薄暗く剣呑とした空気の重みに息を飲み、ゆっくりと石柱の中に入るとしとりお婆様と御角お婆様、その二人の真ん中に座する地面につくほど伸びた髪の女の人が静かに座っていた。
「…母…ちゃ……」
「行っておいで、蒼月君」
思わず、口を噤む彼の背中をトンと押して踏み出す足に力を入れ、ゆっくりと私は蛮竜を地面に置き、ふたりの語らいが終わるまで目を瞑り、潜水艦での船酔いを出来るだけ回復することに専念する。
最後の戦いだ。
船酔いで戦えませんでした。そんなふざけたことを言える場合じゃないし、なにより奈落の思惑を阻止するためにも私は回復しておかないといけない。
そう思っていてもようやくお母さんに会えた蒼月君の嬉しそうな声色と気恥ずかしくても会えた事を喜ぶ彼の声に自然と安堵の吐息をこぼす。
「(……っていうか。私の両親はこんな大事な時期にまだ夫婦旅行を続けているわけだけど。二人とも娘に彼氏が出来たんですが、そういうお話は聞きたくないの?)」
少しだけ不満を吐露するように思う。
ただ、まあ、二人とも面倒事に巻き込まれてそうだから何も言えないのよね。そもそも私が当主襲名と同時に旅行に行ったまま帰ってこないし。
「(私も流君と新婚旅行してみたい…)」
なんだか私だけが想ってるみたいで恥ずかしいわね。でも、そういうのが恋人なのよね?と既に結婚している類に想いを馳せると「それは、ただの拗らせね」という想像上の類に嘲笑われた。
「それにお妙さんっていう凄く頼りになる人がずっとオレを助けてくれたんだ!どんなときもオレを信じてくれて、白面の者のせいでみんなに忘れられてもお妙さんだけが最初から覚えててくれたんだ」
その言葉に顔が熱くなる。
正座を崩し、三角を作るように足を曲げ、口許を拝むように重ねた手で隠す。やばいなあ、すごく嬉しくて蒼月君の頼りになっていたことが嬉しい。
ゆっくりと顔を上げる。
白面の者と目を合わせ、いつ出てきても相手になるという眼差しに笑みを浮かべる。それに私は白面の者を倒して滅ぼしたい訳じゃない。
おそらく、しとりお婆様もそうだ。
でも、私達は白面の者をどうしたいんだろう。
あの白くも黒い闇にまみれた大妖怪に私達は一体何をしてあげることが出来るのかも分からない。けど、絶対になんとかなるっていう確信はある。
「(私はあなたに何をしてあげられる?)」
そう私達を羨ましそうに眩しいものを見つめるように見つめる白面の者の眼差しを見つめる。私にはまだ何も分からないわ。