「すみません。ご同伴させて貰って」
「いや、食材を買ってきてくれたのは糸色殿だ。追い返してしまったら僧の名折れだ。それに潮も母を知りたいと思っている、良い頃合いかもしれんからな」
お皿洗いを手伝いながら蒼月君のお父さんと話す最中、覚悟を決めた顔付きで静かに告げる彼の横顔は随分と疲れているように見える。
光覇明宗の僧侶という立場と蒼月君のお父さんという立場に挟まれて苦しんでいたんだろう。まだ、彼氏や子供も出来たことのない私には分からないが、相当な圧力と小言を受け続けていたわね。
「本当に言いつけてやりましょうか」
「安心しなさい。私は大丈夫だ」
シャランと居間の端に追いやられていた錫杖を手に取り、とらに叫ぶ蒼月紫暮の真剣な表情に戸惑う蒼月君の肩を掴み、ゆっくりと首を横に振る。
この一戦は見極めるために必要な事だけど。
まだ中学生の蒼月君を前にして父親と友達の死ぬかも知れない戦いを見せるなんて本当に嫌になる。……それでも蒼月君は見守る必要がある。
「お妙さん何が起こってるんだよ!?」
「私が最初に言ったことは覚えている?」
「……オレととらを見に来た?」
「そう。糸色当主として私は蒼月君ととらの事は全面的に信頼している。───だけど、蒼月君のお父さんの所属する場所はまだ二人を信頼していない。だから、二人を見極めるために蒼月紫暮は戦っている」
あくまで蒼月紫暮は、だけれど。
しかし、この境内の戦いを監視している光覇明宗の連中は利己的且つ義心的に自分達の行っている行為こそ最善だと信じ、最悪の事態を引き起こす可能性すらも彼らは何も考えていない。
そう思っていた、その時だった。
「───なぐッ!?」
「お妙さん!?」
いきなり蒼月君を狙って飛んできた独鈷を払い損ね、手のひらに独鈷の剣が突き刺さり、ポツリポツリと雨の降り始めた蒼月紫暮ととらが戦っている場所からも更に離れた木々の間に立つ男に視線を向ける。
若い、私と同じぐらいの年齢の男だ。
「貴方、子供を狙うなんてどういうつもり?」
「お前なら助けるだろ。全くオレにばっかり嫌な役目を押し付けやがって、帰ったらオジキに文句と愚痴と小言を言いまくってやる」
笠を外した私を睨む男の顔に見覚えはない。
おそらく極蝶が言っていた時代の一つに現れる「特異点」と呼ばれる人だろうなんだろうけど。子供を狙うような最低な男と親しくするつもりはない。
バシャリと靴下が泥と水で汚れるのもお構いなしに男に近づき、血を流す右拳を握り締める。大きく後ろに右腕を振りかぶる。
「おお、怒ってんのか?オレは仕方なく攻撃しただけだから悪くないぜ。第一、お前が庇ったんだから蒼月潮には当たってないんだがッ!!?」
「うるさい。私、お喋りなヤツは嫌いなのよ」
私は力任せに顔面をぶん殴った。
あっ、失敗した。二重の極みで殴り損ねたわね。