流石は西の妖怪の住み処。
うじゃうじゃと所狭しと妖怪がいるわね。けど、この目の前にいる青年風の妖怪だけは別格、少なくとも白童子やとらに感じる強さと同等だ。
「一鬼、貴方は先に行ってちょうだい」
「蛮竜、五百年前の雪辱を果たさせて貰うぞ」
やっぱり彼も蛮竜に因縁を持つ妖怪か。まあ、ここに来てから蛮竜に怯える妖怪も多かったし、戦骨って人は本当に戦うのが好きなようで、本当に面倒ね。
「掛かってきなさい」
「参るっ!!」
私の手招きに呼応するように彼が右手を腰に添えた瞬間、嫌な気配を感じて蛮竜を盾代わりにした。が、強烈な衝撃と肌を切り裂く斬撃に床を破壊して後ろに弾き飛ばされてしまう。
これは、かなり強いわね。
ゆっくりと頬の切り傷を拭い、蛮竜を構える。私の戦ってきた妖怪達の中で、おそらく最強クラスの敵だ。こんな相手と戦えるなんて幸運と云える。
「今度は私が行くわよ!」
「おう!参れ!!」
るぉんっ…!と変わった音を出して走る両刃刀を蛮竜で受け止め、鍔迫り合いに持ち込み、急激な脱力を行って太刀筋をずらし、石突きで妖怪の頭を叩き上げる。
───けれど。妖怪は笑った。
「西の妖怪の長、神野だ。神の野原と書く。蛮竜に受けた雪辱もあるが、儂の顔に傷をつけた女はお前が初めてだ。改めて、お前の名前を聴いておこう」
「私の名前は糸色妙よ、神野!」
「いとしき…そうか、お前が妖逆門の!」
「それはお婆様だから別人ね」
そう言って私が蛮竜を構えた瞬間、神野の視線は蛮竜ではなく私に向いている。一応、私の事を対等に戦える相手と認めてくれたみたいだけど。
此方は蒼月君達を探しているのよね。
居合の型を忠実に繰り返す神野の横薙ぎと振り下ろしの攻撃を受け、躱し、守りながらも前進していき、蛮竜に注意を集めたまま蛮竜を手放し、力強く握り締めた拳を力任せに振りかぶって神野をぶん殴る。
「ぐはあっ!?」
「女の子の顔に傷をつけた分、今のパンチでチャラにしてあげるわ。ほら、一回倒れたんだからそっちの負けよ。蒼月君達のところに案内して貰える?」
蛮竜を担いで神野を見下ろす。
「ハ、ハハハハハッ!まさか人間の女に殴り倒されるとは思わなかったぞ。蛮竜、お主もまた良き遣い手に巡り合えたのだな」
今度は穏やかに蛮竜を見つめる神野に問い掛けようとした刹那、私を包み込むように四方から目映い光が現れ、私の身体は何かに吸い込まれていく。
へえ、今までのは罠だったってことか。
「……うそつき…!」
そう言い残して、私は完全に吸い込まれた。
ただ、なぜか神野は絶望した様な表情だった。