「おい。足焼けてるが、大丈夫かよ?」
ドシンと私の目の前に立ったとらの言葉に苦笑しながらも「ちょっと歩けないかもね。────けど、あの妖怪を倒す分にはまだ使える」と彼の問いに応える。
ゆっくりと虎翼を地面に突き刺して、無理やり身体を起こして構える。蒼月君ととらもいるのに休んでばかりじゃ居られないからね。
何より糸色当主が動かないなんて有り得ない。
「私は糸色妙だもの。とら、行くわよ!」
「へっ!よく知らねえがよぉーっ、こんな窮屈なとこで見栄張ってくたばるんじゃねえぞ、お前は儂の家来だからなあ!」
一歩進む毎に痛みを訴える足に力を込め、白面の者の欠片を使って生み出された妖怪の頭に八寸を叩き込み、傷を付けると同時に其処へ蒼月君の振るった獣の槍ととらの豪腕がめり込み、妖怪を力任せに退ける。
パキリと虎翼の穂先が欠ける。
あの妖怪は受けた攻撃を上回るように耐久性を向上させているのか。けれど、それなら白面の者をベースとしていても限界値は存在している。
「蒼月君、今から本気の一撃を撃ち込む。そうしたら私は動けなくなるわ」
「任せろ。絶対に助ける…!」
「ハハハ、頼りになるわね。流石は男の子♪︎」
にっこりと微笑みながら虎翼を低く構え、糸色本家の当主だけが読むことを許される百年前、糸色景が世界中の秘術秘法を書き記した技を使う。
─────
音も世界も何もかもが遅く見える。
極限を超えた究極の一。私という槍を真っ直ぐ最短距離を駆け抜けるために、不要なモノを省き、血流さえも心臓の鼓動さえも一瞬、一度の鼓動が十秒以上も掛かっているかのように鈍くなる刹那に駆ける。
刹那の突進と螺旋による突き「八寸」は基礎。
この技は過去に一度だけ使ったきりの正真正銘の私の切り札たる槍術の至高の一撃─────。
「裏・八寸……!」
私が技の名を呟き終わるよりも素早く音速を超えた動きで白面の者の欠片を使って生み出された妖怪の手足と触手の全てを粉砕し、止まることも出来ず、地面に身体をぶつけるように転がりながら、私の腕の中で柄も一緒に、パキィンッ!と砕け散る虎翼を見た。
「……ごめんね、ありがとう」
ゆっくりと血涙や鼻血を垂らす顔を拭い、壁にもたれ掛かりながら青色の大男を、バルちゃんを引っ張り出す蒼月君ととらに笑みを向ける。
やっぱり良いわね。相棒がいるってさ。
砕け散った虎翼の穂先を集め、また鍛え直してもらえる一縷の期待を抱く。あの妖怪の刀鍛冶なら、それぐらいやってくれそうだけど。
怒られるのは嫌なのよね。