ハマー機関の所有する研究所が大爆発する最中、中村のお嬢さんに似せて作られた傀儡を助けようと泣きわめき、それはもう凄く必死に「麻子!おれの麻子がっ、麻子おおぉぉぉっ!!」と叫ぶ蒼月君は結構可愛かった。
やっぱり好きな女の子のために泣ける男の子は素敵だと思う。まあ、お父様は泣くというより感類することが多かったような気もするけど。
───ただ、非常に困った事もある。
私の両足の怪我をあろうことか蒼月君が流君に電話してしまったのだ。いや、彼も私と流君の関係を知っているため、そういう気を回してくれただけなのは分かる。
しかし、動けない私じゃ成人した男の人の力に抵抗できるのかと問われると難しい。それがトップクラスの強さを持つ法力僧の流君なら尚更だ。
「襲ったりしないんだね、流君」
「ばーか。男が怪我して弱った女を襲うかよ」
「フゥン、へぇ?」
流君の言葉に旅館のソファに腰掛けたまま感心した様な声を出して笑う。まだ類も到着していないから長く歩けないものの、彼のおかげで多少なり部屋の中を移動することは出来る。
「それより顔の傷は平気なのか?」
「従姉妹が来てくれたら完治するよ。新婚の彼女に小言や嫌みを言われるのは面倒臭いけど。この足じゃ妖怪に襲われたら何にも抵抗できないからね」
浴衣の裾を捲って蒼月君のくれた河童の塗り薬と薬草、包帯を巻いた両足を見下ろす。この怪我に加えて裏・八寸を使ったのも響いている。
チラリと私の隣に座っている流君を見上げる。
やっぱり男の人は大きくなるのが速いのかしら?と思い、蒼月君の事を思い出すと出会った頃より背丈も伸びて、もうすぐ追い付かれそうだなと苦笑する。
───けれど。本当に不思議な事もある。
「流君、本当に良いの?」
「何がだ」
「今なら私の事、お嫁さんにできるわよ」
「男に二言はない。それとも悟や強羅よりオレに靡いてくれてると考えても良いのか?」
「ハハハ、どうかしらね」
確かにファーストキスの相手なので意識はし…コホン、私がそう簡単に靡くわけないでしょう。全く私の提示した条件をクリアする絶好のチャンスなのにね。
ふと彼の唇に視線が行ってしまう。
意外と固そう?とか思ったりして、なんだか今の私って普通の女の子みたいにトキメキを感じている。でも、こういうのも悪くないと思う。
「キスしてってお願いしたら、してくれる?」
「糸色、煽ったのはお前だぞッ」
「え?ちょ、な、なに!?」
突然目付きが怖くなった流君に肩を掴まれた瞬間、私はソファに押し倒されて、流君にあの時のように一度、今度は鮮明に私の身体に刻み付けるように長く長くキスをしてしまった。
「……二回も、しちゃった」
思わず、ポツリと呟く。
ぼんやりとしながら部屋の出入り口に視線が逸れ、私と流君のキスをするところを見ていたであろう蒼月君と中村のお嬢さんが顔を真っ赤にしていた。
あっ、これ面倒臭い事になるヤツだ。
そう思う時には、もう遅かった。