「九印!」
「分かっているよ、キリオ」
「速い……けど、遅いわ」
黒衣を変形させて、鞭の様にしなる攻撃を繰り出すクインと呼ばれる妖怪。いえ、妖気や霊気は感じないから別種。
私の思考を遮るようにキリオ君は鎌を縦横無尽に振るうものの、最初の不意打ち以外は受けるつもりはない。それにまだ気づいていない彼は「なんで、なんで当たらないんだよおぉおぉっ!!」と悲鳴じみた絶叫をあげる。
「私の親戚に鎌使いがいるのよ」
そう言うと私は蛮竜を振り上げて鎌刃を弾き、彼の顔を掴んで抱き締める。
「ごめんなさい。あなたの母親を殺したのは私よ、それは絶対に変えることの出来ない事実。私を恨んでも憎んでも良い…でも、これだけは言わせてほしい。斗和子は最後まで貴方を心配していた」
「ッ、それならどうしてママを殺したんだ!!」
「私は蒼月君を守るために戦って、斗和子は貴方を守るために戦った。お互いに譲れなかったし、譲ることは出来ないものだった」
ゆっくりと私とキリオ君の行動を見守るクインの傍には蝶のおじ様に雰囲気の似た素敵なお髭のおじ様が佇み、優雅に彼、あるいは彼女を捕まえている。
「お婆様が言っていたわ。子供は宝物、この世で最も罪深いのはその宝物を傷つける者だって……だから、私は貴方と戦いたくない。貴方を愛していた斗和子の大切な宝物を傷付けたくない」
「……ママは、本当に僕を愛していたのかな……」
「───なら、断言してあげる。斗和子は、貴方のお母さんは貴方を愛しているわ、そうじゃなければ自分より強い私に挑み、必死に攻撃をするわけがない」
私の言葉に顔を上げる彼の目は憎しみではなく悲しみに染まり、今まで苦しさと不安を吐き出すように私にしがみつき、泣き始める。
「……で、貴方はどちら様?」
「私はマスター、そうマスター・バタフライ。糸色家とは百年来の友人であるドクトル・バタフライの息子であり、お父様の代わりにやって来た助っ人だ」
「そう、それならクインを離してあげてほしい」
そう言うとマスター・バタフライと名乗った彼はクインを締め付けるものをほどき、私は泣き疲れたキリオ君をクインに差し出す。
「さて、その傷も治療しなければな」
「ハハハ、お手柔らかに」
「麻酔なしだが大丈夫さ」
「不安になるわね?!」
私は嫌々ながらも彼の言葉に従い、人目に着きにくい家屋の屋根の上で内臓を含めた全てを鱗粉……いや、蝶のおじ様と同じ鉄片の武装錬金で治して貰う。
親子で似るものなのかしら?