泣き疲れた蒼月君を背負い、自衛隊の人達に石像に変わり果てた僧侶達の事をお願いして、私はとらの背中に乗って光覇明宗の総本山を飛び立つ。
みんな、婢妖の攻撃を避けるために石像に変わったんだろうと推測している途中、違和感を感じるけど。あり得ないことだと頭を振り、意識を切り替える。
「これからどうするよ」
「長野に…信濃国に向かう。糸色本家なら婢妖ごときに遅れを取ることはないだろうし、何より人間が忘れているって事は妖怪もそうだと考えるべきだわ」
「白面の野郎、妙ちくりんなことを考えやがる」
そう言って不満げにフンと鼻を鳴らすとらの背中に抱き付き、もしも違和感を無視していたら私も二人の事を忘れていたかも知れない事実に哀しみと怒りを抱く。
怒りや憎しみでは白面の者には届かない。
あの時、海底で相見えたときに気づいたのに私は蒼月君の事を優先してしまった。それに、しとりお婆様は光覇明宗の本堂には居なかった。
しとりお婆様も何処かに移動している?
「とら、もしものときは」
「バーカ、おめえは儂の家来だろうが。前を見ろ、おめえの前に居るのは誰だ?儂だろうが、白面の者だろうが奈落だろうが全部蹴散らしてやらァ…!」
「……フフ、ハハハ!そうだね、そうだよね、私が折れるなんて有り得ない。私は糸色妙、どんな時も真っ直ぐ歩いていける、名前も『妙花の如く在れ』と願いを込めて付けられたからね」
「おう。その意気だぜ」
大きな口を開けて笑うとらに身体を押し付け、暖かくて安心できる彼の背中に安心感を得る。昔は笑うことすら無かったのに、それが嬉しくて堪らない。
「んッ、んあ?」
「まだ夜だけど、おはよう。蒼月君」
目じりを擦る蒼月君を抱き寄せ、落ちないようにしながら話しかけると、ようやく状況を思い出してくれたのか。慌てて飛び退こうとする彼の手を握り、落ちないように力強く胸の中に彼の頭を押さえ込み、抱き締める。
「大丈夫だよ、私は覚えているわ」
「……ぅん、ありがと、お妙さん…ッ…」
「けっ。バカうしおがよぉーっ、儂の背中で盛ってんじゃねえよ、猿かってんだ!」
「だ、だれが猿みたいに盛ってんだよ!?ブッ殺すぞ、とら!!……あ、え?と、とらもオレのこと覚えててくれたのか?」
「おめえを喰うのは儂だろうがッ!!!」
そう言って叫ぶとらに蒼月君は嬉しそうに抱き付き、変な笑い声を出し始める。う、うーん、この変な笑い声とちょっと変な顔だけは私も忘れたいかな?
私は苦笑しながらも二人のやり取りを近くで眺める。