「どうした。如何に獣の槍といえど儂の身体を切り裂くばかりで大して痛みも苦しみも感じておらんぞ。尤も貴様の斬り割く触手は儂の替えの身体だがな」
「なんでさとりのオッサンを狙ったあっ!」
「うしおっ、バカみてえにソイツに突っ込むんじゃねえ!儂の炎も効かねえ身体だ、何か仕掛けを隠していやがるはずだっ!!」
奈落の巨大な触手を足場に駆け回る蒼月君の背中に張り付き、爪と牙を駆使して戦うとらに加勢するために私と蒼月紫暮は武具を構えて振るう。
「奈落ッ、アンタは何処まで人を愚弄すれば気が済むのよ!幸せを手に入れようとする人を惑わし、絆を破壊して、何を企んでいるわけ!!」
私の問いかけに笑みを浮かべ、クツクツと嘲笑い、虎翼を振るう私の右腕を締め上げる触手に二重の極みを撃ち込み、肉の弾ける音と飛び散る肉塊を払いのけ、コイツは傀儡ではなく本体だと理解した。
「儂の目的は常に一つだ。そのためにさとりの肉体と力は儂にとって必要不可欠」
「潮、とら殿!奈落の目的は『心を読む力』だ!もしもさとりの力が奈落に加われば、糸色殿はヤツの手中に囚われることになる!!何としても倒すのだ!」
「お前、またお妙さんを狙ってるのか!」
「儂の家来だって言ってるだろうがぁ!!」
「ふざけんな、此方は嫁ぎ先決まってんのよ!」
さとりの近くに立って結界を張り、奈落の触手を退けながら叫ぶ蒼月紫暮の言葉を聞き、私達は無関係のさとりを襲った理不尽な理由に怒り。
その怒りを発散するために奈落の触手を破壊する。が、私は蛮竜を使っていない分、奈落に与えるダメージは低く再生する速度の方が勝り始める。
足を絡め取ろうとする触手を避けるためにとらの背中に乗り、更に高く飛び上がって右手を空に突き上げ、いつものように蛮竜を呼ぶ。
「来なさい、蛮竜っ!!」
その言葉に応えるように蛮竜が赤熱化するほど加速して私の手のひらに飛び込んでくる。虎翼の柄を噛み、蛮竜を横薙ぎに振り払い、蒼月君ととらを囲う触手を粉々に切り落とす。
「蒼月君!」
「任せろおおおおおおぉっ!!!」
獣の槍を肉塊に突き刺した瞬間、その真下に奈落の顔が現れ、そのまま獣の槍が奈落を貫く。
───そう思っていたのに、獣の槍は薙刀を構えた白童子によって奈落に到達する事はなかった。どうして、と。問いかける前に以前の会話を思い出す。
そうだ、この奈落は白童子の兄の身体を使っているだけで本人に悪意や敵意は無く、ただ奈落によって身体を好き勝手に使われているんだ。