Duchess in Borderland   作:M.T.

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やっと原作の時間軸に突入します。
ここまで長かった。


くらぶのさん(1)

 私には、親というものがいない。

 もちろん生物学的な生みの親はいたけれど、()()は私を産み落としただけの人で、母親ではなかった。

 彼女は、外資系の大手製薬会社の研究室室長だった。

 彼女のおかげで家はそれなりに裕福だったけれど、私の記憶の中にいる彼女はいつも新薬の研究に夢中で、愛情を向けられた事なんて一度もなかった。

 

 私が6歳の頃、母が本社の研究チームのリーダーに抜擢され、私は母に連れられてアメリカに移住した。

 それからというもの、母との関係はより希薄になっていった。

 毎日研究に没頭していた彼女は、私の世話をシッターに丸投げして、家で顔を合わせる事すらなくなった。

 欲しいものは何でも買ってくれたし、一日中家でパソコンをいじってても怒られなかったけど、それはあの人が優しいからじゃなくて、私の事なんてどうでも良かったからだ。

 

 父親なんてものは、はじめからいなかった。

 私の父親は、冷凍庫で保管された試験管。

 潔癖症で男嫌いだった母は、結婚どころか恋人すら作らず、精子バンクで優秀な外科医の精子を買って私を身籠った。

 

 10歳の私は母に内緒で、父親の素性を調べて会いに行った事がある。

 直接会って話す事はできなかったけれど、屋敷の庭で、親子三人で遊んでいる姿がハッキリと見えた。

 彼は、綺麗な奥さんとかわいい子に恵まれて、ごくありふれた幸せな家庭を築いていた。

 純白のベビードレスを着せられて、お姫様みたいに大事にされている赤ん坊は、私の腹違いの妹だった。

 私が無駄な時間を過ごしている間、あの子はどれだけ幸せだったんだろう。

 血を分けた父親と妹の幸せそうな笑顔を見て、私はひどく絶望した。

 

 そして、私の親と呼べる人は、もうどこにもいない。

 私が11の頃、母はあっけなく死んだ。

 学校帰りに部屋でパソコンをいじっていると、玄関から銃声が聴こえたので、私は階段の裏に身を隠しながら玄関を覗いた。

 

「ママ…?」

 

 玄関には、母が血まみれの姿で倒れていて、私と歳の近い少年が、ショットガンを持って立っていた。

 母は、彼女に恨みを持つ少年にショットガンで撃ち殺された。

 新薬での健康被害とかしょっちゅう出してるような会社だからいつかは恨みを買うだろうとは思ってたし、育児をシッターに丸投げしていたような親だったから、別に死んでもたいして悲しくなかった。

 

 すぐにその場から逃げようとしたけど、運悪く少年と目が合ってしまった。

 私は、念の為に母の書斎から護身用の拳銃を持ち出して、クローゼットの中に身を潜めた。

 だけどすぐに見つかって、私と少年はお互いに銃口を向け合う形になった。

 先に銃を構えたのは、向こうだった。

 でも結果的に彼は死に、私が生き残った。

 

 私にショットガンを突きつけた時、彼の目には迷いが生じた。

 その隙に、私は迷わず彼を撃ち殺した。

 

 彼はあの一瞬、私を撃つのを躊躇っていた。

 きっと、優しい人だったんだと思う。

 誰かに愛されて、誰かを愛して、慈しみ労わる事ができる人だった。

 私には、彼にあった『それ』が無かった。

 だからあの状況で、迷わず引き金を引けた。

 人を撃ち殺したというのに私は、罪悪感も、後悔も、何も感じなかった。

 

 私の名前は、千寿。

 誰よりも長生きできるようにと、母が願いを込めてつけてくれた名前だ。

 こういうの、名は体を表す…とでも言うのかしらね。

 私は、誰かを労われる優しい人達を殺しまくって、この『今際の国』で今日まで生き延びてきた。

 子供に見向きもしない毒親のせいで、人を殺しても何も感じない哀しきモンスターが生まれてしまった。

 そのおかげで、あの女の願い通りこうして長生きできてるんだから、皮肉なもんだよ。

 

 

 

「ねぇ。クイナはさぁ、母親の為に元の世界に帰りたいって言ってたよね」

 

 私は、ホテル内のバーカウンターで、カクテルを嗜みながらクイナに話しかけた。

 私が今飲んでいるのは、アフィニティ。

 スコッチと二種類のベルモットを混ぜて作るこのカクテルは、イギリス、フランス、イタリアの3国間の友好を表現していて、親しい間柄の人と呑むのに相応しいカクテルだ。

 私がクイナの言っていた事について尋ねると、クイナが片眉を上げて怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「何や、急にどないしてん」

 

「んーや、大切な人に会えないってどんな気持ちなんだろうって、急に思ってさ…」

 

 私はクイナに、『♡2(はあとのに)』の『げぇむ』の話をした。

 私は、死ぬのが全く怖くない。

 なんかこの世界に負けたみたいで癪だから、自分からは絶対に死なないけど、かといって死んだら死んだで「しょうがないか」って受け入れられる気がする。

 『♡2(はあとのに)』は、もし3車両目が毒ガス車両だったら、潔く死ぬつもりでドアを開けた。

 だからこそ私は、あの『げぇむ』で生き延びる事ができた。

 

 私が死ぬのが怖くないのはきっと、会いたいと思えるほど大切な人がいないからだと思う。

 クイナに出会って、私にはない『それ』を、知ってみたくなった。

 私の話を聞いたクイナは、禁煙パイポを咥えて、グレープフルーツのフレーバーを吸ってから口を開いた。

 

「大切な人に会えへん気持ちがどないなもんかって言うたな…」

 

「ええ」

 

「死ぬほどつらい。寝ても覚めても、ウチの頭ん中はオカンの事でいっぱいや。ウチが死んだら、オカンを独りにしてまう。せやからどないしんどうても、生きて帰りたいって思えんねん」

 

「そっか…クイナはママに愛されてたのね。羨ましいわ」

 

「アンタはちゃうんか?」

 

「親に愛されてたら、こんな性格になってないっつーの。はぁ〜、世の中バカとクズしかいないのかよぉ〜」

 

 私が愚痴を言うと、クイナは私の肩のタトゥーをチラッと見る。

 これは中学最後の年に、ティーンエイジャー特有の流行病(ちゅうにびょう)に罹って、若気の至りで入れたものだ。

 背伸びはしたいけど、進学や就職に不利になるから服で隠れるところに入れるっていうのが、我ながらみみっちいと思う。

 デザインそのものは気に入ってるし、後悔はしてないんだけどさ。

 私を見て大体のバックボーンを察したのか、クイナは私に哀れむような目を向けた。

 

「なーんか…アンタも可哀想なやっちゃな」

 

「可哀想?アタシが?」

 

「せや。メッチャ可哀想」

 

 クイナは、人に愛された事がない私を哀れんだ。

 …そっか、可哀想、か。

 ………あ、そうだ♪

 

「そうなのよ〜!アタシ、メッチャ可哀想なの!ああ〜ん、お願いだから慰めてぇ〜ん♡」

 

「真面目にアンタの話聞いたウチがアホやったわ…」

 

 私がクイナに抱きついて頬擦りすると、クイナが呆れ返る。

 あー、何か愚痴ったらスッキリしたわ。

 おなか空いてきたし、何か食べよ〜っと。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 滞在38日目。

 『げぇむ』に参加しに、愛車(ハーレー)をぶん回して夜の街へ繰り出していると、どこからか和楽器の音が聴こえてくる。

 近くに別の『げぇむ』会場もなかったので、バイクを走らせて音のする方向へ向かうと、祭囃子がハッキリと聴こえ、目を凝らしてみると神社に灯りがついていた。

 

「神社…?」

 

 目立たないように少し離れたところにバイクを停めて、神社の階段を登る。

 …っと、この階段やけに段差があるな。

 

「いやぁ〜…キツいネ。もう少し年配に優しくしろよなぁ〜」

 

 文句を垂れつつも階段を登り切って鳥居をくぐると、灯りのついた提灯が吊るされていて、中央にはモニターが、両脇には屋台が並んでいた。

 たこ焼き、焼きそば、リンゴ飴、綿飴、かき氷、チョコバナナ、クレープ、ヨーヨー、お面…パッと見ただけでもいろんな屋台がある。

 こういうの、確かエンニチっていうんだっけ?

 

 境内を歩いていると、チョコバナナの屋台が目に留まったので、並んでいたチョコバナナを一本手に取る。

 んん、長くて太ぉい♡

 黒光りしていて、逞しくそそり立ったそれを、先っぽだけ舐めてみた。

 

「あ、おいし♪」

 

 うん、これ割と好きな方の味♪

 手に取ったチョコバナナを一本完食した私は、次は何を食べようかと屋台を冷やかす。

 するとその時、ハイヒールの音がコツコツと聴こえ、誰かがこっちに来る。

 よく見ると、この前の『げぇむ』で生き残った初心者のお姉さんだった。

 …結局、生き延びる事にしたのね。

 

「…随分と、短いお別れだったわね」

 

「あなた、あの時の……」

 

 私がヒラヒラと手を振ると、お姉さんが私に気付く。

 お姉さんは私に歩み寄って、ペコっと頭を下げてきた。

 

「…あの時は、ありがとう。あなたのおかげで、もう少しだけ生きてみようと思えたの」

 

「今回は2人で生き残れるといいわね」

 

「ええ…」

 

 『げぇむ』会場に知った顔がいたからか、お姉さんは安心したような表情を浮かべた。

 …そういえば、彼女の名前、まだ聞いてなかったわね。

 『げぇむ』も2回目だというのに、いつまでも『オネーサン』じゃあねぇ?

 

「アタシはツエダよ。潰田千寿。ヨロシク♪」

 

「シブキよ。紫吹(シブキ)小織」

 

 私とシブキは、『げぇむ』開始前にお互い自己紹介をした。

 『げぇむ』の前に、少しでもお互いの事を知っておいた方がいいからねぇ。

 …もしかしたら、殺し合う『げぇむ』かもしれないけど。

 

 ふと、チラッとモニターに目を向ける。

 エントリー締め切りまでは、まだ3分以上時間がある。

 

「あ、そうだ。まだ『げぇむ』始まらないと思うし、今のうちにトイレ行っといたら?もう知ってると思うけど、『げぇむ』会場のトイレしか水が流れないから」

 

「あっ…そうね」

 

 私は、今のうちにトイレに行っておくようシブキに忠告した。

 するとシブキは、トイレに行きたかったのを思い出したのか、境内の公衆トイレに駆け込む。

 さ〜て、私もトイレ行っとこっと。

 

 トイレに入って、キャメルの箱を開ける。

 そしたらなんてこったい、タバコが最後の一本しか入っていなかった。

 

Holy shit(なんてこったい)…」

 

 まぢかぁ〜…

 中身入ってるかどうか確認しときゃあよかったな、ちくせう。

 この一本で今日の『げぇむ』を乗り切れるかぁ…?

 私が自分の軽率さに軽く絶望した、その時だった。

 

 

 

「だったらオレは遊ぶぞー!!にゃはははー!!」

 

「これうめー!!」

 

 外から、甲高い男の笑い声が聴こえてきた。

 若いな…まさかとは思うけど、子供じゃないよね?

 なんて思いつつもトイレの水を流して外に出ると、だ。

 

「ちょっと……待ってよ、冗談でしょ…!?よりによって、一緒の参加者が高校生だなんて…」

 

 私より先にトイレを出たシブキが、私達がトイレに行っている間に会場に来た他の参加者と合流していた。

 シブキと一緒にいたのは、若い男三人組だった。

 ボサボサの黒髪の男の子、金髪坊主頭の大人びたお兄さん、そして屋台のお面をつけた茶髪ハーフアップの男の子の三人組。

 うち二人は、学生服を着ているから、見たところ高校生っぽい。

 

 うわ、マジかぁ〜…

 見たとこ、初参加者だよね?

 しかも三人…

 ま、殺し合いの『げぇむ』だったら逆に好都合だけどさ。

 

「まー、2人よりかはマシなんじゃナイ?」

 

 私はそう言いながら、シブキに続けて公衆トイレから出た。

 

「チャオ☆」

 

 トイレから出た私は、サングラスを額に上げながら今来たばかりの三人に手を振った。

 

「おー、やっと夢ん中にも人が出てきたぞ。しかも、キレーなネーチャンだぁ!オネーサン達!一緒に遊びませんかーっ!?」

 

 ハーフアップの子は、浮かれた様子で私とシブキをナンパしてくる。

 それを見たシブキは、驚愕の表情を浮かべた。

 

「しかもあなた達…初参加者…!?もしかして、まだ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の…!?」

 

 シブキは、三人を指さして尋ねる。

 すると金髪のお兄さんは、何かを察したのか、目を見開いて踵を返し、来た道を戻ろうとする。

 

「オイ、アリス、チョータ!!ここはヤベェ!!今すぐ出るぞ!!」

 

「出られないわよ!」

 

「……あ!?」

 

 私が叫ぶと、お兄さんは鳥居の前で足を止めて振り返る。

 私は、さっき食べたチョコバナナの割り箸を指の先で弾いて、鳥居の外に放り出した。

 割り箸が鳥居の外に出た瞬間、ボォっと炎を上げて燃えた。

 

「…な!?何なんだよこりゃ…!?」

 

 お兄さんは、鳥居の外で燃えて炭になった割り箸を見て驚いていた。

 割り箸がボーダーラインを超えた瞬間、境内全体が赤いレーザーで囲まれる。

 

「もう…手遅れよ…あなた達はすでに…アイツらの『げぇむ』に、乗ってしまった…!!あなた達がもし、この世界をまだ夢か何かだと思っているのなら…そのままだと、死ぬわよ!!」

 

「…は!?」

 

 シブキが言うと、さっきアリスとチョータと呼ばれた男の子二人は、状況を飲み込めていないのかきょとんとした表情を浮かべる。

 その直後、境内の中心のやぐらに設置されていたモニターの一つが光り、『げぇむ』の文字が表示される。

 

「げ…『げぇむ』…!?」

 

 それを皮切りに、次々とモニターが光り、文字が表示される。

 

 《ようこそ》 《出口はどこにもありません》

 《エントリー受付終了まで 00:00:36》 《エントリー数 無制限 賞品 なし》

 

「ハハ…ま……祭りの余興か何かか…!?」

 

 黒髪の男の子は、モニターの文字を見て呆れたように笑っていた。

 モニターの一つに、トランプが表示される。

 今回の『げぇむ』難易度は、『♣︎3(くらぶのさん)』…

 

「『♣︎3(くらぶのさん)』…まだ私にもツキが残ってる…これが…最後のチャンス…」

 

 シブキは、表示されたトランプを見て、安堵と緊張が入り混じった表情を浮かべた。

 『♣︎(くらぶ)』…しかも難易度3なら…一人も犠牲者を出さずに『くりあ』できるかも。

 なんて考えていると、黒髪の男の子が話しかけてくる。

 

「な…なぁアンタら、『げぇむ』って一体何なんだよ…?」

 

「アタシはツエダよ。説明するから、3人とも落ち着いてよく聞いて。ここでは、アタシ達とアンタ達は運命共同体。『♣︎(くらぶ)』は比較的危険度の低い『げぇむ』…しかも難易度3なら、小さなヒントを見逃さずに5人で協力すれば、全員で生きてここから出られるかも。今から『るうる』の説明があるから、ちゃんと聞いときなさいよ」

 

 私がそう言った直後、ちょうど午後6時になり、エントリーの制限時間が0になる。

 そして一番下の一際大きいモニターに、『るうる』が表示された。

 

 

 

ーーー

 

るうる

 

・『おみくじ』を1人1回必ず引くこと

・全員が『おみくじ』を引き終えれば『げぇむ』は『くりあ』

・ちょうちんが消えるまでに1人でも『おみくじ』を引いていなければ『げぇむおおばぁ』

 

ーーー

 

 

 

 『るうる』が表示されたモニターの左隣のモニターに、境内の映像が映る。

 映像の提灯が一つ、また一つと消えていく。

 そして提灯が全て消えた瞬間、中心から爆発が起き、境内全体が爆炎に飲み込まれる。

 その光景を最後に、映像が消えた。

 

「な、なんだよこれ……!?」

 

 黒髪の男の子が呟いた、その時。

 フ、と提灯が一つ消えた。

 

「始まったわ…とにかく、『おみくじ』を引きましょう…」

 

「ええ」

 

 私とシブキは、早速『おみくじ』を引こうとした。

 すると黒髪の男の子が、私達に質問攻めしてくる。

 

「は…!?な…なぁ!ちょっと待ってくれよ…!!ルールって…あれだけなのか!?こりゃ一体何のゲームなんだよ!?ゲームオーバーとかワケわかんねーしよ!それに、さっきから死ぬとか生きるとか、まさか本気じゃないんだろ!?それにあと…アイツらって言ってたけど、一体誰の事なんだよ!?そもそもなんなんだよこの世界はっ!!?」

 

「うるさいわねっ!!!」

 

 黒髪の男の子が矢継ぎ早に質問すると、シブキが怒鳴る。

 

「質問ばっかしてないで、わかんないなら……少しは自分で考えなさいよ!!」

 

 シブキが怒鳴ると、男の子は萎縮して何も言えなくなる。

 これは、まずいわね…

 

「シブキ、怒鳴らないで。無闇に怒ったって、思考力を削ぐだけよ」

 

「……そうね」

 

 私がシブキを窘めると、シブキはフゥッと息を吐いた。

 『♣︎(くらぶ)』は、チームワークが重要な『げぇむ』。

 今から不協和を招いてちゃ、『くりあ』なんてできっこない。

 私は、まだ混乱している男の子に向かって、真顔で言い放つ。

 

「いい加減頭ん中切り替えな?その調子じゃ、すぐ死ぬよ?」

 

 私が言うと、男の子はようやく私達の話を少しは信じたのか、それ以上は何も聞いてこなかった。

 振り向くと、境内のおみくじ売り場に、六角柱のおみくじが置いてあった。

 

「こ…これか?」

 

「で…?どーすんだ?誰から引くよ…!?」

 

 黒髪の男の子とハーフアップの男の子は、互いに顔を見合わせる。

 ここは、経験者の私かシブキから引くべきなんだろうけど…

 え、待って、これどうやって引くの…?

 やべ、私、やり方知らないんだけど。

 「これってどうやるの?」って聞こうとしたその時、金髪のお兄さんが前に出る。

 

「慎重になるも何も…とにかく引いてみねーとわかんねーってんなら…オレが最初に引いてやるよ…!!」

 

 そう言ってお兄さんは、筒を逆さにしてよく振った。

 すると筒の底に開いた小さな穴から、細い木の棒が飛び出てくる。

 木の棒には数字が書かれていて、棒に描かれたのと同じ数字の引き出しがひとりでに開く。

 お兄さんは、開いた引き出しの中に入っていた紙を取り出した。

 あ、そうやってやるんだ。おけおけ、やり方覚えたわ。

 

「ねぇ、何が書いてあんの?見せてよ」

 

 私は、後ろからお兄さんの引いた『おみくじ』を覗いた。

 『おみくじ』には、『大吉』と書かれていた。

 

「あんたが大将…待人来まくり…方角南がよし…んだよこりゃ…!?」

 

「そ…それだけなのか…?」

 

「みてーだな」

 

「大吉だと、何も起こらないのかもね」

 

「何だよ、ビビって損したぜ。大吉引くとは、さすがカルベだな!よーし、次はオレが引くぞ〜!!」

 

 そう言ってハーフアップの男の子が、『おみくじ』を引いた。

 私がその様子を少し離れて見ていると、金髪のお兄さん…カルベが、私とシブキに話しかける。

 

「お前ら、この『げぇむ』っての、初めてじゃねーんだろ?……実際に、人が死ぬ場面を、見たんだな?」

 

「……そうよ」

 

 私達がカルベと話していると、だ。

 男の子二人の話し声が聴こえてくる。

 

「ちぇ〜、何だよ小吉だ。何だこれ…?なんか、問題が書いてあんぞ…?」

 

 背後が明るくなったので振り向くと、モニターに文字が表示されていた。

 

《『おみくじ』を引きし者は、その問いの答を声に出して答えよ》

 

 あ、大吉じゃなかったら問題が出るのね。

 なんて考えていると、カルベが私とシブキに話しかけてくる。

 

「だとしたら、デケェ疑問が1つあんだよ…命懸けの『げぇむ』から、生き残ったお前らが…何で自分からもう一度この『げぇむ』に、参加する必要があるんだ?お前らが本当にオレ達の味方なのか、せめてそれだけはハッキリさせておきたくてな」

 

「……少なくとも、今の私は…あなた達と同じ境遇よ。この先の事なんて…」

 

「ここを生きて出た人間が考えりゃいいって事だな。わかった。それでいいぜ」

 

 シブキが答えると、カルベが納得した。

 その直後。

 

「わかったぞアリス!!答えは、だいたい18だ!!」

 

「って、バカ野郎!!こんな時に、大体で答える奴があるかよッ!!」

 

 『おみくじ』を引いたハーフアップの男の子…確かチョータだっけ?が問題に答えた。

 すると、『ブーッ!』と音が鳴り、モニターが光る。

 

《正解は15》

 

「あー外れた…」

 

「……つーか、外れると…どうなるんだ…?」

 

 アリスって呼ばれてた黒髪の男の子が、恐る恐る口を開く。

 その次の瞬間、モニターの表示が切り替わる。

 

《解答を誤りし者は、誤差の数の火矢に射られる》

 

 その文字を見た私達の間に、緊張が走る。

 

「…ひ、火矢って、何だ……!?」

 

 唯一、『おみくじ』を引いたチョータだけは、状況が飲み込めずにきょとんとしていた。

 嫌な予感がして振り向くと、駅の方でキラッと何かが光る。

 

「オ…オイ、今…駅の方で、何か光ったよな…!?」

 

 黄色い炎が、こちらへ向かって真っ直ぐ飛んでくる。

 ……うわ、『♣︎3(くらぶのさん)』、殺意高くね?

 なんて思っていると、だ。

 

 

 

 ――ガギィィン!!

 

 

 

「……!!」

 

 近くに置いてあった狛犬に何かがぶつかり、硬い音が響いた。

 音に驚いたチョータが、後ろに飛び退いて尻餅をつく。

 

「うわぁっ!!!な…なんだァ…!?矢…!!?」

 

 狛犬に弾かれて、炎を纏った矢が宙を舞う。

 その直後、さっきまでチョータがいた場所に、矢が立て続けに2本飛んできた。

 チョータが転んだ拍子に落ちたひょっとこのお面に矢が当たって、お面が真っ二つに割れる。

 

「チョータァ!!」

 

「あ…危ねぇ…最初の矢で後ろに倒れてなかったら…オレ…今…死んでた…」

 

 チョータは、股の間に刺さった矢を見て腰を抜かしていた。

 

「本気で…殺す気で射ってきたのかよ…誰が…何の為に…!?」

 

 アリスは、地面に刺さった火矢を見て震えながら冷や汗を流していた。

 解答を外したら、誤差の数だけ火矢が飛んでくる…

 でも、解答を外しても死にはしない……

 ……随分と良心的な『げぇむ』なのね。

 

「外しても死にはしない…よかった、安心した。次、アタシが引くわね」

 

 そう言って私が『おみくじ』を引こうとすると、アリスが私を止めた。

 

「な…何考えてんだよ!?」

 

「時間内に『おみくじ』を引けなかったら、アタシ達全員死ぬのよ」

 

「だ、だからって…本物の矢が飛んでくるんだぞ!?もし次も間違ったらどーすんだよ!?それをわかってて自分から『おみくじ』を引くなんて、危険すぎるだろ!?」

 

「危険…?この程度で?」

 

 私が言うと、アリスは青ざめて何も言えなくなる。

 私が参加した『げぇむ』の中には、間違えたら一発アウトの『げぇむ』もあった。

 間違えても火矢を避けられれば死なないんだから、この『げぇむ』はまだ良心的よ。

 

 私は、筒を逆さにしてガラガラと振り、『おみくじ』を引いた。

 番号は、『十七』…

 『十七』の引き出しが開いたので、中に入っている『おみくじ』を取り出し、内容を確認する。

 

 運勢は『吉』…

 願事、おそいが叶う。

 待人、音信あり。

 商売、物価上下定まらず。

 方角、北が悪し。

 病気、信心第一なおる。

 恋愛、恋敵に注意。

 学問、決心が足りない。

 縁談、心かわらねば叶う。

 

「ねぇ、小吉と吉ってどっちが運勢いいんだっけ?」

 

「どっちでもいい、それより問題見せろ」

 

 私が尋ねると、カルベが私を急かす。

 問題は〜っと…え、何これ?

 『日本の国土面積は、世界61位です。では、海岸線の長さは世界何位?』…か。

 …いや、わかるかよ。

 私、ついこの前日本に帰ってきたばっかで、日本の事なんて全然知らないんだけど?

 

「地理の問題…?シブキ、正解わかる?」

 

「いいえ…でも、日本は島国だから、61位より下って事はないはずよ」

 

 私が尋ねると、シブキが答える。

 61位より上って事は、考え得る誤差は最大で60。

 でも61に近いと問題にする意味がないから、実際の数字と正解の誤差は想定以上に大きい…つまり、思っているより小さい数字のはず。

 大体1〜30…いや、もっと絞るなら、1〜20ってとこかしら?

 

 この問題、正解を知ってるかどうかは重要じゃない。

 解答を間違えても、生き残れれば『くりあ』はできる。

 『誤差の数だけ火矢が飛んでくる』、そこに何か重要な意味があるような気がしてならない。

 

 私が取るべき行動は、正解を当てに行く事じゃなくて、できるだけ正解と僅差の解答をする事。

 誤差を最小限に留めるには……

 …よし、決めた。

 

「じゃあ、答えは……10位よ!」

 

 私は、『おみくじ』の答えを口に出した。

 すると『ブーッ!』と不正解の音が鳴り、モニターの画面が切り替わる。

 

《正解は6》

 

「………ワリッ」

 

 私は、解答を外した事を、他の皆に小声で謝った。

 

「おい、来るぞ!!」

 

「今度は総合病院の方から…!!」

 

 今度は、病院の方から火矢が飛んでくる。

 誤差は、4本……!

 

「うわあああ!!来た、来たぁ!!」

 

「またかよ……!」

 

「逃げて!!」

 

 私は、パニックを起こしているチョータと、立ち尽くしているアリスに向かって叫びつつ、近くにあった獅子の後ろに身を隠した。

 その次の瞬間、私が隠れた獅子に、火矢が当たってガンッと弾かれる音が聴こえた。

 そして立て続けに、残りの矢三本が獅子の近くに飛んできた。

 ここ数日味わっていなかった命の危機に、私は思わず笑みを浮かべた。

 

The plot thickens(面白くなってきたじゃん)…♪」

 

 これで私は『おみくじ』を引き終わった。

 あとは、シブキとアリスだけ…

 

「『おみくじ』の運勢の良し悪しで、問題の難易度が変わるのね…次は私が『おみくじ』を引く…!」

 

 今度は、シブキが『おみくじ』を引いた。

 シブキは、『おみくじ』の問題を見て、絶望の表情を浮かべていた。

 

「……!!よりによって…凶だなんて…こんな問題…掴みどころがないじゃない…!」

 

「オレにも見せてくれ」

 

「アタシも」

 

 私とカルベは、シブキが引いた『おみくじ』の問題を確認する。

 『牛乳は牛の血液中の栄養素から作られていますが、1りっとるの牛乳をつくるのに必要な血液は何りっとる?』…?

 は…?何この問題、わかるわけないじゃん。

 こんなのわかる奴は、酪農家か変態、或いはその両方よ。

 

「正解を狙うのはキビシーな。せめて誤差を最小限におさえるんだ」

 

「そ…そうね、まず…少なくとも答えが1以下なんて事はあり得ないわ。出題の意図を考えると、予想以上に大きな数字なのかも…」

 

「さっきの問題は、ヒントと正解に50以上の誤差があった。だったら今回は、答えが100を超えてるかもよ」

 

「確かに、あり得るわね…だったら100……いえ、150でどうかしら?」

 

「いいぜ、乗った!」

 

「じゃあ…いくわよ…」

 

 シブキは、覚悟を決めて答えを言おうとする。

 カルベは、後ろで尻餅をついているアリスとチョータに声をかける。

 

「アリス、チョータ、覚悟はいいな?」

 

「ちょ…ちょっと待ってく…」

 

「答えは、150よ!!!」

 

 シブキは、混乱している二人を他所に答えを言った。

 またしても、『ブーッ!』と不正解の音が鳴る。

 

《正解は450》

 

 ………ファッ?

 よ、よんひゃくごじゅう?

 

「よ…450だぁ!?」

 

「そんな…!!」

 

「……マジかよ」

 

「ウ…ウソだ!!こんなのゼッテーインチキだ!!」

 

 あり得ない数字に、チョータはインチキだと喚く。

 

「おそらくこの答えは本当よ…だからこそアイツらは、私達により深く、絶望を与えられる…!!」

 

「それより、今気にしなきゃならねーのは…450ー150…300本の矢が!!来るぞ…!!!」

 

 今度は山の方から、無数の矢が飛んでくる。

 えーっと…今からでも入れる保険って、ありますか?

 

「今度は、山の方から…!!」

 

「どこでもいいから身を隠せ!!」

 

「うわああああっ!!」

 

 カルベが叫ぶと、私達は散り散りになって逃げ出した。

 だけどアリスだけは、空を見上げたままその場から動かなかった。

 

「アリス!!何やってんだ!!」

 

「あ…足が、動かねぇんだよ…」

 

 アリスは、その場で立ち尽くしたまま震えていた。

 マジかよ…

 私が歯噛みしたその時、カルベがアリスの背中を蹴った。

 

「生きてぇんなら、シャキッとしろアリス!!お前ならできんだろ!!オレのダチなんだからよ!!」

 

 カルベが叫ぶと、アリスは全力で走り出した。

 私達は、火矢の雨の中を走って逃げた。

 ふと東の方を見ると、火の矢がすぐそこまで迫っていた。

 私は咄嗟に、隣を走っていたアリスに飛びついて、アリスを突き飛ばしながらそのまま一緒に地面に倒れ込んだ。

 私達が倒れ込んだ位置の近くにちょうど御神木があって、御神木が盾になって火矢から私達を守ってくれた。

 アリスに飛びついた時に落としたサングラスを、火矢が貫いて真っ二つに叩き割った。

 ああ、アンと色違いのサングラスが…気に入ってたのに、ちくせう。

 

「あ、ありが…」

 

 私が身を挺してアリスを庇いつつ御神木の裏に逃げ込むと、アリスは息が絶え絶えになりながらも私に話しかけてきた。

 私は、アリスの胸ぐらを掴んで、バチンッと頬を打った。

 

「余計な手間かけさせんじゃないわよ。アンタはまだ『おみくじ』を引いてない。今アンタに死なれたら、アタシ達まで死ぬんだよ!」

 

 私は、アリスの胸ぐらを掴んだまま、ガクガクと揺らして喝を入れた。

 すると、その時だった。

 

 

 

「ぎゃあああっ!!!」

 

「チョータ!!」

 

 逃げ遅れたチョータが、左脚を火矢で射抜かれた。

 その時、チョータの持っていた『おみくじ』が、風に乗って私達の方へ飛んでくる。

 おみくじはほとんど焦げて読めなくなっていたけど、唯一『方角 西が悪し』の文字だけは読めた。

 

「うああっ!!あちいっ!!あちいよっ!!カっ…カルベ!!アリスぅ!!」

 

「うおおおおおお!!」

 

 チョータの叫び声を聴くや否や、カルベが水風船の入ったプールを台ごと引きずりながら、チョータの方へと走り出した。

 

「あああああああああ!!」

 

 そして、台をひっくり返してプールの水をチョータに浴びせ、チョータの左脚に刺さっている火矢を鎮火した。

 だけど一息ついたのも束の間、二人の目の前には無数の火矢が迫っていた。

 

「カ…カルべ!!!チョータァーっ!!!」

 

「アリス!!」

 

 カルベとチョータが無数の火矢に射られるのを見て、アリスが我を失って走り出そうとする。

 私は、二人のところへ行こうとするアリスを、後ろから抱え込んで止めた。

 300本の火矢が全て撃ち終わる頃には、境内は火の海になっていた。

 

「カルベ…チョータ…?」

 

 私とアリスは、境内の中心に取り残されたカルベとチョータの方を見る。

 やがて煙が晴れ、そこには──

 

 

 

「ハ…ハハハハハッ…アドレナリン、全開だ…!!なんだか楽しくなってきたよなァ!!オレはもう、完全に吹っ切れたぜアリス!!」

 

 水風船のプールが乗っていた台を盾にして、火矢を全て防ぎ切ったカルベが、息を切らしながらも笑いながら立っていた。

 彼の後ろには、尻餅をついてへたり込んでいるチョータがいた。

 ……カルベ、やるじゃん♪

 

「すぐ抜かねーと、肉が固まっちまうんだ。痛ぇだろうが、我慢しろよ!!」

 

「た…頼むからそっとやってくれよォ〜!!」

 

 私とシブキは、カルベとチョータに駆け寄って、チョータの脚の応急処置を手伝った。

 私とシブキでチョータの脚を止血していると、カルベがアリスに声をかける。

 

「グズグズすんなアリス!!もう時間がねぇぞ!!お前で最後だ!!とっととこのクソったれな『げぇむ』を終わらせんぞ!!」

 

「おう!!」

 

 カルベが言うと、ようやく頭を切り替えたアリスが『おみくじ』を引く。

 だけどその直後、アリスは黙ったまま立ち尽くした。

 

「アリス…何を引いたんだ?」

 

 カルベが声をかけても、アリスは項垂れたまま何も答えない。

 

「オイ!!聞いてんのかアリス!!答えろよ!!」

 

「か…貸してっ!!」

 

 アリスが黙ったままでいると、シブキがアリスの『おみくじ』をひったくった。

 私も後ろから覗いて、内容を確認する。

 

「ハ…ハハ…」

 

 『おみくじ』を見て、シブキは乾いた笑い声を上げた。

 アリスが引いたのは、『大凶』だった。

 

 

 

 げぇむ 『おみくじ』

 

 難易度 『♣︎3(くらぶのさん)

 

 残り?分

 

 生存者 5名中5名

 

 

 

 

 




本作ではオリ主が引いた『吉』の『おみくじ』のおかげで、『凶』の時の誤差が300本で済んでいます。
ちなみにおみくじの難易度ですが、本作では以下のように設定しています。
チョータの問題があまり難しくなかったので、本作では吉を小吉の下に置いています。

大吉:出題なし
中吉:小学生レベルの問題。すぐ正解できる。
小吉:中〜高校生レベルの問題。少し考えれば正解できる。
吉:知らなきゃ解けない。誤差数十本以内
末吉:知らなきゃ解けない。誤差数十〜数百
凶:知らなきゃ解けない。誤差数百〜数千
大凶:知らなきゃ解けない。誤差数億
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