「うぶっ。やっばりバスは止めておけば良かったかも」
フラフラと夜間バスを降りてバス停脇のベンチに座って気持ち悪さと乗り物酔いで出てしまった冷や汗をハンカチで拭き取り、酔い止め薬を飲む。
蒼月君に会うのは一ヶ月ぶりになるけど。元気にしていると良いなと思いながら目を開け、ゆっくりと立ち上がって蒼月君の暮らすお寺を目指す。
丘の上に立つ大きなお寺だから直ぐに見えてくるものの。なんだか妖しい気配を放っているヤツがチラホラと隠れているわね。
「面倒臭い。来るなら前から来れば良いのに。そう思っているな」
「……へえ、心を読む妖怪もいるのね」
「鎌の使い手、楽しみ。お前は殺し合いを楽しむ人間なのか、それならきっと強くて良い目をしているだろう。ソイツをおれにくれ…!」
素早く虎翼を引き抜こうとした瞬間、私の手を切り落とすために鎌を振るってきた妖怪の攻撃を紙一重で躱す。しかし、僅かに腕を斬られた。
これは、流石に強いかも知れないわね。
無我の極致なんて極めていない私は心を消して戦う事は出来ないし、どうやって心を読むヤツを相手に戦うのか。それが一番の問題ではあるけれど。
武器を出す暇もないし、素手でやるか。
「光栄に思いなさい。私の拳は殺してあげる」
「私の拳は万物を砕く。……誇張やハッタリじゃねえな、頭の中におれの身体を砕く姿がハッキリと見えてやがる。お前とやるのは止めだ。おれが死ぬ、死んだらミノルに会えねえ」
「は?ちょっと!」
スルリと闇の中に消えていった妖怪を追いかけようとした瞬間、舵輪に似た武法具の千宝輪が私達の間に弾け、投げ手を探るためにそっちに視線を向けると蒼月君のお父さんが佇んでいた。
「糸色殿!」
「蒼月君のお父さん、どうして此処に?」
「それは此方の台詞だ。いや、それよりもここにやって来ていた妖怪に目を狙われなかったか!?」
「め?……ああ、それなら確かに『良い目をしているからくれ』って言われたけど。まさか私以外にも同じことをやっているの?」
そう聞き返すと私の居ない間に行われていた猟奇殺人事件の犯人はさっきの妖怪だったらしく、もっと強く踏み込んでいたら私も目を失っていた、そういう可能性もあるということだ。
「(さとり。心を読む妖怪か……)」
それなら「みのる」って何かしら?それにしても会えないとか何とか言っていたけど。人か、物か、目を探さないとどちらかに会えなくなる?
ダメね。情報が少なすぎる。
もっとさとりを詳しく調べる必要があるわね。