Duchess in Borderland   作:M.T.

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びいち(4)

???side

 

「何やここ…どないなっとんねん…!?」

 

 気がつくと、ウチは荒廃した渋谷の街におった。

 ウチはさっきまで、オカンの看病してたはずやのに…

 どないなっとんねんこれ、オカンはどこや…!?

 

「…オカン?オカン!!どこやオカン!!」

 

 街中歩き回っても、誰もおらん。

 どないなっとんねんこれ…

 

 日が落ちかけた頃、さっきまで明かりがついとらんかったはずのコンサートホールに明かりがついた。

 何であそこだけ明かりがついとるんや?

 もしかしたら、あそこに人がおるかもしれんな。

 ……行ってみるか。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ツエダside

 

「……あら」

 

 『げぇむ』会場に足を踏み入れた私は、既に8人いる参加者のうち、ある一人の参加者に目をつけた。

 パーカーのフードを目深に被り、フードの中から猫っ毛のプラチナブロンドの長髪を覗かせているお兄さん。

 今から起こる事に怯えている他の参加者とは違って、iPhoneの充電をしながら音楽まで聴いちゃって、どこか余裕そう。

 もしかして、彼なら…

 暴君(ボーシヤ)が支配している『ビーチ(じごく)』を、ぶち壊してくれるかもしれない。

 なんて考えながら酒を飲んでいると、お兄さんがこっちを向いた。

 

「お姉さん、何か用?さっきから人の事ジロジロ見て」

 

 お兄さんは、イヤホンを外して、少し鼻にかかったテノールの声で私に話しかけてきた。

 向こうから話しかけてくれるなんて、好都合だこと♪

 

「いい人がいないか探してるの」

 

「…ふぅん。それで?」

 

「アナタを一目見て確信したの。アナタは、こちら側へ来るべきだわ」

 

「それ、新手の宗教勧誘か何か?」

 

「ウフフ♡そうかもねぇ。『げぇむ』が終わったら話してあげる。それまでお互い生きてたらいいね♪」

 

 私は、彼に向かってウインクをして手を振りながらその場を離れた。

 初心者じゃないだろうし、これ以上の馴れ合いは『げぇむ』が終わった後にしましょっと。

 ここで馴れ合っておいて『げぇむ』で死んだら、一番ダサいパターンだからね。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

???side

 

 変な女に目をつけられたと思った。

 『げぇむ』にビビってる他の参加者を見て、今回も皆死にそうだなぁ、なんて考えていると、派手な格好をした女が会場に入ってきた。

 その女は、俺が今まで出会った滞在者の中で一番異質だった。

 彫りが深くて日本人離れした顔立ちといい、複雑に色が混ざり合ったヘーゼルの瞳といい、ビジュアル系の服装といい、見た目からしてまず浮いていた。

 肌着みたいに着てる服、最初はレオタードかと思ったけど、よく見たら競泳水着だし。

 まあそんな事はどうでも良くて、俺が一番異質だと感じたのは、彼女の目だ。

 死線に恐怖を抱かない、異常者の目。

 この国に来ておかしくなったとかじゃなくて、元々どこかズレてるんだろうね。

 

「『げぇむ』が終わったら話してあげる。それまでお互い生きてたらいいね♪」

 

 やたらチラチラ見てくるのが鬱陶しいから話しかけたら、意味深な事を言うだけ言って去っていった。

 結局何がしたかったのかわからないけど、それよりもまずは、『げぇむ』で生き残らないとね。

 

「…おっと」

 

 また一人、参加者が増えたようだ♪

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ツエダside

 

「あら?」

 

 エントリー締め切りの数分前、誰かが会場に入ってきた。

 

「これは…何の集まりや?」

 

 エクステをつけたコーンロウの髪と小麦色の肌が眩しい、背の高いナイスバディなお姉さん。

 こういう喋り方、なんて言うんだっけ。

 確か…カンサイベン?

 服が全然汚れてないし、状況が飲み込めていないようだし、初参加者でしょうね。

 

「オネーサン、『げぇむ』は初めて?」

 

「は?『げぇむ』?アンタらここで何してんねん」

 

「そうね…これは夢や幻でなければ、何かの企画の類でもない、紛れもない現実…とでも言っておこうかしら。アナタは、命懸けの『げぇむ』に参加してしまったのよ」

 

「アカン、全然話が見えてけえへんのやけど…っちゅうか、アンタ誰?」

 

「アタシは、ツエダ。潰田千寿よ。アナタは?」

 

「…クイナや。水鶏光」

 

 クイナ…か。

 うん、彼女もいい。

 もしこの『げぇむ』で生き残れたら、彼女も『ビーチ』に誘おうかしら。

 

 なんて考えていると、パイプオルガンの演奏が聴こえる。

 これって…『猫ふんじゃった』よね?

 今回の『げぇむ』は、音楽に関するものなのかしら?

 

《皆様、東京ニューシティホールへようこそお越しくださいました。『げぇむ』を開始します。『げぇむ』、『ねこふんじゃった』。難易度、『♠︎4(すぺえどのよん)』》

 

 『♠︎4(すぺえどのよん)』…か。

 体力ゲーって時点でクソゲー確定だけど、『♠︎10(すぺえどのじゅう)』とかいう無理ゲーに比べれば百倍マシだわ。

 でも、全然『げぇむ』のイメージが掴めないのがなぁ。

 

「はぁ?スペード?4?」

 

「クイナって言ったわね。アナタ、体力には自信ある?」

 

「まぁ、ある方やけど…それがどないしたん?」

 

「良かったわね。『♠︎(すぺえど)』は体力ゲーよ。『4』はそこまで難しくないから、アナタなら生き残れるかも」

 

 私が軽く準備運動をしながら答えると、クイナが怪訝そうな表情を浮かべる。

 『難しくない』っていうのは、『この国基準では』って意味だけれどね。

 

《エントリー数無制限。賞品なし。制限時間10分。『るうる』の説明。制限時間内に『じんち』に『たっち』できれば『げぇむくりあ』。制限時間内に『じんち』に『たっち』できなかった場合、もしくは参加者が全員『ねこ』に殺された場合は『げぇむおおばぁ』》

 

「やけに…シンプルな『るうる』なのね」

 

「あの…『じんち』って…?」

 

 私がタバコを吸っていると、長い髪をポニーテールにした小柄な女子高生が話しかけてきた。

 ふぅ〜ん、なかなか美人じゃん。

 ミラやアンほどじゃないけどね。

 つーかチチでけーな。

 何カップだろ、興味湧いたわ。

 

「……オマエ、アタシよりカワイイな」

 

「へっ?」

 

 私が女子高生を見ながら言うと、女子高生はきょとんとする。

 その直後、ステージの幕が上がる。

 

「へぇ〜…なかなかイカレてんじゃん、『♠︎4(すぺえどのよん)』」

 

 ステージは鉄の柵で仕切られていて、明らかに人間の声ではない低い唸り声が聴こえた。

 ステージ上にいたのは、腹を空かせて唸り声をあげている、巨大なライオンだった。

 …わぁ、随分とまあデッカいネコちゃんだこと。

 

 そしてライオンがいる柵の奥のパイプオルガンには、『じんち』と書かれたプレートが取り付けられた赤いボタンが設置されていた。

 なるほど、あれを押せば『げぇむくりあ』ってわけね。

 

《それでは、『げぇむすたあと』》

 

 あ、始まった。

 なんて呑気に考えていると、ステージの柵が上に上がる。

 

「うわああああああああ!!!」

 

 ライオンが一斉に飛びかかってくると、参加者達は悲鳴を上げて逃げる。

 私はその場で突っ立って、ライオンをやり過ごした。

 

 狩りだって、突き詰めれば頭脳戦、要は相手の行動の読み合いじゃん?

 生き残る為には、相手の習性をよく知らないとダメ。

 サバンナでは、自分より弱い奴を狩るのが鉄則。

 攻撃的な敵を積極的に狩りに行くバカな獣はいない。

 エサになるのが嫌なら、ハッタリでも闘う意志を見せないと。

 

「ひぃっ、ひぃっ!」

 

 さっきのオッパイちゃんも含めて、他の参加者は、泣き喚きながら通路を逃げた。

 馬鹿だねぇ。

 相手は野生動物だよ?

 馬鹿みたいに一直線に逃げて、ヒトの足でライオンから逃げ切れるわけないじゃん。

 まあ、アンタらが勝手に囮になってくれてるおかげで、私は逃げ切りがやりやすいけどさ。

 

「たっ、助け…あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」

 

 一番後ろを走っていた参加者が、ライオンに飛びつかれて腹を貪り食われた。

 他のライオンも、パニックを起こしてホールの扉を叩いている参加者に襲いかかった。

 

「ま、そりゃあそうなるよね。逃げる獲物を追うのが肉食動物の習性。背を向けて逃げたら狙われるに決まってるじゃん♪」

 

 ライオンが他の参加者を襲っている間に、さっきのパーカーのお兄さんは、静かにゆっくりとその場を離れた。

 うん、やっぱり彼に目をつけた私の判断は間違いじゃなかったわ♪

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

クイナside

 

「ひっ、ひっ…!!」

 

 ウチは、咄嗟の判断ができずに逃げ遅れたおかげで、運良くライオンに狙われずに済んだ。

 恐る恐る振り向くと、ホールの出入口の前では、先に逃げた連中をライオンが生きたまま貪り食うとった。

 

 ほっ、ホンマに人が死んだ…

 何が『ねこふんじゃった』じゃ!

 あんなん、猫ちゃうやんか!!

 

 ウチは、その場で震えながら、さっきウチに話しかけてきたツエダとかいう女を恨んだ。

 難しないって…どこがやねん……あんの嘘つき…!!

 

「夢でも…見とるんとちゃうか…!?」

 

 こんなん、絶対夢やろ…

 このまま死ねば、目ぇ覚めたりして……

 

 

 

 ――光。アンタはもっと、自分の幸せを考えたらええんや。

 

 

 

「オカン……」

 

 生き残るのを諦めかけたその時、ウチはオカンの言葉を思い出した。

 死んでたまるか。

 病気のオカン遺して、こないなところで死ねるか…!!

 

「ごめんなさい、ごめんなさいお父さぁん!!もうやめて、ゆるしてぇ!!」

 

 冷静になって顔を上げると、ライオンに腸を引き摺り出されて貪り食われとる女が目に留まる。

 女は、パニックになって泣きながらワケのわからん事を叫んどった。

 

 ウチは、ああはなりとうない。

 ウチは、何が何でも生きて、元の世界に帰る。

 元の世界に帰って、オカンに楽させたるんや!

 

 

 

「せいぜい20%…」

 

「…え?」

 

 どこかで聴いたような声が聴こえて、振り向くと、赤いリップが引かれた唇が目に留まる。

 さっきこの『げぇむ』が難しないとか嘘つきよった女、ツエダやった。

 

「サバンナでのライオンの狩りの成功率よ。ライオンは狩りが下手だから、狙った獲物のほとんどを取り逃しちゃうんですって。だから奴等は、他の肉食動物から獲物を横取りするの。百獣の王なんて呼ばれてるけど、命の危険を冒してまで戦うより、その辺に落ちてるエサを喰うのが奴等の生き方なのよ」

 

「何が…言いたいねん?」

 

「所詮は獣。アイツらはアタシ達より、目の前の肉に執着するはず。()()がまだ残ってるうちは、アタシ達が狙われる事はないわ。今のうちに、『じんち』を『たっち』しちゃいましょう」

 

 ツエダは、出入り口を顎でしゃくりながら言いよった。

 出入り口には、さっきまで他の連中()()()肉の塊が大量に転がっとった。

 かろうじてまだ息はあるけど、完全に萎縮して逃げられん奴もおった。

 しゃあないっちゅうんは、わかっとるけど…

 

「他の連中は、見殺しかいな…」

 

「まあ仕方ないよね。生き残る為には、犠牲はつきもの。特にこの世界ではね♪」

 

 パーカーを着た不気味な男が、ウチらに話しかけてきよった。

 コイツ、まだ生き残っとったんや…

 パーカーの男は、ツエダをチラッと見ると、ツエダのリュックを指さして口を開いた。

 

「お姉さん、そのリュック貸してくれないかな」

 

「え?」

 

「ライオンが『じんち』に近づかないようにオレが見張っとくから、2人は『じんち』を『たっち』してきちゃってよ♪」

 

 男が言いよると、ツエダはコイツが何を言いたいかわかったんか、コクッと頷いてリュックを差し出した。

 

「…わかったわ。クイナ、ついてきて」

 

 ツエダは、ウチの腕を掴んでステージへと走り出した。

 残り時間は、あと5分…

 迷っとる場合ちゃうよな。

 ウチとツエダは、『じんち』があるステージに上がった。

 

「っ!?」

 

 嫌な予感がして飛び退いた次の瞬間、何かがウチの目の前を横切った。

 振り向くとそこには、毛を逆立てた巨大な虎がおった。

 虎はウチらの方を向き直すと、姿勢を低くして今にも飛びかかろうとしよった。

 

「ひ…!!」

 

 虎が牙を剥いてウチに迫った、その瞬間。

 

 

 

 ――パァン…パァン!!

 

 

 

 コンサートホールのステージに、銃声が響いた。

 虎は、ウチに飛びかかる事はなく、左前脚から血を流してよろめいた。

 ウチの目の前には、拳銃を構えたツエダがおった。

 

「クイナ!行って!」

 

 ツエダの声で、ウチは我に返った。

 何やっとんねん、こないなとこで足止めとる場合ちゃうやろ…!!

 ウチは、生きて元の世界に帰るんや。

 負けてたまるか!!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ツエダside

 

 クイナが『じんち』に向かって走り出したのを確認した私は、虎にハンドガンの銃口を向ける。

 虎は、脚を怪我してもよろめきながら立ち上がり、私を睨みつけてきた。

 おお、こわいこわい。

 

「あらら。行儀の悪い仔猫ちゃんね。調教してあげる♡」

 

 私は唇をぺろっと舐めてから、向かってくる虎に迷わず銃弾を撃ち込んだ。

 その頃観客席では、ライオンが他の参加者を食い尽くしてこっちに狙いを定めてきたので、お兄さんが私のリュックに入っていた酒でモロトフ・カクテルを作り、襲いかかってきたライオンを燃やした。

 他のライオンは、最初に飛び出したライオンがお兄さんに火をつけられたのを見て怯んでいた。

 

 あんにゃろっ、よくも私の酒を…どれだけ手に入れるの苦労したと思ってんだクソが。

 まあ、そのおかげでライオンの心配はしなくていいけどさ。

 お兄さんは、私のリュックに酒が入ってるのを知ってて、私にリュックを貸すよう言ってきた。

 やっぱり、仲間の存在ってデカいわね。

 

 なんて考えている間にも、私が何発も銃弾を撃ち込んだはずの虎がまだ立ち上がる。

 拳銃の威力で虎を殺すのは、流石に無理か…

 

 目や脚を狙って撃ってるはずなのに、聴覚と嗅覚を頼りに私に襲いかかってくる。

 野生動物って、普通は銃で撃たれたら逃げてくはずなんだけどねぇ…

 

 コイツに恨みはないけど、食われて死ぬのは流石に嫌だからね。

 ここで殺しておくのが確実──

 

「!!」

 

 クソっ、弾詰まり(ジャム)…!!

 こんな時に…!!

 

「おい!」

 

 声のした方を振り向くと、お兄さんが私にハンドガンを投げてきた。

 ナイス…!

 

 お兄さんからハンドガンを受け取った私は、再び銃弾を虎に撃ち込んだ。

 すると虎は、血を吐きながらもがき苦しんだかと思うと、最後の力を振り絞って私に襲いかかってきた。

 私が油断なくハンドガンを構えた、その時。

 

「やあああああっ!!」

 

 クイナの声と、バン、と何かを叩く音が響いた。

 チラッと上を見ると、パイプオルガンの上に登ったクイナが、『じんち』に『たっち』していた。

 その瞬間──

 

 

 

 ――ボンッ!!

 

 

 

「…!!」

 

 突然、虎の身体から爆発音が聴こえ、虎は血を吐いて絶命した。

 客席にいたライオンも同じく、大量の血を流してその場に倒れていた。

 何よ今の…身体の中に爆弾でも仕込まれてたのか…?

 ……もしかして、私達が『げぇむくりあ』したから、殺処分された…?

 …まあいいや、今回も生き残れたぜ、やったぁ。

 

《こんぐらちゅれいしょん。げぇむ『くりあ』》

 

 『げぇむくりあ』と同時に、天井のスプリンクラーから消火剤が噴射されて、お兄さんがホールに点けた火が消える。

 

「……助かった…よな?」

 

 『げぇむくりあ』を知らせるアナウンスが鳴ると、クイナがため息をつきながらパイプオルガンから降りた。

 今回は、クイナとお兄さんのおかげで助かったわ。

 

「ええ。アンタ達のおかげよ」

 

 私は、笑顔を浮かべてクイナに握手を求めた。

 するとその時、追加のアナウンスが鳴る。

 

《これより、『げぇむ』に生き残った方への『びざ』を発行いたします》

 

「『びざ』?」

 

「この国で生きていく為には、『びざ』と呼ばれる入国許可証が必要なのさ。『げぇむ』を『くりあ』すると、難易度に応じた『びざ』が貰えるんだ。今回の難易度は『♠︎4(すぺえどのよん)』だったから、オレ達はあと4日生きられるってわけ」

 

 クイナがきょとんとしていると、お兄さんがフードを脱ぎながら説明した。

 縦に長い逆三角形の輪郭に、切れ長の目。

 色白で、遠目で見たら女にも見える中性的な顔立ちという印象だ。

 

「……アンタ、何モンなん?」

 

「オレは、苣屋(チシヤ)駿太郎」

 

 チシヤ…ねぇ。

 レタスかよ。

 

「はい、お姉さんの分の『びざ』」

 

「ありがと」

 

 先に『びざ』を受け取ったチシヤが、私とクイナにトランプと『びざ』を手渡してきた。

 『びざ』のレジからは、トランプと『びざ』が4()()()()発行された。

 

 ………ん?

 4枚?

 生き残ったのは、私とチシヤとクイナだけのはず…

 

「……まさか、ね」

 

 もしかして、と思った私は、ステージから降りて出入り口に向かった。

 出入り口には、血を流したライオンの死骸と、腹を食い破られた他の参加者の死体が転がっていた。

 大量の肉塊の中から、微かに声が聴こえる。

 

 見ると、さっきのオッパイちゃんがまだ息をしていた。

 お腹を食い破られて、胃腸を引き摺り出されて、胃の内容物とウンチがはみ出ている。

 可哀想に、食われてる途中に私達が『げぇむくりあ』しちゃったから、楽に死ねなかったのね。

 

 あーあ、ここ最近の滞在者の中じゃ、見た目だけは上澄みだったのになぁ。

 まあ、命を投げ出してまで助けたいかって言われれば、全然そんな事はなかったんだけどね?

 

「ぁ……す……け………」

 

 私が近寄ると、彼女が助けを求めてくる。

 私は彼女に微笑みかけると、迷わず眉間と心臓に一発ずつ銃弾を撃ち込んだ。

 

 はい、死亡(ゲームオーバー)

 脳と心臓を破壊されたら、流石に即死でしょ。

 私がハンドガンをチシヤに返すと、クイナが私に掴みかかってきた。

 

「アンタ…何しとんんねん!?」

 

「助けてあげたのよ、地獄の苦しみから」

 

「せやからって、殺したんか…!?」

 

「だったらハラワタ食い破られてゲロとクソひり出してるこの子が、この先どんな一生を送るっていうのよ?この国じゃ、綺麗事なんか道端のゴミほどの価値も無いんだよ」

 

「彼女の言う通り。どのみち治療したって助からないよ。まともな医療機器のないこの国じゃあね」

 

 私が無表情のままクイナに反論し、チシヤも私の味方をすると、クイナは悔しそうに俯いて私の肩から手を離した。

 この国じゃ、非情になれなきゃ生きていけない。

 むしろこの先地獄を見なくて済むという意味じゃ、ここで死ねた方が幸せだったのかもね。

 

「それよりさ。無事『くりあ』した事だし、そろそろしてくれよ。『げぇむ』が終わったらしてくれる話とやらを」

 

 チシヤが、ポケットに手を突っ込んで話しかけてくる。

 そういえば、そんな事言ってたわね。

 私は、他の参加者の死骸からトランプを回収しながら口を開く。

 

「そうね。アナタ達は、元の世界に帰れるって言ったら信じる?」

 

「…ふぅん、そういう話か」

 

「元の世界に戻れるって…それ、ホンマなんか!?」

 

 私が尋ねると、チシヤが面白そうな表情を浮かべ、クイナが驚いた表情を浮かべて私に聞き返す。

 私は、二人の反応を聴きつつも、回収したトランプを確認する。

 犠牲者7人でトランプ13枚か…まあまあな収穫じゃナイ?

 

「アタシ達は『答え』を知ってるわ。元の世界に帰りたいなら、一緒にいらっしゃい♡」

 

 私は、薄ら笑いを浮かべて、何もないはずの場所からトランプを出す手品を見せながら答えた。

 『答え』を知ってるなんて、真っ赤な嘘。

 それがボーシヤとアグニ、そして私だけが知ってる真実。

 まやかしに染まり切った楽園をぶち壊す為に、利用させてもらうわよ♪

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その後、私は二人を『ビーチ』に連れ帰った。

 私がボーシヤに二人を紹介すると、ボーシヤは二人に『ビーチ』のルールを説明した。

 新入りへの『ビーチ』のルール説明は、必ずNo.1であるボーシヤがする事になっているのだ。

 

「『ビーチ』での『ルール』は3つ。1つは、『『ビーチ』内では、水着着用』!!気持ちは身なりからだ!ここでは酒におぼれるも、クスリでキマるも、女を抱きまくるも、諸君の自由!!好きに謳歌したまえ、『生』を!!」

 

「何やそれ…アホらしっ」

 

 ボーシヤが言うと、クイナは呆れ返った。

 チシヤも、ボーシヤの事を冷め切った目で見ている。

 …いいね、この二人。

 やっぱり私の目に狂いはなかったわ。

 

 その後、ボーシヤ派のクズリューとアンが二人にロッカーキーを配り、二人は正式に『ビーチ』の仲間になった。

 二人のナンバーは、93と94。

 まあ未回収のカードもあるし、そのうち上がるでしょうけどね。

 

「さぁて、着いたぞ諸君。これが諸君の、待ちかねた『答え』!!『今際の国』から脱出する為の、唯一の『答え』だ!!」

 

 ボーシヤに案内されたチシヤとクイナは、メインロビーの壁に描かれたトランプの絵を見せられた。

 

「何や、これ……」

 

「『答え』っていうのは、こういう事か♪」

 

 クイナは呆然とし、チシヤは相変わらず不敵な笑みを浮かべていた。

 

「この地獄のような悪夢を終わらせる方法はただ一つ。それは、全てのトランプを集める事」

 

「ホンマに帰れるんか、元の世界に…」

 

「ああ、そうとも。選ばれたただ1()()がな」

 

 訝しげに眉間に皺を寄せるチシヤとクイナ、そして自信に満ちた表情を浮かべるボーシヤを少し離れた位置で眺める。

 ボーシヤはバサッとローブを翻し、声高に宣言した。

 

「『ビーチ』のルールはたったの3つ!!もうひとつは、『カードは全て『ビーチ』の財産』!!諸君の持ってるカードを1枚残らず、『ビーチ』の為に献上していただこう」

 

「もし『嫌だ』って言ったら、どうなっちゃうワケ?」

 

 ボーシヤが説明すると、チシヤが挑発するように尋ねる。

 この状況でも物怖じしないのは、よほど肝が据わっているか、ただのバカでしょうね。

 

「『ビーチ』の『ルール』はたったの3つ。最後の1つは…『裏切り者には死を』!!同志諸君が命を懸けて1人の出国者を誕生させる事が、『ビーチ』の悲願!!使命!!大義!!それを侮辱する者を、『ビーチ』は絶対に許さない…!!」

 

「っ、無い…!?」

 

 ボーシヤの言葉にハッとしたクイナが、ジーンズのポケットをまさぐる。

 私はニヤッと笑ってトランプを取り出す手品をしてみせ、私とチシヤとクイナ、それから『げぇむ』の犠牲者の分のトランプをボーシヤに献上した。

 するとボーシヤは、私が献上したトランプを見て高らかに笑う。

 

「カカカッ、『♢6(だいやのろく)』と『♠︎4(すぺえどのよん)』!我々は実にツイてる!これでまた一歩、出国に近づいた!」

 

「ねぇボーシヤ。この2人、いいと思わナイ?未回収のカードが手に入ったし、昇格させてあげてもいいと思うの。きっと役に立つわ」

 

「…フム。検討しておこう。ツエダ、まずは2人を部屋に案内してやれ」

 

「ええ、任せて」

 

 ボーシヤに部屋の案内を任された私は、色っぽくウインクをしてみせた。

 慣れた手つきでエレベーターを操作し、二人を案内した。

 エレベーターを降り、二人を連れて廊下を歩いていると、チシヤが暖色に灯った照明を見ながら口を開く。

 

「ここってホントに何でも揃ってるんだね」

 

「まあね。電気、水、ガス、食糧、寝床…人が暮らしていくのに必要なものは大体揃ってるわ。現実世界と同等か、それ以上の楽園と言っても過言ではないわね」

 

 そう言って私は、二人を3階の部屋へ案内した。

 ちょうど304号室と305号室の間で足を止める。

 ここが二人の新しい部屋だ。

 

「ついたわ。アナタ達の部屋はここよ。部屋の中にあるものは、好きに使って構わないから」

 

 304号室のドアを開けて電気をつけると、ゴミが散乱した汚部屋が視界に映る。

 ベッドの上には、カピカピの丸まったティッシュが大量に散らばっていた。

 …この部屋ちょっとイカ臭いわね。消臭剤撒いとくか。

 

「汚い部屋やなぁ…誰がこないな事してん」

 

「そこは大目に見てくれるかしら。下層は人員の入れ替わりが激しいから、掃除してる暇がないのよ。まあ明日の幹部会議で正式に昇格が決まれば、すぐにこの部屋を手放す事になるでしょうけど」

 

 とはいえ流石にこれはちょっと不快なので、部屋の中に散らばった汚物を手早くゴミ袋に投げ入れて一箇所に纏めた。

 この二人なら、この先『げぇむ』が激化して幹部の席に空きが出れば、幹部入りできるかもしれない。

 …ちょっと種を蒔いておこうかしら♪

 

「ああ、そうそう。一緒に『げぇむ』を『くりあ』したよしみだし、2人にはいい事教えてあげる。アナタ達はこの先どんなに頑張ってトランプ集めに貢献したって、一生No.1にはなれないわよ。それどころか、幹部にすらなれないかも」

 

「…はぁ?何やそれ、どういう意味や?」

 

「『ビーチ』の幹部は、ここ一ヶ月はずっとメンバーの入れ替わりがないの。今更新入りが正攻法で幹部の座を狙っても無駄よ。ボーシヤは、そう簡単には幹部を入れ替えない。どうしても幹部の座を手に入れたければ、()()()しかないわ」

 

「間引くて……」

 

 私が説明すると、クイナが顔を引き攣らせる。

 『ビーチ』の創設メンバーは、幹部の座が確約されている。

 ここを楽園にした創設メンバーが幹部になれるのは、当然の権利。

 たとえ今更どんなに有能な新入りが入ってきたって、ボーシヤの決定が覆る事はない。

 今の幹部が死なない限りは、ね。

 

 実際、それ狙いで私達幹部を殺そうとする奴もいるし、私も下剋上狙いの馬鹿に毒殺されそうになった事がある。

 まあ、今までに幹部の暗殺を企てた奴等は、全員失敗して制裁を喰らったんだけどね。

 

「…なんてね、冗談よ。幹部が『げぇむ』で死ねば、昇格のチャンスがあるかもねって話♪」

 

「何でアンタがそないな事知っとんねん」

 

「まあそりゃあ、アタシも幹部だから」

 

 クイナの質問に対し、私は『007』のキーを見せながら答える。

 するとチシヤは、ニヤリと笑みを浮かべて口を開く。

 

「なるほどね。じゃあアンタを間引けば、出国に一歩近づくわけだ♪」

 

 チシヤが大胆不敵な発言をすると、クイナがチシヤの方を振り向く。

 あら、冗談でも幹部の私に喧嘩を売るなんて、この子面白いじゃない♪

 ……やだ濡れちゃった。

 

「面白い事言うのね、ボウヤ。気に入ったわ。後でお姉さんとキモチイイ事しない?」

 

 私がレザージャケットをずらして肩を半分出しながら誘うと、チシヤはスッと目を細める。

 突き刺すような視線に、ぞくっと背筋が震え、お腹の奥がきゅんと疼く。

 アブナイ男は、なお好み♪

 

「…まぁ、いいわ。水着は1階の売店にあるから、好きなのを選んで着なさい。わからない事があったら、何でも聞いてね」

 

「キミはどうして会ったばかりのオレ達にそこまでしてくれるのかな?」

 

 私が水着の説明をすると、チシヤがごもっともな質問をする。

 確かに、普通に考えれば、私が今日あったばかりの二人にここまでする理由はない。

 私個人が興味を抱いたって事以外はね。

 

「そうねぇ。面白いからかしら?」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ウフフ、クイナゲット〜♪」

 

「飲みすぎやろ、アンタ。鬱陶しいわ」

 

「ねぇマスター、マンハッタンちょーだい」

 

「まだ飲むんかいな」

 

 私がクイナに抱きつくと、クイナは鬱陶しそうに私の肩を押した。

 馬鹿騒ぎしている連中をどこか呆れた目で見ているクイナは、ビキニを着て、パイポを咥えている。

 布面積の狭い黒のビキニが、小麦色の肌を美しく魅せている。

 クイナの水着姿に鼻の下を伸ばした野郎どもが彼女をナンパしようとしていたので、私は野郎どもを追い払ってクイナにだる絡みした。

 私、女もイケるのよね。

 

「一服どう?素晴らしい出会いに」

 

 私は、新しいタバコを一本出してクイナに勧めた。

 だけどクイナは、私が勧めたタバコに見向きもしなかった。

 

「…やめとくわ。ウチ、絶対に生きて元の世界に帰るって決めてん。身体は大事にせんとな」

 

「あら残念」

 

 せっかく好きな銘柄の話ができると思ったのにな。

 まあ、やめるっていうなら強要はしないけどさ。

 

「あ、そうだ」

 

 私は、クイナの耳元に顔を寄せて囁いた。

 

「男の子だって事、皆には黙っておくわね」

 

「…何でわかったん?」

 

 私がコソッと耳打ちすると、クイナは片眉を上げてボソッと呟く。

 ……やっぱりか。

 胸があるしアレがついてないけど、よく見たら骨格が男のソレだから、もしかしてって思ったのよね。

 

 なんて考えていると、仲間の男がマンハッタンを作って持ってきてくれた。

 夕陽を連想させる茜色のグラデーションがかかったカクテルから、真っ赤なサクランボを取り出して照明に当てると、お酒の滴がついたサクランボがルビーのように煌煌(きらきら)と輝く。

 私は、カクテルが染み込んだサクランボを口に含みながら、クイナの質問に答えた。

 

「女の勘♡」

 

「アンタは敵に回したないな…」

 

 私が言うと、クイナが顔を引き攣らせる。

 敵に回したくない、か……

 学生の頃、よく言われたわ。

 

 それにしても、いい役者が揃ったわ。

 チシヤとクイナなら、この地獄を終わらせてくれるかもしれない。

 

 私は、何も知らずにプールで騒いでいる馬鹿どもを眺めながら、カクテル・グラスに注がれたマンハッタンを飲み干す。

 せいぜい、楽園を謳歌しているといいわ。

 崩壊(おわり)の時まで、ね♪

 

 

 

 ───今際の国滞在34日目

 

 残り滞在可能日数 

 

 潰田千寿 25日

 

 

 

 

 




やっとチシヤとクイナが出てきました。
ごめんなさい、アリスとウサギが出てくるのはまだ先です。
私の母方の実家が関西にあるので、クイナの台詞は親戚の言葉遣いを意識して書いてますが、エセっぽく感じたらごめんなさい。

あとどうでもいい事ですが、私の書く二次創作は、他の作者さんの二次創作に比べて『♠︎(すぺえど)』がハードな印象。
ウチの作品では、他の二次創作だと『♠︎(すぺえど)』に分類されがちなスポーツ系の『げぇむ』は全部『♣︎(くらぶ)』に分類しちゃってます。
まあ難易度が高い『♠︎(すぺえど)』がクソゲーじゃないと、『♠︎7(すぺえどのなな)』で死にかけたヘイヤが可哀想なんでね。
あれは正直『♠︎10(すぺえどのじゅう)』でも良かった気がする。
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