「なに、あれ?」
蒼月君と戦っている妖怪に思わず、そう呟いてしまう。無理やり身体を繋いでいるかのように惨く、恐ろしく、気味の悪い姿をした妖怪がいた。
「チッ。また変化したか」
「いでぇえっ!!いでぇよ!兄キ兄キ、どこだよ兄キいぃぃーーー!!ずっと、おれと一緒にいてくれよおぉ!!寂しいよおお!!」
まるで迷子になった子供のように号泣し、暴れまわる妖怪の巨大な顔に弾かれ、蒼月君の身体が宙を舞った瞬間、私の意志に応じて北落師門が蒼月君の身体を柄で受け止める。
「大丈夫、蒼月君!」
「お、お妙さん!?怪我はもう良いかよっ」
「えぇ、従姉妹に治して貰ったわ。それより苦戦しているみたいだけど、私が代わりに倒そうか?」
「……いや、大丈夫だ!こんなヤツに負けるようじゃ白面の者にも勝てねえ!!」
私の言葉に反骨して立ち上がった蒼月君は獣の槍を構えると今も尚、兄貴と叫びながら暴れまわる妖怪の巨体を切り裂き、巧みに槍を操って、石突きで妖怪の顎を殴り塞ぎ、鏢のおじさんも感心している。
────けれど、蒼月君は手心を掛けている。
「死にたくねえぇ!!!」
「くっ!」
「妖魅は土に還す可し。鬼怪駆逐────」
突如、何の宣言もなしに咒の言葉を語り始めたおじさんに驚きつつ、傷だらけの蒼月君を担ぎ上げ、攻撃の範囲外に飛び退いた瞬間、蛮竜やとらの雷撃にも勝るとも劣らない雷光が爆ぜた。
「十五雷正法『五斧』」
荒々しく鳴り響く雷轟。圧倒的な強さに惚れ惚れとしてしまいそうになるが、どうにも妖怪の探していた兄貴という妖怪が見当たらない。
建物内にも嫌な気配は無く、何も感じない。
おそらく既に倒されているのだろう。
「おじさん、やるなら言ってくれない?!」
「言わずともお前は避けるだろう。久しぶりだな、蒼月潮。外で別の妖怪と戯れているとらは今回の戦いに参じることはなかったのか」
「……実はさ、とらも何か変なヤツに狙われてるんだよ。むげんのびゃくや?とかいう妖怪に狙われて、お妙さんが怪我してからずっと」
むげん?
無限と夢幻のどっちだろうと思いながら、私も初めて聞く名前に首を傾げる。どうやらおじさんも同じだったらしく「そんな妖怪は知らないが、とらが攻めあぐねる程の妖怪というわけか」と呟いた。
暗い建物を出ると快晴の空を舞い、雷撃と火炎を吐いて纏うとら、紙吹雪や無数の折り鶴を飛ばして細い刀を振るう『むげんのびゃくや』が空で戦っていた。
「奈落の手先ね。そうでしょう、白童子」
「その通りだ、糸色妙」
私の問いかけに先程まで私達の歩いていた建物の出入り口を抜けて、白童子が現れると蒼月君も鏢のおじさんも警戒心を顕にする。
まだ、話すことがあるからダメよ。