雨に濡れた前髪を掻き上げ、男を睨み付ける。確実に極っていない一撃で、あそこまで吹っ飛ぶとは思えない上に私の振り抜いた右拳を見てから受けていた。
「掠っただけで、この威力かよ」
「ご要望なら顔面陥没させてあげるわよ」
蒼月君に視線を向けて、蒼月紫暮ととらの二人の死闘を止めるように合図を送った刹那、強烈な光と共に三日月状の光波を左手に受け、身体が動かなくなる。
────金縛り。
それも強力な法力を込めたものが私の左手を縛り、動くことを封じ込める。シャランと錫杖の先を突き付けてきた男は自分の優位性を疑ってすらいない。
「敵前で余所見は油断しすぎだろ」
「……はあ、この程度の力で私を封じ込めたつもりになっているんじゃないわよ、痴れ者が」
傷を負った右手で錫杖を握り締め、強引に引き寄せると同時に頭突きを叩き込み、鼻血を噴き出す男を見下ろしながらミシミシと鈍い音を立てて法力の三日月を叩き壊す。
「うっそぉ……マジかよ」
尻餅をついて私を見上げる男に血まみれの右拳を振り抜くために袖を捲り、足のスタンスを拡げて力を最大限まで伝播させるために標的を見定める。
「生まれながらに強者としての宿命を背負っている私が高々金縛り程度で抑え込めるわけないでしょう?あと子供を狙ったヤツは許さないわ」
「あー、降参していい?」
「却下ッ!!」
パンチが顔面に衝突してもお構い無しに拳を振り抜き、地面に男の上半身がめり込んだ事を確認して、フンスと胸を張ってジャンパーを脱ぎ、水気を切りながら縁側に座って、すでに終わった戦いを見る。
「お妙さん、あれ死んでないよな?」
「受け身を取ってるから死んでないわよ。それより蒼月君と蒼月君のお父さんの傷の手当てを先に済ませましょう。とらも傷の手当てする?」
「儂はそんなんせんでも治るわ」
「そう?それならいいけど」
箪笥の上に置かれていた救急箱を取り、消毒液を吹き掛けたガーゼで傷口を優しく拭き、絆創膏やガーゼとテーピング、包帯を巻いていく。
「潮、顔が赤いがどうしたぁ?」
「う、うるっせえー!?」
「やだ。風邪引いたの?」
「だ、大丈夫だよ!!」
私を警戒しているのに、チラチラと見ている。
……ああ、雨に濡れてシャツが濡れたから見えちゃってる下着が気になっているのね。まあ、健全な男子中学生だから当たり前と言えば当たり前なのかしら?
「蒼月君のお父さんも手当てしますよ」
「あっ、そぉ?」
「なに鼻の下伸ばしてんだ、クソオヤジ!!」
「お前よりは伸ばしとらんわ!!」
……なんか恥ずかしいからジャンパー着よ。