井上のお嬢さんと別れて、とある雑居ビルの屋上で缶コーヒーを飲んでいると真っ赤な焔を纏った巨大な白馬に跨がった白童子が私の目の前に降り立った。
「随分と考え込んでいるな。糸色妙」
「まあね。貴方も嫌いなヤツに監視されていたら分かると思うわよ。そもそも最猛勝ごときで私の動きを封じようとする魂胆に違和感を感じるわ」
「当然だろう。儂とて解せんやり方だ」
炎のたてがみを揺らす巨大な白馬を降りた白童子は缶コーヒーを飲む私の隣に腰掛ける。彼の使っている薙刀は地面に刺さり、非武装だ。
そういうことなら、と私も袖や背中、ジーンズの裾に隠していた槍を並べるようにテーブルの上に置き、僅かに白童子の視線は槍に向いた。
「ハハハ、白童子も槍に興味あるのかしら?」
「長柄は得意なだけだ。尤も犬夜叉に一本目の薙刀を切り裂かれた屈辱は今も覚えている。が、あやつはこの現世では既に死んでいる」
「犬夜叉か。ウチでもたまに聞くわね」
「当然だ。蛮竜を持つお主は戦骨の名前も聞いたことがあるだろう、あの化け物にお前が似たら奈落だけでなく儂も卒倒するぞ」
「へぇ、どんなことしたの?」
私の問いかけに滅茶苦茶な渋い顔を作る白童子。そこまで嫌がるほど嫌っているのかと驚きつつ、むしろ逆に興味を惹かれてしまう。
「戦骨。アイツは人間であって人間ではない」
「それだけ強いってこと?」
「糸色妙、お前は空に敵が居るからと空を蹴って昇ろうと思うか?」
突如、謎の問いかけをしてきた白童子に思わず「コイツは何を言っているんだろう?」と困惑し、そんなこと出来るわけがないと思った。
「覚えておけ、戦骨は空を飛ぶぞ。さらに『このオレに世界が掴めねえ訳がねえ!』などと言い、地面のみならず空さえも掴み、蹴り上がって来るのだ」
「へ、へぇ?」
「なんだ?虚空瞬動って?何故、飛べる?地に降りた衾が赤子のように泣いても追い回すあの化け物はなんだ?何故だ、腹を斬っても何故嗤っている?恐ろしい、恐ろしい、儂を見て嗤うな、儂を嗤うな…!」
いつも余裕綽々という雰囲気の白童子が恐怖の余りガタガタと震えている。白馬のほうも思い出してしまったのか、ガタガタと歯を打ち鳴らしている。
そこまで怖いヤツだったんだ。
道理で蛮竜を見た奴が逃げ惑うわけね。しかし、そこまで強いなら妖怪変化して人を襲っているのかと思ったんだけど。どうやら人間のままみたいね。
「……ふう、すまんな。儂の虎馬というものが刺激されてしまった。あやつを思い出す度、儂はあいつに受けた恐怖の七日間を思い出してします」
「そ、そう、御愁傷様」
一応、戦骨も警戒しておこうかな。