蒼月君と設楽さんに体育館を出るように伝えて、私は奈落と向かい合うように蛮竜を構える。手持ちの槍もあるけど、決定打を与えるのは蛮竜だけだ。
「せぇ、のっ!!」
「自ら儂に飛び込むか」
「気色悪い事を言うな!」
ダンと体育館の床を踏み締めて蛮竜を横薙ぎに振るい、奈落自身の身体を覆う触手の束を切り裂き、露出した顔面に破魔の霊気を込めた二重の極みを叩き込み、浄化の力を直接叩き込んであげる。
───刹那、奈落の顔は崩れ落ち、無貌の顔が現れる。強烈な殺意に思わず、飛び退いてしまうも奈落の身体が動き始め、蛮竜を構えるも次の瞬間、奈落は自分の身体を攻撃し始めた。
一体、何をしているの?
「目覚めたのか。兄よ」
「(白童子?……なら、さっきののっぺらぼうの顔が彼のお兄さんってわけね)」
下手に近づけば私も取り込まれかねない身体の収縮を静観し、いつでも倒せるように蛮竜を構えていたその時だった。奈落から飛び出した顔が、私の顔とぶつかるギリギリで止まった。
「…嗚呼、久し振りだな。糸色景、やはりお前は何度生まれ変わっても美しく気高い魂だ。また蝶野を交えて三人で語ろう、夢の続きを、アイツのいない今ならば我が夢は成就するだろう」
「きっ、キッショ!!」
あまりにも気持ち悪い言葉にゾワゾワと全身に鳥肌やサブイボが現れ、ぐにゃぐにゃと奈落だった妖怪は顔の形を変えて鉢巻きを巻いた男の人の顔に変貌していく。
だ、だれ?
「景、オレだ。会いに゛ッ!?」
「し、知らない男に名前は呼ばれたくない!」
思わず、二重の極みを叩き込み、蹴り飛ばしてしまったけれど。今の攻撃は正当防衛になると思うわ、そもそも私は糸色妙であって糸色景ではない。
そりゃあ、顔の良さは引き継いでいるけど。
私は美人だから妖怪が惚れるのも仕方ないけど。いきなりキスしようとしてくるヤツ、しかも明らかに拗らせている陰湿そうなストーカー妖怪に愛想を振り撒くほど私は優しくない。
「な、なぜだ、この顔はお前の」
「知らないわよ、誰よその男!」
……なんか浮気された女みたいな台詞を言った気がする。まあ、気のせいだと思えばいいわね。そもそも私に変なことをしようとする奈落の方が悪いわ。
「兄よ、どうしたのだ!奈落のように酩酊したように変なことを言い出して、もっと兄は強く凛々しい姿だったはずだろう!」
「白童子、下がりなさい!」
彼に近付こうとする白童子の襟首を掴み、体育館の床を破壊して突き上げる触手の槍から逃がし、風の傷を放つも結界に阻まれる。
クソ、私は結界破りは使えないのに面倒臭いわね。
「吾を無視するなッ!」
「無視してないわよ、妖怪!」
またしても顔を伸ばしてきた彼の身体を蛮竜で受け止め、熱風を巻き起こして吹き飛ばす。ああ、もう私なんかを付け狙って何がしたいのよ。