設楽さんと別れて一時間ほど経った頃、私を目指して進んでくる邪悪な気配を感じ、警戒していたものの、私の間合いに入ると同時に気配は消えた。
私の持っている霊槍を警戒しているのか。
蛮竜を呼び出される事を嫌って、何処かに潜んでいると考えるのがベストだけど。はぐれ外堂の性質を私はまだ知らないのよね。
さて、どうしたものか。
「すみません。少し良いですか?」
「はい?へえ、憑依も出来るのね」
「ひょうい?一体何を゛ッ?!」
私に話しかけてきた警察官の格好をした妖怪の頭を掴み、そのまま霊気を込めると彼の頭から大量の犬の顔が弾け飛び、手のひらに噛み付いてきた一匹を握りつぶす。
私に憑依や乗っ取りは聞かないわよ。
一応、破魔の矢を使える巫女ではある。
「流石に時代樹様ほどじゃないけど」
ペッペッと手に付いた汚れを祓い、手のひらをハンカチと消毒液で除菌する。犬って可愛いけど、妖怪だし、なんか臭かったから嫌だわ。
「くそおぉ…!破魔の霊力なんて聞いてねえ!我らを滅しに来た巫女がこんなに強いなんて聞いてねえ!」
「聞いてない。なら、それで終わりね」
うなじに手を添えてジャンパーに隠していた二又状に穂先の別れた短槍を引き抜き、空を舞って逃げようとするはぐれ外堂の身体を貫き、個々に別れた分身も含めて身動きを封じる。
「くあっ!!我はまだ死にたくねええ!」
「お生憎様、もう終わりよ」
ぐるりと槍を回転させて外堂の身体を抉り抜く。
「手応えはなかったし。分身かな」
新しい槍の性能は程々。短槍の分、小回りは利くし、かなり良いものを類は送ってくれた。しかし、武具庫の鍵を彼女に預けた覚えはないのよね。
多分、北海道のときに彼女の北落師門を勝手に使ったことを怒っているんだろうけど。それは東京に旅行に行っていた彼女の責任だと私は思う。
「あれ?お妙さんだ!」
「ああ、井上のお嬢さん。こんにちは」
「こんにちは!こんなところでどうしたの?」
「ちょっとした妖怪退治かな。学校はどう?」
こっそりと後を憑いている最猛勝を払い落とし、井上のお嬢さんと一緒に歩いていると設楽さんと仲良くなれた事を嬉しそうに話してくれた。
やっぱり若い子は笑顔じゃないとね。
「ところで、あの蜂さんは?」
「ああ、気づいていたのね。奈落の使いよ、多分私の弱点を探しているんでしょうけど。生憎とそういうものは欠片も存在しないのよね」
怖いもの無しではないけれど。私は奈落に怒りを抱くことのほうが多いから、見ているだけ見ても無意味なのよ。本当によく分からない男だわ。