマあったら、自分の心配すればー?」

 

 大人になってからは、酒とタバコとギャンブルに溺れて、退屈を紛らわせた気になっていた。

 生きてる実感が欲しいからって、自分の命を粗末に扱ってきた。

 快楽を貪って生きるのは楽しいけど、一瞬絶望が紛れるだけで、私を満たしてはくれなかった。

 

 

 

「なぁセンジュ!2人で起業しようぜ!お前が苦手な事は全部オレがやるから、お前は会社のシステムとか作ってくれよ。お前そういうの得意だろ?」

 

「…なんでアタシ?パソコンに強い奴なんて、他にもいるじゃない」

 

「お前じゃなきゃダメなんだ!」

 

 そんな事を言われたのは、生まれて初めてだった。

 サムは、20年以上続いた孤独と退屈を、たった数日で埋めてくれた。

 絶望しかなかった人生だったけど、やっと希望を見つけた。

 

「すげぇ!センジュ、これお前が作ったのか!?」

 

「そうだけど」

 

「すげぇよ!やっぱお前天才だな!」

 

「さっきから『すげぇ』ばっかね。ガキかよ」

 

「だってすげぇんだもん!」

 

 彼は、私が新しい発明をする度に褒めてくれた。

 私は、彼の喜ぶ顔が見たくて、研究に没頭した。

 世の中の事なんてどうでもいいと思ってたけど、彼と一緒なら、生きていくのも悪くないと思ったから。

 それなのに…

 

 

 

「サム……アンタ、あのAIを売ったの…!?」

 

「そう怒るなよ。国防長官が大絶賛してたぜ?お前の研究が、この国の戦争を変えるんだ」

 

「ふざけんな…アレはまだ試作品だったのよ…!暴走すればどうなるか…開発者のアタシですら予測がつかない!信用を地に堕としてまで、目の前のカネが欲しいの…!?」

 

「何ムキになってんだよ。どうせ世の中の事なんか、どうでも良かったんだろ?だったら暴走して死人が出ようが別にいいじゃねぇか。嫌われ続けて生きてきたテメェが、世間様に認められて、情に絆されたか?それとも、今更自分が可愛くなったか?」

 

 くだらない人生から私を救い出してくれた人も、悪意に揉まれて心が壊れて、おかしくなってしまった。

 金の亡者になって、私腹を肥やす為に権力を振り翳し、挙げ句の果てには会社の信用を地に堕とす悪行にまで手を出した。

 

「オレ達は特別だ。この世界を、オレ達が変えてやるんだ。お前の知能で、オレを高みへ押し上げてくれ」

 

「…高みへ上り詰めた先に、何があるの?アンタはそこで、何がしたいの?」

 

「………あ?」

 

「アタシには…たった1人、尊敬する友達がいた。アイツと一緒に、知らない世界を見てみたかった。アイツじゃなきゃダメだった。アンタがそのままアイツを貶めるんなら、もう付き合ってられない。アタシは開発チームから抜ける」

 

「友達…ねぇ。まだそんな幻想に囚われてたのか?オレがお前に近づいたのは、お前を金儲けの道具にする為だったってのに」

 

「……は?」

 

「何だ、天才科学者のくせにそんな事もわからなかったのか?お前に話しかけたのは、お前の知能に価値があったからだ。そうじゃなきゃ、お前みてぇな性悪で股の緩いアバズレになんか近づくわけねぇだろ。お前は、友達でも何でもない。ただの金の生る木なんだよ」

 

 その言葉を聞いて、私は彼の全てに絶望した。

 ……何だよ、それ。

 私は、彼と生きる為に使おうって決めていたのに。

 こんなどうしようもない世界で、やっと見つけたたったひとつの希望さえも奪われるっていうんなら…

 もうこんな世界、要らない。

 

 彼に絶望した私は、AIの開発を中止して彼に辞表を突きつけた。

 それからしばらくして、彼は不審死を遂げた。

 彼は反社会組織と揉めていたと、後から噂で聞いた。

 

 彼が死んで初めて、私は自分が取り返しのつかない過ちをした事に気がついた。

 彼は、私を守ってくれていた。

 彼があんなにカネに執着していたのも、元はといえば、私が安心して過ごせる居場所を作る為だった。

 だけど彼自身も、本当はわかっていたんだと思う。

 弱者からカネを毟り取り蹴落として駆け登った先に、私が安心して過ごせる居場所なんか無いって事に。

 だけど彼はもう、自分では止まれなかった。

 目の前にあるカネに縋りつくしか、道は残されていなかった。

 

 だから私を金儲けの道具にする為に近づいたって大ボラを吹いて、わざと私を絶望させて遠ざけた。

 私は彼の心にもない言葉を真に受けて、勝手に絶望して彼を見捨てた。

 私に話しかけた頃の彼が、私の知能の高さを知っているはずがないという矛盾にすら気がつかなかった。

 

 私は、自分を被害者の立場に置いて、彼の暴走を周りや彼自身のせいにした。

 自分の事で手いっぱいで、彼を救おうとすらしなかった。

 そのくせ、彼を失って自暴自棄になって、自分の命をも捨てようとした。

 ほんの少しでも、自分以外に目を向けて、重いものを一緒に背負う…そんな生き方ができていたら、彼を死なせずに済んだはずなのに。

 せっかく持って生まれた頭脳の使い道に、どうしてもっと早くに気づかなかったんだろうと、後悔するばかりだった。

 

 

 

 今までの人生を振り返りながら、暗くて長いトンネルの中を歩く。

 ふと、前を見ると、懐かしい顔が見えた。

 

「……ママ…?」

 

 私の前には、ママが立っていた。

 ママは、私に何か言いたそうな顔をしていた。

 

「ごめんね…千寿……」

 

 ママは、私にしてきた仕打ちを謝ってきた。

 そして、私にあんな仕打ちをした理由を打ち明けた。

 彼女にとって、自分の理論を実現させる事は、何に代えても成し遂げたい悲願だった事。

 もし自分が生きている間に完成しなくても、研究を途切れさせないように、第二の自分として私を産んだ事。

 自分の事しか考えずに私に寂しい思いをさせた事を、死の間際になって初めて後悔した事。

 

「普通に愛せたら良かった。元気に育ってくれただけで、ありがとうって言えたら良かった。恨まれて当然よね…今更謝ったって、私を許せないと思うけど…」

 

「……確かに、アンタのおかげで、随分と無駄な時間を過ごしたわ。でも、アンタがアタシを今日まで生き抜かしてくれたおかげで、気づけた事もたくさんあった。だから、ママを許すわ」

 

 私がそう言うと、ママはトンネルの先を指差した。

 長いトンネルを歩いていくと、光が見えた。

 トンネルの出口の前には、サムがいた。

 サムは出口の前に立って、黙って私を見つめていた。

 ここで別れたら、二度と会えなくなる…そんな気がした。

 

「……わかってる。一緒に行こう、なんて言わないわ」

 

 彼は、元の世界でただ一人、私が好きになった人だった。

 生まれて初めてできた、友達だった。

 でももう、踏ん切りがついた。

 罪も、痛みも、全部背負って生きるって決めたから。

 

「アタシ、生きるよ。ママやアンタ…この国で出会った皆の分まで。皆に繋いでもらった命を、1秒も無駄にしねぇから。ゼッテーアンタよりいい男捕まえて幸せになってやるから、見とけっての」

 

 そう言って私が笑顔を浮かべると、サムは満足そうに満面の笑みを浮かべた。

 私は、サムを追い越してトンネルの外に出ようとした。

 すると、いきなり後ろからドンッと背中を強く押された。

 その勢いでトンネルの外に出て、後ろを振り向くと、さっきまでそこにいたサムはいなくなっていた。

 私は、心の中で「ありがとう」とだけ告げて、そのまま明るい陽の下を歩いた。

 

 

 

 

 

「カハッ……」

 

「チシヤ…」

 

 チシヤが、血を吐きながら咳き込む。

 さっきより、顔色が悪くなってる。

 私は、チシヤの手首に指を当てて脈を測った。

 少しずつ、脈が弱くなってきていて、呼吸も荒い。

 このままだと、時間の問題ね…

 それでも、少しでも延命する為にチシヤを介抱していると、彼が私に話しかけてくる。

 

「ねぇ…ツエダ」

 

「なぁに?」

 

「オレは…アンタと出会えて、良かったよ」

 

「どうしたのよ、急に」

 

「アンタだけじゃない…クズリューとか…アリスとか……この国で出会った人達のおかげで…オレは…変わりたいって…思えたんだろうな…」

 

「……うん」

 

「それと……アンタが作ってくれた料理…悪くなかったよ」

 

 何を今更…そんなの、知ってるわよ。

 なんだかんだ、米粒ひとつ残らず食べてくれてたじゃない。

 

「そんなの、何度だって作ってやるわよ。だからアンタは、アタシより1秒でも永く生きろよ」

 

 私は、少しずつ死に近づいていくチシヤを繫ぎ留めるかのように、彼の手を握った。

 するとチシヤは、弱々しく私の手を握り返した。

 私がチシヤの手を握って話していると、ニラギが口を開く。

 

「オレは除け者かよ…ムカつくな…」

 

「アンタはどうせ、ちょっとやそっとじゃくたばらないでしょ?最期まで足掻いて生き抜きなさいよ」

 

「言われ…なくても…ゲホッ、そうして…やるよ……」

 

 私が言うと、ニラギは咳き込みながら答える。

 私も、前は世界なんか要らないって思ってたから、彼の気持ちはわかる。

 だけどママが、サムが、この国で出会った人達が、私を変えてくれた。

 彼にも、そういう人が見つかるといいな。

 

「…ニラギ。アタシはさ、アンタがずっと嫌われ続けて独りぼっちなんて事は、ないと思うよ。多分世の中って上手くできててさ…きっとどこかには、世界を敵に回してでも、アンタの味方でいてくれる変わり者がいるんだよ。アンタにもいつか、そういう奴が見つかるといいね」

 

「そんな奴…いるわけ…ねぇだろ……」

 

「本当にそうかな?案外、もう既に出会ってたりして」

 

 私は、そう言ってニヤリと笑った。

 ひょっとしたら、この『今際の国』にいたりしてな。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ウサギside

 

「アリ…ス…どうして…戻ってきて…くれないの…?このままじゃ…私も…もう…」

 

 私は、手首から血を流して、テーブルの上に伏せた。

 アリスは、ミラに盛られた幻覚剤と、ミラの話術のせいで、アリスは今にも『げぇむ』を『とちゅうきけん』しようとしていた。

 私は、アリスをこっちに引き戻す為に、自分の手首を切ってアリスに呼びかけた。

 だけど私がどんなに呼びかけても、アリスは意識を取り戻す事はなかった。

 頭が…朦朧としてきた……

 お願い…アリス、早く…戻ってきてよ……

 

「決死の訴えも、薬の力には無力…無力なのかしらね、人の想いは…」

 

 ミラは、心なしか残念そうに呟いた。

 もう…ダメ、なのかな……

 

 

 

「オレは………ただ…ウサギと…もう一度…手を繋ぎたい…」

 

「……アリス…?」

 

「ウサギとまた…一緒に…飯を食いたい…」

 

 アリス……

 あなたはまだ、そこにいるんだね…

 私もまだ、ここにいるよ…

 

「……私も…明日もあなたに、おはようって言いたい…」

 

「休みの日はどこにも行かずに…2人で家でゴロゴロしたい…」

 

「一度くらいは…2人で山に登りたい…」

 

「毎日…一緒に笑いたい…」

 

「たまには…喧嘩する日が、あってもいいよね…」

 

 私はただ…

 あなたに、そこにいてほしい。

 あなたがただ、生きていてくれるだけでいい…!!

 

「これは……どういう事…?薬の作用で彼の『生存本能』は、抑えられているはずなのに…?…そうか!これは…『保護本能』…『生きたい』という欲求は抑えられていても、『彼女(ウサギ)を守りたい』という本能だけが、今の彼を突き動かしているのね…」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アリスside

 

 俺は…ただ…

 ウサギに…

 そこにいてほしい…!

 

 ただ…ウサギが…

 生きてくれるだけでいい…!!

 

 俺は…ただ…!!

 

 

 

「オレは……ただ…君を、守りたい…!!」

 

 俺は、ウサギの腕を掴みながら言った。

 もう、負けない。

 ウサギが、ここにいてくれる限り。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 俺はウサギの右脇と出血箇所を布で縛って、止血をした。

 

「頼りないけどなんとかこれで、止血はできてるはずだ…」

 

「アリスこそ…本当にもう大丈夫なの…?」

 

「まだ頭がフワフワしてるよ…これって…薬のせいなんだよな…けど…今のオレがやるべき事は…ちゃんとわかってる…」

 

 俺は、ただ黙って俺達を見届けていたミラに言った。

 

「ウサギが待ってる…『げぇむ』を、終わらせようか…」

 

 俺は、ミラに『げぇむ』を続行する意志を伝えた。

 するとミラは、満面の笑みを浮かべて答えた。

 

「ええ、そうね」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 こうして俺とミラは、クロッケー対決を再開した。

 3セット目の途中、俺はミラに尋ねた。

 

「結局は…アンタも…この国の『答え』なんて、何も知らなかったんだよな…?」

 

「……ええ。実のところ私達国民も皆、理由もわからず『げぇむ』を続けているだけなのよ…だからこの『今際の国』があなたの幻覚かもって可能性だって、実はまだ充分残っているのよ。でもいいじゃない。『答え』探しはもう、やめたんでしょ?」

 

「……そうだな」

 

「……けどそれも、『答えを求めない』という、多くの中の1つの『答え』に過ぎないけど♡」

 

 そう言ってミラは、無邪気な笑顔を浮かべた。

 俺はまだ、一番尋ねたい事が、ミラにあった。

 

「…最後まで、わからない事が1つあるんだ…本当にオレを陥れる為だけに…あれだけの嘘をついたのかな…?アンタの狙いは…本当は…何がしたかったんだ…?オレを、救おうとしたのか?」

 

 俺が尋ねると、ミラは少し寂しそうに、俯きながら言った。

 

「精神科医とは…誰かを助ける事が報酬。目の前の相手が救われていくのは、我が事のように嬉しいけれど、目の前から相手が巣立っていくのは、また自分だけが取り残されるようで何より寂しい…耐え難く、救いようのないジレンマ…だから私は国民になって、こんな事を続けているのね…」

 

 俺には未だに、ミラの心が見えない。

 だけど彼女の今の言葉は、本当の言葉であるように思えた。

 

「ちなみに、私がついた嘘は、この国の『答え』に関してだけよ。アリス、人生はゲーム。楽しみなさい」

 

 そう言ってミラは、俺に微笑んだ。

 その後は、ミラはこれといって、大した話はしなかった…

 

 ただ…

 こんな時に、不謹慎な気も少ししたが…

 

 最後のミラとのクロッケーは、少し、楽しかった…

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 日付が変わる直前、俺とミラは3セット目をやり終えた。

 すると飛行船から、アナウンスが聴こえる。

 

《『ぷれいやぁ』が3セットを最後までやり終える事ができました。『げぇむ』終了です》

 

 俺が最後まで『げぇむ』を続けた事で、ミラの『げぇむおおばぁ』が確定した。

 ミラは、思い残す事が何も無いかのように微笑んだ。

 その直後だった。

 

 

 

 

 

 ――ピィン!!

 

 

 

 ――ズッ…

 

 

 

 ――ドサッ…

 

 

 

 

 

 ミラの身体を、レーザーが貫いた。

 ミラは、その場で力無く芝生の上に倒れ込む。

 

《『げぇむくりあ』》

 

 タワーの上に浮かんでいた飛行船から吊り下げられていたタペストリーの表示が、『♡Q(はあとのくいいん)』から『げぇむくりあ』に変わる。

 その直後、飛行船が内側から爆発し、炎を上げながら墜落した。

 こうして、俺達の最後の『げぇむ』が幕を閉じた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒーロside

 

《『げぇむくりあ』。『げぇむくりあ』》

 

 機械音声と共に、無数の花火が上がる。

 

「ぎゃはは!アイツら、『くりあ』しやがったァ!!」

 

「ウチにはわかっとったで!!やってのけてくれるってな!!」

 

「2人とも、無事だといいですね…」

 

 私達は、アリス君とウサギちゃんの勝利を、皆で喜び合った。

 クイナさんに至っては、アンさんの身体を持ち上げて大喜びしていた。

 だけど、その直後だった。

 

《おめでとうございます。ただ今を持ちまして、()()の全ての『げぇむ』が『くりあ』されました。これより、生き残った『ぷれいやぁ』の皆様全員には、この『今際の国』の国民となって()()の『げぇむ』に参加する事が出来る『永住権』を、取得するか放棄するかの選択が与えられます。それぞれがお答え下さい。この国に永遠に身を置き、これからも殺し合いを続ける権利を、『手にする』か『手にしない』かを》

 

 どこからか、アナウンスが流れる。

 すると他の皆がどよめく。

 

「『永住権』…!?」

 

「何…それ!?」

 

「『手にしない』を選んだ人達は、どうなったんでしょうか…?」

 

「元の世界に…戻れるんでしょ…!?」

 

「それは…『永住権』を手離して、ここにいない人間にしかわからないよ…」

 

「例のビームが降ってきて、その場で強制退国…とかね」

 

 ヘイヤが言うと、他の皆が黙り込む。

 レーザーで撃ち抜かれて今殺されるくらいなら、国民になった方がマシってわけね…

 だけどその時、クイナさんが迷う皆に喝を入れた。

 

「ビームが怖あて国民になりますってか…?アホぬかすな!元の世界に戻れるかどうかやない、戻りたいかどうかやろ?少なくともウチはその為に、今日まで戦ってきたんや…聞かれるまでもあらへん。ウチが選ぶのは、『永住権を手にせぇへん』や!」

 

「オレも、そんなものは『手にしません』!」

 

「当然、『手にしないわ』よ」

 

「『手にしない』」

 

「『手にしてたまるか』っての!」

 

「私も、『手にしない』!!」

 

「『手にしない』わ!」

 

「『手にするわけねー』だろッ!!」

 

「『手にしない』……かな」

 

「『手にしない』に決まってるでしょ!」

 

 クイナさん、ドードー君、アンさん、マヒルさん、ヘイヤ、マシロさん、アカリさん、キシベさん、レイ、キズナちゃんは、全員『手にしない』を選んだ。

 私は……

 

「私は、永住権を『手にしない』」

 

 当然、『手にしない』を選んだ。

 元の世界に戻って、父さんや兄さん達と、仲直りするんだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アグニside

 

 俺は、空に浮かぶ花火を見上げた。

 『永住権』か…

 

「『手には、しねぇ』…!!」

 

 俺は、『手にしない』を選んだ。

 ずっと、死に場所を探していた。

 だが国民になって『げぇむ』に参加し続けるくらいなら、もう…この国には、いなくていい。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヤブヤベside

 

 ウチは、ヤバはんとバンダはんの2人と一緒に花火を眺めとった。

 『永住権』なぁ……

 

「無論、『手にする』だ!!」

 

「僕も…有り難く『手にしよう』か…」

 

 ヤバはんとバンダはんは、『永住権』を手に入れはった。

 ウチも手にさしてもらおかな。

 どうせ元の世界に戻っても、暇やさかいなぁ。

 

「ウチも、『手にさしてもらいます』」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ネズミside

 

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』を『くりあ』した後、俺達は『♡Q(はあとのくいいん)』が『くりあ』されるのを見届けていた。

 すっかり日も暮れて辺りが暗くなってきた頃、夜空に花火が上がり、俺達は『永住権』の選択を迫られた。

 

「『手にしない』!!」

 

「オレも…そんなもんは『手にしねぇ』」

 

「『手にしないわよ』!」

 

 俺、カタビラ、ダイナの三人は、『手にしない』を選んだ。

 元の世界に戻る為に皆でここまで頑張ってきたのに、『永住権』なんか手にしてたまるかよ。

 ビルは……

 

「『手にしない』、かな」

 

 ビルも、『手にしない』を選んだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ミツキside

 

 ヒーロちゃん達を見送った後、私は『♡Q(はあとのくいいん)』が『くりあ』されるのを見届けていた。

 すっかり日も暮れて辺りが暗くなってきた頃、『♡Q(はあとのくいいん)』が『くりあ』されて、夜空に花火が上がった。

 ヒーロちゃんとキズナちゃんが『くりあ』したのかしら…?

 なんて考えていると、『永住権』の選択を迫られた。

 

「『永住権』か…」

 

 私達は、顔を見合わせる。

 私は、皆で元の世界に戻る為に、今日まで頑張ってきた。

 だからもうこの世界に、用はない。

 

「『手にしないわ』」

 

「私も、『手にしないわ』」

 

「『手にしないわ』…」

 

「オレも『手にしません』」

 

「『手に…しない』…」

 

 私、カワズさん、サカナさん、タクマさん、コータ君は、『手にしない』を選んだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アリスside

 

「ウサギ…ありがとな…出会ってから今日までずっと、君には助けられてばかりだった…君がいなけりゃ…オレなんてとっくに死んでた…いや…助けてくれたのは…君だけじゃない…オレ1人の力で『くりあ』できた『げぇむ』なんて、ただの、1つもねぇ…!!一生感謝し続けたって、全然足りねぇよなァ…」

 

 俺は、血を失って弱っていくウサギの手を握って、涙を流しながら感謝を伝えた。

 俺が生きてここにいるのは、ウサギの…この国で出会った、皆のおかげだ。

 

「オレ…この気持ちをゼッテー忘れねぇから…皆が生かしてくれたこの命を、最期まで全力で使い切ってみせるから…だからもう、ここには用はない…オレは、『永住権を手にしない』」

 

「私…も、『手に…しな…い』」

 

 

 

◆◆◆

 

 

ツエダside

 

 私達は、空に浮かぶ花火を見上げた。

 『永住権』…か。

 

「オレ…は…『手にしなくていい…』かな…君達は…どうする気だい…?」

 

「さすがにもう…デスゲームは食傷気味だ…『手に…なんざ…するかよ』……」

 

 チシヤとニラギは、『手にしない』を選んだ。

 私は……

 

 この国に来たばかりの頃は、他人がどうなろうと知ったこっちゃなかった。

 自分さえ楽しければ、別に元の世界になんて帰れなくても良かった。

 だけど、今は違う。

 

 元の世界は、ここより生きづらいかもしれない。

 生きていたって、いい事なんて何もないのかもしれない。

 そう簡単には変われなくて、また誰かを傷つけるのかもしれない。

 それでも、最期まで足掻いて、生き抜いてやるんだって決めたから。

 だからもうこの国には、用はない。

 

「……アタシも、永住権を『手にしない』」

 

 

 

 

 

 

「………?」

 私が決断すると、花火が止んだ。

 私の目の前には、知らない誰かが立っていた。

 見るからに異様な光景に、チシヤも、ニラギも、反応しない。

 …もしかして、2人には見えてないの…?

 

 ふと視線を下にやると、ジョーカーのトランプが地面に落ちていた。

 コイツが…『じょおかあ』…ってわけね。

 

「私が…神に見えるか?それとも……悪魔に見えるか?」

 

 その質問を聞いて、私は悟った。

 この国では、私達『ぷれいやぁ』も、『でぃいらぁ』も、そして『今際の国』の国民も、皆等しく彼の奴隷だった。

 そしておそらくは、彼さえも……

 自分が何の為に存在しているのか、何の為に『今際の国』で生者と死者を選別しているのかもわからずに、膨大な時間の中で、『生きる』という時間を過ごしているだけの……

 

「ただの『暇人』でしょ?」

 

 私がそう答えた、その瞬間。

 

 

 

 

 

 ――ドンッ!!

 

 

 

 一際大きな花火が打ち上がって、上空で弾けた。

 目の前が、眩しい光に包まれる。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 あれ……?

 どこ、ここ…

 

 全身が痛い…

 うまく息ができない…

 私、何してたんだっけ…

 

「心肺蘇生!!意識レベルクリア!!」

 

「担架!!こっちだッ!!」

 

 ゆっくりと目を開けると、誰かが私の顔を覗き込んでいた。

 私の身体は、そのまま持ち上げられ、担架へと乗せられる。

 おそらく、私を担架に乗せたのは、救急隊員だと思う。

 

 視界を移すと、ひしゃげたタクシーの車体や瓦礫、割れたコンクリート…そしてあちこちで上がる炎が映り込む。

 救急車に乗せられる直前、人の形をかろうじて保った真っ黒焦げの何かに、救急隊員が黒いタグをつけているのが見えた。

 

 なんだろう……

 なんだか、ずっと…長い夢を見ていたような気がする……

 

 

 

 

 

 

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