海に来るのは久し振りだけど。
随分と変わった生き物が泳いでいるわね。とらは気配は気付いているみたいだけど、しっかりと認識するのはまだ距離がありすぎるか。
「……私のカバン何処へ?」
「お妙さんのカバンってこれかあ!」
いつの間にか砂浜に降りていた蒼月君の呼ぶ声に視線を移すと白と青のスポーツバッグを掴んでいる彼が見えた。何であんなところに移動しているのか。
蒼月君達は皆良い子だから人の荷物を勝手に持っていく事は無いだろうし。とらは一足先に海の方へ飛んでいってしまった。
石の階段を降りて砂を払ってくれたスポーツバッグを受け取り、カバンを守ってくれたお礼に全員分のお昼を奢ってあげることにした。
「お酒以外なら何でも頼んでいいよ」
「やったぜ!うしお、何食う!」
「ばっか、焼きそばだろ!」
「遊ぶ前にメシだ!」
海沿いのお店に向かって走り出す男子一同を見送りつつ、カバンを持ち上げたときに異変に気付く。いや、中に仕舞っていたものが減っている。
「(盗んだ?いや、アレは人助けが好きだから)」
自分で着いていったと考えるのが無難かな。
「お姉さん、早く早く!」
「今行くよ。中村のお嬢さん達も行こうか」
「……まだ信用してないからね」
「麻子、さっきからどうしたの?」
年頃の乙女心は複雑なものだね。
好きだけど、好きって言えない。好きなのに嫌いって言ってしまう。だから、いきなり現れた私に警戒心を露にしてしまうのは仕方の無い事だ。
逆に言えば、それだけ蒼月君が好きって事になる。
「井上のお嬢さんは私を警戒しないんだね」
「私はお妙さんのこと少しだけ知っているし、麻子も意地っ張りなのも知っているから。どっちかに肩入れしちゃうのは悪いと思うんです」
「良い子だね、井上さん」
そんなやり取りをしながら海の家に入り、自動販売機に缶コーヒーが無いことにショックを受ける。ほとんど炭酸飲料やスポーツドリンクばかり。
まあ、海でコーヒーを飲むのは熱いから当然と言えば当然なんだろうけど。好きな飲み物が自動販売機から無くなっているのは悲しい。
「そういえばお妙さんはいつまでみかど市に滞在しているんですか?」
「少なくとも蒼月君を見守る約束をしたからもう暫くは滞在していると思うわよ。あとは、あっちの出方次第っていうのもあるけど」
あそこは少し思い上がっているところがあるし。このままだと適当に理由をつけて、蒼月君ととら、獣の槍を狙って刺客を放つのは簡単に想像できる。