「マスター・バタフライ、蝶のおじ様は?」
「今は奈落を追いかけているよ。彼の肉体はお父様の友人のもので、あの奈落を追い出して彼の肉体と精神を取り戻そうときているのだ。実にNonsenseだ」
「そうかしら。自分の友達を大事にするのは良いことだと思うし、貴方の後ろに控えているお月様も普通に頷いているわよ?」
「ムーンフェイス。どういつもりかね?」
「む~ん。誤解だよ、マスター」
キリオ君を抱き締めるクインに「また何か仕掛けられるかも知れないから蒼月君達のところに行って上げて」と伝えつつ、内臓まで綺麗に縫合された傷口をなぞり、流君のジャンパーに穴を開けてしまった事を考える。
弁償するのは問題ないけど。
何を言われるかが分からないから、ちょっとだけ流君の事を警戒してしまう。べつに嫌いって訳じゃないから問題ないんだけれど。
「ありがとう、マスター・バタフライ」
「何、君は私の初恋の人に似ているからね」
「あ、うん、そう?」
しとりお婆様かと思ったけれど。
ひょっとしたらその上に存在する「世界の分岐点」や「世界の特異点」なんて呼ばれている糸色景なのかと想像して、あまり良くないことなのにマスター・バタフライの実年齢を考えてしまった。
「私も奈落を追うとしよう」
「そう。じゃあね」
マスター・バタフライとムーンフェイスと呼ばれたお月様は見送り、私は蒼月君達のところに向かって家屋の屋根を伝っていると東西の妖怪の長が揃って、蒼月君達と話しているのが見えた。
「みんな、揃ったわね」
「糸色殿、お主の使いが話していた獣の槍を振るう少年とは彼のことで良いのだな?」
「我らが忘れるなどあり得ぬと言いたいが、白面の者なら記憶を消すことも自由か」
流石は爺や、二人にも話を通している。
本当に何者なのかしらね。お母様やお婆様の時にはもう居たらしいけど、ホムンクルスじゃないし、妖怪という感じもしないのよね。
「東西の長が何かをしているっていうのは聴いたけど。みんなを巻き込むヤツはだめよ?そういうことが必要なら話し合ってくれないと伝わらないわ」
「家来、コイツらは儂の真由子を獣の槍に変えると言いやがったんだ。せめて一発か千発はぶん殴らねえと我慢できそうにねえな」
「へえ?」
蛮竜を握り締める手に力が籠り、じろりと東西の長を睨み付けると「時逆の見せた未来を回避するためだ」と言われ、私は首を傾げてしまう。
トキサカなんていう人は私は知らない。
妖怪かも知れないけど。会ったことないわね。