私を見つめる真剣な眼差しと逃げ道のない状況に戸惑いと不安が勝る。私に勝ったらお嫁さんになるとは言ったけど。まさか彼までこんな強行手段に出るなんて想像していなかった。
「妙ちゃん、だめか?」
「だ、ダメって訳じゃないけど。ふぁ、ファーストキスじゃないし、いきなりそんなことを言われても私も困ってしまうし、あの、えと」
ゆっくりと私の頬に触れる、私の手よりも大きくてゴツゴツとした手にビクリと身体を震わせ、不安げに彼の事を見上げてしまう。
とんでもなく移ろいやすい自分の乙女心の弱さを嘆きつつ、ゆっくりと迫り来る杜綱悟に思わず、目を瞑ってしまったものの、彼の唇は私のおでこに触れるだけだった。
「私は怖がる女の子に無理やり迫るほど馬鹿じゃないよ。今度は流のように不意打ちではなく、妙ちゃんに
「う、うん、が、がんばって…?」
そう言うと杜綱悟は笑みを浮かべて騒動に集まってきた人達の相手をするため体育館の出入り口に向かっていき、私はズルズルと身体を擦るようにへたり込み、ドキドキと痛いほど高鳴る心臓に戸惑ってしまう。
「(あ、あんなの反則過ぎる…!)」
確かにキスされるかもしれなくて、ほんのちょっとだけ杜綱悟は怖かったけど。……その、頬に触れた手付きは優しくて安心できたけど。
「…これじゃあ、浮気しやすい女じゃない……」
自分の精神力の無さと男に靡きやすい性格を知り、恥ずかしさに顔を覆って流君と、杜綱悟の二人にされたことをまた思い出して顔が熱くなる。
こんなの私は少女漫画のヒロインじゃない。
「けっ。うしおもお前も色恋沙汰に弱いのか」
「と、とら?」
「儂が言うのも何だが、ああいう手合いはヤバいぜ?昔にも似た目をするヤツを見たことがある。自分に靡かねえ女が他の男に盗られねえために捕まえるんだ」
「……どうなるの?」
「あー、四肢の腱を切ってたっけな?高貴な女だったからよぉ、逃げることが出来ねえように動けねえようにするのさ。まあ、お前は儂の家来だからな、ヤバくなったらお前も儂の口の中に隠してやるよ」
「……フフ、口の中にって何それ」
とらの言葉に自然と安心して笑顔になる。井上のお嬢さんに誓ったらしいけど、流君と杜綱悟よりとらの方が器が大きく感じるわね。
しかし、ああいうのは俗に言うヤンデレというものなのかしら?それにトキメキを感じる私って、実はとても面倒臭い女だったりするのかな。
「とら、ありがとう。元気出てきたわ」
「フン。儂はなあーんもしとらん」
そう言うととらは体育館の外に出ていく。
それでも、ありがとう、だよ。