一鬼の背に乗ったまま空を飛んでいる途中、重苦しく全身を包み込むように強烈な妖気を感じた刹那、私達は海面を突き破って深く深く海底の近くまで沈み、蛮竜の結界のおかげで圧殺も窒息もないけれど。
「あれが白面の者…」
「そうよ。あれが白面の者だ」
私の呟きに応えてくれたとらの方を見ると忌々しげに岩肌に張り付いている白面の者を見据え、青白い雷撃を纏って怒りの眼差しを向け、一鬼もまた同じように白面の者を睨みつける。
しかし、私には恨みも怒りも湧いてこない。
それどころかあの闇さえも呑み込んでしまう白に哀れみや悲しみを感じる。寂しい。そう、寂しいという感情を白面の者から感じるのだ。
「…………
数千、数万もの妖怪が猛攻を仕掛ける最中に白面の者は私の事を見つめ、何かを見上げるように眺めている。いや、あれは手の届かないものを諦める目だ。
「白面ッッッ……!!!」
「蒼月君!?まさかまた獣にッ」
「しとりの曾孫、行ってやれ!イズナ、テメェも妖逆門の妖怪なら連れていってやりな!」
「おうさ!」
私の腕に尻尾を絡めたイズナ君に身体を引かれて蒼月君の事を追いかける程に白面の者との距離が縮まり、その巨大な目が私の事を見つめる長さが増していく。
「こんのバカうしおが、先走りやがってえ!!」
「うるぜぇッ…!」
「蒼月君、呑まれちゃダメよ!」
とらと蒼月君の傍に移動した、その時だった。
巨大な尾を振るってきた白面の者に獣の槍と蛮竜の二本の妖器物は自我を持って動き、その三本の尾を切り裂き、粉々に粉砕してしまう。
「蛮竜ッ、どうしたの!?」
ガタガタと刀身が鳴動し、金剛石、冥道、竜鱗、次々と能力を変えて暴れ狂う。まるで積年の相手を見つけた獣の槍の如く蛮竜の意志が目を覚ました。
「お前もまた我を憎み、恨むか……しかし、蛮竜に魂を移そうと我を求める限り、お前は我を倒すことは決して出来ないと知れ……」
「ああもうッ!!鬱陶しい!!」
ガンッ!と蛮竜を右拳で殴り付けて鳴動を無理やり止めて白面の者を見据える。私に対して彼女から嘲りの感情は向いていない。
ゆっくりとイズナ君を腕から離して、とらの方に投げ渡しながら白面の者の目の前に近付く。おそらく、この壁の向こう側に白面の者を封印する人がいるのだろう。
他の妖怪達は白面の者を警戒し、遠巻きに見ている。半分は私の持っている蛮竜が剥き出しにした強大な妖気に恐れをなしたものもいる。
「多分、初めましてになるわね」
「…………」
「私は糸色妙、貴女が求める糸色かは知らないけど。貴女の分身や配下にはよくもまあ狙われまくっているけど。相手をしてあげるわ」
「……ハ、ハハハハハッ!!!百数年の時を経て尚もお前の魂は我を慈しみ、何処までも深き空の様に優しく見つめるのだなあ…!」
自己紹介したら笑われた。
な、なんか釈然としないわねえ。