「はあっ、はあっ…!」
「お妙、大丈夫かよ!」
「ちょっとキツいわね」
酸素が少ない。
そりゃあ、そうだ。
ここは海の中でそれも四方八方には私を襲おうとする婢妖の群れが大量に泳ぎ、私と蛮竜を狙っている。蒼月君ととらは無事かと視線を移した次の瞬間、私の身体は強烈な衝撃波を受けて弾け飛ぶ。
「口惜しい…御方様を縛る女も心を奪う糸色もまた御方様のために存在し続けている。いつか必ずや貴様を御方様に献上する!!」
「はっ。誰が捧げられるものですか」
婢妖の言葉を無視して海面に向かっていくイズナ君に引かれ、私達は蒼月君ととらを残して、荒れた海面を突き破って新鮮な酸素を吸い込み、大きく深呼吸を繰り返しながら、一鬼の背中に乗せて貰う。
「長飛丸はどうした?」
「とらならまだ海の中よ。でも、もうすぐ出てくる」
私がそう言うと同時に西の長や黒い天狗に手助けされながら出てきた蒼月君ととらの二人に安堵の息を吐きつつ、蛮竜に視線を移す。
あの時、獣の槍ほどじゃないけれど。
ハッキリと蛮竜に意志を感じた。それは強い、どこまでも強いものと戦えるという感情に支配され、とんでもない感じるほどに重かった。
「(ちょっと恋愛事に現を抜かしすぎたから蛮竜が意識を取り戻して、あまつさえ私に逆らい掛けていた……また鍛え直す必要が出てきたわね)」
「お妙さん、無事だったんだ!」
「や、蒼月君も無事で良かった」
蒼月君の無事を祝いながら私は本当に白面の者と対峙して分かった。あの白く無垢な闇は獣の槍と蛮竜、妖怪も人間も力を合わせて、ようやく辛うじて倒すことが出来るかも知れない大敵だ。
そして、アレを本当の意味で浄化できるのは私だ。
「……景様もこんな気持ちだったのかな…」
ポツリと明治時代に生まれた「世界の特異点」であり、この世の全てを知り、影よりも深く闇の中にさえも光を与えた糸色景の事を想う。
「しとりの曾孫、決戦の時はオレに乗れ」
「……フフ、ありがとう。一鬼」
私の言葉が聴こえていたのか。
一鬼はそう言ってくれたけれど。
やっぱり、あの妖怪は怖いように見えて優しい人ばかりだ。これもしとりお婆様の人となりに触れて、彼らが優しさを覚えたからなのかも知れないわね。
「とりあえず、みんな無事だな!」
「けっ。あのまま戦えばうしおを喰えたかも知れねえのによ。あーあっ、残念すぎてハラァ減ってきた。家来、メシくれ」
「流石に海にはないわよ、家に帰ったらね」
そう言って私はとらに笑う