細胞分裂を繰り返すように身体を組み換えるのっぺらぼうの動きを注視し、反撃のタイミングを見計らうも触手の槍に加えて体育館の床を埋め尽くす肉塊の手足を狙うトラップの多さに舌打ちをしてしまう。
風の傷も金剛槍破も足を止めて溜めを必要とする。四度も戦っていれば私の弱点も苦手な動きも分かってくるものだけど。コイツの動きは違う。
私の動きを確実に知っているのだ。
「兄よ、儂だ!分からんのか!」
「赤子の片割れが、まだ儂の、吾を…」
「雷撃よ!」
白童子の呼び掛けに応えた奈落と長男の動きが鈍った瞬間を狙い、蛮竜を体育館の床に突き刺して青白い雷撃を迸らせる。───だが、奈落の触手は雷撃を一ヶ所に集め、雷撃の拡散を封じ込めた。
床を蹴り潰して二階の手すりを掴み、物凄い速さで体育館の侵食を続ける奈落の身体に冥道残月破を使うべきかを悩んでいたとき、白い狩衣を纏った男の人が私の肩を叩き、私より前に飛び出した。
「戛ッ!!」
裂帛の怒声と共に独鈷と長数珠が奈落の身体を吹き飛ばし、真っ二つに斬り砕く。
「大丈夫かい?妙ちゃん」
「も、杜綱君?」
なんで、こんなところに?とビックリするのも束の間、呻き声を上げて苦しみ出した奈落の断面から見たこともない妖怪が溢れだし、その中に人間の女の子にも似た妖怪が二人も混ざっていた。
「神無と神楽か、ちょうど良いところに」
そう言うと白童子は断面から漏れ出た彼女達を引きずり出して、結界を張って何処かに消えてしまった。あの二人も奈落の分身と考えるべきだけど。
「今度は私が君を助ける番だ」
私と昔会ったことがあるという杜綱悟は奈落を睨み付け、彼の身体を長数珠で締め上げ、真っ二つに割かれたひとつを圧殺した。
しかし、そっちは違う。
「杜綱君、それを解除して!」
「くくくっ。余計な手間が省けたぞ」
私がそう叫ぶと同時にのっぺらぼうの顔が奈落の顔に戻り、身体の具合を確かめるように手足を動かし、静かに私の事を見上げている。
じっくりと私を見つめる奈落を見下ろし、いつでも風の傷を放てるように警戒していたが、奈落も白童子と同じように消えていった。
完全に消えたわね、と。
そう思った、その時だった。
「妙ちゃん、無事で良かった…!」
「きゃあっ!?ちょ、ちょっと抱きつかないでよ!」
私の事を真後ろから抱き締めるよう杜綱悟が抱きついてきた。無理やり彼を引き剥がし、そのままビンタを叩き込み、私は自分の身体を守るように抱き締める。
「流には許していたじゃないか」
「そ、それはっ、あれは偶然で」
ゆっくりと近付いてくる杜綱悟の鋭い視線に思わず、後ずさっていると気がつけば壁際まで追いやられ、ダン!と私の逃げ場を奪うように左右の手を壁に押し付けた。こ、これ、少女漫画で見た気がする…!
「私はダメなのかい?」
「え、えと…」
ど、どうすれば良いのよ、類!!
若妻ならマニュアルぐらいちょうだいよ!!