「お外堂さん?」
『えぇ、そうよ』
いきなり宿泊先の受付に呼ばれた私は公衆電話を受けとり、電話越しに聴こえる従姉妹の言葉を聞き返す。お外堂さん。才賀家に嫁いだ類の元に現れたという妖怪の名前に私は聞き覚えも何もない。
しかし、どうして類のところに妖怪が?
『フフフ、それにね。善治さんったら可愛いのよ?「僕の妻に手を出すな!」なんて半泣きで、ガタガタ震えながら私を庇っているのに、お外堂さんよりも強い私にはメロメロなんだもの♥』
「はいはい。惚気は聞きませーん」
『あら、僻み?やーねー』
「切るわよ、バカ類」
『うるさいわね、微妙』
そうお互いにつけた昔の悪口みたいなアダ名を呼びながら十円を投下して通話時間を伸ばす。それにしても、だ。本当に類や才賀の男を狙った理由が気になる。
何かしら恨みを買った?
いや、それなら過激に企業拡大を繰り返している貞義の方に向くはずだ。何故、オモチャ会社の才賀善治と類を狙ったのかが分からない。
「まあ、改めて。おめでとう」
『えぇ、ありがとう。ところで聞いたわよ、アンタってば条件付きで婚約者候補にしてあげた男にいきなり襲われて、力負けして押し倒されたんですって?』
「そ、齟齬を感じるわね」
流君はキスしてきたけど。
あくまで転びそうだった私を助けてくれようとしたのが始まりで、確かにいきなりキスされたときはビックリしたけど。別に悪い気は……コホン、なんでもないわね。
『従姉妹の私がいうのもあれだけど。好きなら好きって伝えてあげなさいよ、写真見せて貰ったけど。貴女を押し倒したヤツ、死相が見えるし』
死相が見える。
少なくとも彼女の言葉は冗談や悪戯ではない。
彼女は本当に相手の死相や運気を視る目を持っている。私の金剛槍破と同じく彼女の目は巨万の富を得たいものにとっては手元に置いておきたいものだ。
まあ、その最たる才賀グループにお金より愛を選べる人がいるのもビックリしたけど。その人と結婚してしまった類にもビックリしている。
『ああ、それとね。貴女、子宝運すごいわよ』
「ぶふっ!?ごほっ、げほっ!!はっ、え?!私まだ誰とも付き合ったこともないのに!?」
『あら、あんらあ~~~っ♥それって、つまり染められちゃうってことかもね♥』
「貴女って本当にもうっ!」
私のとんでもない未来を予知して楽しそうに笑う類の言葉に顔を赤らめながら、自分のお腹を擦って「子宝運かあ……」と呟き、更に顔が熱くなる。
『まあ、貴女も幸せにね。ついでにお外堂さんの件もよろしく、貴女なら簡単でしょう?』
「えぇ、当然よ」
「『だって私は糸色妙だから!』」
台詞を被せてきた類に釣られて、笑いながら「本当におめでとう。幸せにね」と伝えて、受話器を戻して余った十円を募金箱の中に入れる。
「子宝運かあ……」