私の言葉に困惑する奈落を風の傷で倒そうとしたが白童子の結界に風の傷は阻まれ、彼らの姿は忽然と消えてしまった。
奈落の纏っている嫌な気配を完全に消え、私は傷を負ったさとりのところに戻るが、蒼月紫暮ひとりを残して、処には誰もいなかった。
「……蒼月君のお父さん、みんなは?」
「ミノルという少年に会いに向かったよ」
「結局、また助けられなかったなあ…」
蛮竜を地面に突き立てて夜空を見上げる。
どれだけ頑張ったって私の手のひらからこぼれ落ちてしまった命を掬い上げ、誰も彼も助けることは出来ない。そんなこともう分かっていたのに。
私は油断したんだ。
白面の者の放ったくらぎを撃退して、その白面の者の分身たる斗和子と言葉を交わして、どれだけ敵対していても分かり合えると信じてしまった。
「助けられないっていうのは、辛いね」
「……ああ、辛い。だが、君は救えなかった分だけ誰かのために駆け抜けていける強さも優しさも持っている。いつか、君の想いは皆に通じるだろう」
「ハハハ、流石はお坊様。ありがとう」
「何、年上のちょっとした助言さね」
そう言って私の頭をくしゃりと撫でてきた彼に驚くものの、彼にとって私は子供と変わり無いのだろうと思い、甘んじて蒼月紫暮の頭を撫でる手を受ける。
ああ、だめだ、涙が出てきた。
「…ッ、うぅ……くそぉ…!」
「泣きなさい。此処には私しかいない」
「わ、わ゛たじっ、いどじぎなのに゛っ…!とぐのざんも゛ざどり゛もいっばい゛ッ、ま゛もれな゛がった!……づよいのにッ、だずげられない…!!」
私は蒼月紫暮にすがり付いて、彼の法衣を涙で汚しながら自分の情けなさと不甲斐なさを懺悔するかのように吐き出してしまう。
糸色としての矜持と自尊心で人を助けるのは当然だと、私なら何でも出来ると思っていたのに、誰も手を伸ばしていく分だけ取りこぼしていく。
「……スンッ、ありがど……」
「気にすることはない。如何に強い力を持っていても君はまだまだ年若い女の子だ。いくら強くても全知全能の神になっても出来ないこと、難しいことは誰にだって訪れる。そのときは泣いて、心に降り続ける悲しみの雨を出し切ってしまいなさい」
「…うん、そうする」
また私の頭を撫でてくれた彼の言葉に頷き、私は蒼月紫暮と一緒に蒼月君ととら、さとりのいるであろう病院に向かって歩き出す。
蛮竜の穂先にジャンパーを掛けて、病院内に入ると何か言おうとするナースのおばさんにお見舞いの事を説明し、ゆっくりと階段を上がり、蒼月君とさとりが見えた。
───けれど。もう既に遅かったらしい。
さとりは風に紛れて消えた。
「(奈落、アンタだけは絶対に許さないッ…!)」