「すまないな。意識を持っていかれていた」
「いや、別に良いけど」
白童子のトラウマの事なんて聞きたくないし、彼の虚ろな目がギョロリと私を見つめてきたのは我慢するとして、やっぱり奈落の視線は気持ち悪い。
「あまり聞きたくないけど。奈落の私を選んだ基準って何なの?」
「ふむ、先ずは顔だな」
「初手で好感度マイナスだね」
「次に尻と胸だ」
「更にマイナス越えたわね」
「そして、最後は魂の性質だ。お前の魂は戦国時代に出会った糸色同様に曇り雲一つ存在しない快晴、闇すらも照らし出す太陽の輝きだ」
急に褒めるのねと思いながらも自分の胸に手を当てて考えてみるものの、自分の魂が太陽みたいだなんて言われてもよく分からない。
そして、奈落の言葉のキモさに苦笑いする。
もっとも戦骨と奈落の二人は浅はかならぬ関係だったということは分かった。なら、アイツを倒すのは蛮竜でなければ意味を成さない。
それだけ相手は面倒臭いわけだけど。流石に私一人で無尽蔵に肉体を組み替えて……組み替える?まさか白童子が私のところにやって来た理由は時間稼ぎ?
「白童子、私は先に行くわよ」
「気づいたようだな。だが、もう行ったところで襲い、奈落は外堂の本体を取り込み、肉体の繋ぎを強める効力を得てしまった。兄が目覚めれば直ぐに肉体を奪えるが、兄は奈落に裏切られて尚もアイツを父と思っている」
「そう、貴方もお兄さんも難儀な性格なのね」
テーブルに置いていた槍を掴み、雑居ビルのフェンスに飛び乗り、蛮竜を呼び出して熱風を吹き荒らし、最高速度で飛びながら妖気と瘴気の強い中学校の体育館の二階の窓を突き破り、床を滑って着地する。
「来たか、糸色妙」
「当たり前でしょうが、このストーカー妖怪が!」
黒い犬を取り込んでいる奈落に蛮竜を放り投げ、はぐれ外堂の一部と奈落の身体を粉砕して手元に戻ってきた蛮竜を受け止める。
「「お妙さん…!」」
「蒼月君、設楽さん、遅れてごめんね」
傷だらけの二人を背中に庇う。
とらがいない。彼が蒼月君のピンチに駆けつけないわけがない。───ということは奈落の放った妖怪と戦っていると考えるのが一番だけど。
あのとらを抑え込める妖怪がいる?
「儂を前に考え事か?」
「これは余裕よ、残念だったわね!」
蛮竜を旋回させて触手を切り裂き、ズブリと黒い犬を取り込んだ部位を叩き割り、まだ辛うじて生きているはぐれ外堂を無理やり引きずり出す。
「チッ。また緩みが…!」
「死ぬ、消えたくねえ…喰われたくねえ…」
「それならコイツに入ってなさい」
イタコ笛を差し出して、はぐれ外堂を受け止める。本来は妖怪の動きを封じる道具だけど、今回ばかりは奈落を強くする前に確保しておきたい。