蒼月君ととらを連れて長野県信州市に建つ糸色本家に帰ってきた私を出迎えてくれた爺やに再び眠ってしまった蒼月君を預け、着替えと寝る場所を用意して貰い、一夜が明けてしまった。
「(流君、あの石像の中に居なかった…)」
嫌な予感が迫ってくる。
私や蒼月君を暖かそうに見つめる彼が白面の者に与するのは思えない。おそらく、奈落の幻術か精神を支配する妖術を受けていると考えるのが妥当だ。
あれだけお酒を飲んでいたんだから、不覚を取るのは仕方ないと思う。あんな風に浴びるようにお酒を飲むからダメなんだろう。
着物に着替えて廊下を歩きつつ、妖怪であるとらを誰も警戒せずに居てくれることを有り難く思う反面、あまり餌付けみたいにお肉をあげるのはやめてほしい。
「妙様、蒼月様がお目覚めになりました」
「ありがとう。直ぐに行くわね」
「それと、類お嬢様も此方に向かっております」
「……フフ、最高の知らせよ!」
爺やの言葉に気難しく眉間に寄っていた皺が緩み、そう言いながら蒼月君の眠っていた部屋の襖を開けると、女中に甲斐甲斐しくお世話を受けていた。
「お、おはよう、お妙さん」
「おはよう、蒼月君。貴女達はそのまま蒼月君のお世話を続けていてくれる?」
「はい!」
「久々の若い子です、栄養補給しないとです!」
ちょっと良くそれはわからないけど。
私は蒼月君の近くに座り、みんなが蒼月君の忘れている状況を説明し、今後の対策について話す。
───とは言え、だ。
蒼月君ととらという人と妖怪を繋ぐ存在を失ってしまえば瓦解するのは必然的、私が覚えていたのも違和感に抗ったからだ。
「爺や、御庭番衆と剣客兵器、刀々斎様を通じて妖怪にも伝達、それから多分忙しいだろうけど、蝶のおじ様に連絡を送ってくれる?期待しているわよ」
「畏まりました。この柏崎、必ずや妙様のご期待に応えてみせましょう」
そう言うと彼は影のごとく消える。
「(お嬢さん達にも知らせたいけど。ふたりは蒼月君の事を忘れてしまっている。私だけなら会いに行ける……でも、そうなったら蒼月君も不安な筈だ)」
「お妙さん、みんなは無事なんだ?」
「えぇ、今は無事よ。問題があるとしたら、奈落に襲撃を受けたら面倒くさいことくらいね」
「オレ、アイツだけはすっげえ嫌いだ」
その気持ちはすごく分かるわ、人の事を気持ち悪い目で見るし、今回だって私の記憶を弄るときに介入されていたらと考えるだけでおぞましい。
蛮竜と獣の槍、この二本だけで行けるか?
いや、そのときは私が行けばいい。