あれから私の事をからかうだけからかった類は中々に渋い雰囲気の才賀善治の運転する車に乗り込み、私達に見せつけるようにキスをして帰っていった。
どこまでも自由気ままで何にも縛られず、私の様に強さだけを求めていた女とも対等に接してくれる、どこまでも優しい彼女の笑顔は本当に眩しい。
「お前はあの時の…」
ふと槍を担いで缶コーヒーを買うために自動販売機の目の前で新商品と銘打たれたロング缶のコーヒーを吟味していたとき、どこかで聞いたことのある声に顔を動かす。
黒衣の男、符術師の鏢が其処に佇んでいた。
「久しぶりね、おじさん」
「嗚呼、久しぶりだな。蛮竜の遣い手」
「今日は蒼月君に会いに?」
「いや、今日はお前に会いにやって来た」
そう言うと歩き出すおじさんを追いかけるようにいつもの缶コーヒーを選び、ジャンパーのポケットに入れて彼の後ろ姿を着いて歩く。
私に会いに来た。
彼はそう言っていたけれど、私と彼の接点は蒼月君ととらと関わっていることだけ、そもそもおじさんと話したのも公園の夜が最初で最後だ。
子供の遊ぶ声の聴こえる公園の前を通りすぎ、妖しげな気配を放つ山の上の建造物を見上げた。私に会いに来たっていうのは妖怪退治のお誘いね。
「そう言えばおじさんの仇は見つかったの?」
「……見つかったさ。そのために私は日本にやって来たのだから」
「そう。討てると良いわね」
私の問いかけに少し口を噤んだものの。
素直に教えてくれたおじさんの目付きは憎悪と歓喜が混ざり合い、復讐する相手への恨みと復讐する相手を見つけた喜びがイビツに混濁していた。
「(私じゃ止められないか…)」
いや、もはや止めることは出来ない場所に彼は立っている。正義も悪もなく、ただ愛するものを殺めた妖怪を探すだけの鬼に成り果ててしまった悲しい人。
「……おじさん、いつか私にも奥さんとお子さんの話を聞かせてもらえる?」
「糸色妙、お前は優しいな。そうだな、
「フフ、約束よ?破ったら許さないからね」
そんな口約束を交わしながら歩いていると蒼月君の画材道具とスケッチブックを野原に見つけ、まさかとあの妖しげな気配のヤツと戦っているのかと焦り、私とおじさんは同時に駆け出した。
「おじさんの追う妖怪なの!?」
「違う!コイツは仕事の依頼で追ってきた!」
そう言って木々の間を素早く駆け抜け、建物の中に向かって砕け散った虎翼の代わりに借り受けた北落師門を力任せに放り投げる。
ただ、虎翼の砕け散った欠片は玉鋼と霊獣の牙を合わせて鍛え直しの最中で、蛮竜も研ぎに時間を掛けているから仕方ないけど。