「オレは戦闘向きじゃないんだっての!」
「儂の家来に手出しする時点で敵だあっ!!」
だんだんと戦闘の均衡は崩れ始め、とらの攻撃によって逃げることが増えてきた奈落の手先は折り鶴に乗り、空高く何処かに逃げ出していく。
鏢のおじさんはとらの叫んだ「儂の家来」という言葉に目を細め、私を見下ろしてくるので笑顔を返しておいた。それだけ気に入られているってことだよ。
「うつけめ、奈落に従うからだ」
「お妙さんを狙ってるのはお前も同じだろ」
「小僧、儂は忠告をしているだけだ。そもそも儂は兄の身体を乗っ取っている奈落という害虫を駆除し、兄弟と共に過ごせる日々を送りたいだけだ」
「そういう割に随分と殺気立っているな」
白童子と話す蒼月君とおじさんの会話を聞きつつ、逃げ切られて不満そうに戻ってきたとらに手を振り、会えたら渡そうと思っていた物を手渡す。
「なんだこりゃあ?」
「呪泉郷の即席品だよ。井上のお嬢さんに誓ったらしいから『人間になる道具』をプレゼントしようと思ったんだけど。本条家は面倒臭くてさ」
「儂は人間に化けるぞ?」
「その薬を使えば『人間に化ける』じゃなくて『人間になる』んだよ。一度試してみるのも面白いよ、水風呂に溶かして入れば直ぐだし、お湯を浴びたら直るから。きっと井上のお嬢さんもきっと喜ぶだろうからさ」
「そんなんで真由子が、喜ぶのか?」
そう怪訝そうに小袋を見つめるとらに「お風呂を借りて入ってきたら?」と伝えると「うさんくせえぇ」と文句を叫びつつ、空を飛んでいく。
「糸色、私が言うのも何だがよく大陸の呪泉郷の素を買えたな。あれは効果は一度きりだが性別を変えることも出来る秘薬だろう?」
「まあ、和製版を管理する家系もありますから」
そう言うと「本当に糸色は規格外だな」と呆れたように溜め息を吐かれ、蒼月君は白童子と言い争っているけど。獣の槍を振るうこともせず、子供らしく口だけで言い争っている。
たまには良いのかも知れないわね。
もうすぐ白面の者と決戦を迎える。
おそらく私だけが蛮竜に認められた理由もこれだろうし、そろそろ私を覚悟を決めて、はぐらかしたり誤魔化さずに受け入れるべきね。
「おじさんは帰るの?」
「いや、もう暫く潮と行動するつもりだ」
「そっか。じゃあ、蒼月君の事をお願いね」
北落師門を担いで、白童子と蒼月君にも「お姉さんは用事があるから先に帰るわね」と告げ、私の事を爺や直属の部下に目線を送り、ゆっくりと私は旅館に戻る。