蒼月君達との海水浴を楽しんで二日ほど経った頃、光覇明宗の法力僧が疎らに監視を再開し始めている。獣の槍と蛮竜の事を強奪しようと目論んでいるんだろうけど。
まだ、懲りていないのね。
「おはよう、お妙さん!」
「おう。女、メシ寄越せ」
「おはよう。二人とも」
対照的な挨拶をしてくれた蒼月君ととらにお土産を手渡しながら「本当に画材や顔料だけで良かったの?」と蒼月君に聞けば「うん。オレは絵が好きだからさ」と嬉しそうに笑ってくれた。
とらはお寿司を流し込むように口の中に纏めて放り込み、モシャモシャと食べてしまった。ついでに蒼月君と蒼月君のお父さんの分も頬張っている。
「あァーーーッ!!オレの分も食べたなぁ!?」
「とらは本当に大食いね」
「けっ。儂がどう食おうが自由だろう」
「ひとつはオレのなんだよ!!」
もうちょっと多く買ってくれば良かったかと考えながらとらの投げ捨てたお寿司の桶を拾い上げると同時に飛んできた独鈷を掴んで受け止める。
「全く、油断も隙も無いっていうことも分からない程に耄碌しているなら私が本物の恐怖をその肥えた身体に教えてやろうか?」
そう蒼月君ととらに聴こえないように言うとお寺を囲んでいた気配が消える。陰形の法(気配や姿を隠す技法)を使えるのに、わざと気配をぶつけていたわけね。
「蒼月君、ちょっと目と耳を閉じてくれる?」
「え?まあ、いいけど。とら、変な事するなよな」
「儂がそんな姑息な真似するかよ」
しっかりと両手を耳に押し当てて、ギュッと目を瞑ってる事を確認してから隠れていそうな場所に向かって、方向に身体ごと視線を向ける。
「私を糸色当主と知っての狼藉かッ!!頭に乗るも大概にせねばお役目殿に言伝てを送り、貴様等の僧としての地位を消してしまうぞッ!!」
「……すんげえ言霊の念だな……」
トントンと喉を軽く叩いて大声を出した喉を労りつつ、蒼月君の肩を叩き、彼に「もう大丈夫だから良いわよ」と伝える。
「何かあったのか、とら?」
「お前は知らねえ方が良いのは確かだな。それよかメシだ、さっきの魚も美味かったが女の持ってる風呂敷から良い匂いがしやがる!」
「和牛を買ったんだ。すき焼き、好きでしょう?」
「大好物!」
「知らねえが美味いなら喰う!」
二人の言葉にクスクスと笑いながら「じゃあ、蒼月君のお父さんに頼んでみようか」と言えば「オヤジ、今日はすき焼きにしよう!!」と駆け出していく。
その後ろ姿を眺めていると嫌な視線を感じた。
光覇明宗の僧侶とは違うわね。